第248話 交渉
人生とは積み重ねの結果である。
成功も失敗も関係無く己が考え行った成果が重なっていき、形は見えずとも確かなものとして形作られていく。
その形は個々で変わり、一つとして同じ形はこの世に存在せず、その形はその者の性格から人生まで大きく影響を及ぼす。
良い形であれば、良い方向へ。
悪い形であれば、悪い方向へ。
形とは、それだけ重要であり、繊細かつ面倒くさいものなのだ。
「いや、心の中で何一人で語ってるんですか?」
「いや、どう弁明するか考えてて。あと、心読まないで?」
「弁明?アカリ、自分が何をしたのか理解してます?」
「え、えっと」
いや、女神様、これは仕方ない事だったんすよ?
「大陸……消し飛ばしちゃいました」
「アカリ、知ってます?大陸を消滅させたら普通は仕方ないとは言わないんですよ?」
「そ、それは」
それはそうだけど、本当に仕方ないのだ。
あと、心を読まないで?
「だ、だって、あんな威力だなんて思わなかったんだもん!」
まさか、一応完成したので実験の成果を確かめるべく物は試しとルンルン気分で異世界で性能確認をしたら想像以上に最高の出来でテンションMaxになり、つい最高火力を試してみたら大陸が消滅しちゃうとは思わないじゃん?
あまりの威力に空間遮断結界で守ってたのに結界がブッ壊れて死ぬかと思ったよ。
あ、勿論だけど、狂信姫が統治する王国、じゃなくて聖国がある大陸とは別の大陸で試したよ?
具体的に言えば、私が素材集めで大蛇を討伐するべく大地を叩き割った大陸だ。
周辺数百kmに国は無かったから丁度良いかと思って実験会場に選んだけど、いや~うん。駄目だったね。
私の力作の性能が馬鹿高かったせいで安全策も無意味に全てが無に帰ったよ。
文字通り、大陸と大陸に住む生命全てが。
いやまあ、心の底で設計上の性能では最高火力で大陸を半壊させる位の予想は出来てたりしたんだけどね?
つい、私の心の邪悪さんと正義さんが仲良く「別によくね?」って言ったからテンションのままにやっちまったんだよなぁ。
「…………あれ?これ普通に私が悪いのでは?」
「どう考えてもアカリが悪いですからね?」
まぁ、うん、だよね。
普段なら兎も角、今回はテンションが高すぎてつい心のブレーキ君も仕事放棄しちゃってたから。
「小さな島ならまだ良かったものの、幾らなんでも大陸はおかしいですって。被害の規模が桁違いすぎます」
「で、でも、直ぐに時間を巻き戻して元に戻したよ?」
「ですね。おかげで最悪の事態は免れたものの、今回ばかりは度を越し過ぎです。なので、お仕置きです」
え?
「え?いまなんて?」
「お仕置きです」
「マジで?」
「マジです」
マジか。
・
・
・
・
拝啓、数時間前の私よ、今すぐ思い止まって性能確認を止めろ。
出来る事ならぶん殴ってでも止めてやりたい。
でなきゃ、本気で後悔する事になるぞ。
「エヘ、エヘヘ、可愛いです。可愛いですよアカリ!」
「あぅぅ」
まぁ、幾ら心の中で思った所で私では過去を変える事は出来ないけど。
「ほら、ゆっくりでいいですよ~。ゆっくり歩きましょうね~」
「むぅぅ」
「うふふ、むくれちゃって可愛いですね~。アカリは元から可愛いですけど、赤ちゃんだと別方面で可愛いですね~」
はい。私、アカリちゃんですが、赤ちゃんにされて遊ばれてます。
誰か助けて(;∀; )
「はい。上手に歩けましたね~。偉いですよアカリ~。よしよし」
「がるるっ!」
ヤバイ、メンタルへのダメージが半端ない。
この女神、なんつうお仕置きしやがるんだよ。
精神は元のままなのに身体は赤ちゃんなせいで唸る程度しか抵抗出来ないし、哺乳瓶やらオムツ交換やら……もうマジで泣きそう。
「うぅぅ"」
あ、マジで泣けてきた。
「ぅ"ぅ"」
「よしよし、いいこいいこ。アカリはいいこですよ~。ママの胸の中でゆっくり眠ろうね~」
誰のせいで泣いてると思って…………あ、私のせいか。
完全な自業自得だったわ。
…………もう寝よ。
「ぅぅ……すぅすぅ」
「ふふ、可愛い寝顔です。いいこいいこ」
心が疲弊した私は、女神様に抱っこされながら眠りに就いた。
※※※※※
目覚めました!
はい!願わくば眠りから覚めたら全てが夢だったパターンを期待しましたが、まぁ、そんな都合の良い事は有り得なかったね!
てか、赤ちゃんプレイをさせられる悪夢をみてるのもそれはそれで最悪だけどな!
「反省しましたか?」
「はい」
とっても後悔しました。
「ならよろしい。ママも楽しめたので満足です」
「おいこら」
「子供って本当に可愛いですよね。アカリがヒスイを可愛がる気持ちが本当にわかります。いくらでも愛でたくなりますよね~」
それはわかる。
とっても気持ちが理解出来る。
「わかるけど、私の頭を撫でながら話さないでほしいんだけど」
「駄目ですか?」
いや、ぶっちゃけ気持ちいいし女神様の顔が良いから眼福の一石二鳥的な役得ではあるんだけど。
「なら良いですね。よしよし~」
「おいこら心読むな!」
「えへへ、よしよし~」
「あ、駄目だこれ」
だらしなく頬を緩めて私を撫でる女神様を見て私は抗議するのを諦めた。
そして、諦めながら「だらしない顔でも顔が良いな~女神様」と思うのだった。
※※※※※
「それじゃ、そろそろ行くね」
「はい。何だか大変みたいですし、頑張って下さいね」
「どうせ私が勝つよ。そんじゃあ、またそのうち来るね」
「行ってらっしゃいアカリ」
女神様に見送られながら私は地球の我が家の玄関に転移した。
次の瞬間
「は?」
私の周りの空間が何かに干渉されるのを感じ、それが転移の前触れだと気付いた時には私は転移させられた。
そして、全く見覚えのない光景と見覚えのある何十もの神々が立っているのが見えた瞬間、私は己に放てる最大威力のグラパンモドキを放つ。
「ちょっ!?待て待て待て待て!!!!??」
「あぁ?」
なんか様子がおかしいので止めた。
「何?なんなの?敵ならブッ殺すけど?」
今日は帰ってからフェリとヒスイとゲームをするのだ。
もう何狩りかすれば全員ランクが上がって次に進めそうだからね。
用が無いならブッ殺してさっさと帰りたいんだが。
「いや物騒だな!?会話の選択肢はないのか!?」
「あ"?転移に干渉して拉致った貴様らに言われたくないんだけど?」
今すぐブッ殺してもいいんだぞ?
てか、もう面倒だな、殺すか?
「もう殺すか」
「止めろ!いや本気で止めて!!?こちらに戦闘の意思は無い!今日はあなたと話がしたくて無礼を承知の上で無理やりお呼びしたんです!頼む、お願いだから話を聞いて、いえ、話をさせて下さい!」
懇願する感じを見るにどうやら本当に私と話がしたいっぽい。
正覚でも軽く確認するが、マジみたいだ。
正直面倒でしかないが、神々関係の問題は把握しといた方が良いから話を聞いておくとしよう。
「仕方ないから聞いてやる。さっさと話せ」
「よ、良かった。感謝します」
そう言って頭を下げてきた絵巻?みたいなのに描かれている様な和服を着た男は顔を上げると話しを始めた。
「私の名は月読尊。月を司る神です」
「知ってる。で?」
そんなん前に視て知ってる。
「はい。本日は、アカリ様と交渉がしたくお呼びした次第でございます」
「私と交渉?」
「そうです」
「なに?死にたくはないので私達は見逃して下さいとか?」
私は冗談半分でそう言ってみた。
「はい。そうです」
「……いや、マジかよ」
嘘だろ、マジだったよ。
「マジです。我々日本の神々全体がアカリ様と争うつもりではありません」
「ふ~ん。でも、私は邪神だし天照を殺してるよ?責務やら恨みやら無いわけ?」
どこぞの太陽さんは邪神に侵入されるのをよしとはしなかったけど。
「勿論あります。邪神が日本に侵入するのは本来よくありません。姉を殺された恨みもあります」
「あるじゃん。ならどうしてやめるん?」
責務も恨みもあるなら私を殺せばいい。
返り討ちにして糧にしてやるけど。
「私も、ここに居る神達も最初はアカリ様を殺すつもりでした」
そう言って一度言葉を止め、私に示す様に月読尊は共にこの場に居る神々を見渡す。
「ですが、姉である天照大御神を殺す様な相手と争うのは愚策だと、無駄だと気付きました。姉は戦を得意としませんが、姉の太陽の力は我々日本の神々の中でも最上位の力です」
だろうね。
リアルに太陽を創るなんて規格外にも程がある。
あの時はマジで死ぬかと思いました( ´・ω・)
「加え、先日の建御雷之男神を軽くあしらうアカリ様を見て改めて争っては駄目だと理解しました」
「あっそ。それで?」
「アカリ様、お願いします。アカリ様を殺そうと考えているのは弟である須佐之男命を筆頭とした限られた数の神々だけです。他の神々は我々同様にアカリ様と争うつもりはありません。どうか、どうか、我々を見逃して下さい!お願いします!」
地面に膝を着き、土下座をして私へ乞い願う月読尊。
それに続き、その場に居た神々も私へ土下座してきた。
お~~神々の土下座、壮観である。
「私としては手出ししてこないなら元から無視するつもりだったから良いけど?」
「あ、ありがとうございます!」
おうおう、心の底から感謝しやがれ。
「てか、元より天照を殺した以降は襲われない限り何もしてなかったでしょ?」
わたしゃあ、平和の化身だから襲われない限り穏やかに過ごしてたのだが?
「そうですね。過去に侵入してきた者と違って普通の人間と変わらない生活をしてましたね。若干、トラブルに遭遇はされてましたけど」
それは知らん。
向こうから勝手にやって来るんだもん。
「元々日本に住む人間だったんだから当たり前でしょ。好き好んで暴れる訳ないじゃん」
異世界でなら暴れてるけど。
「というか、さっき過去に侵入って言ってるけど、クトゥルフ神話のやつらとかヤベエ邪神なのに撃退しなくていいの?クトゥルフとか深海に居るんじゃないの?」
なんなら、私の高校の生徒会トップの二人は邪神の魔皇と副王だぞ?
私なんかに構ってないで撃退に出て返り討ちにあえばいいのに。
「アハハハ、アカリ様、クトゥルフ神話というのは人間が作り上げた空想の神話ですよ?あの様な神々が居るわけないじゃないですか」
「え?」
「私も娯楽として多少目を通した事はありますが、あの様な邪神が存在したら誰も太刀打ちなんて出来ませんよ?」
…………マジか。
これ、もしかしなくてアザトース達が存在を自分達で隠蔽してね?
あれらの事だから、本当は存在するのに地球の平穏を守ってると信じてる神々を見下して馬鹿にしてるとか普通にありそうなんだけど。
「アカリ様、どうかされましたか?」
「あ、いや、何でもない。ところで、ここまで話してて今更だけど、須佐之男命とかの私と戦争する気満々の神々は殺しても良いわけ?なんか、お前らの話し方からして殺しても良い前提で話してる気がするけど」
仮にも同じ日本神話の神で月読尊にいたっては須佐之男命は弟でしょ?
私にブッ殺されて糧にされても良いわけなん?
てか、日本の三貴子?だったか?で格の高い神ではあるだろうけど、月読尊が代表として同格の須佐之男命や他の神々を殺しても良いみたいな話を私へしても良いのだろうか?
月読尊よりも上の神とかいないっけ?
生みの親のイザナギとかイザナミとか。
「その認識であっています。我々も須佐之男命達にアカリ様と争わずに和平を結ぶべきと何度か提案しましたが、全て断られました。なので、須佐之男命達にバレない様に別天津神様達とも話し合い、須佐之男命達を見切ると決めました。アカリ様と争うより、須佐之男命達を見切る方が圧倒的に犠牲が少なくすむと。なので、須佐之男命達を殺しても構いません」
(´・ω・`)?
「ことあまつかみ?なにそれ?」
なにそれ?
私初めて聞いたかも。
「我々よりも古き時代から存在する五柱の神々です。私よりも高位の神とでも思ってもらえれば良いですよ」
へ~そんな神様も居るんだ。
私が観察した時はそれっぽい神様は居なかった気がするんだけど、もしかして正覚と時空間でも見付けられなかった感じ?
これ、ことあまつかみ?ってのが参戦してたら私死んでたくね?
ヤッベ、命拾いしたかも。
ことあまつかみ?って神様、ありがたや~。
「そんな神が居るなら私を殺せるだろうに」
「可能だとしても、発生するであろう被害が無視できないんですよ。アカリ様に聞きますが、ここに居る私達を同時に相手して勝てますか?」
「殺せるけど?」
多分楽勝だが?
「そういう事です。争うには、相応の覚悟が必要なのです」
「ふ~ん。まぁ、私に被害が来ないのならどうでもいいや。んで?話しはもう終わりな感じ?終わったなら帰りたいんだけど」
「あ、すみません。申し出を受け入れてもらえましたので、私からの話しは以上です。此度は本当にありがとうございました」
「いいよ別に。私にとっては相手する数が減った程度の事だし」
相手する数が減るのなら越した事はない。
それだけ、私への被害と勝率が上がるってものだ。
「あ、一応言っとくけど、今回のお願いが私を嵌める為の嘘だった場合は当然だけどブッ殺すからな?」
神威や混沌化等を使わず、ただただ冷たく神々を睨み付ける。
「と、当然です。嘘なんてついてはいません。後で裏切るなんて事もしません」
裏切らないのは本当だろう。
けど、何が起きるかわからないのが人生だ。いや、今は神生かな?
なので、念を込めて脅しとくのも大切なのだよ。
「そう。ならいいや。んじゃ、大人しくしといてよ。さようなら」
そうして、私は転移を発動して我が家へと帰り、フェリとヒスイと共にゲームを楽しんだ。
三人共に次に進めて新しく受けられるクエストに挑んだりしてとっても楽しかった。
本当に楽しかったけど、一つだけ言いたい。
何故に私だけ逆鱗やら宝玉でないの?
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