第247話 お迎え

 フェリと共に艶々した肌になっていて我が両親に生暖かい眼差しで見られながら朝御飯を食べた私は、両親やフェリ達、クラスメイト一同に日本神話の神々に狙われるかもしれないから気を付ける様にと注意して異世界へと転移した。


「もう、皆酷いなぁ」


 人気の無い森の奥に転移した私は、スマホのLIN◯のグループを見ながら頬をフグみたいに膨らませる。

 理由はグループに乗せた私の日本神話の神々に対する注意への皆からの返信。


(天之)『やっぱりこうなるか。と言うか、何日本神話勢と戦争起こしてんだよ。馬鹿なのか?』

(相沢)『やっぱり、昨日の神社破壊のニュースはアカリが犯人だったのね。戦争とか馬鹿なの?』

(美紀)『戦争するときは手加減してね?日本が崩壊しちゃうから。後、馬鹿なの?』

(浜田)『日本どころか地球が崩壊するんじゃね?🐴🦌』

(冬)『思ったのだけど、何で地球に帰ってきたのにファンタジー度が上がっているの?殺るなら遠くでやってよね』

(春)『冬、アカリだよ?あ、近所ではやらないでね?』

(夢)『アカリだもんね。所で、北欧とかギリシャの神々とはいつ戦争するの?』

(朝田)『遅くても半年以内にはするんじゃないか?アカリさんだぜ?』

(宮本)『帰ってきて早々に戦争とか馬鹿なのかい?』

(亮介)『所で観覧席や後で観賞会とかはあったりすんのかな?迫力ありそうで見てみたいんだけど』


 何故、誰も危機感がないのだ。

 しかも、誰も私を心配してくれない上に大半の奴等に馬鹿にされてるし。

 もう少しこう『神々との戦争とか大丈夫なのか?』『何か手伝える事とかある?』みたいな危機感や緊張感のあるメッセージや『アカリ気を付けてね?』『頑張って勝ってね!』的な応援メッセージとかくれても良いと思うんよ。

 皆さん異世界生活のせいで少し感覚が麻痺し過ぎなんじゃないだろうか?

 普通、神々との戦争が起きるって世界終焉と捉えてもよい内容の筈なんだけど。

 遊びではない殺し合いなんだよ?


「まぁ、どうせ私が勝つけど」


 改めて神との戦闘をして理解したがタイマンなら私は日本神話勢相手ならほぼ負けないだろう。

 昨日の建御雷之男神なんて相性もあって私は実力の半分も出さずに勝てている。

 というか、権能は使ってないしスキルなんて神速再生と正覚、混沌化の三つしか使わなかった。

 殺す気なら二秒もあれば殺せただろうし、悪巫山戯もしてたので舐めプもいいところだ。


「けどなぁ。こっちから仕掛けるつもりはないとはいえ、向こうさん方はやるつもりみたいだし」


 わざわざこの私が気を遣って殺さないであげる選択肢を提示してやったというのに、何故こう地位の高い輩は馬鹿な選択肢ばかり取るのだろうか?

 私には自分から死ににいく愚者の思考は全く理解出来んよ。


「まぁ、油断せず備えとけばいっか」


 備えあれば患いなしって諺もあるし、現在進行中の実験は勿論の事、あの物騒な太陽の権能も使いこなせる様になっておいた方が良いだろう。


「はぁ~~…………何でこう面倒事が多いのかなぁ。ぐうたらして趣味活してフェリやヒスイとイチャイチャして過ごしたいよ」


 まぁ、フェリとは昨日の夜に濃い目のイチャイチャをして楽しんでたけど。


「ん~と……人は居ないね」


 関係無い思考は止めて本日の予定であるアリサの迎えに行こうと正覚で孤児院の周りに誰も居ないのを確認し、孤児院の前に転移する。


「こんにちは~」


 孤児院のドアを開けて人を呼ぶ。

 すると、シャロンさんの「は~い」という声が事務室辺りから聞こえ、足音と共にシャロンさんが姿を現した。


「アカリ様、おはようございます。ようこそおいでくださいました」

「おはようございます。シャロンさん、アリサのお迎えに来ました」

「はい。今、アリサを連れてきますね」


 前に来た時に準備や送別会?お別れ会?的なのをすませるって言ってたので、特に時間は掛からず直ぐにアリサはやって来た。

 けど、アリサと共に見送りに出てきたチビッ子達が少しグズってしまいシャロンさんやマリンさん、アリサと共に泣き止ませるのに手こずって時間が掛かったし少し気疲れしたよ。


「それじゃあ、アリサ、行こっか」

「はい。医院長先生、マリン先生、皆、行ってきます」

「アリサ、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃいアリサ。ほら、皆もアリサお姉ちゃんにバイバイして」

「「「「アリサお姉ちゃん行ってらっしゃい!」」」」


 大聖堂の私の部屋へと転移ゲートを開き、私とアリサは孤児院の皆へ見送られながら転移ゲートをくぐり、孤児院を後にした。


 ※※※※※


 大聖堂にたどり着いた後は、ちょっとだけ慌ただしかった。

 先ず第一に私の部屋には誰も居なかったので、私は正覚を利用して狂信姫へとテレパシーを送り狂信姫にダッシュで来てもらったのだが、案の定勝手に再会に泣いて歓喜されて鬱陶しかったしアリサがドン引きしてた。

 本当、ヤバイよねコイツ。

 で、遅れてやって来たベルさんにアリサを紹介して仕事諸々の事をお任せして緊張にガチガチに固まるアリサを見送り、部屋のソファーで一休みしながら狂信姫と軽い雑談をしてたのだが………


「ねえ、姫様」

「はい!なんでしょうか!」

「これ、全員信者なの?」


 雑談の流れで狂信姫に頼まれて私の巨大像の建てられてる広場までやって来ていた。

 そこで、私の巨大像の前で祈る……中には土で汚れるのを厭わず跪つき祈りを捧げている広場に集まる子供から老人の多くの者達。

 一目瞭然だが、私は狂信姫に確認する。


「はい。私と同じアカリ様を崇拝する親愛なる同士達です」


 どこか狂気を感じるうっとりとした表情で片手を頬に添えて祈りを捧げる信者達を見詰める狂信姫。

 どうしてこんなに酷くなってしまったんだと過去の純粋で可愛かった今は亡き姫様を思い、美少女邪神像へ祈りを捧げる狂気の光景へと目を向けた。


「別に私へ祈った所で何もないんだけどね」


 いや、それは地球でも同じか。

 過去に神社で「不幸を減らしたい」とお願いしても叶うどころか帰り道に自転車に跳ねられて怪我をしたし基本的に神頼みは無意味だ。


「それは女神アリシア様も同じですよ。アカリ様の世界の神がどの様な存在かは知りませんが、女神アリシア様が下界の私達人間に干渉したという話はほとんど聞いた事はありません。あるとしても、古い文献に残されている勇者や加護を授かった少女の位でしょうか?」


 多分、その少女ってのが前に聞いた愛し子ってのだろうか?

 狂信姫の語り方からして一人だけ居たのがわかってるっぽいし、神が人間というか管理する星に住む生物へ干渉するのは少ないんだろう。

 いや、少ないというかほとんど無いに等しいか?


「やっぱ、そんなもんだよね。地球なんて神話として語られる伝説位で勇者や聖女みたいな加護を授けられた存在なんて居ないし」

「どの世界も似た様なものなんですね。だからこそ、私達へ拝謁の機会を下さるアカリ様は多くの者へ崇拝されるのです」


 そう言うと狂信姫は広場の入り口から広場の中へと入り、私の巨大像の前まで堂々とした姿で歩いていくと、祈りを捧げていた信者達が狂信姫に気付いて祈るのを止めて狂信姫に顔を向ける。

 狂信姫に多くの視線が集まる。

 どうやら始めるらしい。


「親愛なる同士達。今日も偉大なる我らが愛する女神アカリ様へと真摯に祈りを捧げている姿、私は嬉しく思います。その祈りは決して無駄にはなりません。私も、かつては身体が弱く、何度も祈りました。悲しく、苦しく、泣いた日も何度もあります。何故私がこんな目にあうのと意味もなく使用人を、家族を、世界を恨んだ事だってありました。何度も何度も何度も神へ助けてと祈り続けました。身体を治してほしい。身体を強くしてほしいと。けど、叶う事はなく、それでも祈り、時に友達もほしいなと欲張って密かにお願いした日もありました。そしてある日、私の前に女神アカリ様は現れ、友達となってくれるどころか幸運は続き、女神アカリ様のご助力により弱かった私の身体は皆様が今見ている通り、こんなにも元気になりました。同士よ、親愛なる同士達よ!祈りなさい!心から祈るんです!その祈りが本物なら、心の底から祈っているのならば、必ずや幸福は訪れます!私こそがその証明です!さあ、祈りましょう!そうすればきっと、女神アカリ様はその祈りに答えてくれる事でそょう!!」

『わあああぁぁぁーーーーー!!!!』


 …………こっわ。

 目茶苦茶盛り上がってるじゃん。

 もう立派に教祖してて私は怖いよ。

 しかも、ここで私を登場させて更に信者も盛り上げる為の演出まで盛り込むし。

 あ、「アカリ様、今です!」みたいな表情で私を見てきてる。

 行かねば。

 シュバっと姿を消して空に転移し、黒髪黒目だった幻覚を解き、邪神形態になり、降下しながら姿を現す。


『ウワアアアァァァァーーーーーーー‼️』


 はい。目茶苦茶歓声が上がっております。

 こんな禍々しい邪神を見て歓声上げるとか理解出来ませんねぇ。

 っと、そういやこの後どうすればいいん?

 狂信姫が「私が適当にやるので隣に立っててください!」って言ってたけど狂信姫、完全に興奮して私の邪神形態を凝視して突っ立ってるんだけど。


「跪つけ」


 仕方ない。

 適当にそれっぽい神様の演技して終わらせてしまうとしよう。


「私への多くの信仰、とても嬉しく思う。だが、無理をしてまで祈らなくても良い。あくまで気持ちが大切だ。そこを違える事のないように。それでは失礼する」


 そう言って転移で大聖堂の私の部屋に退散しようとしたその時、一人の中学生位の少年が私の前に走って出てきた。


「待ってくれ!待ってくれ女神アカリ様!」


 ん?

 どしたんこの少年?

 なんかお願いでもあるんかね?


「貴様!何をしている!」

「女神アカリ様の前で失礼だぞ!」

「直ぐにその子供を下げなさい!」

「なっ!ま、待って!頼む!お願いだから邪魔しないでくれ!」


 少年を下げようとする近くに居た大人の信者達。

 様子からして何か訳ありっぽいので正覚で確認してみれば、うん、なるほど。


「お前達、ちょっと邪魔」


 邪魔なので大人達に軽めの神威を放って気絶させて強制的に大人しくさせて少年の前まで歩いていき、少年に話し掛ける。


「理由はわかった。妹ちゃんが病気なんだね」

「え、まだ何も言ってないのに何で」

「私は神様だからね。少し知ろうと思えば知れるんだよ」


 私は凄いのだ!


「す、凄い」

「ふふん!凄いでしょ」


 ドヤァ~と笑みを浮かべれば、初心な少年は頬を若干赤くして目線を反らす。

 うん。話を進めよっと。


「とまぁ、それはいいとして。妹ちゃんを助けてほしいんだね?」

「あ、はい。そうです。元々は元気なやつだったのに、町の外に出た時に魔物に襲われてその時の怪我が原因で病気になってしまったんです。けど、家には薬を買うお金もなくて。そしたら、王都で住民や仕事の為の人を集めてるって話を聞いて無理して父さんと出稼ぎに来たんです。でも、金を稼いで薬を買う前に妹の病気が悪化し始めたって手紙が来て。もう俺、どうしたらいいのかわかんなくて」

「そっか」


 少年の記憶を覗いて妹ちゃんの居場所を確かめて実際に確認してみるが、確かに危なそうだ。

 直ぐに死ぬって訳ではなさそうだが、治療しないと長くはないだろう。


「わかった。私に任せなさい」

「え、い、いいんですか」

「うん。治してあげる」

「あ、ありがとうございます!」


 泣いて頭を下げてくる少年を横に放置して私は妹ちゃんの治療を始める。

 とはいえ、別に治療らしい治療をする訳ではない。

 死んでさえいなければ、私的には人間は案外なんとかなるもの。

 正覚で過去を確認して魔物に襲われた日数を確かめ、妹ちゃんのみを対象に時空間の権能を発動して魔物に襲われた前の状態まで肉体を戻す。

 この時に記憶に影響が出ない様に注意するのが必要である。

 はい。これで終わり。

 なお、治療を始めてから終了まで一分も掛かっていなかったりする。


「よし、終わったよ」

「え、え?」


 案の定、早すぎて少年が驚いてます。

 まぁ、そんなのは私が気にする必要はないので無視して転移ゲートを開いてやる。


「ほれ、妹ちゃんを見てきな。もう苦しんでないから。あ、お母さんにも軽く説明してくるようにね」

「え、あ、は、はい!」


 少年は妹ちゃんの側に開いた転移ゲートへと走って突入し、数分後、号泣して母親と共に戻ってくると地面に額を擦り付けて感謝してきた。

 そして、それを見て妹ちゃんが本当に治ったのだと理解した黙って成り行きを見守っていたその他の信者達は割れんばかりの大歓声を上げ、多くの信者達が涙を流しながら跪づき私へと祈りを捧げてきた。


「あ、やっべ」


 ちょっとやりすぎた。

 けど、このままだと「少年だけ何でだ!?」とか馬鹿が騒ぐ問題が起きるかもなので、私は的を増やすべくチラっと信者達を確認し、少年と似た様な問題を抱えて祈っている信者だけを選んでちょいちょいっと身体の怪我やら家族の怪我や病気を治してやり、さっさと転移で大聖堂の私の部屋へと帰った。


 ※※※※※


「んふふ、アリサのメイド服可愛いね~」


 カシャカシャとスマホで写真を撮る。

 私がスマホを向ける先に居るのは当然、メイド服を着ているアリサ。

 頬を赤く染めて恥ずかしがってる姿は見ていて唆るものがある。

 …………なんか、私変態?

 まぁ、気にしなくていっか。


「アカリさ、様、は、恥ずかしいのでやめてください」

「えぇ~後なんかポーズを決めてる所を撮りたいんだけど」

「なんですかポーズって」

「こう…………どんなのだろ?」

「私に聞かれてもわんないです」


 うん。だよね。


「アカリ様、私としてもアリサさんをそろそろ解放してもらえるとありがたいのですが。仕事を教えないといけないですので」

「あ、ベルさん、ごめんなさい。仕事邪魔しちゃってすみません。アリサもごめんね」

「あ、いえ、大丈夫です。ベル先輩もありがとうございます」

「いえ、気にしなくていいですよ。姫様の相手に比べればどんな事も楽なものですから」

「あ、えっと」


 ベルさんの言葉にどう反応すればよいのか困惑の表情を浮かべるアリサ。

 まぁ、あんな狂信姫の相手をするのは精神的にも肉体的にも大変だろう。

 困惑の表情をするアリサの隣で私は「ベルさんご苦労様ですと」内心思いながら、そろそろお暇しようとしたその時、ベルさんに話を振られた。


「そういえばアカリ様、姫様を知りませんか?姿が見えないのですが」


 姫様?…………あ。


「忘れてた」


 そういえば、広場に忘れて帰ってた。

 私は急いで狂信姫を回収してベルさんに手渡し、アリサ、ベルさん、狂信姫に別れを告げて地球へと帰った。

 そして、帰ってから私は昼食と夕食の時以外をマイ異空間で昨日の実験の続きと太陽の権能を使う練習に費やし、実験で一番難しい所は何とかなって大幅に実験を進める事が出来た。

 後は簡単なものばかりなので、明日には核を利用する実験は終わらせる事が出来るだろう。


「フフフ、ヤバイ、今から楽しみすぎる。あ、そうだ。名前どんなのにしよう」


 適当な名前じゃ無礼になるし、しっかり考えねば。

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