第45話 真夜中の激戦(3)

 目の前に突如として現れた魔王を前に私や冒険者、領軍の兵士。

 それだけでなく、魔物までも動けないでいた。

 僅かでも動いてしまえば死ぬ。

 そう思わせる程に魔王から感じる威圧感から恐怖を感じた。


「おや?どうして彼らは固まってるんだい?」


 しかし、当の魔王は私達の気持ち等つゆ知らずこちらを見るとそう言ってきた。


「仕方ありませんよ我が主。人間は、群れなければ何も出来ない脆弱な存在。強大な力を有する絶対的強者である我が主を前にすれば恐怖し何も出来なくなるのも当然です」


 魔王の隣に居るザクトと呼ばれている青年の私達を見下す発言に内心かなりイラッ!!っときたが発言内容通りこの場に居る誰1人として魔王の威圧感に恐怖し身動き1つ取れないでいた。


「ハハハ。誉めても何もないよザクト君。しかしそうか。人間の諸君!安心すると良い。今回は、私は暴れるつもりは無い」


 私、そして戦場に居る全ての者達は、魔王のその言葉に驚く。

 今回は、暴れるつもりは無い。

 その事が、本当なのであれば私達と街の人々が生き残れる可能性は高まるだろう。


 しかし


「暴れるつもりは無いだと?ふざけるな!!誰が魔王の言葉等信じるものか!そもそも、この魔物の軍勢はお前らが原因のモノだろ!」


 その通り。

 こんな軍勢を寄越して街を襲わせておいて、自分は暴れるつもりは無いと言う魔王の言葉等信用は0に等しい。

 その事に街を守る使命を持つマルクスさんは、怒りから激昂する。


「別に君達が信じようが信じ無かろうがどうでも良いよ。今回は、私は見学でザクト君が君達の相手をしてくれる。人間諸君には厳しいかもしれないがまぁ、楽しんでくれまたえ」

「おい、待て!!」


 魔王は、そう言うと再び闇を生み出してその中に消えていった。

 それにより、魔王から発せられていた別次元の威圧感が消え私達はようやく動ける様になった。

 しかし、魔王が消えたからといって問題が解決した訳ではない。

 魔物の軍勢は、まだ多く居る。


 そして、何よりも…………


「それでは、人間共よ我が主の為に死んでくれ」


 ザクトと呼ばれる倒さなければならない敵が増えてしまった。


 魔王に比べたら当然ながら弱いだろうけど多分強いよねコイツ。

 鑑定してみるか?


 アカリが、目の前のザクトを警戒しながら1度鑑定をしようと思ったその時。


「コイツ1体なら何とかなるだろ」

「そうだな。行くぞお前ら!!」

「おう!!」

「恨むんならてめえの大好きな主を恨むんだな!」


 魔王の威圧感で強さを見分ける感覚でも鈍ったのか1体だけなら倒せると思ったのだろう。

 4人の冒険者がザクトへと向かって行った。


「ちょっ!馬鹿!!」


 私は、何の考えも無くザクトへと向かって行った冒険者を止めようとしたが周りの魔物も再び活動を再開した事で間に合わず止められなかった。


「おら!!……は?」

「死ねや!……な!?」

「な!?何が、がぁ"!?」

「が…あ"ぁ"」


 冒険者達がザクトを囲み攻撃した瞬間。

 冒険者の攻撃はザクトの身体を通り抜ける様に空振り次の瞬間には囲んでいた内の2人が崩れ落ちた。


「嘘でしょ」


 あの一瞬で、崩れ落ちた2人は首を斬り裂かれ胸を貫かれて殺されたのだ。


「てめえ、よくも!」

「大事な仲間を殺しやがって!!」


 大事な仲間を殺された事に2人は怒りから再びザクトへと攻撃を仕掛けようとする。


「弱いな。これじゃ、ろくに楽しむ事が出来そうにないな」


 しかし、そんな2人等眼中に無いのかザクトは2人へと見向きもせず何か考え事をしていた。


「今度こそもらった!!」

「やったか!」


 考え事をしているザクトの背後からの2人同時攻撃。

 今度こそ仕留めたとそれを見ていた私達も彼ら同様に思った。


「は!?ぐあ"っ!?」

「な!?また!がっ!」


 完全な背後からの攻撃。

 確かに攻撃が当たったにも関わらず再び身体を通り抜けるかの如く攻撃は空振りに終わっていた。

 そして、攻撃されていたザクト本人はいつの間にか2人の背後に移動し2人の首を鷲掴み拘束した。


 そして


「これが良さそうだな」

「な!?あ"あ"ぁ"!!!」

「や、やめ!!があ"ぁ"ぁ"」


 2人の首に噛みついた。


 おい!まさか!!


 魔物達の攻撃を対処しながらその光景を見た私は、その行為に覚えがあり嫌な予感が頭を過る。

 間違いであってくれと願う。

 しかし、現実は非情でアカリの嫌な予感は的中した。


「ア"ア"ァ"ァ"ァ"!!!」

「ウウ"ア"ア"ァ"ァ"ァ"!!!」

「さあ!下僕共よ行け!!」


 2人が、屍食鬼グールにされた。


「な!?何をするやめろ!」

「おい!仲間だろ!?何で攻撃して!!」

「何やってんだ!!やめろ!!」


 屍食鬼にされた2人は、ザクトの声を皮切りに仲間の筈の冒険者や領軍の兵士へと襲い掛かる。

 ザクトが何かをした。

 それは、皆も分かっているものの屍食鬼にされたと分かっていない様で何故仲間の筈の2人が、襲って来るのか分からず混乱が起きる。


「多少は、面白くなってきたな。もう幾らか作ってみるとするか」


 ザクトは、そう言うと恐ろしい速度で移動し多くの冒険者、兵士に襲い掛かり彼らを屍食鬼へと変貌させる。


「ア"ア"ァ"ァ"ァ"!!!」

「ウウ"ア"ア"ァ"ァ"ァ"!!!」

「ガア"ァァァァ!!!」

「ウオ"ア"ア"ァ"ァ"ァ"!!!」

「ウ"オォォォォ!!!」

「グア"ァァァ!!!」


 その結果何体もの屍食鬼が生み出されてしまい戦場は更なる混乱に包まれてしまう。


「いや!止めて!!」

「五月蝿いな人間。すぐ終わるから少し黙ってぐあっ!?」

「ハァ~~セーフ。間に合った」


 私は、魔物の攻撃から何とか抜け出し咄嗟にザクトを殴り飛ばして屍食鬼を生み出すのを止めた。


「ありがとう助けてくれて」

「どういたしまして。それと、直ぐに他の人達に彼らはコイツに屍食鬼にされて暴れてるって伝えてくれる?」


 私は、周りの魔物やザクトから目を離さずに助けた冒険者の彼女に伝言を頼む。


「貴方はどうするの」

「アイツをどうにかしないと不味いでしょ?」

「そんな!他の人達と協力しないとあんなの勝てない!!貴方1人じゃ無理よ!!」


 正直にザクトの相手をすると答えるが、彼女は私1人では無理だと言う。

 しかし、周りは魔物の軍勢、屍食鬼にされた冒険者や兵士達の相手で手一杯で協力を頼む等とてもじゃないが出来そうにない。


「良いから行って!貴方が居ても邪魔になるだけなの!アイツとの戦闘に巻き込まれて死にたいの!!」

「う、ごめんなさい!」


 酷い事を言ってしまったが自分が本当に邪魔になっていると理解した彼女は、他の人達にアカリの伝言を伝える為に走って行った。

 それを見送ったアカリは、こちらに近付いてくる者の足音に気付きそちらを向く。


「いきなり殴るとは、酷いな」

「五月蝿いな吸血鬼。襲ってきたんだから殴られる位別に良いだろ」

「気付いたのか」


 首への噛みつきとその後、暴れだす冒険者や兵士達の様子から以前資料で読んだ屍食鬼に似ていると思ったのだ。

 この世界で人間を屍食鬼に出来るのは基本的に吸血鬼位なもの。

 だから、コイツが吸血鬼だと気付く事が出来たのだ。


「ま、気付いた所で貴様1人で俺を相手出来るとは思えないがな」

「うん。本当それな」

「は?だったら、何で立ち塞がるんだ貴様?」


 おっといけね。

 死ぬかもしれない緊張感やら焦りで思わず変な事を口走ってしまった。

 だけど、事実1人で対処出来る様な相手じゃ無いんだよなどう考えても。


「誰かがお前の相手しないといけないんだから仕方ないじゃん。嫌ならこのまま帰ってくんない?」


 私は、分かりきっているが「帰ってくんない?」と試しに聞いてみる。

 が、当然…………


「帰る訳ないだろ。この街は必ず滅ぼす」

「そっか、なら私も全身全霊死ぬ気で抵抗させてもらうよ」

「ならその覚悟見せてみろ!!」


 私とザクトの戦いが始まった。


 ※※※※※


 マルクスは、酷く焦っていた。

 突如として魔王が現れた時は、自分達も街も滅んだと思ったが何の気紛れか魔王はザクトと呼んでいた仲間を1人と魔物の軍勢を残して闇の中へと消えて行き助かったと安心した。

 だが、安心等していられなかった。

 ザクトと呼ばれる魔物は、恐ろしい程に強かったのだ。

 そして、恐ろしく厄介な存在でもあった。

 魔物の軍勢を相手するので手一杯でザクトが、何をしたのか分からない。

 しかし、ザクトに何かをされたであろう冒険者や兵士達が仲間である我等に暴走して襲い掛かってきたのだ。

 本当に訳が分からない。

 他の者達と相談したくとも軍勢を相手にしている為にそんな隙は微塵もない。

 このままでは、ただでさえ不利であるのに更にこちらの戦況が悪くなる。

 そう思っていたその時、こちらに走ってくる者達の姿が見えた。


「マルクス隊長!!」

「どうした!!」


 走ってきたのは、部下と冒険者の女性の2人だった。


「大事な報告が」

「分かった。1度下がるぞ」


 2人の表情から、かなり大切な話しだと思い落ち着いて話す為に1度下がる事にする。


「話してくれ」


 城門を抜けて戦場から下がった俺は、部下の報告を聞く。


「はい。どうやら、暴走している冒険者、兵士達はザクトと呼ばれる魔物により屍食鬼にされたと思われます」

「どう言う事だ?」


 俺は、報告された事に思わず聞き返す。


「それは、彼女から」

「私が、ザクト?って奴に襲われそうになった時にフードを被ってる少女に助けられたんです。その時に、皆が屍食鬼にされていると伝える様に頼まれて」

「フードの少女……彼女か!」


 マルクスは、彼女からの話しで彼女を助けたのがアカリだと分かった。


「?と言う事は、今そのフードの彼女がザクトを相手しているのか!?」

「はい。私が居ても邪魔になると言われて」

「今すぐ彼女の元に増援を!!」

「隊長無理です!増援に向かわせる人手がありません!仮に街中の防衛に回してる者を向かわせるとしても時間が掛かりすぎます」


 俺は、アカリ君の無茶を聞いて直ぐに増援を送らねばと慌てる。

 しかし、部下からの言葉でそんな余裕がまず無い事を思い出す。


「クソッ!!アカリ君すまない。どうか、無事で居てくれ。……屍食鬼だったな」

「そのアカリと言う少女の言葉が事実ならばそうですね」


 屍食鬼とは、吸血鬼により人間が魔物へと変えられた存在。

 人を襲い、時には喰らう凶暴な魔物だ。

 マルクスも、過去に何度か屍食鬼の討伐をした事があるので実物をみた事がある。

 なので、思い出してみると確かに今暴れている冒険者や兵士の様子と似ていた。


「恐らく、アカリ君の言ってる事は正しい。俺が過去に討伐した屍食鬼と似ている」

「だとすると……彼らはもう」

「あぁ、もう助けられない。殺すしかない」


 屍食鬼になり魔物へと変えられた人間は、元に戻せない。

 現段階では、屍食鬼を人間に戻す方法は見つかっていないのだ。

 だから、屍食鬼になった彼らには申し訳ないが殺すしかない。

 屍食鬼になったとはいえ共に戦った彼らの命を奪うのは心苦しい。

 しかし、屍食鬼になった彼らがこれ以上仲間を傷付けない為にも殺すべきだろう。


「俺が、戦場全体に伝える。2人は、戦場に戻って加勢してくれ」

「わかりました」

「了解しました」


 そうして、2人と共に城門をくぐり戦場に戻ると俺は城門横に立ち大きく息を吸い込むと戦場全体に伝えるべく大声を出す。


「冒険者、兵士よ聞け!!今現在暴れている者達は屍食鬼へと変えられている!!彼らを戻す方法は無い!!これ以上彼らに仲間を傷付けさせない為にも我等の手で殺すのだ!!それが、屍食鬼にされた彼らの為だ!!」


 マルクスの声は、戦場に居る全ての者達に伝わった。

 それを聞いた冒険者、兵士達は自分達に襲い掛かってくる屍食鬼へと変わり果てた仲間を見て苦しむ。

 本当に殺さないといけないのか。

 どうにか助けられないのか。

 他に何か手は無いのかと。

 しかし、彼らも屍食鬼になった者が元に戻れないのは知っている。


 だから…………


「すまない」

「ウ"…ア"……ァ"ァ"」

「ごめん」

「ガア"……ァ…ァ」

「許して」

「ウオ"…ア"ァ"…ァ"」


 これ以上彼らが人を襲い傷付けない為に、自分達の手で殺すのだった。


 そして


「大分戦況が戻ったか」


 時間が少々掛かったものの何とか屍食鬼になった者達を倒しきる事が出来た。

 それにより、魔王が現れるより前と同じ位には戦況が戻せたかとマルクスは戦場を見渡して思いこのまま、有利な状況に持っていきたいと思った。


 だが


 いや、無理だな。

 いったい、どうすれば。


 最大の問題…………吸血鬼のザクトを倒さない限り不可能だと。

 マルクスは、どうすれば良いのかと悩む。

 吸血鬼とは、この世界で過去何度も人々に大きな被害をもたらした最悪の魔物。

 正直に言えば吸血鬼相手に勝てるイメージは全く湧かない。

 しかも、冒険者4人を軽くいなしたあの姿からしてザクトは吸血鬼の進化個体と思われる。


 そんな存在相手にどう戦えば良いんだ。


「そういえば、ザクトとアカリ君は何処に居るんだ?」


 2人から、アカリ君が1人でザクトの相手をしていると聞いた。

 だが、アカリ君とザクトの姿が戦場の何処にも見えなかった。


「アカリ君の実力ならそう簡単に負ける事はないと思うが」


 マルクスはアカリの実力を直接見たからかなり高いと分かる。

 だから、簡単に負けないと思うものの不安はあり戦場に姿が見えない事からより不安が大きくなる。


「アカリ君を信じよう。今は、私も戦わなけ『ドガアァァァン!!!!!!』…………は?」


 アカリを信じて自分も今は戦おうしたその時、自身の横を何かがもの凄い速度で通り過ぎ城壁に衝突した。

 通り過ぎたモノが何かは分からないがその何かは、かなりのスピードで衝突した様で頑丈な筈の城壁を一部破壊していた。


 いったい、何が。


 マルクスは、確認するべく破壊された城壁の元に走って向かう。

 そして、たどり着いた城壁の元に着いたマルクスは衝撃を受けた。

 何故ならば、そこには…………


「な!?そ、そんな……アカリ君!!!」


 気絶し横たわるアカリの姿があったのだから。

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