第243話 実験動物
和気あいあいとした穏やかな空気に満ちた竜と龍達が暮らしている龍の墓場と呼ばれる王国跡地。
「「「「グギャアアーーーー!!!??」」」」
「「「「ゴアアァァァーーーー!!???」」」」
「「「「グガアアァァーーーー!!!??」」」」
「「「「ギャアアァァァーーーー!??」」」」
そこへ、私達が足を踏み入れた瞬間、私達……いや、視線からして……私だよね。
私へ気付いた竜や龍達がドタバタキャンキャン悲鳴を上げ、転び、ぶつかり、足をもつれさせながら四方八方へと逃げ惑い穏やかだった空気は一瞬にして崩壊した。
「」
「うわぁ」
「阿鼻叫喚ってやつですね」
エリーの言う通り阿鼻叫喚。
私も同意だけど、一つ言わせてほしい。
「酷くね?」
いくらなんでも私を怖がり過ぎじゃね?
てか、逃げるとしてもなんで地面を走って逃げるわけ?
空に逃げれば良くない?
まさかだけど、空を飛ぶって考えも思い付かない位に私が怖かったの?
「私、そんなに怖いの?」
取り返しのつかない位に極めて邪悪に堕ちているだけで、私は味方には基本的に慈愛の権化だ。
だから、そこまで怖くない筈。
そう思ってヒスイとエリーに怖くないよね?と確認した。
「…………龍、居なくなった」
「…………ですね。殆んど居なくなりました。近くに居るのは三体のみです」
「ねえ二人共、なんで顔反らすの?」
「ママ、優しい」
「はい。優しいかと」
「そっか」
なら、顔を反らさず話して欲しかったなぁ(;ω;)
てか、せっかくカチコミに来たのに相手が居ないから暴れる事が出来なかったよ。
ちょびっと残念( ´・ω・)
というか、犬の時もだけどこれ位の恐怖や絶望なら首輪は反応しないんだね( ・ω・)
「あ、来た」
エリーの言っていた三体が私達の前に姿を見せる。
「久し振りだね。龍王、長さん、土龍君」
唯一逃げなかったのは、私と関わりがあったこの三体だ。
龍の姿のままの長と土龍君を後ろに従えながら歩いてくる人化している龍王が、片手をあげて挨拶した私へと片手をあげて手を振りながら絵柄で挨拶を返してきた。
「久し振りだアカリ様!それにヒスイにエリーも元気そうでなによりだ!」
「ん。久し振り」
「お久し振りです。龍王様もお元気そうでなによりです」
「うむ!この通り我も元気だ。にしても、すまない。下の者達が失礼な行動をしてしまった。悪気があったわけではないんだろうが、顔を知っていたとしてもいきなり目の前にアカリ様の様な規格外の存在が現れたから本能的に恐怖から混乱して逃げ出したんだと思う。許してやってほしい」
本能的に恐怖ってさりげなくディスられてる気がするのだが、龍王気付いてる?
これ、表情からして無意識にディスってて気付いてないよね?
まぁ、別に傷ついた訳じゃないからどうでもいいけどさぁ。
「別にいいよ。少し酷って思ったけど、たいして気にしてないし。それよりさ、少し聞きたい事があって来たんだけど」
「聞きたい事?我等が答えられる事なら答えるが」
「これなんだけど」
私は正覚のスキルと時空間の権能を使って空中に映像を投影する。
「む?なんだこれ?」
『森?それに、これはサイクロプスかい?』
『何かを追っているのか?……なッ!?アカリ様が!!?』
「……後ろから刺すとは。とんでもない外道だな」
「マ、ママが、刺された!!?」
「今のアカリ様では考えられませんね」
私が流した映像は昔に私が依頼で遭遇したサイクロプスして後ろから屑に腹を刺された映像だ。
ヒスイも見ているので剣を少しモザイク加工しているが、私が土手っ腹を刺し貫かれたのは一目瞭然。
倫理?教育?的にモザイク加工したけど、あんまし意味はなかったぽいね。
てか、こうして見て思うけどエリーの言う通り今の私と比べて過去の私無用心な上に糞雑魚すぎだな。
腹を刺されただけでダウンするとか脆くね?
それに、屑をボコして囮にすれば邪魔者の処理も出来て一石二鳥なのに……いや、一応この時はまだ排除認定してなかったからダメか?
今の私の正確なら問答無用で屑を半殺しにして囮にしてるだろうが、昔の私は性格が善性寄り。
こんなったのも仕方ないと言えなくもない。
我ながら見ていて「もう少し気を付けろよ馬鹿吸血鬼が」って思うが。
まぁ、過去の私の甘さは置いとくとして、話を進めるとしよう。
私が喰われそうになってる映像を変えて過去の私がサイクロプスの背中を確認しているシーンを流す。
「とまぁ、正確な年月は覚えてないけど多分一年位前かな?私が転生して強くなる前の雑魚だった頃に冒険者してて依頼を受けた先でサイクロプスに遭遇して色々あって死にかけたんよ。で、本来ならサイクロプスの生息域じゃないのに居た。しかも、背中に大型の魔物らしき爪痕があったんだよね。そんで最近詳しく調べたらあら不思議」
映像を問題のシーンに変えながら収納から白衣と伊達眼鏡を取り出して装着。
続けて伸縮する棒を取り出してキュッと伸ばすと伸縮棒で映像を指す。
「はい、ここ注目。デスペラが嫌がらせで魔物の群れを放ってますね。そして、対応してる龍の中の土龍がサイクロプスの背中に一撃かますだけで討伐をし損ねてます。しかも、逃したのを理解してるっぽいのに見逃してますね。これはいけません。減点1Pです。一応聞いておきますが、この土龍は土龍君ですよね?」
慈愛の化身の如き微笑みを浮かべながら私は土龍君に尋ねる。
あれぇ、どうしたのかな土龍君?
なんでそんなに私を見ながらガクブル震えながら怯えてるのかなぁ?
ほら、殺さないから正直にアカリお姉さんに話してごらん?
『あ、え、ぁ、あ』
「ん~?何が言いたいのかなぁ?ちゃんと話して?」
『ヒッ、す、すみませんすみませんすみませんッ!!俺であってます!ごめんなさい何でもするので殺さないで下さい!!』
あれ、おかしいなぁ。
天使の如き慈愛スマイルなのに目茶苦茶ビビられてるよ。
なんでだろう?
こんな美少女教師コスプレまでしてるのにww
まぁ、わたしゃあ天使の上の女神様(美少女邪神)だけどね?
「ママ、目が笑ってない」
「アカリ様、目が冷めてます」
「あぁ、氷みたいだぞ」
『向けられてない私も怖い位だよ』
む。そんな馬鹿な………あ、マジだ。
目が氷河期の如く冷めきって美少女のブチギレた笑顔みたいになってる。
我ながら怖えぇ。
けど、怖いのはわかるけど皆そこまで怖がらなくてもよくね?
「もう、そんな怖がらなくてもいいじゃんか。むぅ~。…………まぁ、いいや。犯人が認めたし」
あ、犯人じゃなくて犯龍か。
「ところで土龍君~?今さっき、何でもするって言ったよね~?」
『え、あ、ぁ』
「言ったよね?」
『な、なに、を?』
なにを?
あ、何をするかって事ね?
「ちょいと魔法と科学の実験をしたくてさ?その実験動物に、ね?」
フッフッフ……いやぁ、丁度改造実験用の手頃な生物の素体が欲しかったんだよなぁ。
少し乱暴で強引な魔改造をするから頑丈そうな土龍君ならピッタリだよ。
ラッキーラッキー♪ニャハハww
「楽しみだねぇ♪」
ニッコリ笑顔を土龍君へと向ける。
『』
「あ」
土龍君、白目を剥いて気絶。
「えぇ~と、アカリ様。代わりにそこら辺に転がってる同族の死体や他に必要な物があればあげるから実験は許してやってくれないか?」
「あぁ~……うん。まぁ、それならいいや。けど、いいの?死体とはいえ同族のでしょ?」
「かまわない。元は同族とはいえ、死ねば言葉を発さぬ骸でしかないからな。知性はあれど我等はそもそも魔物。人間達の様に墓地を作り一々埋める様な事はしないよ」
「そう。なら遠慮無く貰うね」
材料さえ手に入るなら土龍君でなくても死骸でも全然かまわない。
あくまで私が欲しかったのは実験用の素体となる材料なので別に魂の抜けた生きてない死骸でも問題ない。
後でどうとでもその辺りは改造可能だ。
にしても、思わぬ収穫物だ。
私の日頃の行いが良いからかねぇ。
「その代わりに土龍君にアストレア…じゃなかったな今。元アストレア王国を護らせといて」
「あの国か?つい最近あの頭のおかしい王女が国王に変わって神聖アカリ聖国なんて名前に国名を変えた。前も思ったのだが、あの王女かなり頭がおかしくないか?」
うん。
「国の名前がアカリ様と同じだから少し気になって話を聞きに行ったら「アカリ様を崇め奉るに相応しい国を私の手で作るんです!神聖アカリ聖国。素晴らしい名前でしょう?国の改名はその為の手段の一つにすぎません。さあ、龍王シャルロット様。あなたも私と共に、アカリ様へ祈りましょう?」って言ってきたんだからな!なんなのあの王女!アカリ様の姿絵と像を無理矢理渡そうとしてくるし。我を入信させようとするし。目が本気だし。我もう怖いよ!我もうあの王女に会いたくないよぉ!!」
半泣きの龍王を見て改めて思う。
狂信姫、お前マジでヤベエって。
「なんか、本当ごめん」
狂信姫の魔の手が他種族にまで侵蝕してきている事に私は心底呆れると共に少しの恐怖を抱きながら龍王が落ち着くのを待つのだった。
※※※※※
龍王が落ち着いた後、変わらず気絶したままの土龍君を長さんに任せて私達は龍王の案内で龍の死骸や魔石を集めて回った。
これがまあ、実に大量で素晴らしい収穫結果になってわたしゃあホクホク笑顔になったよ。
「アカリ様、実験と言っていたがあんな沢山の死体を使って何をするのだ?」
「ん。気になる」
「アンデッドの実験でもするんですか?あ、でも科学の実験でもあるので違うのでしょうか?」
三人の質問に私は誤魔化す事なく正直に話す。
別にマッドサイエンティストみたいなバイオなハザードになる様な実験をする訳ではないし。
「私のスキルや権能、最近勉強してる事、異世界の生物っていう多数の要素を掛け合わせて実験をしようと思っててね。上手く成功すれば強力な手札になるし。地球は地球で下手したらこの世界以上に面倒な事になりそうだからさぁ」
「そっちも色々大変なのだな」
「本当、大変だよ全く」
まぁ、手札云々も本音だけどプラスでマジカル要素を掛け合わせた面白実験をしたいって本音もあったりするけどね?
オタクとしては是非とも手に入れたファンタジーな力を最大限に悪よ、ゴホン、活用してロマンに満ち溢れた最高の実験をしてみたいじゃないか!!
きっとオタクなら誰だって私と同じ事を一度は考えた事がある筈だ!
なあ、そうだろ!!?
だからこそ!私はその欲望に忠実に従って欲望を満たすのだ❗
とまぁ、そんな私の欲望は置いといて。
「エリーちょっとお願いがあるんだけど」
私はヒスイと手を繋いで歩くエリーへと話し掛ける。
「はい。なんでしょうか」
「ちょい遠出するからヒスイと一緒にここで待っててくれない。一時間もせずに帰ってくるからさ」
「私は別にかまいませんが」
エリーはそう言いながら自身の隣を歩くヒスイへと顔を向ける。
私もヒスイへと顔を向ければヒスイと目が合った。
「ママ、何処行くの?」
「え~と、何処って決まってはいないけど、あえて言うなら……世界中?」
「世界中?」
「うん。世界中。ここで入手した死体だけじゃ実験に足りないから世界中飛び回って手頃な魔物を狩ろうかなって」
文字通り世界中の陸海空を飛び回るからヒスイを連れて行くのは難しい。
なので、私が音速で狩り回って帰ってくる少しの間だけエリーと龍王にヒスイの面倒を見ていて貰えたら助かったりする。
けど、どうやらそれは無理っぽい。
だって、目の前のヒスイのプニプニ頬っぺたがフグみたいに膨れてるから。
「むぅ~!ずるい!一緒に行きたい!!」
「いや、けど本当に大変だよ?空高くから世界の果て、大地の底に海深くまで行くんだよ?」
「面白そうだから行きたい!それに、私ダンジョン!それ位大丈夫!」
「んん~」
フンスと意気込んで私へそう言ってくるヒスイに私はどうしたものかと考え込む。
正直、先も言った通り大変なのだ。
なので、ヒスイを連れ回すのは危ないので待っていてくれるのが私としては安心出来る。
けど、ヒスイの意見を取り合わず一蹴するのはヒスイのママとして取りたくない選択でもある。
なんだったら、元々は狩り回りは予定に無かった事なので今日は狩り回りを止めて我が自称義妹に会いに行くって予定に変えても良い。
まぁ、そうしたら確実にヒスイの機嫌が悪くなるから私としては取りたくない選択肢だが。
そうなると、私が取れる選択は決まってしまう。
「仕方ないか。エリー、ちょっと大変かもだけどヒスイの事を守ってもらえる?私が権能で守るから問題は無いとは思うけど、私が関わると何が起きるかわからないし」
母親って言うのはね、愛する娘には勝てない生き物なんだよ(;∀; )
「わかりました。お任せ下さい。何が起きても必ずや守ってみせます」
「うん。ありがとね」
「ん!やった!一緒に行ける!!」
喜んでて可愛いなぁ。
あ、そうだ。
スマホで写真撮っとこっと。
ジュバっとスマホを収納から取り出し、カメラモードONにして連写していく。
女神な可愛さのヒスイの写真を撮り忘れのは世界の損失にも等しいからね。
「ニシシ、最高の写真がまた増えたね。後で現像してアルバムにも保管しとかなきゃ」
データ保存だけじゃ万が一データ破損でもしたら絶望だからね。
データと現物の二重で保管しとかなきゃ。
「よし。それじゃあそろそろ行こっか」
「ん!」
「はい」
「それじゃあ、お邪魔したね龍王。突然来ちゃって悪かったね」
「いや、気にしなくて良いぞ。我も楽しめたのだ。気にせずまたいつでも来てくれ」
「そう言ってもらえて助かるよ。あ、そうだ。折角だしこれあげるね。中にお菓子が入ってるから食べて。まぁ、私の手作りじゃなくて創造で作ったものだけど」
パパッと創造で保存の効くクッキーやビスケットが沢山入ってる缶を龍王に手渡す。
「おおお!!ありがとうなのだ!凄く嬉しい!」
「ふふ、なら良かったよ。あ、それとこれも。土龍君の首にでも掛け仕事させといて」
「む?なんだこれ。……ぶほッ!?く、くははっwわ、わかったのだwわ、渡しておくのだww」
龍王に渡したのは『私は大事な仕事を失敗した駄龍です』と大きく書かれた紐付きの板。
是非ともこれを首に掛けて仕事する事で己が失敗と戒めとしてほしいところだ。
「んじゃ、行くね。バイバイ」
「ばいばい」
「お邪魔しました」
「んむ。また来るのを待ってるのだ」
龍王との別れの言葉を交わして転移ゲートを開き、私達は龍の墓場を後にした。
そして
「それではヒスイ、エリー、ちょっと行ってきます!」
「ん!行ってらっしゃい!」
「お気を付けて」
神血製の水着になった私はヒスイとエリーへ敬礼しながらそう言うと、その場所……空から音速で海へと突撃。
数分後
「捕ったどーーーー!!」
大きく水飛沫を上げながら人生で一度は言ってみたかった名台詞を叫び、全長百mはありそうな巨大海蛇を鷲掴みながら海を飛び出した。
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