第44話 真夜中の激戦(2)

 援軍が来た事で私は、城門をくぐって1度後退する事が出来た。


「フゥ~……やっと、ひと息つけた」


 少し休憩しようと城門の壁に腰掛けて地面に座り込んでいると此方に走って近付いてくる足音が聞こえ私は、俯かせていた顔を上げる。


「嬢ちゃんお疲れ」

「あ、おじさん」


 近付いて来た足音の正体。

 それは、先程私に援軍が来たと教えてくれた門番の男性だった。

 なお、おじさん呼びは名前がわからないからアカリがそう呼んでるだけ。


「本当に助かった。あの軍勢から城壁を守ってくれてありがとう。嬢ちゃんが居なけりゃ今頃、俺や同僚は死んでただろうし城壁は破壊されて魔物が街に侵入してたかもしれねぇ」


 おじさんは、私の元まで来ると開口一番感謝の言葉を述べてきた。

 助かった。ありがとう。と。

 確かに、あの規模の魔物の軍勢がなんの抵抗もされずに暴れれば城壁は援軍が到着する前に破壊されておじさんの言う通りになっていたかもしれない。

 それを考えれば、おじさんの感謝の言葉は間違いなく正しいだろう。

 ただ、私はおじさんの言葉を訂正した。


「おじさん。お礼はありがと。だけど、感謝するのはまだ早いよ。街が危険な事に変わりはない。私が倒したのは、せいぜい数百程度。魔物はまだ、何千匹と居るんだからね」


 かなり本気で頑張ったが、僅か10分足らずでは数百匹倒すのが限界だった。

 進化した事でそれなりに強くなったつもりだったが、ラノベや漫画の主人公の様に軍勢相手に無双は、今の私程度じゃ無理だった様だ。

 まぁ、無双出来ないのは初めからわかっていたが。


「そうだな。嬢ちゃんの言う通り街が危ないのに変わりないな」


 おじさんは、私の言葉を肯定する様にそう言って頷いた後、続けて喋る。


「嬢ちゃんは、随分無茶するな。城壁の上で見てて肝が冷えたぞ。空から落ちてきたと思えばスケルトンジャイアントを一撃で倒すしその後、1人で軍勢相手に戦闘を繰り広げるんだからな。何度呼んでも戻って来ないし危ない瞬間が何度もあってハラハラしたぞ」

「それは、ごめん。」


 おじさんの言葉に私は、素直に謝った。

 危ない瞬間があって結構無茶したのは事実だからだ。


 本当、スケルトン、オーク、ゴブリンの群れ。

 しかも、各群れそれぞれ進化個体複数連れに気付いたら囲まれてた時は焦った。

 咄嗟に、飛んで離れて遠距離から魔法を叩き込んで各群れは半壊させたけど気付くの遅れてたらマジで危なかったかも…………ん?


「どうした嬢ちゃん?」

「あれ」


 おじさんの疑問に私は、城門の方を見ながら指差して答える。


「ん?あぁ」


 私の指差した先を見たおじさんも理由がわかり私同様そちらに顔を向ける。


「すまない。良いだろうか」


 顔を向けた先には、領軍の人達が纏っていた物と同じ鎧を着込んだ男性が此方に走って来ており私達の元まで来ると話し掛けてきた。


「構わないですよ」

「俺も同じく」

「ありがとう。私は、軍の指揮官を務めているマルクスと言う」

「私は、アカリ。適当にアカリって呼んで」

「俺は、ベン。門番をしてるもんです」


 相手が自己紹介してきたので此方も自己紹介をして名前を名乗る。


「用は何ですか?」

「あぁ、報告にあった少女。つまりアカリ、君と情報の確認と共有をしようと思ったのだ」

「確認と共有?」


 私は、意味が良くわからず聞き返す。


「君が戦闘中に気付いた事等がもしあれば教えて欲しい。それを元に作戦等をたてる。あの数に対して作戦が通用するのかわからんが無いよりはマシな筈だ」


 なるほど。

 確かに、我武者羅に戦闘を繰り返すよりは何らかの作戦に乗っ取って動いた方が効率が良いだろう。

 しかし、私が戦闘していて気付いた事等…………


「数が進化個体含めて異常に多い事ですかね?下位個体?を進化個体が引き連れて襲って来るのがかなり面倒くさかったです」


 気付いた事は、せいぜいクソみたいに数が多く多種多様な魔物が居る事ぐらい。

 作戦に使えそうな事等は気付けなかった。


「使えそうな事じゃなくてすみません」

「いや、気にしなくても良い。君は、たった1人であの数を相手取っていたのだ。何かあったとしても気付けないのも無理はない」

「あの、少し聞きたい事があるんですけど」


 少々気になる事があったアカリは、色々知ってそうなマルクスさんが丁度居る。

 なので、今の内に聞いて見る事にした。


「何だ?気にせず聞くと良い。答えられる事なら答えよう」

「それじゃあ、警告の放送で魔王が攻めて来たって言ってましたけど本当にこの魔物の襲撃って魔王が原因何ですか?」


 アカリの気になっていた事の1つ。

 それは、今起きている魔物の襲撃が本当に魔王が原因なのかが気になっていたのだ。

 軍勢の中に魔王と思われる存在が居ない上に軍勢を指揮する存在も見受けられない。

 なので、本当は魔物の氾濫等の類いであって魔王の襲撃は間違いでは?と疑問に感じたのだ。


「いや、間違いない。ベンだったか。この魔物達が現れる直前に空間に闇が広がってなかったか?」

「あぁ、あった。突然何もない筈の城壁の前方に闇が空間を塗り潰す様に広がったんだ。そうしたら、その闇からあの魔物の軍勢が出てきたんだよ」

「闇から魔物が」


 闇の中から魔物が出てくる。

 まさか、そんな風にいきなり現れていた何て思わなかったので私は、それを聞いて内心とても驚いた。


「今までの魔王による襲撃の記録に同じ様に襲撃直前に闇が広がるのを見たとある。その為、今回の襲撃も魔王によるモノと見て間違いないだろう。魔物の氾濫ならそんな何も無い城壁前で突然起きる筈も無いだろうからな」


 どうやら、今回の襲撃は魔王によるもので間違いないようだ。

 だとすれば、魔王本体や指揮するモノが居ないのは何故なのだろうか?


 これで事足りると思って様子を見てるのかな?

 それとも、こちらを馬鹿にして手を抜いてるとか?

 まぁ、どっちにしろこちらが不利なのに変わりないか。


「他に、聞きたい事はあるか?」

「他ですか。そう言えば、来るのが少し遅かった気がしたんですけど何かあったんですか?」


 警告の放送があってから彼らが到着したのは30分は掛かっていたと思う。

 アカリが、早く着いていたとしても少し遅く感じる。


「それはだな住民の避難誘導に物資や装備、出撃の準備をしていたのだ。あまりにも突然だった為に予想以上に時間が掛かってしまった。恐らく、冒険者の方も同じ様な感じだったと思う」


 アカリは、それを聞いて納得した。

 今回の事は彼の言う様にあまりにも急過ぎた。

 魔王が存在し襲撃してくる可能性があるとしても急にそんな事が起きればマルクスさんの言う通り住民の避難、出撃準備と時間が多少掛かるのも仕方ない。


「君には、本当に感謝している。君が居なかったら私達が来る前に街に侵入されてたに違いない。軍を代表して感謝する。本当にありがとう」

「気にしなくて良いですよ。私は、私がしたい様に行動しただけなので。所で、住民の方達は何処に避難したんですか?」

「ん?知らないのか?」

「この国出身では無いので知らなくて」

「そうなのか。基本何処も同じだと思うが。避難場所は、領主邸、冒険者ギルド、商業ギルド。他にも幾つかあるが、その3つが基本的な避難場所に指定されている」

「そうだったんですね」


 確かに、その3つなら誰でも知ってる場所で建物の広さもある。

 仮に、長期の避難になろうと物資もそれなりに揃っているだろうし避難場所には最適だろう。


「聞きたい事は以上か?」

「ですね。良し、休憩終わり。もうひと頑張りしますか」

「もう休憩は良いのか」

「はい」


 元々、吸血鬼なので体力の方は問題なかった。

 ただ、一瞬も気を抜けない状態が続いて精神的に疲労していたので少しひと息つきたかったのだ。


 え~~と、あ、あれか。


 私は、目的の場所に行く為に門とは別の方へと歩いて行く。


「?何処に行くんだ嬢ちゃん?」

「門はこっちだぞ?」

「別について来なくても良いですよ?」


 2人が疑問を持ちながらも私に続く様について来ているのを見てそう言う。

 しかし、構わずついて来るのを見た私は何処に行こうとしているのか話す事にした。


「ちょっと、城壁の上に行こうと思いまして」

「何故城壁の上に?」

「上に行っても何も無いぞ?」

「ついて来ればわかりますよ」


 そうして、私達3人はそのまま城壁の上に続く石階段を登り城壁の上に着いた。


「結構人が居ますね」

「あぁ、軍、冒険者の弓、魔法使いとサポート係達だな」


 アカリとマルクスさんの言う通り城壁の上には、思った以上に人が多く軽く20、30人位は居た。

 下で戦っている者達と上手く合わせて矢、魔法を放ち着実に魔物の数を減らしている。


「まさか、嬢ちゃん魔法をここから放つのか?」

「アカリ、君は魔法も使えたのか!?」

「うん使えるよ。それと、おじさん正解」

「だけどよ、確か嬢ちゃん下で普通に使ってなかったか?」


 おじさんの疑問も仕方ない。

 アカリは、援軍が来るまで魔法と武器を使って戦っていたのだ上に来ずとも良いと思ったのだろう。


「下では出来ない事でね。それに、上からじゃないと魔物の位置をちゃんと確認出来ないしね。ここが良いかな?」


 城壁の上を邪魔にならない様に歩きながら周りと間隔のある良さそうな位置を見付け止まる。


「それじゃあ、やるか」


 そして、アカリは右手を上にかざす。


「嬢ちゃん?」

「何を始めるんだ?」

「見てればわかるよ」


 かざした掌の先に魔力を集めファイアーボールを生み出す。


「ファイアーボール?」

「放たないのか?」


 2人の言う通りアカリはファイアーボールを放たず手を上にかざしたままでいる。

 2人は、何故放たないのかと疑問に思いもう一度声を掛けようとした。


 次の瞬間…………


「熱っ!?」

「なっ!?」


 ファイアーボールが急激に膨張し1メートル近く巨大化したのだ。

 急激な膨張、ファイアーボールの放つ熱に2人は驚きの声をあげアカリから離れる。


「ちょっ!?お前何してる!!今すぐ止めろ!!魔力が暴走して爆発するぞ!!」


 そして、その声で気付いたのか私の横。

 間隔を開けてたので3、4メートルは横に居た魔法使いの男性が慌てて此方に近付いて止めようとしてきた。


「問題ない。知ってる」

「は?……いや、何言ってる!おい、本当に爆発するぞ!!」


 男性の声をスルーしてそのまま膨張しているファイアーボールへと魔力を注ぎ続ける。


 やっぱり、キツイね。


 アカリが今している事。

 それは、以前サイクロプスを殺すに至ったあの一撃。

 あれを、再び放とうとしているのだ。


 とは言え、地道に魔力制御を練習したりしてたから前よりは少しやりやすいね。


 以前なら既に制御出来るかどうかギリギリのラインまで魔力を込めている。

 しかし、地道な特訓の成果か制御に多少の余裕を持てた。


 この位で良いかな。


 アカリは、1割程MPを残す位で魔力を込めるのを止める。

 最大威力を求めるなら、全MPを込めるべきだろうがあいにくこの後も戦闘はあるので魔力切れの症状が出る手前辺りで止めた。


「狙うのは…………お」


 アカリは、このとんでもない熱量の塊を何処に放つか戦場を見渡す。

 そして、人が誰も近くに居らず魔物しか居ない場所を見付け…………


「あそこが良いかな。それじゃあ、いっけぇぇ~~~~!!!」


 制御を外し暴走させ放った。


 ボゴアアァァァァン!!!!


 アカリが、放った次の瞬間制御が外れ暴走した熱量の塊は魔物達と接触し激しい爆炎と熱風を放ちながら爆発した。

 爆煙が晴れた爆心地には…………


「おい、マジか」

「何て威力だ」

「嘘だろ」


 少なくとも、百匹以上は居た筈の魔物が全て爆発により死に更に周囲に居た魔物も爆発の衝撃で瀕死、重傷を負うダメージを受けていた。


 そして、それを放った当の本人は…………


「ハ、ハハハ……嘘でしょ?威力エグ」


 横に居る3人以上に顔を引きつらせて自分の放った魔法の威力に引いていた。


 あっぶねぇ~~!!?

 何あの威力!?

 魔物だけのエリアに放ったおかげで人に被害でなくて良かった~~!!!


 サイクロプスを殺した時は、アカリは気絶した為に威力がどんなモノか見れずにいたのでこれだけの威力があると知らなかったのだ。

 もし威力を甘く見てもう少し人が居る場所に近い所に放っていたなら今頃人と魔物の爆殺死体の山が出来ていた事だろう。

 ただ、今放った分でも爆風で魔物と人の多くが地面を転がっていたが。


 ま、まぁ、結果良ければ全て良しだよね。


 アカリは、とりあえずこの事はこれで終わりとして収納から魔力回復薬を取り出して飲む。


「それじゃあ、今度は下に行って来ますね」

「は!?ちょ!」

「アカリ君!?待っ!?」

「は!?」


 魔力回復薬を飲み干したアカリは、そのまま城壁の上から飛び降り戦場へと向かった。

 それを見た3人は、飛び降りたアカリに驚いていたが飛び降りたアカリはそれに気付かず魔物を倒すべく戦場を駆けるのだった。


 そして…………


「大分減ったかな?」


 戦闘が始まってから約2時間位。


 冒険者、領軍の頑張りもありあれだけ居た魔物の軍勢もようやく減ってきたのがわかり終わりが見えてきた。


「お前ら!!魔物の数もあと少し!!もうひと踏ん張りだ!!気を抜くんじゃねえぞ!!」

「我等でこのカラクの街を守り抜くのだ!!魔物等に負けるな!!力を振り絞れ!!」

「「「「「「おおおぉぉぉっ!!!!!」」」」」」


 決して犠牲が出ていない訳ではない。

 しかし、戦っている彼らは誰1人今も諦める事なく自分達の暮らす街を守るべく戦いの勢いが衰える事はなかった。


 これなら、本当に凌ぎきれるかも。


 私は、彼らの勇猛果敢に次々と魔物を倒していく姿を見てこのままいけば本当に街を守りきれるかもしれないと思った。


 しかし


「なんだ!?」

「おい、何だよあれ!!」


 そう事が上手く運ばれる等


「何だよあの黒いの」

「あれは、あの闇は!!?」


 あるわけ無かった。


「全く、使えない奴等だ。あれだけ居ながら、こんな街1つ落とせないとは」

「まぁまぁザクト君。落ち着きなよ。そんな簡単に終わったらつまらないだろ。楽しもうじゃないか」

「我が主、それは………そうですね。たまには、私も楽しんでみます」


 突如戦場に広がった闇。

 そこから戦場には場違いな、まるで街中を歩いてる様に言葉を交わしながら現れた2人の男の姿。

 一見すれば、ただの青年にしか見えない。

 しかし、2人が現れた瞬間まるで空間ごと押し潰されるかの様な感覚に襲われる。

 特に、金髪の男からは別次元の威圧感を感じた。




「…………終わった。詰んだ」




 魔王が現れた。

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