第48話 進化 Part 2


 ※遅れてごめんなさい。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「どうすれば良いんだよ」


 俺は、目の前の惨状にそんな言葉をもらした。

 そこに広がるのは、理性を失い怒り狂ったかの様に暴れまわる魔物達の姿。

 ほんの少し前までは、こんな様子じゃなかった。

 それが、突然魔物達が苦しみだしたかと思えば直後咆哮を上げ理性を失ったかの如く暴れだしたのだ。


「何とかとか押さえろ!!」

「駄目だ持たねえ!」


 今は、崩れた城壁から街に魔物が侵入してこようとするのを何とか防ごうとしている。

 しかし、始めに比べて約半分位には減らせたとはいえ魔物との数の差は今だ大きい。

 その為、侵入を防ごうとしようものの魔物の勢いに押され防ぎきれずにいた。


「クソ、増援は来ねえのか!!」

「既に頼んだ!だが、来ないって事は侵入した魔物の対処でこちらに来れないって事だ!俺達でここは何とかするしかない!!」


 暴れまわる魔物は対処出来ずこちらの被害が増えるばかり。

 かと言って増援を頼もうにも向こうも人手が足りないのか期待出来ない。

 まさに、八方塞がりな状態だった。


 あの謎のフードの奴が、ザクトを戦場から離してくれて何とかなると思ったってのに結局こうなるのか。

 ちくしょう、どうせ死ぬんなら旨い酒や飯をもっと食ったり可愛い彼女の1人位作れば良かったぜ。


 俺も周りの連中もどうしようも無い現状にもう無理だと諦めそうになる。

 しかし、その時…………


風壁ウィンドウォール!」


 何処からか声が聞こえた次の瞬間、俺達と魔物達の間に暴風が吹き荒れた。


「な、何だ!?」

「こ、これはいったい!!」

「凄い……魔物が吹き飛ばされていく」


 誰が呟いたのかわからない。

 しかし、その言葉通り暴風に巻き込まれた魔物達は吹き飛ばされていき俺達に近付いてこようとする魔物達は暴風に触れた瞬間弾かれていた。


「この風の壁は、いったい誰が。それに、さっきの声は「良かった。ギリセーフみたいだね」は!?」


 目の前の風の壁は、何なのか。

 先程の謎の声は、何だったのかと疑問を口にしたその時、先程も聞こえた声が聞こえ俺は驚いた。

 何故驚いたのか。

 それは、声が聞こえるのが前や横、後ろならまだわかる。

 だが、声が聞こえてきたのはどれでもなく真上から。

 俺は、その事に驚いたが声の主を確かめる為に聞こえてきた真上を見上げた。


「……は」


 そして、再び俺は驚いた。


「よっと。お疲れ様。見た感じ酷いね。それで、今はどんな状況なの?……ん?ねぇ?聞いてる?」

「………………」

「………………」

「………………」


 見上げた先。

 そこにいたのは、白銀の髪をなびかせる女神の如き美しい少女だった。


「あぁ~またこれか。着てたコートが血だらけの穴だらけで着なかったのが裏目に出たか。ハァ~……おい!!」

「「「はっ!!?」」」


 呆けてた状態から目を覚ました俺達は、目の前の少女がどうして空から降りてきたのかわからないが、今すぐ避難させる為に話し掛ける。


「君、何処から入ったのか知らないが避難しないと駄目だろ」

「そうだぞ、彼の言う通り早く避難しなさい」

「案内するからついて来るんだ」

「………………」

「な!?おい!!そっちは!!?」


 だが、少女は何故か案内しようと歩き出した男とは逆の風の壁の方へと行こうとして俺達はあわてて止めようとする。


「……炎槍ファイアーランス


 しかし、少女が歩き出した途端に風の壁は消え去りそれと同時に少女が掌を前に向けた瞬間、炎の槍が魔物達に向かって放たれ炎の槍は魔物数匹を貫くと爆発した。


「「「は?」」」

「風壁」

「「「は!!?」」」


 少女が風壁と呟いた途端に再び風の壁が発生した。

 つまり、先程の炎の槍含めこれは目の前の少女が起こした事なのだろう。


「わかった?わかったなら、早く今の状況を教えて」

「「「は、はい」」」


 俺達は、直ぐ様少女に現在の状況をわかる範囲で丁寧に迅速に報告した。


「なるほどね、了解。ありがと。それじゃあ、土壁アースウォール

「「「え!?」」」


 報告を聞き終えた少女は、そう言って風の壁を解くと3メートル程の土の壁を崩れた城壁に沿って幾つか造り出した。


「とりあえず、城壁は、完全にじゃないけど多少は塞いだ。これで、侵入を少しは防げるでしょ」

「確かに、これなら今までより魔物の対処が楽になる。助かった」


 完全でなくとも魔物が侵入するのを少しでも防げるだけで大分変わる。

 これまでは、侵入を防ぐ事に人員を割いていた。

 しかし、少女が造った岩の壁のおかげで魔物との戦闘に戦力を多く割ける事が可能になった。


「だが、あの吸血鬼のザクトがフードを被ってた奴を殺して再び現れたらどうする。今のままだと、戦力が足りないぞ」

「確かに、今いる戦力だけではザクトが戻ってきたらどうしようも無い。やっぱり、どうにか増援をまわす様に伝えるしかないんじゃないか」

「今はあの報告にあったフードの少女が1人でザクトの相手をしてるのか姿が無いが、どう考えても1人で勝てる様な相手じゃないぞ。こいつの言う通り期待出来ないが今の内にもう一度増援の要請をするべきだ」


 俺達は、ザクトが戻ってきたらどうすれば良いのかと話し合う。


 しかし


「ザクトは現れないよ」


 何故か、俺達の話しを側で聞いていた少女はザクトが現れないと言いきった。


「何故だ、君は知らないかもしれないがザクトと呼ばれる吸血鬼は恐ろしく強い魔物なんだぞ」

「何とか撃退出来たから。それと、そのフードの少女って私の事だから。ほら」


 少女は、そう言って何処からかフード付のコートを取り出して羽織って見せた。


「それは!?」


 それは、確かにザクトと戦闘していた少女と同じ姿だった。

 その証拠かコートは何処もかしこも裂けたり血や泥で汚れボロボロだった。


「信じる信じないは、好きにすれば良いよ。だけど、今はそんな話しをするより武器を持って目の前の敵を一体でも多く倒す事に集中するべきでしょ」


 少女は、そう言うとこちらへ向かって来る魔物達に1人向かっていった。


「ザクトを撃退した?あの化け物を」

「本当なのだろうか」

「わからない。だが、あのフードの姿は、ザクトと戦闘していた奴と同じだった」

「だとしたら、本当に?いや、それよりも彼女の言う通りだ。今は目の前の敵を倒す事に全力を注ぐべきだ。行くぞ!!」

「「おう!!」」


 俺達は、そう言うと彼女に続いて周りの者達と協力し魔物達との戦闘を再開したのだった。


 ※※※※※


 時は少し遡り、私は霞む意識を何とか持たせながら自身のステータスを表示させた。


「ステータス」


 ────

 名前:アカリ

 種族:鮮血鬼

 状態:通常 『進化可能』

 LV:20/20

 HP:106/334

 MP:2/355

 筋力:341

 耐久:238

 敏捷:352

 魔法:316

 ─スキル─

【鑑定】【収納】【言語理解】

【血液支配Lv3】【吸血】【眷属化Lv2】【索敵Lv5】

【偽装魔法】【火属性魔法Lv3】【水属性魔法Lv3】                     

【風属性魔法Lv4】【土属性魔法Lv3】【再生Lv3】

【日射耐性Lv5】【状態異常耐性Lv6】

【痛覚耐性Lv3】【霧化】

 ─称号─

【女神アリシアの加護】【女神アリシアのお詫び】

【Dランク冒険者】

 ────


 良かった。

 進化可能みたい。


 アカリが、何故この状況で進化をしようとするのか。

 それは、進化する事で再生スキルのスキルLvを上げるのが目的だからだ。

 そうすれば、再生の速度も早くなる上に単純な戦力の上昇も出来て一石二鳥。

 ワンチャン進化出来ないかも?と不安はあったが数百と進化個体含めた魔物を倒したので問題なかった様である。


 進化候補は、何があるんだろ?


 私は、ステータス画面をタップして進化候補の一覧を表示させた。


 ────

【紅血鬼】

 -説明-

 血液の操作に長けた吸血鬼。

 紅に輝く血液を纏うかの如く操る姿から『紅い悪魔』とも呼ばれ人々から恐れられる存在。

 ────

【ハーフヴァンパイア】

 -説明-

 人間と吸血鬼の間に産まれたといわれる半人半魔の吸血鬼。

 他の吸血鬼に比べて戦闘力や血液の操作は劣るものの半分は人間の為、吸血鬼の弱点である日光下での活動が可能となる。

 また、半人半魔な為に、人間と魔物のどちらからも忌み嫌われている存在。

 ────


 またこれは、酷い選択しかないね。

 救いは無いのですか?

 無いですかそうですか……チクショウ。


 私は、表示された画面を軽く見ながらどちらを選ぶか決めていく。


 まず、紅血鬼だけど今の鮮血鬼の正当進化って感じかな?

 別称や印象はともかく、デメリットは少なそう。


 アカリは、紅血鬼の表示を見終わると次のハーフヴァンパイアの表示を見る。


 ハーフヴァンパイアは…………うん。

 普通の吸血鬼なら魅力が多少はあるだろうけど、私既に日光に対する耐性あるしね。

 それに、これ下手したら弱くなりそうだし旨味を全然感じないや。


 私は、2つの表示を見比べ終えるとどちらを選ぶか決めた。


 どう考えても紅血鬼一択だね。

 それじゃあ、進化開始っと。


 アカリは、紅血鬼の表示をタップして進化を開始した。


「んっ!!」


 進化を開始した瞬間、以前進化した時と同様に内側から力が湧いてくる様な不思議な感覚を感じる。

 その感覚は、その後直ぐに消えて無くなり進化が終わった事を私に教えた。


 どうなったかな?

 再生スキルが上がってると助かるんだけど。


 私は、進化してどの様に変化したのか気になりステータス画面から確認をする。


 ────

 名前:アカリ

 種族:紅血鬼

 状態:通常

 LV:1/40

 HP:109/384

 MP:4/405

 筋力:391

 耐久:289

 敏捷:427

 魔法:376

 ─スキル─

【鑑定】【収納】【言語理解】

【血液支配Lv5】【吸血】【眷属化Lv3】【索敵Lv6】

【偽装魔法】【火属性魔法Lv4】【水属性魔法Lv4】                     

【風属性魔法Lv5】【土属性魔法Lv4】【再生Lv4】

【日射耐性Lv6】【状態異常耐性Lv7】

【痛覚耐性Lv4】【霧化】

 ─称号─

【女神アリシアの加護】【女神アリシアのお詫び】

【Dランク冒険者】

 ────


 おぉ~~上昇してる。

 後、再生スキルが上がってて良かった。


 アカリは、スキルLvが上がった事で再生スピードが上がり風穴が空いた腹部の痛みと傷が徐々に治っていくのを感じた。


 これなら、思ったよりも早く完治しそうかも。

 本当なら、直ぐに街に向かいたいけど治らないと動けそうにないし休憩含めて少し休もう。


 私は、まだ痛む身体を何とか動かして近くの木にもたれ掛かるとしばし休憩するのだった。

 ・

 ・

 ・

 ・

「治ったね」


 休憩から20、30分程度経ちアカリは、痛みが完全に消えて怪我が治ったのを確かめると地面から立ち上がった。


「それじゃあ、行こうかな。って言いたいけど、その前に服位は着替えるか。流石に、これは駄目だよね」


 視線を下げて自分の着ている服を見る。

 全身くまなく血液で赤黒く染まりそれに加えて地面を転がった事で泥だらけ。

 至る所が裂けてる上に腹の部分が貫かれたかの如く穴が空いている。

 何処からどう見ても誤魔化し様がないレベルでヤバい見た目である。


「うん。変えよう。え~~と……これで良いかな?コートは、また戦闘でボロボロになったらもう予備が無いし今は良いかな」


 そう言うと、アカリは周りを確認するといそいそと服を収納から取り出して着替えるのだった。


「これで良し。それじゃあ、行くか」


 そうして、アカリは城壁前まで走って向かい直ぐにたどり着く。


「これは、ヤバいね」


 着いた先は、予想以上に戦況が悪くなっていた。

 暴走している魔物が崩れた城壁から侵入しようと群がりそれを冒険者や兵士が何とか食い止めようとしている。

 しかし、数の差がありすぎて完全には防げていない。

 所々で、抜けられて街への侵入を許してしまっていた。


「何とかしないと」


 私は、収納から魔力回復薬を取り出すと一息に飲み干してMPを回復させると風魔法を使い空へと飛び戦場を見渡す。


「それじゃあ、ちょっとやってみますか」


 アカリは、城壁付近を確認し魔物が少なくなった瞬間を狙い魔法を放つ。


「風壁!」


 次の瞬間、冒険者や兵士と魔物の間を遮る様に暴風が吹き荒れ風の壁が出来上がった。


 良し!上手く出来たね。


 アカリは、自分の放った魔法が上手く出来た事を確認するとそのまま城壁前に降りていった。


 ※※※※※


 魔物に突っ込んでいった私は、進化した身体の具合を確かめながら戦闘をしていた。


 うん。

 かなり、良い感じかな?

 ザクトとの戦闘の時よりも身体能力が上がってる感じ。

 これなら、大分楽に魔物を倒せるかも。


 実感通り身体能力が上昇しているアカリは、収納から取り出した剣と魔法を使い多くの魔物を殲滅させていた。

 その速さは、周りの冒険者や兵士よりも数倍速くそれを目にした者達は揃って驚愕していた。


「なんて強さだ」

「あぁ、もしかしたら、彼女が言っていた事は本当なのかもしれない」

「そうだな。それに、彼女のおかげで侵入を防げている上に魔物の数も段々減っている。これなら、何とか凌げるかもしれないぞ」


 俺達は彼女、アカリの戦う姿を見てこの戦いに希望を感じてきた。

 それは、自分達だけではなく周りの者達も同様であり彼女の戦う姿に希望を感じ触発されたのか今までよりも士気が上がった様に感じる。


「俺達も負けてられないな」

「おう、残らず狩り尽くしてやる」

「意気込み過ぎてへまをしないでくれよ」


 そして、俺達も負けじと気合いを入れ直して戦闘をつづけるのだった。

 そんな、持ち直し始めた周りの状況を見たアカリは、少々考えこんでいた。


 これなら、ここは何とかなりそうかな?

 街の中の状況も気になるしここは任せて中を確認してこようかな。


 自分や周り冒険者や兵士の頑張りでそれなりに魔物を減らせた。

 なので、余程の事が起きない限り問題はないように思われる。

 そう結論付けたアカリは、街の中へと向かう事にした。


「え~~と……居た。ちょっと、そこの兵士の人!」

「ん?君か!どうかしたか」


 私は、先程少し顔を合わせた冒険者と共に居た兵士の男性を見付けると声を掛けて呼び止める。

 向こうも、声を掛けてきたのが私だと気付いたのか直ぐに止まってくれた。


「私は、街の中の様子を見てくるから離れるね」

「そうか、了解した。君のおかげで、大分持ち直せたから問題ないだろう。ここは、任せてくれ」


 兵士の男性も問題なさそうだと判断した様で特に何も言わずに了解してくれた。


「増援が可能そうならまわす様に言っとくから。それじゃあ、頑張ってね」

「感謝する。君も気を付けてくれ」


 そうして、兵士と別れた私は街に向かうのだった。


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