第43話 真夜中の激戦(1)

「フゥ~~~」


 息を吐き出して心を落ち着かせる。


 上手くいくのか微妙だったけど何とかなったね。


 私は、今足場にしている白い物体。

 つい先程、全身に身体強化を施しながら魔力を纏わせた大鎚による全力の一撃で頭蓋骨を粉砕したスケルトンジャイアントの亡骸?を見て一安心………とはいかなかった。


 コイツを倒した所で、何千居るかわからない魔物の内の1体に過ぎないんだよねぇ。

 全くもって安心出来ないよ。


「ハァ~……マジで嫌になる」


 周りを見渡すと自分を囲う様に魔物が群がっており、今にも私に襲い掛かろうと近付いてきている。


 大鎚じゃこの数の敵に対応出来ないね。

 他のに変えるか。


 私は、魔物達を警戒しながら大鎚を仕舞い代わりに剣を取り出す。


「死ぬ気で頑張りますか」


 そうして、魔物の軍勢とアカリの戦闘が開始した。


 ※※※※※


 アカリの戦場突貫より少し時間を巻き戻る。


 阿鼻叫喚に包まれる街の中。

 アカリは、宿屋の部屋で1人頭を抱えていた。


「…………どうすれば良いの」


 宿屋にはアカリ1人。


 警告の放送があった瞬間、客、従業員関係無く我先にと暴れる様に宿屋を出ていった為にアカリ以外に既に誰も居なかった。


「魔王が相手とか確実に詰みゲーじゃんか」


 アカリが、頭を抱えていた理由はコレ。

 今回襲撃してきたのは、タダの魔物では無くこの世界で恐らく最強の存在であろう魔王。

 普通に考えてアカリの言う通り詰みゲーだ。

 この街に運良くSランククラスの冒険者や兵士が複数人単位で居ない限り勝ち目等無いに等しいだろう。


「今ならまだ、1人で逃げれば間に合うはず」


 アカリは、風魔法で空を飛べる。

 空を飛びさえすれば恐らく魔王の襲撃から逃れる事が出来るはずだ。


 しかし


「そんな事したら……絶対に後悔するじゃんか」


 アカリは、元々悪人であれば見捨てる事が出来る冷酷な判断が出来るタイプの人間だ。

 しかし、それと同時にこれまでの行動からわかる通りアカリは、見ず知らずの人や友人を見捨てる事が出来ないお人好しでもある。

 極端な例えだが、これがもしロクでもない人間しか居ない犯罪都市みたいな街ならアカリは即見捨てて街から逃げている。

 しかし、この街には短い間だったが仲良くなった人達が居た。

 その事がアカリに見捨てるという判断を出来なくさせているのだ。


「後悔先に立たず……だっけ」


 アカリは、今の自分の心境からそんな言葉が出てきた。


 後になって酷く後悔するってわかってるならやって後悔した方がマシか。


「今世でも、長生き出来ないかもなぁ」


 アカリは、長生きしたいもんだよ。と内心思いながらも覚悟が決まり戦いの為の準備を始めた。


「さてと、行きますか」


 服を何時ものコートに着替えたアカリは、宿から出て街の様子を確認する。

 辺りは、警告があった時とは打って変わって避難が終わったのか人気が一切なく静まり帰っていた。

 その代わりとして、この街の城門がある方角から魔物が暴れているであろう騒音や魔物の咆哮が幾つも聞こえてくる。


「当然だけど魔物の軍勢は居るか。魔王がどっか後方で傍観してるって展開だと嬉しいけど」


 そんな独り言を呟きながら私は、戦場である城門に向かって走った。


 それにしても、聞こえる音からしてかなりの魔物の数っぽいけどコレMP持つかな?

 一応低性能だけどMP回復薬は買って幾つか収納に入ってるから多少は回復出来るけど、魔法だけで戦闘してたら直ぐにMP尽きるかも。


「血液支配は人前では使えないし。武器があれば多少は、MP温存して戦えるんだけど…………あ」


 そんな、MPの心配をしていた私の前に天の助けかの如く武器屋があった。


「やったラッキー!スミマセーン。って居るわけないか」


 こんな状況。

 当然人が居るわけがない。


「…………どうしよう」


 武器が欲しいアカリ。

 しかし、店員が居らずお金を払えない。

 その為、アカリは…………


「『後で必ずまた来ます。アカリ』これで良いか」


 支払いテーブルの上に金貨3枚とメモ程残して必要な武器を持っていく事にした。


 正直な話し武器代をテーブルに置いて行くとはいえまるっきり窃盗でしかないので滅茶苦茶気が引ける。

 しかし、魔物の軍勢と戦闘する為に武器が必要。

 なので店には非常に申し訳ないが戦闘が終われば謝りに来るつもりなのでこれで許して欲しいと思う。

 まぁ、私が生きてればだけど。


「これで、幾らかは魔法を使わずに戦えるかな?」


 自分でも使う事が出来る武器を収納に仕舞った私は、店を出て再び城門に向かって走る。


「大分騒音が大きくなってきたね」


 城門が近くなり聞こえてくる騒音がかなり鮮明になってきた。

 多種多様な魔物達の咆哮、恐らく城壁を破壊しようとしているのだろう岩と何かが何度もぶつかる衝突音、そして、城壁付近に居るのだろう人々の悲鳴にも似た声。


 急がなきゃ。


 アカリは、聞こえてくる音から状況が芳しくないとわかり足を早めた。

 少しでも、早く戦場となっている城壁にたどり着く為に。


「……着いた」


 そして、とうとう城壁前までたどり着きアカリは、どの様になっているのか知る事が出来た。


「嘘でしょ……誰も居ない」


 いや、居ないわけではない。

 門番であろう人の姿はある。

 しかし、その他の冒険者や領軍の姿が1人も見当たらないのだ。


 警告の放送があってから15分、20分ちょっと。

 領軍はともかく、冒険者位は居ると思ったのに。

 タダの魔物ならともかく相手が魔王と魔物の軍勢だから作戦でも考えてるの?

 まあ良いや。

 私は私でやるだけだ。

 さて、どうやって城壁の向こうに行くか。


「!?君!!何でこんな場所にまだ居るんだ!早く避難しなさい!!」

「ん?」


 アカリが、城壁の向こうに行く方法を考えてたら自分に向けられる声が聞こえ顔を向ける。

 そこには、怒ってる様な慌ててる様な顔をしている門番の男性が1人居た。

 恐らくと言うか間違いなく自分の事を避難に遅れた住民と思っているのだろう。


「心配なく。こう見えて冒険者の1人です。やっぱり、飛ぶしかないか。それでは」

「は!?ちょ!?待ちなさい!!」


 門番の静止をそのままスルーしアカリは、風魔法で空を飛び上がりそのまま城門を越えずに高度を高く上げていく。

 城門を越えない理由。

 それは、1度戦場の様子をしっかり確認する為だ。


「ハ、ハハハ……やっば」


 これ、何体居るの?

 クソヤバいレベルで魔物がわんさか居るんだけど。


 見えた光景は、思わず笑いが漏れる。

 しかも、笑いがひきつるレベルで酷い光景だった。

 見える限りに溢れる様に居る魔物、魔物、魔物。

 しかも、その軍勢の中には多くの進化個体が含まれているときた。

 もう、笑うしかない。


「とりあえず、索敵…………だめだこりゃ。多すぎてわけわからん」


 見えなくはないが暗くて上手く判断しかねたので、どれだけの魔物が居るのか探ろうとした。

 しかし、索敵スキルにはあまりにも多くの反応が返ってきて寧ろ余計にわからなくなった。

 ただ、それでも1つだけわかった事がある。


 それは…………


「魔王ぽいのは居なさそうだね。良かった」


 この状況を見た上でラッキーと言って良いのかわからないがどうやら、魔王と思われる強い反応は索敵範囲には無かった。

 もしかしたら、範囲外の何処かに居るかもしれない。

 それでも、少なくともこの近くに居ないとわかっただけでもアカリの精神は多少軽くなった。


「確認出来た所で行きますか」


 まずは、あの城壁を破壊しようとしてるデカブツをやるか!


 標的を定めたアカリは、デカブツであるスケルトンジャイアントに向かって落ちる様に飛んで行く。

 そして、落ちる最中収納から武器屋から持ってきた武器の1つ。

 自分の背丈に近いサイズはある大鎚を取り出しながら身体強化、そして魔力を纏わせながら大きく振りかぶり豪打一閃。


「墓場に帰りやがれクソデカブツがあぁぁぁ~~~~!!!!シャオラアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!」


 ドッガアアアアァァァァンッッッ!!!!


 スケルトンジャイアントの頭蓋骨に向けて振り下ろした大鎚。

 それは、狙い通りスケルトンジャイアントの頭蓋骨にぶつかり大きな衝突音を響かせながら頭蓋骨を粉砕したのだった。


 ※※※※※


 戦闘を開始してから10分程度経過した。

 僅か10分程度。

 しかし、この魔物溢れる戦場では1分1秒が恐ろしく長く感じアカリの体感では既に何十分、下手したら1時間近く戦ったのではと思う程に休む間もなく魔物と連続で戦い続け既に何十何百と魔物を武器、魔法を駆使して殺していた。


「ハァハァハァ……ちょっと、キツイかなぁ」


 ちょっと等と軽口を叩く様にアカリは言うが、僅か10分足らずでアカリは酷く消耗していた。

 体力こそ吸血鬼であるのでどうにか持っている。

 しかし、精神面はそうともいかず一瞬も気を抜けない激しい戦闘により精神的な疲れで酷く集中力が乱れてきていた。


「ゴオアァァ!!!」


 そして、ひと息つく間もなく再び目の前には緑色をした肌のこの世界では、初めて見る魔物。

 トロールが襲い掛かって来ていた。

 何時ものアカリなら、初めて見る魔物だと多少高揚したりして鑑定をする。

 しかし、今はそんな事が出来る筈もなく。


「チッ!…ハァッ!!」

「ゴッガァ…ァ」


 トロールの攻撃をトロールの真上にジャンプして交わしそのまま、手に持つ剣をトロールの頭頂部に深く突き刺して殺す。


「ハァハァハァ……やっぱり普通にキツイ」


 この様に襲われた瞬間に即殺を繰り返しているのだ。

 そして、激しい戦闘をしていれば見落としも当然ある。


『カラカラサリジャリジャリ』


 軽い何かが揺れる様な削れる様な音が鳴るのが聞こえ其方を向く。

 そこには、もう何体も粉砕したスケルトンジャイアントが城門を破壊しようとしている姿が見えた。


「クソッ!また!!」


 それを見た瞬間アカリは、瞬時に風魔法でスケルトンジャイアントの真上に飛び剣から大鎚に武器を入れ換える。


 そして


「いい加減にしやがれクソがあぁぁぁ!!」


 ドッガアアアアァァァァンッッッ!!!!


 もう5体目になるスケルトンジャイアントを粉砕した。


 これ以上は、流石に1人じゃキツイ。

 領軍や冒険者はまだなの?


 アカリが、増援はまだ来ないのかと内心焦燥感を感じ始めたその時…………


「嬢ちゃん!!来たぞ!!」


 門番の男性の声が聞こえた次の瞬間。

 閉ざされていた門が開き。


「行くぞお前ら!!」

「我等も続け!!」

「「「「「「「おおおぉぉ!!!!!」」」」」」」


 待ちに待った冒険者と領軍がやって来た。


「ハァ~…やっとかよ。遅いよ」


 ようやくやって来た彼らを見て私は、多少心に余裕が出来たのだった。

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