第250話 蹂躙開始
とうとうこの日がやってきた。
高確率で空気が最悪であろう残念お嬢様のお家へとお邪魔する憂鬱なこの日が!
一応、前世の私の予備の制服を着て片手にお土産のケーキって準備は完璧ではあるが、叶うなら今すぐ帰りたい。
そして、帰ったらヒスイとゲームをする約束だからヒスイと沢山ゲームをするのだ。
ちょっと最近ヒスイがゲームに熱中しすぎでは?って思うけど、前世の私の徹夜でゲームしてたのに比べれば全然常識の範囲内なので問題無かろう。
てな訳で帰ろう!と言えたら良いのだが、既に残念お嬢様のお家の最寄り駅まで着いてるし、迎えの車も来てるらしい。
まぁ、ぶっちゃけ今から帰って残念お嬢様一家に迷惑を掛けても多少の良心が痛む程度で私は全然構わないが、ここで帰ったら昨日の私の外出時間とケーキ代金が勿体なすぎるので素直に向かう事にする。
「今更ながら、制服で大丈夫だったんかね?」
学校の制服って、結婚式やら葬式みたいな大体の世間的な行事でも対応な万能服ってイメージなので我が母にクローゼットから出してもらって着た訳だが、良家への訪問にも対応しているのだろうか?
「まぁ、大丈夫か」
制服なのだ。
きっと対応してくれると私は信じてはいる。
あ、ちなみに、お母さんに「何で制服着るの?」と聞かれて理由を正直に話したら「いつもの事かぁ」と呆れられた。
解せぬ( ´・ω・)
流石の私もお金持ちや良家との関わりなんて前世じゃ五、いや、六回位?だけ迷子やカツアゲとかから助けて交番へ案内した位しかないというのに。
交流だって以降は全くないので二回目以降顔を合わせるのも今回が初めてだ。
まぁ、大体の相手が県外 or 海外の人物で相手がお礼云々で会いたくても簡単には会えないって理由だったりするけど。
「あ、あの人」
最寄り駅である日比谷駅から出ると直ぐに視界に入る目立つ場所に見覚えのある男性が立っているのを発見し、向こうも直ぐに私に気付いたみたいで私と目を合わせるとペコリと一礼してくれた。
一礼してくれたのを見るに、どうやら私の迎えの人で間違いなさそうだ。
私は男性の前まで行くと、以前残念お嬢様を迎えに来てくれた運転手の男性へとペコリとお辞儀して挨拶する。
挨拶ってのは人間関係において大切な要素の一つだからね。
人間関係を円滑に進めたいなら先ずは挨拶から始めると良い。
まぁ、挨拶をしても半年近く一度も返ってこなくて挨拶自体止める事もあったりするけど。
「おはようございます。本日はわざわざお迎えに来ていただいてありがとうございます」
ちなみに、現在は午前10時頃だったりする。
午後までに帰れるだろうか?
「いえいえ、お気になさらないで下さい。これが私の仕事ですから」
「そう言ってもらえるとこちらも幾分気持ちは楽ですね。流石に良家の専属運転手の方に運転してもらうのは少し申し訳ないので」
嘘である。
全然気にしてない。
「ハハハ、そんな気負う必要ないですよ。あくまで私は車の運転手にすぎませんから。それでは神白様、近くの駐車場に車を停めてますので車に乗って移動しましょう」
「はい」
歩いて少しの場所にある駐車場に停められてる前にも見た絶対に高級な車に乗り直ぐに出発した。
それで、驚いたのだが本当に高級な車ってイス?座席?からして違うんだと理解した。
マジで座り心地が良くて座った瞬間にビビーーン!ってイメージ上だけど電撃が走ったよ。
昨日のケーキもそうだけど、やっぱり高級って呼ばれてるだけあって凄いね。
…………さて、それはそうと、そろそろ現実と向き合わないといけないかなぁ。
一応、一抹の希望を懸けて運転手さんに確認だけしてみよう。
「あの、もしかしなくても、ここって」
「はい。皇居です」
「は、ハハハ、ですよねぇ」
希望は散った。
「ッ!?」
そして、同時に厄介事が起きるのも確定した。
「なにが………………なるほど。今日か」
それにしても、そんな方法でくるとはな。
「神白様?どうかされましたか?」
「いえ、なんでもないです。それにしても、東京なのに此処は自然に溢れてますね」
「そうですね。私も仕事柄車での移動が多いので様々な場所を見てきましたが、東京内でも此処まで自然豊かな場所は少なかったです」
「流石は皇居って言うべきですかねぇ」
「ですね」
厄介事は頭の隅に放棄しておき、今は運転手さんとの短い一時を窓から見える豊かな自然風景を眺めて満喫する。
本当、ここまで自然に溢れた場所は東京でも珍しいと思う。
過去にテレビで東京内に残る自然にスポットを当てた番組を見た事はあるけど、それよりも圧倒的に豊かであろう。
是非ともこのまま後世に残してほしいものだ。
…………何か今の感想私らしくなくてキモいな。
「着きました」
「着いちゃいましたか」
「残念ながら着いちゃいましたね」
ノリ良いなこの運転手さん。
そう思いながら先に降りてドアを開けてくれた運転手さんに「ありがとうございます」と言いながら私は車から降り、目の前に見えるお屋敷を見つめた。
「ここが決戦の地か」
「いや、何をおっしってるんですか神白様」
「あ、アハハ、つい」
さてと、どう動くのが正解なのやら。
「神白様ですね。お待ちしておりました。ご案内いたします」
「お荷物御持ちします」
連絡でもしてたのだろう。
お屋敷の前に待機していた使用人の女性二人が直ぐに私の前まで来るとスムーズに挨拶からの荷物を預かり、私の案内を開始。
あまりにも自然かつスムーズすぎて私は慌てて運転手さんに別れを告げると、特に必要な訳ではないが心の準備をする間も無くお屋敷の中へと足を踏み入れた。
いや~プロって凄いねぇ。
そんなこんなで使用人の女性の後をついていき、お屋敷の中を歩いていく。
流石というかなんといか、皇族なだけあり警備態勢は万全みたいだ。
姿は見えないのに全方位から私を監視する人間や従魔?式神?みたいな気配を感じる。
警視庁の件があるから大して驚きはしないけど、ナチュラルに異能力者が警備に当たってるんだね。
いや、神の血族である皇族だし相応しい警備として異能力者が警備に当たるのはある意味当たり前ではあるのかな?
まぁ、気配からしてうちのクラスメイトの戦闘組の方が強そうだけど。
けど、警備の人達さぁ、私が気を遣って厄災の魔王の称号をOFFにしてるから良いものの、敵意は漏らさない方がいいよ?
でなきゃ、今頃称号効果の威圧で殆んどの奴が気絶してたよ?
全く、プロなんだから運転手さんや使用人さん達みたいにしっかりしなよ。
そんな事を考えつつ、使用人さんの案内で私はお屋敷内の一つの部屋へとたどり着いた。
「失礼します。神白様をお連れしました」
「ありがとう。中へ入ってください」
中から聞こえた声に従い、扉を開いた使用人さんに促されて私は部屋の中へと入る。
そこには、高級そうな長椅子に座っている前世でテレビで何度か見た事のある天皇の夫妻と残念お嬢様の桃子の三人が居た。
「失礼します。本日はお招き頂き感謝します」
内心は兎も角、形だけは感謝の意を示すべくお辞儀と共に言葉を口にしながら天皇夫妻と残念お嬢様を見る。
パッと見た感じ、天皇夫妻の表情はにこやかな笑顔で敵意っぽいのは表情からは見えない。
一方の残念お嬢様も表情は嬉しそうに見える笑顔を浮かべて私を見ている。
けど、よ~く見ると電話の時に感じたのに似た違和感が見える。
微かな頬の強ばりや肩肘の力み、目の奥の感情。
あいにく、今正覚を使うのはよろしくないので目の奥の感情の詳細はわからないが、少なくとも緊張の類いは含まれてそうだ。
「ようこそ。歓迎します神白緋璃さん」
名前を忘れたが、天皇さんがにこやかな笑みを浮かべて私を歓迎してくれると、天皇さんは顔を使用人さん二人へ向ける。
「ここからは私達のみで話したい。二人は下がっててくれ。あ、けど、その手に持っているのは神白さんからのお土産かな?」
「あ、はい。一応私がお土産として買ってきたケーキです」
「私達が招いた側であるのにありがとう。では、そのケーキと一緒にお茶を持ってきてくれ」
「かしこまりました。直ぐにお茶の用意をしてまいります」
使用人さん二人は一礼すると部屋から出ていき、部屋の中には私と天皇夫妻、残念お嬢様の四人のみになった。
「神白さん、立ちっぱなしは疲れるでしょう。どうぞ、そちらの椅子にお座りください」
「あ、はい。それじゃあ、遠慮なく」
断る理由も無いので私は遠慮なく天皇夫妻とは対面の長椅子に腰を下ろす。
やはり、これも高級なのか座り心地抜群だ。
一体、どんな素材と技術があればこんなに素晴らしい椅子が作れるのだろうか?
そのうち私も創造か一から自分の手でかはわからないが、これ位素晴らしい椅子を作ってみたいものだ。
「ほら、折角だから私の隣ではなく神白さんの隣に座ったらどうだい?」
「そうよ、会いたがってでしょ?」
「ぇ……う、うん。お姉様、お隣に座っても良いですか?」
どこか躊躇いがちに残念お嬢様が私へと許可を求めてくる。
別に私の家ではなく残念お嬢様の家なのだから許可を求めなくても良いと思うのだが、とりあえず許可を求められたので表情にへら~片手ヒラヒラしながら「良いよ~」と答えてあげる。
ほれほれ、遠慮は要らないよ~。
遠慮せずやっちゃいな~。
「と、隣、失礼します」
そうして、残念お嬢様は天皇さんの隣から立ち上がると、私の直ぐ隣に腰をおろし────
「駄目だよ?」
私の横腹を刺そうとした短刀を掴み止めた。
「なっ!?」
残念お嬢様が驚愕し短刀を放した隙に短刀を放り投げて部屋の隅へと捨てる。
「クソッ!しくじりやがって!!」
「大人しくしやがれ!!」
「おっ?」
天皇夫妻が憤怒の表情をしながら私へと念力と思わしき力で私の身体を金縛りで拘束する。
……正確には、天皇夫妻じゃなくて強制的に天皇夫妻に神降ろしで乗り移ってた私と戦争中の日本神話の神々のどいつかだけどねぇ。
てか、夫妻のどちらかは嫁ぐ?婿入り?で皇族の血筋じゃないと思うけど、神降ろししてて大丈夫なのだろうか?
こういう神降ろし的なのってファンタジーものだと特殊な血筋とかだから神降ろし可能なパターンが多くて違うと代償とかが大きいのが殆んどだけど。
「が、がアぁ"ッ!ぐあぁ、っ」
隣に座る残念お嬢様が頭を押さえ突然苦しみだす。
強制的神降ろしにより残念お嬢様の身体が神に乗っ取られそうになっているのだ。
苦しみだしてから5秒も経たずに残念お嬢様の身体は神に乗っ取られ、その表情を憎悪に染め私を睨んできた。
「死ねえ!邪神!!」
権能だろうか?
残念お嬢様の片手には再び短刀が握られており、短刀を微塵の躊躇いもなく私の心臓へと突き立てた。
「ごふッ」
血反吐を吐く。
そんな私を見ながら喜色に満ちた表情で名も不明な神々が声を大に叫ぶ。
「やった。刺した!刺したぞ!」
「これで勝てる!勝てるぞ!」
「須佐之男命!今だやれ!!」
見た目奥さんの神が須佐之男命に対して叫んだ直後、空間への干渉が起こり私含めた四人が何処かへと転移させられ、視界の先に私と戦争中の須佐之男命達が勢揃いして立っていた。
その表情は愉悦を含む見ててイラッとする喜色満面の笑み。
私を罠に嵌めれて喜んでいるのだろう。
「残念だったな邪神。年貢の納め時ってやつだ」
いや~馬鹿だよねぇ。
テメエらが私を罠に嵌めたんじゃなく、私が罠に嵌まってあげたの間違いだってのにさぁ。
この場面なんて運転手さんに運転されてる時に千里眼で死に繋がる原因として短刀で心臓を刺される瞬間を視たから原因の確認として未来視で視てるってるってのに。
まぁ、お月様の神様と違って私と己の力量差を理解出来ない馬鹿だから理解出来ないのも仕方ない。
とりあえず、私に殺されたいみたいだし始めるとしますか。
ニヤ~と裂ける様に邪悪な笑みを浮かべ、私は蹂躙開始の合図を告げる。
「深淵顕現──虚空世界」
権能を発動し、この領域を私の世界へと塗り替えた。
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