第246話 神社破壊

『雷切』

 雷と剣の二つの権能を合わせる事で可能となる神速の抜刀。

 いかなる相手だろうと切り裂く権能により生み出した刀に纏う同じく権能により生み出された雷により、仮に再生力の高い相手だろうと傷口が雷に焼かれる事で再生を阻害する。

 強大な妖怪、神に匹敵する怪物、異界より侵略してくる侵略者、悪魔、邪神の眷属、邪神。

 人間達が太古と呼ぶ古き時からこれらの様な数多の相手を悉く屠ってきた強力無比な技。

 それが『雷切』である。


「ぐっ」


 だというのに、何故


「いやぁ、ビックリしたぁ」


 何故、この邪神ではなく私が倒れている!


「っ、貴様、何をした」


 手応えはあった。

 今もこの手には邪神を両断した確かな感触が残っている。

 現に目の前に立っている邪神の服は雷切の雷で黒く焼け崩れている。

 しかし、服がボロボロなのに対して両断された筈の邪神は平然としている。

 見える素肌には一切の傷はない。

 一体、どうなっている。


「別に何も?普通に振り返って殴っただけだけど?それよりさぁ。随分とまあいきなりな歓迎だねぇ」


 言葉と共に先までの呑気な雰囲気から敵意に満ちた暗く悍ましい雰囲気へと一変し、呼応する様に邪神の姿が変化した。

 漆黒の装束に禍々しさを感じる頭の輪と背の翼。

 姿が変化したと同時、邪神から放たれる気配が一段と増す。


「私達からのささやかな歓迎だ。喜んで死ぬといい」


 間合いを取り、正眼に構えながら告げる。

 それに対し、邪神は私を馬鹿にする様に鼻で笑うと邪悪な笑みを浮かべる。


「やれるもんならやってみろ。マイナー神」


 挑発しているのか言葉と共に手をクイクイとしてくる。


「ッ」


 自分をマイナー神等と正直、少し、若干気にしてる事を言われてイラッとしたが、苛立ちを理性で静めながら集中。

 邪神が瞬きした瞬間、転移で邪神の背後を取り雷切を放った。

 落雷の如く白い軌跡を描きながら邪神の身体を背の翼もろとも両断。

 確実に、己の振るう刀が邪神を切り裂いたのを見た。


「ワンパターンだな」

「なッ!?」


 しかし、そこには先と変わらず平然とした姿でこちらを氷の様な冷めた目で見てくる邪神。


「くッ」


 大きく飛び退き邪神から離れながら権能により大地を操り邪神の身体を拘束。


「シッ!!」


 その身に纏う漆黒の装束は切れていた。

 雷切は邪神を切り裂いたのは間違いない。

 ならば、一度で効かぬのなら何度も切り裂くのみ。


「神雷!!」


 豪雨の如く、雷切の残像で邪神の姿が見えなくなる程に雷切を何十何百と放ち、トドメの一撃に己の放てる最大威力の黒き雷を落とす。

 人間の住む世界へ落とせば軽く都市一つが消滅し、神だろうと無傷では済まない絶対の一撃。

 視界が神雷により黒い光で染まり、あまりの衝撃に神域が軋みを上げ崩壊しそうになるが、そんな些事を無視し邪神の気配を探るのに注力する。


「気配が無い。やったか?」


 一帯の気配を探るが、先程まで発されていた寒気すら感じる邪神の悍ましい気配が欠片も残さず消えている。

 塵も残さず消滅した。

 そう思い軽く息を吐いた次の瞬間。


「ばあ~」


 背後から赤子をあやす様なふざけた声が聞こえた。

 驚愕し、瞬時に背後へ振り返る。


「なッ!?ゴハッ」


 しかし、振り返るよりも早く後頭部へ巨人の振るう巨鎚の如き衝撃が襲い吹き飛ばされた。


「ガッ!グハッ、ごはッ"!ガハッ"!」


 かと思えば背中、脇腹、背中、腹と高速で回り込まれながら攻撃される。

 視界が明滅し意識が遠くなりそうになったが、地面叩き落とされ、跳ねる様に地面を転がる衝撃で辛うじて気絶せずにすみ、即座に立ち上がり頭を振って意識を保つ。


「ぐッ、くそったれ」


 悪態をつきながらもいいように攻撃してくれやがった見た目だけなら傾国の美女である忌々しい邪神を神域を見渡して探すも気配も姿も全く見当たらない。

 が、次の瞬間、耳に空気を切り裂く音が聞こえ勘で大きく身体を伏せた。


「っ、チッ!」


 直後、先程まで頭があった辺りを見た目だけなら白く艶かしい足が見た目とは正反対な恐ろしい速度で空気を裂きながら通り抜けた。


「およ?避けられた。勘が良いね~。じゃ、死んで?」

「断る」

「ダメ。オラア!!」


 邪神が雄叫びと共に両手を地面に向けて振り下ろし、その衝撃で神域内の見渡す限りの地面が粉々に砕け散り、不覚にもバランスを崩された。


「御臨終~」


 邪神から目を離さず、即座に粉々の地面を権能で直そうとした瞬間、邪神がそんな事を言いながら右手を掲げた。


「ぐっ"!?」


 直後、邪神の右腕が赤黒い肉?水?霧?の様な得体の知れないナニカに何十本も分裂し見上げる程に巨大化し、牙?角?触手?が生えた口が裂けて現れた。

 何故か、このナニカを見た途端に血の気が引き、目眩の様な、吐き気の様な、思考がまとまらない様な、上手く言えない不調に襲われる。

 そのせいで発動しようとしていた大地の権能が止まり、身体もまともに動かせず、こちらに向けて振り下ろされるナニカを見ているだけしか出来なかった。

 死んだ。そう思った。

 情報収集の為の偵察の戦闘だったというのにいいようにあしらわれ殺される。

 悔しさしかない不甲斐ない結果に終わったが、この戦闘を見ている仲間達が役に立ててくれるだろう。

 そう思い死を受け入れようとしたが、死は訪れなかった。

 襲ってきたのはナニカではなく、神域に響き渡る耳が痛くなるような轟音。


「こ、これは」


 頭上を巨大な津波が流れていき自分を潰そうと振り下ろされるナニカを邪神もろとも押し返していた。

 それを認識した瞬間、身体を転移の感覚に包まれ視界が先程まで居た神域から別の場所へと変化した。

 周りの顔ぶれと見覚えのある建物からして、ここは高天原だろう。


「ふーーー危なかったな。大丈夫か?」


 声の主へと顔を向け、私は頭を下げる。


「助かった。感謝する須佐之男命。危うく死ぬ所だった」


 私を助けてくれたのは此度の邪神討伐部隊の隊長である須佐之男命だった。


「気にするな。大事な仲間で貴重な戦力であるお前に死なれるのは困るからな」

「それでもだ。本当に助かった」


 本当に冗談抜きにあれはヤバかった。

 須佐之男命の海の権能による助けがなければ今頃自分はあのナニカに潰されたか喰われて死んでいたに違いない。


「まあ感謝は受け取っておく。それでだ。俺達はお前とあの邪神の戦闘をこれで見ていた訳だが『おい、貴様ら』ッ!?」

「「「ッ!?」」」


 今も流れている映像から一つの声が聞こえた。

 明確に、此方を意識した女の声。

 私達は揃って映像へと目を向ける。

 そこには、私が戦闘していた時と同じ氷の様な目をした邪神が映像ごしに此方を見ている姿が映っていた。


「まさか、気付いてるのか。バレない様に隠蔽しているんだぞ」

『知るかそんなもん』

「ッ!」


 間違いないバレている。

 危機感、いや、恐怖か?

 長く感じていなかった感情に背筋が冷えていくのを感じる。


『一つ忠告してやる。もう私に関わるな。関わらないのなら私から貴様らに危害を加える事はしない。まぁ、状況によるけどな。で、だ。変わらず私を攻撃しようってんなら覚悟しろよ?敵対する貴様らをこの世から消す。わかったか?』


「「「「「っ」」」」」


 冗談で言っていない。

 口だけの脅しではない。

 あの目は、本気で此方を皆殺しにするつもりだ。


「っ、言ってくれるな邪神風情が。これは貴様から始めたものだ。俺達は、俺の姉、天照大御神の敵。そして、この世界の平和の為に必ず貴様を殺す。必ずだ。覚悟するんだな」


 須佐之男命の力強い言葉にこの場の他の神々の表情に力が宿り映像に移る邪神を忌々しく睨む。

 それは私も同じであり、リベンジを心に誓い映像に映る邪神を睨む。


『アホくさ。先に仕掛けてきたのお前の姉の方だからな?そこ勘違いすんなよ?まぁ、いいや。止めるつもりないならそれでいいや。せいぜい頭を捻って頑張りなよ。んじゃ』


 そう言って映像に映る邪神は右拳を振り抜いた。

 次の瞬間、映像は切れ、私は自分の神域が破壊されたのを感じた。

 襲った側が言う事ではないが、せめて破壊して脱出ではなくて転移で帰ってほしかった。

 異空間の創造やら神域の効果設定等で創るのが何気に面倒なのに。

 私は増えた後々の労働に項垂れるのだった。


 ※※※※※


 ええ~~こちら、皆大好き邪神アカリちゃんです。

 馬鹿でマヌケな日本神話の建御雷之男神にプチ誘拐からの殺し合いを挑まれたんだけど、なんというか想像以上に弱かったね。

 いや、弱いというより私との相性が死ぬほど最悪だったのかな?

 両断された所で切られた瞬間から神速再生のスキルで再生してたからねぇ。

 斬撃に破壊属性的なのが付与されてたなら兎も角、視認が難しい位に速くて高火力の雷を纏った普通なら即死ってだけの斬撃だから避ける必要もなくてサクッと返り討ちにしてあげたよ。

 まぁ、逃げられたしムカつく宣戦布告を向こうがしてきたから腹いせと嫌がらせで私が居た神域を粉砕してあげたんだけど、いや、マジか。


「やっべ、勢い余って少し壊しちゃった」


 周りに見える森?林?らしき木々が根こそぎ吹き飛んでしまってる。


「うわ~マジかぁ。って、やば!?近く神社じゃん!?しかも、まあまあ壊れてる!うげ、かなり騒ぎになってるし」


 神社を破壊してしまったせいか、神社で働いている人や参拝客の気配を感じる。

 気配の距離からして直にここまで来るだろう。

 うん。これは致し方ない。

 全ては馬鹿な日本神話勢のせいである。


「逃げるが勝ち!」


 てな訳で、私は見付かる前に転移で家に逃げ、家と私の家族やフェリ達の守りを超絶強化し、午前中に半身が消し飛んで死に掛けたマイ異空間で実験の続きをした。


 そして夕飯の時間


「ねえ、緋璃。正直に言ってほしいのだけど」

「アカリ様、これ絶対にアカリ様がやりましたよね?」


 夕飯の時間、テレビのニュースで私が破壊した神社…鹿島神宮の事が流れていて、我が母と彼女に犯人と決めつけられた。

 事実犯人ではあるのだが、証拠0なのに疑うのは酷くないだろうか?

 ねえ、私泣くよ?


「これ、ママがやったの?」

「う~ん。どうなんでしょう?」

「可能性は高いと思いますが」

「こやつじゃろ」


 …………うん。


 私はしょぼくれて夕飯を食べ終わった後、マイ異空間に引きこもって実験に集中し、良い感じの所まで上手く進められた所でお風呂に入り、スマホの目覚ましをセットしてフェリを抱き枕にして眠りに就いた。

 明日はアリサを迎えに行かないといけないからね。

 早く寝なきゃ。

 だからね、フェリさんや、私の頬っぺたをもちもちびよびよして遊ばないでほしいのですが………仕返しに襲うよ?

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