第249話 罰ゲーム

 緋璃達が通っていた高校。

 重苦しい空気に満ちた会議室にて校長、教頭、クラス担任を持たない教師達が集まり、ある重大な話し合いが今、始まろうとしていた。


「それでは話を始めますが、彼らの担任……誰がしますか?」

『っ』


 校長の口から話されされた此度の議題。

 会議室に集まる教員達が初めから知っていたにも関わらず、担任という単語を聞いた瞬間、大きく身体をビクつかせる。

 何故、そんな反応をするのか。

 勿論、此度の議題によって決まる担任がアカリ達のクラスを受け持つ事になるからである。

 進級条件テスト……高校側が提示した本来なら相当な優等生でもなければ合格出来ないであろう高難易度テスト。

 悪どい思惑だが、高校側は厄ネタの塊でしかないアカリ達をテストという方法で厄介払いするつもりだった。

 何処で何をしていたのか不明だが、一年近く行方不明でまともに勉学に励めていないであろう者達。

 二年の範囲まで出題範囲が及んでいるので仮に数日の猶予があった所で合格出来る訳がない。


 結果

 全教科平均点98点


 文句のつけようがない圧倒的なテスト結果により、高校側は死ぬ程嫌だとしても受け入れるしかなくなったのだ。


『』


 校長の問いに誰も答えず会議室が静寂に包まれる。

 誰一人として自分に注意が向き、万が一にも担任を受け持つ事になるのが嫌なのだ。

 なにせ、そのクラスは特大の地雷。

 現在進行形で悩みの種であるマスゴミが狙っている元凶。

 仮にも受け持つ事になれば、今以上に面倒な事になるのは明白であり溜まるストレスが倍増では済まない。

 そんなのは死んでも絶対に嫌なのだ。

 故に………


「誰も立候補しないのでしたら私が指命しますが」

『○○先生が良いかと思います!!っ!?はあ!!??』


 全員が微塵の躊躇いも無く同僚を売る。


「あんた何私を推薦してんのよ!!」

「うるせえ!お前だって○○を推薦してるじゃねえか!」

「おい、誰だよ俺の名前を呼んだやつ!!」

「ちょっと!私の名前呼ばないでよ!嫌よあのクラスの担任なんて!!あなたがしなさいよ新人でしょ!!」

「僕だって嫌ですよ!誰が好き好んで地獄行きの片道切符を買うんですか!!馬鹿なんですか!!」

「クソッタレ!何でこんな罰ゲームを受けなきゃいけないんだよ!!」

「そうよ!そもそも何であのテストを合格出来るのよ!!行方不明だったんじゃないの!おかしいでしょうが!!」


 子供を教育する教師が言ってはいけない様な言葉が飛び交い、各々を睨み、謗り、嘆く。


「静かに!」

『っ!』


 しかし、校長が一喝した事で荒れていた会議室は無理やり静まった。


「落ち着いて下さい。騒いだ所で何も変わらない。教師である皆さんなら理解しているでしょう」

「そうです。そんな事をして仮に誰かに決まっても絶対に良い結果にはなりません」


 頭ズラ教頭、校長の諭す言葉に教師達は内心「だったらテメエらがやれよクソッタレ!」と思ったが一応は上司に当たるので言葉と感情を抑え込み「はい」と言葉を返し椅子に座った。


「今のを見るに、皆さんがやりたくないのは目を背けたい程にわかりました。なので、後腐れ……は絶対に残りますが、完全な運任せの一発勝負で決めましょう。てか、もうこれしか方法無さそうなので」

「それは一体?」


 教師の一人が呟いた言葉と同じく一体何をする気だと教師一同が校長の次の言葉を緊張しながら待つ。


「それでは────


 全員が椅子に座ったのを確認し、校長は宣言した。


 恨みっこ無しの完全な運ゲーム……あみだくじをしましょう」


 そして


「ああああああぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!」

『ヨッシャアアアァァァァァーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!』


 高校に響き渡る絶望と歓喜の雄叫び。

 今日も高校は平和である。


 ※※※※※


 お月様の神様+α達から命乞いの交渉をされた日から5日が経過。

 狩りゲーで討伐、捕獲共に30回を越えて漸く逆鱗、宝玉が出て泣いたり、ヒスイとおつかいがてらお出かけしたらビルの爆破テロに巻き込まれたり、マイ異空間の拡張強化をしたり、実験で新たな手札を量産したり、太陽の権能の応用練習をしたり、残念お嬢様から電話がきて家に招待される日時を聞いたり、フェリとイチャイチャしたり、クラスメイト達と遊びに出てくじ引きで一等の最新ゲーム機を当てたり等々と色々ある毎日を過ごしていた。

 そんなこんなで迎えた本日、私は朝から明日に控えた残念お嬢様の桃子に渡すお土産のお菓子を選びに所謂高級店?って場所にやって来ていた。


「た、高い」


 相手は良家のお嬢様。

 安物は悪いからとお高いお店に来てみたけど、ちょっと困った。

 どれを見ても全てが高い。


「このケーキ一個で漫画やラノベ何冊も買えるじゃん」


 普段私がお店で買う様なお菓子とはお値段の桁が桁違いに馬鹿高い。

 過去に私が被害にあったり解決したりして貯まってるお金が沢山あるので現在所持するお小遣いで買える事は買えるのだが、つい躊躇いたくなるお高さだ。

 流石は高級店のセレブなケーキ……恐ろしい((((;゜Д゜)))

 しかし、買わない訳にはいかないので残念お嬢様からメールで聞いた家族分のケーキと私の両親とフェリ達へのお土産分を店員さんにお願いして二つの箱に分けてもらって購入。

 人目や防犯カメラの類いが無い場所でケーキの張った箱を収納に仕舞い、折角少し遠出してきたので軽く街中をぶらつく。


「それにしても明日かぁ。良家だからきっとお屋敷かお高い高層マンションとかに住んでるんだろうなぁ」


 実の所、何処に住んでるのかまだ知らないか。

 私が自分で伺おうか?と聞いたら迎えに来てくれると言ってくれたのだ。

 まぁ、流石に悪いので最寄りの駅前に迎えに来てくれって私がゴリ押ししたけど。


「にしても、やっぱり何か電話の桃子の様子が変だった気がするんだよなぁ。なんか、誤魔化してるような無理してるような。……なんやろなぁ」


 正直、電話の時は兎も角それ以降はあまり気にしてなかったが、明日訪問するとなって改めて気になってきた。

 もしかしたら、私みたいな極々平凡な一般庶民が良家へと訪問するのを家族が快く思ってないけど、残念お嬢様が無理を言って招いてくれた可能性もなくはない。

 完全な偏見でしかないが、権力者って性格終わってる奴が多い印象じゃん?

 だから、この可能性は高いのでは?って思う。

 この場合、明日お宅訪問したら私は雰囲気最悪な空間に暫く居なきゃいけなくなる訳で……罰ゲームかな?


「うっ、今から行きたくなくなってきた」


 気分がどんよりとなり、どうかまともな家庭であってくれと内心で祈りながら私はスマホでポチポチと調べものをする。


「お。メイトが近くにあるね」


 近くとはいっても少し歩く必要があるが、思いのほか近場にメイトがある事がわかった。

 そうと決まれば、このどんよりとした気持ちを気分転換させるべくメイトへ向けて出発進行!


「お、これ最新刊じゃん。あ、これとこれも最新刊出てる買わなきゃ。あ、これオススメに出てて気になってたやつだ。これも買ってこっと。あ!これ正式に漫画化したんだ!買わなきゃ!」


 これも、これも、それもと気になる漫画やラノベを買い物かごへと入れていき、気付けば何冊もかごの中で積み重なり、それなりの重さへとなった所で私はレジへともっていき購入。

 気分転換は大成功し、大きなメイト袋を片手に持つ私の顔はホクホク顔。

 気分爽快なルンルン気分でメイトを後にした。


「少しお腹空いたなぁ」


 小腹が空いたので折角だしファミレスで何か食べていこうと思い切り、道すがらぶつかられたてズボンが汚れたと難癖つけてギャーギャー騒ぎ馬鹿みたいに母娘に絡んで幼女を泣かす不良三匹を内臓が破裂しない程度に腹パンでキラキラを吐かせながら三匹仲良く地面に沈め、合法的に幼女の頭をナデナデして別れ、近場のファミレスで一人のんびりとイチゴパフェとドリンクバーを注文して美味しくいただいて家へと帰った。

 そして、母やフェリ達にお土産を渡し、仕事で居ない父を除いて全員で楽しくケーキを食べ、ゲーム片手に催促するヒスイに急かされ午後はヒスイと二人狩りゲーに興じた。

 なお、フェリは母の手伝いで今回は不参加だ。


「え」

「うおっしゃああああぁぁぁーーーーーーーー!!!!」


 そして、私の使う大剣の強化にこれから必要だった逆鱗と宝玉が一発で手に入った。

 流石は私!!

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