第105話 風龍戦(2)

 極光にアカリは呑み込まれた。

 と、風龍は思っただろう。


「っぶね"え"ーーーーーッ"!!!」


 実際の所は、間一髪の所で奇跡的に呑み込まれずには済んでいた。

 そう、呑み込まれずには。


「痛ッ"!!」


 空力で空中に立ちながら足元を見る。

 見えたのは、何も無い空を足場にしている右足。


「……ッ"糞が」


 そして、ふくらはぎの部分から焼き切れた様に消失している左足。

 私は、間一髪糞蜥蜴のブレスに呑み込まれずには済んだ。

 だが、完璧に回避は出来ず左足がブレスにより消し飛ばされてしまったのだ。

 本当は、霧化で回避をしようと思ったがブレスは完璧に私の全身を呑み込む軌道。

 ヒスイのダンジョンでの霧化の強制解除の考えが万が一正しければ、ブレスに呑み込まれたら霧化は強制解除。

 そうなれば、ブレスにより全身が消し飛ばされる。

 なので、即座に霧化ではなく直避けして即死を免れたのはいいものの。


 流石に、これはマジでマズイぞ。


 生きるか死ぬかの殺し合いの最中に四肢を喪失。

 それも、機動力の要である足を失う。

 控え目に言って最低最悪の展開だ。

 私があの世へ旅立つ時が迫ってきたかもしれない。

 冗談抜きでマジで詰んだかも。


『まさか避けられるとはな。中々にしぶとい』

「死の運命に抗うのが特技でしてね」


 適当に意味の分からない言葉を糞蜥蜴に返して左足を起点に血液支配を発動。

 ブレスに呑まれて消失した左足の代わりを造る。


 神経が通ってないから違和感がある。

 けど、無いよりはマシか。


 血液の義足で数度空力の足場を叩く。

 正直、激痛は走るしバランスが取りにくい等と問題しかないが一応代わりにはなりそう。

 ぶっちゃけ、勝率がいよいよ1%を下回ってきたが刺し違えても殺すつもりなので、自らを鼓舞して頑張る。


「続きといこうか糞蜥蜴。さっさと殺されて私の糧になれや」

『小娘が。戯れ言を言うな!』


 両者、相手の出方を伺い動かない。

 何て達人同士の殺し合いみたいな展開は起きず、即座に攻撃を仕掛けてきたのは糞蜥蜴。

 離れた位置に立つ私に向けて連続で竜巻同様に目視出来る程に凝縮された空気の塊である空気弾を十発放ってきた。

 高速で迫る空気弾を空を蹴って空中を移動。

 血液の義足の為に動きずらいが何とか回避出来た。

 しかし、それで攻撃が止む訳なく続け様に更に幾つも空中弾を放ってくる。

 回避しようとするも、嫌らしく回避先に空気弾を放ってきて回避を妨害。

 動きを止められた私目掛けて容赦無く五発の空気弾を放ってきた。


「チッ!炎槍!」


 機動力が落ちている今の私では回避不可能。

 なので、なんとか空気弾を打ち消そうと暴走させた炎槍を空気弾と同じ五発放ち接触爆発させ強引に打ち消した。


 と思った瞬間。


「ッ!!??ヤバッ!」


 爆発の爆炎を吹き飛ばしながら私目掛けて迫る一発の空気弾。

 回避は間に合わない。

 そう判断し霧化を発動。


「ッ!!やっぱり!」


 が、霧化した直後、霧化が強制的に解けて派手に吹き飛ばされ空中に投げ出された。

 霧化が強制解除された理由は空気弾にある。

 私は空気弾と呼んでいるが、その大きさは軽く二m以上あり私の身体以上の大きさがある。

 ヒスイのダンジョンのウガル戦の時と同じ。

 霧化しても空気弾が霧をまるごと吹き飛ばすので、強制解除された。

 どうやら、私の考えは正しかったっぽい。

 ブレスの時に霧化しなくて良かったと今更ながら安堵する。

 霧化してたら、私はブレスで全身を消し飛ばされていたのだから。

 数分前の私ナイス判断!

 だけど、片足失ったのは許さん!!


『ちょこまかと逃げるな!!』

「死にたくねぇんだよ!!」


 死ぬ気で挑むと言っても死にたい訳じゃない。

 本当に言葉通り死にたい奴だったらただの頭のヤバイ自殺志願者だ。

 当然ながら、私は自殺志願者じゃないので違う。

 寧ろ、糞蜥蜴を殺して生き残る為に徹底抗戦する。


「ガアアァァァァァァァ!!!」

「チッ!!」


 その為にも、先から放たれる空気弾。

 そして、今まさに放たれたブレスの竜巻Ver. みたいな攻撃をなんとかジャンプ回避しながら攻略法を考えるが良さそうな案は何も思い付かない。


 糞が。

 マジでどうやって倒すんだこれ。


 知性の無い巨大生物な化物ならゴリ押しでもなんとか殺せる。

 だが、糞蜥蜴は無駄に知性がある。

 巨大生物な糞強化物な上に高い知性。

 反則過ぎる。


 怪獣モノの映画でもこんな糞強怪獣出ないぞ。

 酷過ぎるだろチクショウ。


「ッ!!」


 糞蜥蜴に向けて魅了を発動する。

 スキルの感覚的にキチンと糞蜥蜴に魅了が効いた。


「ッ!!~~~~ガアァァァァ!!!!」

「チッ!!」

『小娘が。こんな幼稚な精神支配が私に効くとでも思ったか!』


 しかし、精神力が高いのか魅了を破られた。

 腐っても抑止力の代行者なだけはある。

 まぁ、私もどうせ効かないとは思っていたが。


「思う訳ねえだろ」


 さて、隙を作りたくて魅了を発動したが破られたので結局は隙を作れなかった。

 他に私のスキルで隙を作れるものは多分無い。

 こうなると、本格的にスキルと肉体のみで戦闘に勝つしかないが果たして勝てるだろうか。

 放たれる風の攻撃をなんとか凌ぎながら考える。


 …………バリエーションないな。


 本気と言ったわりに遠距離に間合いが広がってから空気弾での攻撃が主体。

 時折、(仮称)竜巻ブレスを放ってくるが基本的にこの二つ位。


「あれは」


 何度か見た事でなんとなく攻撃のタイミングが掴めた竜巻ブレスを放とうとしているのが分かった。

 放つ瞬間、私は回避しながらの空を蹴り糞蜥蜴との間合いを潰す。

 私のスピードに対応してくるのは既に分かっている。


 ここ!


 だからこそ、殺すつもりなら接近したら風爪で攻撃してくるのもなんとなく予想出来た。

 風の塊で吹き飛ばされるのとは違い風爪は切り裂く攻撃。

 なので、霧化で風爪を回避する事が出来た。


『しまッ』


 糞蜥蜴は、素の防御力に金剛のスキルを所持してるので、ただ魔法を放っても黒血の武器を放っても致命的なダメージを与える事が出来ないのは、ここまでの戦闘で理解出来た。

 だから、攻撃方法を変える。

 糞蜥蜴との間合いは、約十m位。

 一瞬で、全身本気で身体強化+右腕、右脚を部分強化。

 同時に、右拳に黒血でメリケンサックを造る。

 空を全力で蹴り糞蜥蜴に突撃。


「オラアッ!!!!」


 全力で握り締め振りかぶった右拳を糞蜥蜴の胴体に叩き込んだ。

 瞬間、金属同士が衝突した様な衝突音と何か硬いモノが砕け散る破砕音。


「グア"ア"ァ"ァ"!!!」


 そして、糞蜥蜴の悲鳴が響き渡った。

 アカリの一撃が、糞蜥蜴の鱗を粉砕したのだ。


「まだまだ!!」


 絶好の機会を逃す訳にはいかない。

 私は、即座に右拳を抜き手に構え右手の爪を一瞬で黒血で覆い鋭く尖らせる。

 そして、鱗を粉砕した箇所に突き刺した。

 瞬間、右腕が湿った生暖かい嫌な感触に包まれる。


「グガア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!」


 突き刺した直後、先程以上の糞蜥蜴の痛々しい悲鳴が響き渡り耳が破裂しそうな位痛みが走るが気合いで我慢。

 更なる追撃の一手を喰らわすべく私は、突き刺した右腕を起点に血液支配ともう一つ別のスキルを発動。

 血液の鋭く鋭利な刃物を糞蜥蜴の体内に造り出した。

 ここで殺すと腕を捻り体内の臓物をグチャグチャなミンチにして完全破壊しようとする。


「グア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!」

「ッ!!?」


 しかし、すんでの所で糞蜥蜴が身体を振り回し私は臓物をミンチに出来ず振り回された衝撃で血液支配が解けそのまま右腕が抜けて吹き飛んでしまった。

 ここで決めれなかったのは痛過ぎる。

 完全に私の事を格下だと油断していたからこそ、あんな絶好のチャンスが訪れたのだ。

 もう、絶対にあんなチャンスはこない。

 その事に私は軽く絶望しそうになる。


「クソッ!!」


 しかし、今は絶望してる暇はない。

 直ぐに空を蹴ってバランスを取り風龍を見る。


「しまッ!!」


 全力で身体強化。

 耳飾りも発動し腕で顔をガードした。

 瞬間、襲い掛かる身体が引き裂ける様な激痛と殴られる様な衝撃。

 絶え間なく襲いくる激痛と衝撃に少しでも気を抜けば意識が飛びそうで気合いでなんとか意識を繋ぎ止める。


『ズガアアアァァァァァァァァァンッ!!!!』

「ガッ"ハ"!!」


 気付いたら私は、地面におもいっきり叩き付けられ地面を粉砕していた。

 目茶苦茶全身が、特に背中が痛い。

 けど、おかげで途切れそうだった意識が覚醒したのでなんともいえない。


「ハァハァハァッ!ゴフッ"…………チッ」


 一、二km位だろうか。

 視界の先で空を飛ぶ糞蜥蜴が見える。

 吹き飛ばされたのだろう。

 まさか、あのタイミング竜巻ブレスを放たれるとは思わなかった。

 ギリギリ過ぎて身体強化と耳飾りの強化しか出来なくて私も、かなりダメージを受けてしまった。

 だが、ダメージを受けているのは私だけではない。

 流石の糞蜥蜴も体内に刃物を生やされるのはキツかったのだろう。

 若干ふらつきながら空を飛んでいた。


 クソ。

 失敗するなら、刃物じゃなくて刺を生やせばよかったな。

 そうしたら、臓物を切るんじゃなくて刺し潰せてダメージ増したかもしれないのに。

 確実に殺そうと少し焦ったか。

 落ち着かないと。


「え、アカリ!?」

「ママ!」

「は?」


 予想外の声が左後ろから聞こえ振り向く。

 そこに居たのは、少し前に避難してもらい別れた瀬莉とヒスイの二人だった。


「ちょっ!?何でこんな所にまだ居るの!!もっと遠くに逃げて!!」


 私は、まだこんな近くに二人が居た事に驚いた。

 こんな距離じゃ、戦闘の巻き添えになってしまう。

 だから、もっと遠く離れた場所に居てもらわないと私が足止めしている意味がない。


「それは分かってる。すまない。だが、私とヒスイじゃ、夜で暗い上に暴風吹き荒れる森を早く走り続けるのはキツいんだ」

「ごめんなさい」


 そうだった。

 私は例外的存在として、瀬莉は生産組でガッツリ動ける訳ではない。

 ヒスイもダンジョンコアの人化という人外でもしかしたら動けるタイプかもしれないが、そもそも幼女であり早く走れる訳ではない。

 そんな二人じゃ、夜中の暴風吹き荒れる森を早く走れる訳がなかった。


「いや、私も怒ってごめん。だけど、出来たらもう少し遠くに逃げて。まだ、あの糞蜥蜴を殺せてないから。引き続き足止めしとく。だから、逃げて」

「分かった。アカリ、応援しか出来ないが頑張ってくれ。行くよヒスイ」

「うん。ママ頑張って」


 二人は、私の言葉に素直に従って走って行った。

 それを数秒程だが、手を振って見送り私は直ぐに糞蜥蜴に向き直る。


 身体は問題ない。

 左足はまだ再生しきってないけど義足だからいい。

 MPが、若干心許ないかな?


 私は、収納からMPを回復させる為にMP用の回復薬を取り出して飲み干す。


「これでよし」


 回復薬の瓶を収納に放り込みジャンプ。

 空力を発動して空中に立つと、休ませる暇を与えない為に即座に糞蜥蜴に向けて突撃した。


「大分効いてるな」


 迫る私に向けて放たれる幾つもの空気弾。

 しかし、先程に比べて狙いが若干ぶれている上に放たれる間隔が疎ら。

 これなら、先程よりは楽に避けられる。

 まぁ、若干楽なだけでキツいのに代わりはないが。


「!ッ"!!?」


 額に鋭い痛みを感じた。

 それが、額が切れた痛みだと気付いた時にはそれは既に放たれていた。


「ガア"ア"ァ"ァ"ァァァァァ!!」


 周囲全体に無差別に放たれる無数の風の刃。

 左目、首、腕、胴、太もも。

 一瞬にして切り裂かれ血飛沫が私の身体から激しく噴き上げた。


「ッ""!!」


 なんとか、咄嗟に血液の大盾を造る事でこれ以上身体を裂かれるのを防ぎ風の刃が止むのを待つ。


「ッ"~~っ"!」


 裂かれて何も見えない左目。

 半分近く首が裂かれ息が吸えない。

 腕も切り裂かれ右腕は千切れそうになっていて力が入らない。


 糞痛いぃ"ぃ"!!

 初め辺りに使ってたのに、空気弾と竜巻ブレスばかり放つから無意識に除外してた。

 マジでやらかした。


 危うく首が飛び死に掛けた事に激痛による脂汗だけでなく冷や汗もかきながら深く反省する。

 風の刃が止んだのに気付き糞蜥蜴の様子を確認しようとした瞬間、糞蜥蜴から感じる魔力が大きく反応した。

 まさか、再びあの極光のブレスかと思い慌てて糞蜥蜴を確認する。


「ッ!!?」

「グアアァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


 周囲一帯に響き渡る糞蜥蜴の咆哮。

 あまりの咆哮の大きさに両耳を塞いで耐えていた。


「うッ!」


 その時、突然とんでもない爆風が吹き荒れ私の身体が糞蜥蜴の方向に吸い込まれる様に吹き飛ばされた。

 私は、咄嗟に自身も風属性魔法を使い何とか吹き飛ばされない様に耐えようとする。

 しかし、あまりの爆風の威力に風属性魔法だけではろくに抵抗出来ない。

 せいぜい体勢を整え空力で足場を作る時間を稼ぐ程度。


「ふぐぐぐ~~~~~ッ!!」


 何とか身体の傷の再生が間に合ったので踏ん張る事が出来、吹き飛ばされない様に耐えようとする。

 しかし、爆風の威力は私の想像を上回っており数秒も耐えられずアッサリ私の身体は爆風に拐われてしまった。


「うおわああぁァァァァァァ!!?」


 足場を失い空中を舞い酷く慌て焦る。

 だが、直後に再び大きな魔力反応がして糞蜥蜴に目を向ける。

 そして、顔を青ざめさせた。

 なんせ、視線を向けた先には極光のブレスを放とうとしている糞蜥蜴の姿が見えたのだから。

 このままだと、数秒以内に身動きが取れない私は確実に塵も残さず消え去りあの世へ旅立つ事になる。

 それだけは、絶対にご免だ。

 だから、私は…………

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