第78話 再会
謁見後、案内された部屋に着いたアカリは部屋に置かれていた元々着ていた服に着替えるとベッドでぐでぇ~~とダラけていた。
「ふぃ~~~やっぱり、普段着が一番だよ。ドレスは動きづらくて性に合わないね」
尚、着ていたドレスだが置かれていた服と共にメモが置いてあり置いとけば後程メイドさんが回収してくれると書いてあったので、適当に畳んで部屋のテーブルに置いてある。
「さてと、行きますか」
ベッドから起きたアカリは、早い内から色々としておく為に行動を開始する。
その為にも、先ずは隣の部屋に居るフェリの元に向かった。
「フェリ~~あ~そ~ぼ~」
おふざけモード全開で馬鹿に見えるだろう。
だが、これでもキチンと真面目な行動を今からしようとしているのだ。
決して王城、初めての部屋という環境がフェリの部屋に向かうのが修学旅行の時の友人の泊まる部屋に遊びに行く時みたいと思ってふざけてる訳ではない。
「え、あの、アカリ様?どうしたんですか?」
扉を開けて出てきたフェリの表情は、当然の困惑顔。
だが、そんなフェリの困惑お構い無しにアカリは次に進む。
「良し。着替え終わってるね。それじゃあ、行こっか」
「え?どこにですか?」
行き先を告げられてないのだ。
当然の疑問を浮かべるフェリにアカリは、行き先を告げた。
「勇者達の所だよ」
「勇者達ですか」
アカリが向かおうとしていたのは、天之達クラスメイトの元。
謁見の際に天之に告げた謁見後に話をする約束。
それが、アカリが今からやろうとしている色々の内の一つだった。
「それじゃあ、しゅっぱ~つ」
「あ、待って下さ~~」
早速向かおうと城内を歩きだす。
しかし、その足は歩いて5歩も進まない内に歩みを止めた。
「~いって。どうしました、アカリ様?」
それは何故か。
理由は、とても単純である。
「え~と……勇者達って何処に居るっけ?」
「…………え?」
意気揚々と歩きだしておいてこの馬鹿は、目的地が何処なのか。
それを何も知らなかったのである。
「ハ、ハハハ………どげしよ」
恥ずかしさに顔に熱が集まるのが分かる。
きっと、今のアカリの顔は茹で蛸の様に赤くなってる事だろう。
その証拠か、目の前のフェリが私の顔を見てニマニマと実に良い笑顔を浮かべている。
「何?」
「いえいえ、別にアカリ様の赤面顔が見た目相応でとっても可愛いなぁ~としか思ってませんよ。とっても眼福です」
こ、こいつ、誤魔化す事すらしないだと。
今もニマニマとしてるフェリ。
眷属にいつまでも笑われるのは、主として良い気分ではない。
なので、意地で顔の熱を冷まし元に戻した。
「あぁ~~可愛いかったのに」
余程残念だったのか、フェリからとても不満そうな声があがる。
だが、いくらフェリが残念がろうと二度と赤面顔を晒すつもりはない。
「知らん!ほら、行くよ」
残念がるフェリに声を掛けて天之達の元に向かうという本来の目的を果たしにいく。
「行くっていっても分からないですよね」
「途中で会った人に聞けば良いでしょ」
「あ、確かに」
「それじゃあ、今度こそ出発!」
予想外の出来事。
主に私にのみ被害が出たものの無事解決?
今度こそ私達は、天之達クラスメイトの元に向かうのだった。
※※※※※
「確かこっちに。あ、あれか」
「着きましたね」
目の前にあるのは、大きな建物。
あの後、道中にメイドさんに会う事が出来てこの建物に天之達が居ると聞いた。
メイドさんに聞いた話だとこの建物は、天之達が寝泊まりしている場所らしい。
つまるところ、寮って事だ。
「お邪魔しま~~す」
「お邪魔します」
私、フェリと申し訳程度に一言言って寮の入り口から建物に入っていく。
建物の中は、外観を見て思った通りやはり大きい。
玄関に当たる所も一度に何人も入れる程に大きく前世の娯楽施設と同じ位の広さ。
そして、玄関の先は集団が使用出来る様にテーブルや椅子が設置された一教室位は余裕でありそうな広さの共有スペースとなっていた。
ただの寮なのにこの造り様。
流石、王族としか言い様がでない。
そして、先程触れたがここは共有スペース。
誰かしら居てもおかしくなく……
「え?」
「へ?」
「誰?」
「?」
入ってそうそう見覚えのある四人の顔ぶれと遭遇した。
「ども~~」
「初めてまして。お邪魔します」
「いや、本当に誰?」
「え?不審者?」
「誰?」
「は?」
いきなりフードを被った見知らぬ人物が建物に入ってきたのだ。
四人は、当然訳が分からないに決まってるし1人が言った通り不審者扱いされても仕方ない。
このまま話をしても、埒が明かないだろう。
なので、私は周りを見渡して私達以外に誰も居ないのを確かめるとフードを外して素顔を見せた。
「やっほ~~」
「は?」
「え?」
「な!?」
「マッ!」
私の素顔を見た瞬間、四人はまるで信じられないものを目撃したかの様な驚愕の表情を浮かべ固まった。
かと思えば、次の瞬間には再起動。
「み、皆ーーーーーー!!!」
「嘘でしょーーーー!!」
「全員集まれーーーー!!!!」
「ハアァァァァ!?マジかーーー!!???」
マジで椅子から漫画の様に転げ落ちながら大慌てで1人残らず寮の奥へと走り去ってしまった。
「あらら」
「どうしましょう」
ポツンと残された私達は、仕方ないので誰か来るまで共有スペースで座って待つのだった。
それから、五分足らず。
共有スペースには、四人が呼び集めたクラスメイト一同が集まっていた。
「さあ、今度こそ話して貰うからな」
「いや、うん。話すから。話すからそんな詰め寄らないで」
隙間がない程に周りを囲まれ詰め寄られる。
その様が、まるで今から尋問すると告げられるのではと勘違いしそうな程に鬼気迫る様子で私は堪らず天之に離れてくれと言う。
それに対して天之は、渋々と言った表情で何とか離れてくれて私はホッとした。
「それで、私に何を聞きたい?」
聞きたい事等分かりきっているが、周りを流し見ながら皆に問いた。
私の問いに対して多分皆のリーダーなのだろう天之が、代表して私に質問してきた。
「単刀直入に聞く。神白さんだよな?」
やっぱりと言うか当然と言うか天之は私の正体について聞いてきた。
この事に関しては、クラスメイト一同気になってしょうがないのだろう。
皆揃って共有スペースに来た時、私を見た瞬間目を剥いて驚愕していたし今も天之の質問に対する私の返答を固唾を呑んで待っている。
私は、皆が緊張感に包まれる空気の中、天之の質問にあっさり答えた。
「うん。そうだよ。お久~~」
私は、あっさりと自分が神白緋璃だと認めた。
「ほ、本当なのか。なら、俺達しか分からない証拠は」
「ん~~あ、天之がモテすぎて何人もフッてた時に、私と付き合ってるって偽りの噂が広まってフラれた女子達に私が虐められた。あれは面倒だったよ。証拠全て押さえて3日で全員停学させて解決したけどさ」
本人確認の質問に答えた瞬間。
「うおおおぉぉぉーーー!!!」
「やったーーーー!!!」
「本物だあーーーー!!!」
「やっと、やっと会えたよぉぉ~~!!」
「ヨッシャーーー!!」
周りを囲んでいた皆が歓喜に沸き立った。
余程再会出来たのが嬉しかったのだろう。
中には、涙を流しているものまで居た。
だが、その歓喜の沸く空気も次の質問で凍り付く事になる。
「だけど、見た目が少し違うのは何でだ?変装のスキルでも取得したとかなのか?」
「あぁ、半分は別人?だからね」
「「「「「「「は?」」」」」」」
まるで、冷や水を浴びせられたかの様な変わり様。
あまりの急激な変化に隣のフェリは、ビクッと震え縮こまっていた。
私も変わり様に少しビビったが、伝えないと話が進まないので話を続ける。
「今から話すのは他言無用。誰にも話さないのが絶対条件。もし話したら例え皆でも許さない。守れないなら、一旦ここから離れて」
アカリは、鋭い眼差しでクラスメイトの目を見ながら問い掛ける。
クラスメイト達は、アカリの視線にたじろぎ先の警告が冗談ではないと理解した。
だが、それでも探し求めていた人物の話を聞きたい気持ちは大きく誰もこの場を去るものは居なかった。
「そっか。なら話すね」
私は、一拍置くと皆に告げた。
「私は、勇者召喚の失敗で死んでるんだ。そして、転生した。皆の知る神白緋璃とは別人なんだ」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
※※※※※
それから、私は全てを話した。
複数人を召喚する召喚魔法は行使が難しく実は召喚は失敗していた。
結果次元の狭間に落ちた私の肉体は消滅。
そこを、この世界の管理者である女神様に魂だけだが助けられた事。
そして、生き返ろうにも一から肉体を創ると記憶と見た目は同じでも細かな部分が別人になる可能性がある事。
なので、日本に生き返らずこちらの世界に戦える肉体とスキルを要望して転生したら何故か吸血鬼だった事。
それから、今日まで死にかけたりと色々とトラブルまみれだったが何とか元気にやってきた事。
全てを皆に告げた。
「そんな、嘘だろ。神白さんは、死んでいた?しかも、吸血鬼になってた?」
「何だよそれ。国王が、アイツが強引に召喚を弄ったせいで神白さんが。糞が!!」
「糞野郎が。私達に魔王を任せた上に日本に帰れなくして。更に私達の大切な友達まで殺していた?ふざけんな!ブッ殺してやる!!」
「あの老害共が!!もう良い。魔王じゃなくて私が殺してやる!!」
そして、話を聞いた皆は怒りで表情を酷く歪めていた。
皆の言葉を聞いてる感じ私を死なせた以外にもかなりやらかしてるみたいで、目茶苦茶キレている。
その為、私が前世で良く遊んだ友人の
そう走って………………走って!?
「ちょっ!?ストップストップ」
慌てて由比と美紀の前に飛び出す。
「退いて緋璃!あのゴミ共を殺しにいけない!!」
「そうよ緋璃!あの害虫共を殺して緋璃の無念を晴らさないと!!」
二人の表情からここを退いたら本気で殺しに向かうと察した。
私の為にここまで怒ってくれるのは嬉しい。
だが、決してここを退く事は出来ない。
何とか二人にやめる様に説得する。
「大丈夫だから。私も私が死んだ元凶の国王共を塵も残さず殺してやりたいさ!自分達じゃ手に終えないから無関係の私達子供にすがる様なロクデナシなんて魔王にそのまま殺されてろよって内心思ったりもしたしねぇッ!!てか、現にブチギレてさっき謁見で暴れたし。でも、ただ殺す位なら徹底的に利用してやった方が私達に益があるじゃん?だからさ?今はゴミ共を殺すのは我慢しよ。殺したらあのゴミ共を利用出来ないからさ。ね?」
かなり元人として倫理感的にヤバい事を皆の前で言った気がする。
だが、友人の手を無駄な血で汚さない為になりふり構ってられない。
「ぐう"ぅ"ぅ"~ッ!!……分かった。緋璃がそう言うなら」
「フゥーッ!フゥーッ!……糞ッ!緋璃に従うわ」
「ホッ良かった」
幾分私のイメージが崩壊してしまった気もするが、結果こうして止められたので結果オーライだと納得する事にした。
「あの~~アカリ様?今の話って」
「あ、そうだね。フェリには、前に軽く話したけど生まれた理由に訳があるって言ったよね。今話したのがその理由なんだ。私のステータスの称号も自身の管理する世界が原因で死なせた事の御詫びって訳」
「そんな理由だったんですね」
あの時は、中途半端な理由説明だった為に完全には納得しきれてなかったのだろう。
今の話を聞いた事で不明な点も判明した事でフェリは、スッキリした表情をしていた。
「ほら、皆もゆっくりで良いから心を落ち着けて」
私は、クラスメイト達に声を掛ける。
今は、キレている為に下手な言葉を出せないのでどう声を掛けるべきかと思ったが。
「あぁ、分かった」
「え?」
何か良く見たらある程度冷静さを取り戻していた。
と言うか、皆の顔が若干青ざめている。
「さっきの緋璃の言葉を聞いてたらちょっと落ち着いちゃった」
「最後辺りとか冷めた目をしてたし途中から殺気?威圧?が漏れてて怒りより恐怖で冷静になったよ」
その言葉に他の皆も揃って頷いていた。
マジか。
確かに、言ってる間に思い出して内心苛ついてはいたけど殺気?威圧?が出てたなんて。
まぁ、結果的に皆を落ち着かせれたからいいのかな?
「そっか。皆ごめんね。今後は気を付けるよ。とりあえず、これで私の転生した経緯の話しは終わり。次に、謁見で決まったんだけど今後は、皆の鍛練は私が見る事になったから」
「緋璃が?」
「うん。とは言え個人じゃ限界があるから騎士で良いのか?まぁ、騎士にもこれまで通り手伝ってもらうけどね。詳しい事は、これから考えるけど私が指示を出して騎士に様子を見てもらう感じって今は思ってもらえれば良いや」
謁見で、ああは言ったがまだ簡単な構想しか考えていないので具体的な事は何も説明出来ない。
これに関しては、これから考えれば良いとして次に皆に聞かねばならない事がある。
「一つ聞きたいんだけど、皆はどんな割り振りをされてるの。とりあえず、戦闘と支援、生産のどれなのかで良いから知りたいんだけど」
「俺が教えるよ」
鍛練を指示するにも役割が分からないと何も教えられない。
その為に、聞いてみると流石リーダー。
天之が、分かりやすく教えてくれた。
「ありがとね。所で、瀬莉は何処にいるの?姿が見当たらないんだけど」
途中から私の親友である瀬莉。
この場に居れば気付くはずだが、その姿が未だに共有スペースの何処にも見当たらない。
なので、気になったので天之に何処に居るのか尋ねた。
「宮本さんなら、生産で必要な素材をヘリウスまで採取しに護衛の騎士と一緒に昨日から出てるよ。当分は帰って来ないんじゃないかな」
ヘリウスが何処なのか知らない。
だが、私よりもこの世界に詳しそうな天之が当分は帰って来ないというのだ。
なら、王都からそこそこ距離があるのだろう。
「そっか。居ないのなら仕方ないや。それじゃあ皆、話しは終わったから私は行くよ。やらないといけない事がまだあるからさ」
「そんな」
「久し振りに会ったのに」
「もう少し話そうよ」
久し振りの再会。
私も時間があれば話をしたい所だが、何事も行動するなら早い方が良い。
なので、皆には申し訳ないが行く事にする。
「ごめんね。やらないといけないから。だけど、私は当分ここに居るからまた今度話そう。じゃあ皆、またね」
「皆様。お邪魔しました」
後ろ髪を引かれる気持ちで皆と別れた私は、フェリと共に寮を出ていった。
「良かったんですか?」
「何が?」
突然フェリがそんな事を言うので、何の事か分からず聞き返す。
「友人の方達です。もう少し位話をしても良かったんじゃないですか?」
「良いんだよ。再会出来たんだ。それだけ、今は十分だよ。それより、今やるべき事をしないと」
「そうですか」
納得したのか分からない。
だが、フェリがそれ以上クラスメイトの事を聞く事はなかった。
その代わりとしてフェリは、次の目的地について聞いてきた。
「次は何処に向かってるんですか?」
「次の目的地?国王に会いに執務室」
「え?」
まさか、国王の執務室が目的地だと思わなかったのだろう。
フェリは、明らかに表情に焦りを浮かべながら私に目的が何なのか聞いてきた。
「何が目的ですか!まさか、また暴れるつもりじゃないですよね!」
「おいこら、誰が暴れるか!」
余程謁見での出来事が脳に刻み込まれてるのか、私が再び暴れるんじゃないかと見当違いな心配をするフェリ。
そんなフェリに私は、何が目的なのか教えてあげる。
「国王に会う目的。それは国庫だよ」
「国庫?」
アカリは、それはもう良い笑みを浮かべながらそう言うのだった。
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