第242話 やっぱヤベエよ狂信姫
「ん……ママ、ここどこ?」
ここに来た事のないヒスイは、ここが何処なのかわからず私に現在地を聞いてくる。
「ここはオーレストっていう街。私が転生してきて一番初めに来て暫くすごしてた街だよ」
懐かしい私にとって思い出深い街であるオーレスト。
そのオーレストの街の中の人気の無い場所に転移ゲートでやって来た。
なお、門の通行手続きはしてないので不法侵入であるが今更なので些細な問題である。
気にしてはいけない。
「そうなんだ」
「とういう事は、アカリ様の故郷と言える場所でしょうか?」
「ん~~そうとも言えるかも?」
エリーの言葉は正しいとも呼べるし違うとも言える。
私がこの世界で目覚めたのは街から近い森の奥地なので生まれ故郷は森の奥地だ。
しかし、森の奥地に居たのは極短い時間であり、生まれた後に寝食をしてすごしていたのはオーレストの街だ。
なので、人間的な感覚で故郷と呼ぶなら森の奥地よりもオーレストの街の方が故郷とも言える。
「まぁ、故郷ではなくても思い出深い場所なのは間違いないよ」
異世界での友達が出来た場所でもあるし、身の程を弁えないテンプレ屑野郎に絡まれてサイクロプスに食われたり、屑に胸を刺し貫かれて死にかけたりと苦労した思い出がある。
本当、心底大変だったよ。
…………ん?
そういえば、今振り返って思い出したのだが、サイクロプスって背中に爪痕があった気が。
それに、本来は違う生息域にいて騒いでたような?
ちょいと気になるし確認してみよっと。
正覚の並列思考と千里眼の過去視でサイクロプスについて確認作業をしていく。
「本当、色々あったなぁ」
「ん」
「そうなんですね。所で、こちらの街でアカリ様のご友人の方に会われるのでしょうか?」
「うん。私が転生して一番初めに出会った女の子でアリサって名前なんだけどね。孤児で大変だろうに一文無しだった私にお金を貸してくれたり、宿泊先とか色々とお世話してくれてさ。まぁ、その恩は一応だけど返した事になったんだけどね?ちょっと色々あって糞魔王とかの問題が終わったら私のお手伝いをしてもらうって約束してたの。今日はそれ関係で会いに来た感じ。…………へぇ、なるほど」
ふむふむ、なるほどね。
それはそうと、以前アリサと約束したお手伝いしてもらうって約束。
少々遅くなったが、今日はその約束を果たすべくやって来たのだ。
「ママ?」
「なんでもないよ」
「ん?ん。今から会う人、ママの恩人?」
「だね。恩人で友達って所。他にもフィールって宿屋の娘の女の子の友達やカリナさんって受付嬢の知り合い、サリエって貴族の令嬢の自称義妹もいるけど」
「種類多い」
「幅広いですね」
「うん。自分で言ってて思った」
孤児院の女の子に宿屋の娘、ギルドの受付嬢、領主の娘。
受付嬢までならわかるが、何故にゲームなら始まりの町とも言える場所で貴族の娘とまで仲良くなってるのだろうか?
普通、貴族と仲良くなるなら中盤辺りだと思うのだが。
まぁ、ここはゲームではなく現実だし、可愛い義妹だから何も文句は無いけど。
「とまあ、それはいいとして、ここがアリサが住んでる孤児院だよ。気配的に今日は採取にはいってないみたいだね」
私が居た頃は出会う度に毎回採取に出てた気がするけど、私の手回しした支援があるし、流石に高頻度で採取に出るのは人間の肉体では疲労面で大変だろうから今日は休んでいた感じだろう。
採取に出ていたら戻ってくるまで待たないといけなかったから私としては好都合なのでラッキーだ。
まぁ、仮に待つとしても待つ間は幼女や童達の相手をして待てば良いのでそこまで問題でもなかったが。
とりあえず、孤児院の扉をノックして誰か出てきてくれるのを待つ。
近付いてくる足音が聞こえ、扉が開かれシャロンさんの姿が見えた。
「っ!?」
直後、私を認識した瞬間に驚いた表情をしたかと思うと跪かれた。
「は?」
一体どういう事…………いや、一つだけ思い当たる節がある。
猛烈に嫌な予感がしてきた。
そして、その予感は直後のシャロンさんの発言で確定した。
「お久し振りでございます女神アカリ様。ようこそおいでくださいました。お連れのお二方は初対面ですね。初めまして。院長のシャロンといいます」
「」
絶句である。
予想は出来た筈だ。
しかし、それでも転生初期から親交があり仲良くしていた人がこうして自分と距離のある接し方に変わる。
絶望したり泣いたりする程ではないが、ちょっとショックだ。
マジであの狂信姫、国名もそうだけど布教活動の勢いも規模もおかしいだろ⁉️
「ん。初めまして。ママの娘のヒスイです」
「初めまして。アカリ様とヒスイ様のメイドのエリーといいます」
「ご丁寧に自己紹介いただきありがとうございます。どうぞ中へ。ご案内致します」
前も使った部屋に通してもらい、シャロンさんがアリサを連れてくるのを待った。
待つ事数分、シャロンさんをアリサを部屋へと連れてくるとアリサが私達三人へ頭を下げて挨拶してくれた。
「女神アカリさ「ごめん前と同じアカリさん呼びでお願い」あ、はい。アカリさんお久し振りです。それと、こちらの方は会うのは初めてですね。初めましてアリサと言います」
「ん。初めまして。ママの娘のヒスイです」
「娘?」
「あぁ~えっと、その辺りは複雑だから気にしないで」
「あ、はい。わかりました」
一応納得してくれたみたいだ。
「初めまして。私はアカリ様とヒスイ様のメイドのエリーと言います」
エリーも自己紹介を終えると、アリサとシャロンさんが一礼して「失礼します」と言いながら対面に座り、シャロンさんが非常に申し訳なさそうに私達へ頭を下げながら謝罪してきた。
「女神アカリ様」
「あの、マジでお願いなので前と同じ呼び方して下さい」
「わ、わかりました」
本当、狂信姫や狂信者は諦めたけど、マトモな交流関係の人達には普通に呼んでほしい。
出来る事なら態度も戻してほしいけど、神バレしてるからもう諦めたよ(;ω;)
「アカリさん、まともなおもてなしも出来ず申し訳ございません」
「そんな謝らないで下さい。私達が突然来たのが悪いんです。なので、お気になさらないで下さい」
「お心遣い感謝します」
いや、むしろ私達の方が色んな意味でお心遣い感謝しますだよ。
本当、マジでごめんなさいです。
「あの、アカリさん。もしかしてアカリさんが来られのって」
「そのもしかしてだよ。色々あったごたごたが片付いたから知らせに来た感じ」
「やっぱり、そうだったんですね」
アリサも私との約束を覚えてたみたいで私達が来訪してきた理由がわかってたみたいだ。
「アカリさん、前回来られた後にアリサから話は聞いています。本日はそれに関して話しがあるようで」
「そうです。聞かれてる様なら話が早いです」
シャロンさんも話を理解してるのなら一から話す手間は省ける。
まぁ、ちょっと予定が変わったから説明する時間は変わらないと思うけど。
「前にアリサと話してアリサが私のお手伝いをするって事になったんですけど」
「はい。そう聞いてます」
「それなんですけど、実はですね私の今の家?の場所の関係でオーレストじゃない場所になっちゃうんですけど、それでも大丈夫ですかね?」
これ、これがとっても問題なのだ。
「別の街……もしや」
「あの、アカリさん、もしかしてその場所って」
シャロンさんとアリサの反応からして知ってるのだろう、私が王都の教会というか大聖堂を住んでいるって話を。
まぁ、正確には住んでいるんじゃなくて異世界における私の家って扱いだけど。
「うん。この国の王都」
「や、やっぱりそうなんだ」
「うん。それもね。アリサには王城横の教会で私の身の回りのお世話や家事みたいなメイドのお仕事をしてほしくて」
「なッ!?」
「えっ⁉️」
あぁ、うん。やっぱり驚くよね。
いきなり神様のお世話係に任命されるとか。
なんというか、本当ごめんね?
他に私の手伝いとかが思い付かなかったんだよね。
「勿論だけど賃金は払うし、メイドとして働く許可は確認して取ってるから心配しなくても大丈夫だよ」
「いや、そういう意味じゃ」
うん。知ってる。
けど、一応働くんなら賃金の説明しないとだし。
「アリサ」
「は、はい」
私は真面目な表情をしてアリサと目を合わせて落ち着かせる様に話す。
「アリサの気持ちは理解出来るつもりだよ。なんなら、力を使えば本当に理解出来る。もう知られてるみたいだけど、一応神様だからね」
私はそう言って邪神形態の姿をアリサとシャロンさんに見せる。
「わあぁ」
「あぁ、女神様」
私の変化した姿にアリサは驚き?感動?が合わさった様な、まるで子供が何か凄いモノを見た時の様な表情をし、シャロンさんは純粋に感動した様に私へ祈ってきた。
こんな禍々しい存在に祈っても全知全能の神様じゃないから許容上限のあるお願いしか叶えれないってのにねぇ。
まぁ、翼とかが邪魔になるから邪神形態を解いて話を戻すとして。
「で、だよ。正直な話だけど、私は毎日この世界で過ごす訳じゃない。時折ふらっとこの世界の様子を確認しに来たり、日帰りや泊まりで遊びに来る位。アリサにお世話してもらうのはその時だけ。それ以外の日は私の使う部屋や教会の掃除や他のメイドさんのお仕事のお手伝いになると思う。そんな仕事内容の条件を含めて神様のお世話なんて無理だと思うなら断ってくれても構わない。この話を聞いた上で、アリサはどうしたい?やりたい?やりたくない?」
私はアリサに選択してもらう。
やりたいならやってもらうし、嫌ならやめてもらっても構わない。
正直な内心だが、私としては別に断ってもらっても構わないのだ。
あくまでも今回の約束はアリサの心情の問題を思って私が提示したお手伝いという軽い口約束にすぎない。
なので、アリサが断ればそれで終了する約束でしかないのだ。
けど、やりたいと言ったなら先に告げたように役割を与えて仕事してもらう。
ベルさんにもここに転移してくる前に確認とその時になったらアリサの指導をしてほしいとお願いして了承は得ている。
お手伝いの契約成立さえすれば即座に始める事は可能だ。
なので、全てはアリサの気持ち次第。
さて、アリサはどう答えるのかな?
「わ、私は、やってみたい、です」
「本当に?こんな事を言うのはなんだけど、多分大変だよ?」
主に私の居ない時のメイドさん達の手伝いだけど。
「アカリさんの言う通りです。アリサ、軽く考えて答えているのならその考えは捨てなさい。見てわかる通り、アカリさんは本物の神様です。アリサはそんな尊きお方のお世話係に選ばれたのです。そして何よりも、これまでの冒険者として採取の仕事とは違い、失敗をすれば自分だけでなく周りにも迷惑をかけてしまいます。それを理解した上でもう一度深く考えて答えなさい」
「っ、はい」
人生経験から来てるんだろうけど、言葉だけなら私みたいなクズでも言えるけど、シャロンさんの言葉に重みがある。
それを面と向かって話しているアリサはより伝わっており、私のお手伝いについてもう一度真面目な表情で考え込んだ。
そして数分経ち、俯いて考えていたアリサが顔をあげた。
「やっぱり、やってみたいです。きっと大変だと思うけど、私、やってみたいです!」
「そうですか。アリサ、自分で決断したのです。諦めず頑張るのですよ。アカリ様、アリサの事をお願いします」
「はい。任せてください。というか、私はお世話される側なんで寧ろこっちがお願いしますって感じですけど」
「にゃはは」と頬を指でかきながら苦笑い気味にそう言えば、少し張り詰めた空気がしていた雰囲気は解け、シャロンさんとアリサも同じ様に笑みを溢した。
そうして、アリサのお手伝いに関しての真面目な話し合いは終わり、長居するのも申し訳ないのでおいとましようとした所で一つ気になる事があり、おいとまする前にシャロンさんとアリサへ尋ねた。
「そういえば、私が神様だっていつ頃からこの辺りまで伝わってるんです」
あんまり知りたくないが、気にはなる。
この布教の勢いだ。
あの狂信姫の事だから自重無しで布教してるだろうし、王位を継いで国名を変えてから直ぐにでも国内への布教を始めたんじゃないだろうか?
「そうですね。確か国名が変わったと領主様から伝えられた日に領主様と遣いの方々がアカリさんの神様姿の姿絵と小さな像を街中に配られていましたよ」
「私もその日にお店のお手伝いの依頼を受けてたんですけど、依頼を終えた後に教会の人から「女神アカリ様を崇めましょう」って姿絵と像を貰いました。あの時は姿絵と像が凄くアカリさんそっくりで驚いたんですよ。直ぐに街のいろんな所で教会の人達が布教してる時の声やカリナさんから教えられてアカリさんだって知りましたけど」
「そ、そうなんだ。へ、へ~」
や、ヤベエ、やっぱヤベエよ狂信姫。
布教のガチ度がはんぱねえ。
流石に一人にワンセットではないだろうけど、下手したら国中の一家に姿絵と像のセットが配られてるかもしれない。
国中に邪神教会を建設しようとしてるだけでもエグいのに地道な布教が徹底的すぎるだろ。
「……あ、そうだ、迎えにはいつ来れば良いですかね?準備とか他の子達とお別れとかもありますし」
日本みたいにお別れ会やら送別会みたいな大々的な見送りや、家財道具の運送手配、書類手続き的なのもの無いだろう。
けど、身内内での小さなお別れ会みたいなのはあるかもしれないし、幾つか着替え等の手荷物の準備はある筈だ。
それらの為に数日は待つ必要があると思う。
「でしたら、二日後でお願いします。それまでに諸々の準備は終えておきます。アリサもそれで大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」
「二日後ですね。わかりました。それじゃあ、二日後に迎えに来ますね。それじゃあ、長居もあれですし、私達はそろそろおいとましますね」
そうして、アリサ関係の諸々の話を終え、シャロンさんとアリサに見送られて孤児院を後にした。
可能なら後にする前に一目位は幼女と童達と会おうかと思ったけど、確実に幼女達に捕まって帰れなくなるからね。
ロリコンは、幼女には勝てないって運命で決まってるのだよ( ´・ω・)
「小腹も空いたしどっかご飯食べにいく?」
「ん。食べる」
「ですね。どこに食べに行かれますか?」
「そうだね~……近くに知り合いのパン屋さんがあるしパンを買って食べ歩きしよっか」
「ん」
「わかりました」
そうと決まれば早速向かおうと思い、正覚で見た目を黒髪黒目にしてパン屋さんへ行ってパンを買い、食べ歩きしながらフィーの宿屋が近くなので顔を見ようと立ち寄った。
「黒髪黒目のアカリさん⁉️しかも目茶苦茶可愛い女の子に美少じ」
名乗る前に私だと一目で気付いた上に自分が喋ってる途中で鼻血を噴きながら倒れて気絶した。
「「「」」」
今思えば、フィーって狂信姫並みとは言わないけど鼻血やら気絶やらとまあまあぶっとんでいるのではないだろうか?
そんな事を内心思いながらフィー両親を呼んで気絶したフィーを回収してもらい、一言も話せなかった事を少し残念に思いながら宿屋を後にした。
そして、サリエに会うと長くなるので後にして、私達は私の個人的な用事で土龍をしばきに龍の墓場へとカチコミするのだった。
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