第77話 謁見

「すぅーーーーふぅーーーー」


 深く深呼吸をする。

 別に緊張を解す為ではない。

 既に緊張等心から消えている。

 ただ、それとは別に今私が心に抱いている感情を抑制する為だ。

 その感情の名前は、憤怒、憎悪、殺意といった酷く醜い負の感情。

 周囲の爺、目の前の国王に対して今私が心に深く大きく抱いてる感情だ。


 落ち着け。

 キレるな。

 心を乱すな落ち着かせろ。

 ゆっくり、静かに、冷静になれ。


「すぅーーーーふぅーーーー」


 目を閉じ、もう一度深呼吸する。

 心の荒波が少しずつ。

 だが、確実に引いていき心が冷静に落ち着いていくのを感じる。


 …………良し。


 十分に落ち着いたのを確めると閉じていた目を開ける。

 すると、隣と向こう正面から声を掛けられた。


「アカリ様、大丈夫ですか?」

「大丈夫か?もしや、具合が悪いのか?」


 一つはフェリ、もう一つは国王から。

 いきなり、目を閉じたと思ったら大きく深呼吸をしだしたのだ。

 何事かと私を心配したのだろう。


「うん。大丈夫だよフェリ。……ご心配頂きありがとうございます。少し緊張したものですから」


 横に立つフェリに。

 そして、国王へと問題ない事を軽く微笑みを浮かべて示す。

 そんな私の様子から問題ないと判断したのだろう。

 国王が話を切り出した。


「そうか。なら良い。それでは、冒険者ア「待って下さい!」どうした、勇者よ」


 しかし、国王の話は案の定国王の側に立っていた少年によって遮られた。


 だろうね。

 そりゃあ、遮るわな。

 何せ、居なくなったクラスメイトにそっくりな人物が目の前に現れたんだから。


 そう。

 国王の話を遮った少年の正体。

 それは、召喚されたクラスメイトの一人であるクラス委員長の男子。

 クラスメイトからリアルラノベ主人公等と呼ばれていた天之勇輝だったのだ。

 私も部屋に入った瞬間こやつを見て内心とても驚いたものだ。

 まさか、この国に召喚されていたとは思わなかったのだから。

 そして、まぁ、ここまで言えば分かる通りこの国が勇者召喚を行ったのだろう。

 つまり、目の前の国王と周りの爺共が恐らく勇者召喚を行う事を決めた元凶。

 クラスメイトが異世界に召喚され私が死んだ元凶。

 私が、先程内心激情に荒れていた理由だ。

 誰だって目の前に自分が死にかけた元凶が居れば怒るだろ?

 私の場合は、その一段階上の死んだ原因なのだ。

 内心ブチキレて殺意が湧くに決まってる。

 寧ろ心のままに周りの人間を皆殺しにしなかった事を誉めて欲しい位だ。

 まぁ、今は私の内心等置いといて先程から私の顔を見て震えていた天之がとうとう口を開いた。


「その顔、神白さん、だよな?」

「な、それは本当か!?」


 その反応的にやっぱり捜索でもしてた感じか?

 まぁ、見付かる訳ないわな。

 髪色、目の色が違うんだから。

 っと、それより答えないとね。


 私は、私の答えを待つ二人に対して答えを返す。


「え?カミ、シロ?誰ですかそれ?」

「な!?」


 私の答えは他人のふりだ。

 何故か。

 単純に多人数の前で明かすのが良くなかったから。

 二人の様子から私の特徴は恐らく知られている。

 そうなると、現在の私の見た目が違う理由を言わなければいけない。

『死んで転生したので見た目が変わりました』等と言ってみろ。

 ただでさえ既に面倒なのに、更に面倒事が起こる様子しか思い浮かばない。


「確かに髪色や目の色が違うし雰囲気も変わっている。だけど、別人のはずない!なあ!神白さんなんだろ!お願いだ。そうだと言ってくれ!」


 長い間異世界で行方知れずのクラスメイトと思われる人物を前に冷静でいられないんだろう。

 詰め寄って来たと思ったら私の肩を掴んで天之とは思えない程に乱暴な口調になって問い質してくる。


 ちょっ!?マジか。

 いや、おかしくはないか。

 生きてるか死んでるのかも分からなかったんだ。

 私だって、同じに立場なら冷静を欠いてたと思う。

 何か、天之や皆に申し訳ないな。

 だけど、ちょっと今はタイミングが悪いんだよね。

 だから、もう少しだけ待って。


「だから、誰なんですかそれ!……【落ち着いて】」


 私は、最後天之にだけ聞こえる位の声で日本語で呟いた。


「ッ!?」


 それを聞いた天之は、驚愕の表情を浮かべ私の顔を見てきた。

 落ち着いた訳ではないが、静かになった天之に対して日本語ではなく異世界の言語で続けて話し掛ける。


「今は陛下の前です。話したい事があるなら謁見後にして下さい。その方が、私も貴方も落ち着いて話せますから。良いですね?」

「……そうだな。分かった。すまなかった突然。国王様も申し訳ありませんでした」


 まだ何か言いたそうな顔をしている。

 だが、私は今はこれ以上話すつもりはない。

 私の言葉と表情からそれを理解したのか天之は後で話すと言った私の言葉もあってかここは一度引く事にしたようだ。


「そうか。彼女は結局例のカミシロの少女ではなかったのか?」

「俺の事を全く知らないようなので、そっくりですが別人だと思います」

「そうか」


 私は何も伝えてないものの、天之がある程度こちらの内情を察してくれたのだろう。

 結論が気になった国王の質問を誤魔化してくれた。

 おかげで、国王も天之本人の否定もあって納得してくれた様で非常に助かった。


「逸れてしまったが話を戻そう。冒険者アカリよ。本日そなたを招いたのは、そなたに協力を願いたい為だ」

「協力?それは一体」


 やはりと言うか呼ばれた理由は、私に力を貸して欲しいといった内容だそうだ。

 そして、案の定と言うか内心予想通り勇者だった天之がいるとなると協力して欲しい内容も大体予想がつく。


「信じられないと思うが、この少年は我々、いや、私が魔法使い達に頼んで異世界より召喚した勇者なのだ。名をアマノユウキ。まだ実力は低いが本物の勇者だ。そして、彼以外にも異世界より召喚した者達が複数人いる」

「そうですか」

「そなたは、この話を信じるのか?」

「まぁ、優秀な宮廷魔法使いならあり得るかなと」


 一応も何も私もその召喚に巻き込まれた一人なのだ。

 一々話されなくとも最初から全て知っている。

 だが、そんな事向こう側が知るはずもないので話を聞いて信じたフリをした。


「そうか。信じてもらえたなら話もしやすい。それでだ、そなたに協力してもらいたいのは、召喚した勇者達が魔王を倒せる様強くなる為のサポート。そして、共に魔王と戦ってほしいのだ」

「サポートに魔王と戦闘か」


 やはり、フェリと馬車で話した通り魔王討伐の手伝いだった。

 私は、国王の話を聞いて少し疑問があり問いた。


「分かってると思いますが、私は冒険者になって日が浅い。ランクもBランク。陛下なら優秀な部下やお抱えのA、Sランクの冒険者が居ますよね」


 私は、色々あって単独で軍勢、吸血鬼の相手したり二度も魔王と遭遇したりダンジョンの攻略をしたりはしている。

 しかし、先程の言葉通り冒険者歴は目茶苦茶短い。

 だったら、以前カリナさんが話してた国に管理されてるお抱え冒険者に頼めばいいはずだ。

 ここも立派な一つの国。

 一人二人位はお抱えの冒険者が居ると思ってそう問いた。


「勿論。そなたの言う通り騎士、魔法使い共に我が国の優秀な部下は居る。冒険者もな」

「だったら、何故私が」

「魔王を倒す勇者を育てる。その為には、勇者達には今の何倍も強くなってもらう必要がある。並大抵の者では途中でついていけなくなるだろう。あまり大きく言いたくないが、それ程の実力者となると騎士団長や魔法使い団長クラスしか居ない。しかし、彼らには緊急時には王都の民達を守ってもらわねばならないのだ。常に勇者達の側に居る事は出来ない」

「だったら冒険者は」


 理由は納得しよう。

 だが、今のは部下の話。

 お抱えの冒険者の事は何も言っていない。

 それを聞くと国王は、申し訳なさそうな表情で話し出した。


「相性だよ」

「は?」


 今なんて言ったコイツ。

 相性とか言ったか?


 まさかと思って国王の顔を見るが、冗談を言ってる様には見えず本当に相性の問題なのだと分かった。


「我が国の抱える冒険者は、実力のあるAランクだ。しかし、大雑把な性格な上に大鎚使いな為に勇者達に戦闘を教えるのもサポートをするのも向かないのだ。その点そなたは、奴に比べて歳も近く実力もあり剣、魔法両方が使える。報告によれば、そちらのフェリエだったか?に道中戦闘を教えていたと聞いた。勇者達も、そなたとなら行動を共にしやすいだろう。そう言った理由で協力して欲しいのだ」


 理由は分かった。

 国を守る為にも勇者を育てるなら向いてそうな私に任せた方が良いと思ったのだろう。

 だが、仮にも国の頂点なら他の国と協力等の方法もあるはずだ。

 聞いた話だとA、Sランクの冒険者は非常に数が少ないらしい。

 だが、他国を探せば良さそうな冒険者だっていると思う。

 そう思い国王に聞いたが。


「それは無理だ。他国のお抱え冒険者を頼ろうにも、どの国も魔王の脅威に晒されているのは同じ。そんな中、自国の最大戦力を貸し出すのはあり得ない」


 等と納得してしまうごもっともな理由を言われてしまった。

 こうなると、断る理由がなくなってきた。

 まぁ、仮にも王命故に断るつもりは初めからなかったのだが。


「そうですか。まぁ、理由は分かりました」

「そうか!ならば、引き受けてくれるか」


 国王は、私の言葉に分かりやすく表情を良くする。

 だが、国王には悪いが私はこれで終わらせるつもりはない。

 死んだ腹いせも含めて利用させてもらう。


「構いませんよ。ただ、私だけじゃ限界がありますからね。最大限支援して下さい。それと、私に頼むなら勇者育成は基本私の指示に従って下さい。それに、強くするつもりならレベル上げの為に、強力なダンジョンを利用しないと短期間に強くなれない。ですが、あいにく私はBランク。ランク制限がある様な高難易度ダンジョンを利用する時があると入れないです。なので、そこもどうにかして下さい」


 私は、受ける代わりに支援、指示権の二つを無遠慮に要求、いや、命令した。

 まぁ、当然国王はともかく周りの騎士?や爺共が平民である私が無礼にも国王に命令したのだから黙っている訳がない。


「貴様!陛下に向かって何だその言葉は!!」

「無礼者が!!奴を捕らえろ!!」

「平民の分際で我ら貴族、王族に命令等と分を弁えろ!!」

「その二人を捕らえろ!!どうせ連れの女もそこの女と同じでロクでもないに違いない!!」


 出るわ出るわの非難の言葉。

 自分達の手に終えないから頼んでる癖に頼まれる側の平民が自分達貴族に命令するのは気に食わないのだろう。

 騎士?達も命令された事で私達を捕らえ様としてくる。

 しかし、コイツらは馬鹿なのだろうか。

 魔王に対抗したいが故に頼んだ者に下っ端でしかない奴らをけしかけても意味がないと分からないのだろうか。

 そして、何よりコイツらはフェリエを侮辱する様な言葉を吐いてしまった。

 確かに、平民が貴族、王族に命令するという不敬罪を働いたアカリに非があるだろう。

 しかし、そんな言葉を何より家族や仲間を大事に思うアカリの前で言えばどうなるか。


「は?」

「「「「「「ッ!!?」」」」」」


 当然キレる。

 しかも、今回の場合は死んだ元凶に深く大きな憤怒、憎悪、殺意を抱いていた為、抑制していた感情もキレると同時に解かれてしまった。

 故に、普段ならアカリから感じる事のない威圧が周囲に放たれた。

 それは、例えるなら蛇に睨まれた蛙、鷹の前の雉だろうか。

 アカリという圧倒的強者の威圧。

 それを受けアカリとフェリエを囲む騎士は恐怖からそれ以上動く事が出来ず、国王、天之も顔を青ざめさせ、周囲の爺共に至っては腰が抜け地面に崩れ落ち青ざめた顔で震えていた。


「お前らさ何様のつもり?命令して無理矢理私とフェリを連れて来たくせに偉そうにしてさぁ。こっちは、お前らの頼みで命懸けで魔王と戦うんだよ。なのに、こっちが頼めば言葉遣い一つでキレる。あまつさえ、何も悪い事をしていないフェリを侮辱しやがって。なぁ、そんなにお前らは偉い訳?」


 私は、そう言うと怒りを隠さずにフェリを侮辱する言葉を吐いた爺の前に歩いていく。


「どうなんだよ。ほら、お前答えてみろ」

「ぇ、あ、うぁあ」


 しかし、男は恐怖で答えられるはずもなくただ震えるのみ。


「答えろって言ってんだろ!!」


 答えない男に苛立ちアカリは震える男の前で足を持ち上げると全力で下ろす。

 瞬間、部屋に響き渡る轟音。

 轟音の発生源であるアカリが踏みつけた床は、バラバラに砕け散り周囲は放射状に大きくひび割れた。

 そんな事を目の前で起こされた男は、当然耐えられる筈もなく白目を剥き失禁しながら気絶。

 それを、冷めた目で見下ろしたアカリは身体を翻した。


「ん?フェリどうかした?」


 すると、翻した先にいつの間にか移動していたフェリが立っておりムッとした表情で私の顔を見ていた。


「やり過ぎです!」


 そして、そう言うと片手を手刀の形で振り上げ


「痛てッ!?」


 私の頭に手加減無用に振り下ろしてきた。

 その一撃は、フェリの素スペックにしては明らかに強過ぎる。

 身体強化も施している証拠だ。


「な、何すんのフェリ!?」

「それはこっちの台詞ですよ!?本当に何してんですか!?」

「だからって叩「黙って下さい!!」ヒェッ!」


 私の言葉を遮るとフェリは、怒涛の勢いで私に言葉を畳み掛けてきた。


「ここ何処か分かってます!?王城ですよ!しかも、陛下の前ですよ!何暴れてるんですか!馬鹿ですか!馬鹿なんですか!?」

「な、馬鹿じゃと!?」

「何か文句でも!!?それとも、自分は馬鹿じゃないとでも!?」

「馬鹿じゃ「あ"?」あ、はい。スミマセン」


 言い返せば確実にブチギレる。

 フェリの表情からそれを察してアカリは、素直に引き下がる事にした。

 そして、いつの間にか私の怒りは引いていたのだった。


「あぁ~その、アカリ殿?」

「あ、はい。何でしょうか陛下」


 何故に呼び方が殿なのか疑問だが、気にしない事にして国王の話を聞く事にする。


「部下が申し訳ない。アカリ殿の要望は受け入れる。なので、協力を引き受けてもらえるだろうか」

「要望を受けてもらえるなら良いですよ」


 私がキレたからという理由もあるのだろう。

 それでも、私の不敬を許す国王に意外と寛容なのだなと思いながら私は協力を引き受けた。


「指示の権利、支援に関しては、私の権利で即可能としておく。ランク制限のダンジョンに関しも私の権力で利用可能にする。これで問題ないだろうか?」

「はい。それで大丈夫です」


 この決定に私は内心ガッツポーズした。

 これで、天之達の鍛練に関しても逐一確認可能。

 支援も王族からとなれば、かなりのものを期待出来る。

 そしてなにより、高難易度ダンジョンを利用可能。

 つまり、強力な魔物と戦闘出来るのでかなりのレベルUPも出来る筈だ。

 その事に内心ムフフとなっていると国王が何かを思い付いたのか提案してきた。


「アカリ殿はBランクなのだろう。今度あるAランク昇格試験。これを受けてはどうだろうか。そうすれば、私の手回しがその都度無くても問題なくなるが」

「私は試験資格が無いので無理です」

「それこそ、私の権力がある。なに、アカリ殿はカラク防衛とアルタナのダンジョン攻略の功績がある。本来なら十分に資格がある」


 何か卑怯な手段みたいで抵抗感を感じる。

 だが、受けられるなら受けておいて損は無い。

 それに、Aランクになればダンジョンもそうだが、ギルドとの交渉事等と得になる事も多い。

 なので、受ける事にした。


「だったら、お願いします」

「了解した。後程書類等を用意してアカリ殿に渡そう。これで、本日の謁見は終わりだ。アカリ殿、フェリエ殿、本日はわざわざご苦労であった。二人の為の部屋を準備してある。ゆっくりしてくれ」

「どうも」

「ありがとうございます」

「二人を部屋に案内してくれ」

「は!」


 騎士?の後についていき謁見の間を後にする。

 主にと言うか完全に私のせいなのだが、一波乱あった謁見は無事終わったのだった。

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