第47話 真夜中の激戦(5)

 ※遅れてごめんなさい


 ※ステータスの一部を変更しました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 街へと侵入した魔物の対処をしていたマルクスは深刻な表情を浮かべていた。


 クソ、想定よりも侵入した魔物が多い。

 それに、夜なせいで暗くてよく見えない。


「隊長!駄目です。見付かりません!」

「こちらにも居ません!」


 魔物の移動の素早さに加え夜間の暗さによる視界の悪さ。

 その2つが合わさる事で街へと侵入した魔物の対処に想定の倍以上の苦戦をしていた。


「索敵か探知のスキルを持ってる奴はいるか!」


 このままではどうしようもないとマルクスは、部下へと問う。

 どちらか1つでも持っている者がいれば、侵入した魔物を見付ける事が楽になる。


「自分は、持って無いです」

「自分も無いです」

「私も無いです」

 ・

 ・

 ・


 だが、部下に持っている者は誰1人いなかった。


「そうか」


 部下のスキルに関しては、ある程度頭に入っていたので誰も持っていない可能性が高いと何となく分かってはいた。

 しかし、分かっていたとはいえ落胆は大きかった。


 駄目だ冷静に考えろ。

 無い物ねだりしても状況は何も変わらん。


 気持ちを切り替えたマルクスは、幾つか考えを纏め部下へと指示を出していく。


「しょうがない、このまま増援が来るまで出来る限り我々で侵入した魔物を見付け討伐していくぞ!増援も直に来る。そうしたら、侵入した魔物に関しては何とかなるはずだ。後の事は、それからだ。総員掛かれ」

「「「「ハッ!!」」」」


 四方に走っていく部下達を見送ったマルクスは、ひと息ついて張り詰めていた気持ちを落ち着かせた。


 まだ、安心は全く出来ないが一先ずこれで良いか。

 増援に関しても、伝えに行った部下がそろそろ着いたはずだ。

 後は、増援を上手く振り分けて魔物の侵入を止めれば問題ないだろ。


「まぁ、止めた所でザクトをどうにかしない限り根本的な解決にはならないがな」


 ザクトの強さは、桁違いだ。

 魔物の軍勢だけなら、犠牲は出るとしてもどうにかする事は出来るだろう。

 しかし、ザクトは違う。

 屍食鬼を生み出し城壁を破壊する一撃からわかる通りたったの一体だけでありながら数千の魔物の軍勢を越える脅威を秘めている。

 魔物の軍勢を倒しきれたとしても、ザクトをどうにかしない限り街の危険は何も解決しないだろう。


 恐らくザクトの相手は、再びアカリ君がしているのだろう。

 だが、アカリ君が自分で言っていたが1人でザクトの相手は無理だ。

 一刻も早く増援を連れて戻らないとアカリ君が危ない。


「どうか、もうしばらく耐えてくれアカリ君」


 マルクスは、アカリの無事を祈るのだった。


 ※※※※※


 かっこつけて「負けるつもりもない」なんて大見得を切った私が、現在どうなってるかだが…………


「ぐっ、うぅ」

「どうした。そんな弱腰じゃ俺には勝てないぞ」


 はい、滅茶苦茶追い詰められてます。


 戦法自体は、剣主体の戦いに変わりはない。

 だが、その剣による攻撃が異常なのだ!!

 1度目の戦闘では、何とか攻撃を目でギリギリ追えたので辛うじて剣で防ぐ、避ける等出来た。

 しかし今は違う。

 ほぼ見えないのだ、攻撃が。

 文字通りの本気になったザクトの攻撃は、アカリの動体視力でも捉えられなかった。

 更に込められる力も増しておりガア"ァンッ!ガア"ァンッ!ガア"ァンッ!と剣戟音とは思えない音が連続で鳴り響いていた。


 もう本気でヤバい。

 何で今も自分が生き延びてるのかマジで不思議。


 今も、アカリが生きているのは辛うじて見える予備動作の身体の動きから攻撃される箇所を予測して防いでいるから。

 普通ならザクト程の相手にそんな事不可能だろう。

 しかし、前世の護身術の経験と知識、吸血鬼の身体能力があって奇跡的に可能となっていた。


「この程度で手も足も出ないとは、やはり人間は弱過ぎる。少しは、先の戦いの様に反撃して楽しませてみろ」


 防御ばかりの受けに回る私に飽きてきたのかザクトは、そう言って血剣で私の胴体目掛けて斬り払いをしてきた。

 ただの剣による一撃だが、ザクトの力で行えば致命の一撃になりかねない。


「ぐうぅぅ!!」


 何とか咄嗟に剣を盾代わりにする事で斬り払いを止める事が出来た。

 しかし、短時間とはいえ何度もザクトの強力な攻撃を受け止めてた剣は今の攻撃で耐えきれなくなり。


 バキンッ!!


「あ」


 へし折れてしまった。


 マズい!!


 アカリは、咄嗟にバックステップでザクトから距離を取る。


「遅い。今度こそおしまいだ」


 しかし、ザクトは私が下がるよりも早く距離を詰め頭部目掛けて血剣を振り下ろしていた。


 ヤバい!

 防げない!

 死ぬ!

 どうする!

 魔法!

 間に合え!!!


「っ!!」


 剣が振り下ろされる刹那、咄嗟に自分とザクトの間に制御を外したファイアーボールを生み出し爆発させた。


「がぁ"っ!!」

「な!?グッ!!」


 自爆により私は、軽くダメージを受けたものの吹き飛んだ事で頭部を両断されずにすみザクトも突然の爆発には霧化が間に合わず爆発に巻き込まれて吹き飛ばされていた。


「ハァハァ……間に合った。アイツは」


 立ち上がり魔法の発動が間に合った事を安堵したものの直ぐに、ザクトに備える。

 視線の先には、アカリ同様立ち上がり歩いて来るザクトが見える。

 その姿は、全く変わっておらず先程の爆発が一切効いて無い事を示していた。


「貴様は、頭がおかしいのか?まさか、自爆して攻撃を避けるとは思わなかったぞ。おかげで、ダメージを受けてしまった」

「いきなり酷い事を言うね。あの一瞬じゃあれが生き残れる手段だったんだから仕方無いでしょ。後、ダメージ何て殆んど受けて無いくせに」

「本当さ、この通り火傷を負ったよ」


 ザクトは、私の言葉にそう返すと右腕を軽く挙げて見せる。

 そこには、ザクトの言う通り軽い火傷による傷が出来ていた。


「直撃していない爆発でこれだ。まともに受けたらそれなりのダメージだろう。あの一瞬で良くこんな強い魔法を発動出来たものだ」

「そりゃどうも」


 ザクトの称賛にぶっきらぼうに返すアカリだが、頭の中では思考を巡らせていた。


 ザクトの言葉が本当なら、私の魔法は当たりさえすればダメージを与える事が可能って事だ。

 しかも、さっきのは制御を外したとはいえファイアーボール。

 もしも、上手くこれよりも威力の高い魔法を当てられれば倒せなくとも大きなダメージを与えれて撃退する事が出来るかもしれない。

 まぁ、その当てる事が最難関なんだけどね。

 だけど、やるしかないし頑張るか。


 目の前のザクトを警戒しながら、頭の中で目標を定めたアカリ。


「さて、どうやりますか」


 アカリは、どの様に魔法を当てるか考える。

 策が無い訳ではない。

 だが、相手はほんの一瞬でこちらとの距離を詰める事が可能だ。

 元にそのせいでアカリは、魔法を使おうとしようにも上手く距離を取れずにいた。


「どうした。こないなら、こちらから行くぞ」

「そう焦らせるなよ!」


 しかし、今は運良く距離が少し離れている。

 なので、アカリは1つだけある策を試すべく確認を含めて手始めにエアカッターや小規模なエアブラスト、ファイアーボール、ウォーターボール等の魔法を可能な限り間隔短く連続で放つ。

 勿論、全て制御を外した強化版だ。


「クッ!小癪な」


 ザクトは、それに対して霧化せずにあの時と同様、血液支配で壁を造り防御した。

 私は、それを見ながらザクトに話しかける。


「ねぇ、何で霧化して避けないの?」

「どう防ごうと勝手だろ」

「出来ないんでしょ?」

「!?」


 反応した。

 やっぱり、あの時思った通りだ。


「霧化しないんじゃない。したくても出来ないんでしょ。違う?」

「……何の事だ」

「あっそ」


 ビンゴっぽいね。


 ザクトの反応から霧化したくても出来ないという予想は、正解だとアカリは理解した。

 アカリが、霧化出来ないと思った訳はザクトが城壁での攻撃を防いだのを見た時、いや、より詳しく言うなら最初の戦闘の時だ。

 最初の戦闘の際、何故かザクトが霧化で避けた直後はもう一度霧化せずわざわざ毎回武器で防ぐか直接避けていた。

 その時は、油断したらガチで死にかねないので考える事はせず攻撃するチャンスと戦闘に集中していた。

 その後の城壁からの集中攻撃をザクトが霧化しないのを改めて見て出来ないのでは?と思ったのだ。

 アカリ自身も霧化が可能で試した事がありその時は、1、2秒が限界だった。

 その時は、慣れてないからだろうと思っていたが、もしも元から長い時間は霧化出来なかったとしたら?

 結果は、恐らく正解。

 私よりは幾分長く霧化出来るのだろう。

 だけど、霧化しても解けて直ぐにはタイムラグで霧化出来ないから連続で攻撃され続けると防げずダメージを受けてしまう。

 だから、最初の戦闘の時も城壁からの攻撃も霧化せずに防御していた。


 気付けば、色々対策をたてる事が出来そうな弱点。

 だけど、最悪な事にコイツがその為に必要になる遠距離組を潰してくれたせいで霧化を封じる術がないんだよね。

 今は、私がこうして連続で魔法を放って霧化出来なくさせてるけどそうすると、今度はコイツにダメージ与える人がいないし。

 せめて、何か他に情報があれば。


「そうだ、鑑定」


 アカリは、何か少しでも役にたちそうな情報を得ようとザクトが動けないうちに鑑定をかけた。


 ────

 名前:ザクト

 種族:エルダーヴァンパイア

 状態:通常

 LV:21/60

 HP:638/685

 MP:359/425

 筋力:718

 耐久:521

 敏捷:732

 魔法:325

 ─スキル─

【血液支配Lv8】【吸血】【眷属化Lv6】 【霧化】

【強腕Lv6】【剣術Lv7】【魔力制御Lv6】【回避Lv6】

【体術Lv7】【強撃Lv5】【物理耐性Lv6】

【痛覚耐性Lv5】【気配感知Lv6】【堅牢Lv6】

 ─称号─

【デスペラの眷属】【人類の天敵】

 ────


「…………あ、うん」


 何となくわかっていたが案の定何も役に立つ情報等見付ける事は出来ず寧ろザクトの格上過ぎるステータスに今一度勝ち目の無さを痛感させられた。


 これ、本当にどうやって対処すれば良い訳。ってヤバッ!!?


 ステータス画面から見える向こう側。

 自身がほんの僅かに注意が逸れていた間にすぐ目前に迫っていた赤黒い血液の壁。

 それに気付いたアカリは、あわてて真上に跳躍して回避する。


「危な。あれ、ザクトが」


 しかし、跳躍して回避したのは悪手だった。


「油断したな」

「!?ガハァ"ッ!!」


 声が聞こえた時には既に遅かった。

 いつ移動したのか空中にいる私よりも更に上にいたザクト。

 アカリは、咄嗟に反応するがそれより早くザクトに蹴り飛ばされる。


「ぐっ…う"ぅぅ」


 蹴り飛ばされたアカリは、勢いそのまま地面に衝突した。

 しかし、それでも止まらず何度も地面をバウンドしながら城壁まで転がっていきぶつかる事でようやく止まる。


「痛っ"」


 起き上がったアカリは、いつの間に近付かれたんだ?とふらつく頭を押さえながら疑問を浮かべる。

 しかし、今はそんな事を考える暇は無いと思考を切り替えて顔を上げ固まる。


「え」


 本来命懸けの戦闘の最中そんな固まる等あってはならない。

 だが、仕方なかろう。

 なんせ、顔を上げた先に城壁を破壊したあの幾百もの血液の武器を今まさに放とうとするザクトの姿が見えたのだから。


「ヤバいヤバいヤバい!!死ぬ~っ!!!?」


 固まったものの直ぐに持ち直し咄嗟に横に飛ぶ様に身を投げ出しす。


 直後


 ズガガガガアァァァァンッ!!!!


 後ろを振り向く。


「ハ、ハハハ」


 そこには、先程自身が居た場所に何十と突き刺さる血液の武器と崩壊する城壁が見えた。


「やはり避けたか」

「個人に対してやりすぎでしょ」


 近付いて来たと思えばそんな事を言ってきたザクトに対して私は、やりすぎだと言い返す。


「それはそうだろ。あの技は本来、多人数相手に使うものであって個人相手に使うものじゃないからな」

「そんなもん個人に使うんじゃねえ!!」


 マジで個人に使うものじゃなかった事に私は、思わず怒鳴る。

 しかし、ザクトは怒鳴る私に一切反応をせず淡々と使った理由を話した。


「貴様は、中々しぶといからな。貴様だけに少々時間をかけ過ぎた。次に移る為に、てっとり早く殺そうと思って使った。そう言う訳だ。急がせてもらうぞ」


 ザクトは、そう言うと再び血剣を造り出し一瞬で間合いを詰めて斬り掛かってくる。


「やらせるか!」


 しかし、私は斬り掛かってくるのを予測していたので何とかギリギリ避け同時に準備していた魔法を放つ。


「エアスラッシュ!」


 直接避ける選択を潰すべく連続で複数のエアスラッシュをザクトに向けて放つ。


「無駄だ」


 しかし、ザクトは放ったエアスラッシュを血剣で斬る事で無理矢理打ち消した。


「うん。だろうと思った」


 ザクト程の強さだ。

 どうせ、同じ連続攻撃をしても対策してくる可能性があると思っていた。

 なので、回避しても対策されても良い様に…………


「くっ!!」


 エアスラッシュを放つと同時に準備しておいた魔力を多く込めたファイアーボールをザクトの目の前に放ち爆発させる。

 だが、ザクトは霧化して回避した事で爆発は避けられてしまった。


「無駄だと言って「使ったね。霧化」!?」


 しかし、ザクトがあのタイミングなら霧化するところも予測していたアカリは、霧化解除したザクトの懐に飛び込む。


 そして


「エアブラスト!」

「な!?」


 魔力を通常の倍以上込め制御を外したエアブラストをザクトに放ち城壁前の戦場から吹き飛ばした。


「ハァハァハァ……上手くいった」


 集中状態を解いたアカリは、ザクト相手に上手くいった事に安堵する。


 このままだと、ザクトの攻撃で周りの被害が甚大になりそうだったからね。

 何とか上手くいって良かった。


「フゥ~……よし、もうひと頑張りだ」


 ひと息ついて気持ちを落ち着けたアカリは、魔力回復薬を取り出して飲むとザクトが吹き飛んだ場所に向かった。


 ※※※※※


「かなり飛ばされたな」


 起き上がったザクトは、周りを確認すると随分と飛ばされたとわかった。


「油断したつもりは無かったが」


 ザクトは、格下相手に良い様にやられた事に「気が緩んでいたか」と気を引き締め先程の戦闘を思い返す。


「あの女は、やはり厄介だな」


 明らかに弱い筈なのに、今だに自身の攻撃から逃れて生き延びている。

 更に、一見万能に見える霧化のデメリットにも気付かれそこを突かれてこうして吹き飛ばされた。


「だが、面白いな」


 ザクトは、弱者でありながら自身に対抗するアカリに興味が湧く。


「殺すのは、惜しいかもな。……来たか」


 自身の元に近付いて来る気配を感じそちらを見る。

 そこには、こちらに走ってくるアカリの姿があった。


「いた!ロックスピア!」


 この女、土属性も使えるのか。


 ザクトは、アカリが火、水、風、土と4つの属性魔法を扱える事に驚く。


 やはり面白い。


 ザクトは、目の前のアカリにますます興味を引かれる。


 ロックスピアを前傾姿勢に屈む事で避けそのまま足に力を込めて駆け出し距離を一瞬にして詰め血液支配により造りだした剣で斬りかかる。

 しかし、予測されていたのかそれを避けられ先程と同様に風属性の魔法をこちらに放ってきた。


「エアスラッシュ!」

「同じものに何度もかかるか。……ぐっ!」


 放たれた幾つもの風魔法に対してこちらも先程と同様に斬って打ち消す。

 しかし、一つだけ威力が異なるモノがありそれによって左腕を深く切ってしまい出血する。


「同じとは限らないよ」

「クソッ!!」


 やられたな。

 これは、直ぐに治りそうにない。

 しかし、これは…………ふふ。


 ザクトは、怪我した左腕を庇う様に後ろに下げると右腕だけで剣を握り戦闘を再開した。


「傷を負わせた位で図に乗るなよ女!!」

「別に図に乗ってないけどね!!」


 それからの戦闘は、格下にしては中々に白熱した戦いだとザクトは思った。

 こちらは、変わらず剣による攻撃でアカリに斬りかかり時には複数の剣を造り出して放つ等した。

 それをアカリは、終始余裕の無い表情をしていたものの自身の攻撃を何度か食らう事はあったが対応し時折隙があれば魔法を放って攻撃する等善戦する。

 しかし、それももう終わる。

 ザクトは、軽く辺りを流し見して確認すると問題無さそうだと判断する。


「そろそろ良さそうだな」

「?何が」


 突然そんな事を言ったのでアカリは、困惑したのかザクトから少し離れた位置で立ち止まる。


「いや何、所で、何か気付かないか」

「は?何を」


 わかっていない様なのでヒントを示す。


「周りだよ」

「周りって、何も」


 周りには、確かに一見何も無い。

 あるとしても、所々に落ちている血液位だ。

 そう、血液。


「そうか、では、答えを教えよう。鮮血之鎖ブラッドチェーン


 ザクトが、そう言った瞬間周りに落ちている血液から何か長いモノが飛び出しアカリに向けて四方八方から迫ってきた。


「は!?ヤバッ!ぐうっ!!」


 アカリは、それに反応が遅れてしまいその長いモノ、赤黒い鎖に捕らわれてしまった。


「ぐうぅぅっ!!!」


 アカリは、鎖から逃れ様と全身に力を込めるものの鎖は解ける事はなかった。


「無駄だ。それは、俺の血液で出来た鎖。簡単には、壊れん。気付かなかっただろ?俺が、貴様に負わされた怪我の出血を密かに地面に撒いていた事に」


 ザクトは、アカリに怪我を負わされた後この時の為に密かに自身の血液を地面に撒いていたのだ。


「ハァ~~ようやくこれで終わる。貴様が、想像よりも厄介で苦労したぞ。誇ると良い。貴様は、たった一人でありながら俺にここまで力を使わせたのだからな。さて、それじゃあやるか」


 ザクトは、ため息を吐きながらアカリの側に近付いていく。


「ぐうぅぅ!!あ"あ"ぁ"ぁぁ!!!」


 何とか抜け出そうと全力で身体強化を施して力を込める。

 しかし、それでも鎖はびくともせず抜け出す事は出来なかった。


「無駄だ。それでは」


 ザクトは、そう言うと目の前のアカリに…………


「痛っ!?」


 噛みついた。


「…………!?な、何故だ!?」


 しかし、次の瞬間ザクトは驚愕の表情を浮かべアカリの首から顔を離した。


 ※※※※※


 ザクトが、顔を近付けた時に眷属化を使うとわかった。

 だから、咄嗟に首周りの血液を強引に固める事で吸血出来なくした。

 危うく血管が破裂しかけたけど、一か八かだったが眷属化を阻止出来たみたいだ。


「ハハハ……バーカ。フンッ!!」


 私は、目の前のザクトの顔に向けて首がもげそうな勢いで力一杯の頭突きをする。


「ごあ"っ!!」


 今だ、霧化。


 頭突きの痛みで顔を押さえている隙に私は、霧化で鎖の拘束から抜け出してザクトの背後に回り込む。

 そして、魔法を放つ。


 鎌鼬!!


「があ"ぁ"ぁ"!!」

「嘘だろ!?」


 首を切断したつもりだった。

 しかし、ザクトが寸前で上体を反らした事で右腕を肩から切断する事で殺し損ねる。


「き、貴様、どうやって!!」

「言う訳ないだろ。今度こそ!」


 アカリは、連続で魔法をザクトに放っていく。


「クソッ!!」


 それを見たザクトは、血液の壁を造りアカリから放たれる魔法を防ぐ。


 今だ!!


 アカリは、それを見た瞬間に残りのMP全てを込めた火球を作り出す。


 MPが残り少ないから仕留める程の威力は無い。

 それでも、大きなダメージは与えられるはず。


「はぁ!!」


 そして、アカリはザクトに向けて火球を放ち…………


「え?」

「は?」


 火球は、霧散して消えた。


「何で…………っ!!!?」


 突如消えた火球に困惑する。

 しかし、次の瞬間場を押し潰すかの如き威圧感に襲われ困惑が恐怖に塗り替えられた。


「危ない危ない」


 何処から見ていたのか、何時から居たのかわからない。

 ただ、わかるのは自分とザクトが戦闘しているこの場に奴が、魔王が再び姿を現した。


「魔王」

「やあ、こんばんは。凄いね君、ザクト君相手にここまでやるなんて」


 魔王は、こちらの恐怖感等意に介さず世間話でもするかの様に近付いて来るとそんな事を言ってくる。


「すみません我が主。みっともない結果に」

「良いよ。君には悪いけどお陰で面白いものを見れたからね。君の怪我も酷いし今回は帰ろうか」

「了解しました」

「!?」


 魔王の言葉に驚く。

 帰る。

 その言葉が本当なら街は助かるとアカリは、心の中で歓喜した。

 そして、次の瞬間絶望する。


「そうだ、このまま帰るのも何かつまらないし。…………よし。これで良いかな」


 何を?


 魔王の謎の言動に疑問を感じた直後。


 グオアアアァァァァア!!!

 ゴアアァァァァァァ!!!

 ゴガアァァァァア!!!

 ウオオオーーーーン!!!


 街の方から多種多様の魔物の咆哮が聞こえてきた。


「え、何!?おい、何をした!!」

「ん?操ってた魔物達を暴走させただけだよ。今頃街の中に向けて雪崩れ込んでるんじゃないかな?」

「そんな、何で、止めろ。今すぐ止めろ!!!」


 その言葉に酷い焦り、怒りが湧き上がり目の前の存在が魔王という事も忘れて掴みかかり止める様に怒鳴る。


「うるさいな。今から帰る所だから邪魔しないでくれるかい」


 魔王は、掴みかかる私を鬱陶しそうな顔をして退けて闇を生み出しその中へと歩いて行く。


「待て!!今すぐ止め」


 背中を見せて闇の中へと歩いていく魔王にそれでも止めさせる為にその背中に手を伸ばそうとした。


「え」


 すると、何故か先程まで背中しか見えてなかったはずの魔王の顔が目の前にあり…………


「…………ゴボッ"!!」ボタボタ


 いつの間にか、腕で腹を貫かれていた。


「うるさいって言っただろ」


 魔王は、そう言うとゴミでも捨てるかの様に腕を振り私を投げ捨てる。


「ゴボッガハッ!!」

「汚いな。服が汚れてしまったよ。それじゃあ君、私は帰らせてもらうよ。もしまた会う事があればゆっくり話しでもしようか。まぁ、生きてたらだけどね」


 そう言って魔王は、今度こそ闇の中へと消えていった。


「ハァ"ハァ"……ヤバい"。早く、ゴプッ!、街に行かな"い"と」


 その場に残ったアカリは、暴走した魔物で混乱している街に早く向かうべく立ち上がろうとする。

 しかし、貫かれ風穴があいた腹部の激痛で身体に上手く力が入らず再び倒れてしまう。


 駄目だ。

 力が上手く入らない。

 再生スキルは、発動してるはずだけどこのままだと治るのに時間がかかりそう。


 アカリは、どうするか霞む頭で考え一つの結論を出した。


「…………進化するか」

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