第35話 末路(1)
その日、グズダスは朝早くからギルドのホールにある酒場で酒を飲んでいた。
「ゴクゴクゴク……ぷは~。気分が良いと酒もいつも以上に旨く感じるぜ」
いつもなら、こんな朝早くから酒を飲む事はない。
しかし、今日はあの忌々しい糞女であるアカリが今度こそ確実に死ぬ目出度い日である。
自然と気分が高揚して酒に手が伸びてしまい煽るように酒を飲んでしまうものだ。
あの変態であるベルドは元Cランクの冒険者。
問題を起こして冒険者資格を剥奪されているが剥奪前は、Bランクに昇格間近と言われた程の実力者だ。
いくら、あの糞女が実力があったとしても抵抗出来ずに死ぬだろう。
クククッ……今度こそ、あの糞女が死ぬ。
死ぬ瞬間を見れないのは心底残念極まりないが、まぁ死体を見れば幾分スカッとするだろ。
あぁ、ベルドが来るのが待ち遠しいぜ。
それから、グズダスは酒場で気分良く酒を飲みながらベルドが訪れるのを待つのだった。
そして
時間が過ぎていき昼を過ぎた頃、グズダスが待ち望んだ人物がギルドへと姿を現した。
糞女と兵士達に運ばれる酷く怯えたベルドの姿が。
パリンッ!!!
…………な、なんでだ。
なんで生きて。
グズダスは、飲んでいた酒の酒瓶を床に落とした事にも気付かない程に自分の見たモノが信じられなかった。
※※※※※
私は、全身に走る痛みを耐えながらベルドを引き摺って街の中を歩いていた。
クソ、全身火傷に四肢欠損程ではないけどマジで身体中が痛い。
ベルドとの殺し合いで出来た切り傷、刺し傷が痛いのは当たり前だが、アカリがここまで苦しんでいるのにはもう一つ理由がある。
出血は止まってるとは言え、再生スキルをOFFにしてるせいで傷が治らなくて痛みが引かないから結構キツイ。
何故OFFにしてるのか。
これが、スキルLv1の再生スキルなら良かったが現在は、スキルLvが3にまで上がった為、OFFにしておかないと刺し傷はわからないが、切り傷位なら少しすれば治るからだ。
考えてみて欲しい。
切り裂かれズタボロになったうえに乾いてない血だらけな服を着てるのに身体は無傷。
怪しまれるに決まっている。
だから、わざと再生スキルをOFFにして傷が治らない様にしているのだ。
それに、視線が滅茶苦茶集まってるよぉ。
私は、周りを軽く見る。
視界に入るのは此方を怪しい者を見るような顔と視線で見てくる多くの街の住人の姿。
まぁ、当然だろう。
多くの人が行き交う街中をボロボロで血だらけな姿で男を引き摺りながら歩いている者がいればこうなるに決まっている。
ハァ、この男を引き摺ってるから周りの視線もえげつない程に集まってるよ。
これじゃ私、これから街中を歩く度に今日の事で視線を集める事になるんじゃ…………
いや、ワンチャンフード被ってるし服もボロボロだし無事な服を着てれば別人と思われるはず……ん?
アカリが、そんな事を考えながら歩いていたその時、前方から数人の警備兵が走って来るのが見えた。
このままだと、通行の邪魔になるね。
ちょっと、横にずれよう「そこの君、すまないがちょっと良いか」ってえ?
道の横にベルドを引き摺りながらずれようとしたら何故か警備兵がアカリの前に立ち止まり話し掛けてきた。
「え?私ですか?」
「あぁ、そうだ。君だ」
アカリは、何故警備兵に話し掛けられたのか疑問に思った。
しかし、良く考えてみれば街中を今の状態で歩いていれば通報されるに決まっていると気付き納得する。
ちょっと、いや、かなり冷静を欠いてたからそんな事も考えれてなかったよ。
少し落ち着かなきゃ。
「住民から通報があってね。傷だらけの女性が男を引き摺って歩いていると。見た所君の様だな。何があったのか知らないが酷い怪我だ直ぐに手当てしなければ。それに、そっちの男も。本当に何があったんだ。」
どうやら、予想通り通報されてた様だ。
アカリは、どの様に返答すべきか考えたがここは、正直に答えた方が良いと思い正直に答える事にする。
「説明はします。だけど、このままギルドに向かっても良いですか?元凶が居るはずなんです」
「いや、先に手当てをしないと。本当に酷い怪我だぞ」
「大丈夫……ではないですけど大丈夫です。ギルドに向かわないといけないんです。それに、ギルドに医務室があるので手当てはそこでします」
「駄目だ。手当てが先だ。お前達、彼女とそこの男を治療院まで運ぶぞ」
「「「ハッ!!」」」
「いや!?ちょ!?待って~~!!」
私の意見は同意して貰えず警備兵達に手当ての為に治療院へと強制連行されるのだった。
そして、治療院に到着した私とベルドは急患扱い?で直ぐ様治療された。
因みに怪我だが幾つか性能段階がある回復薬の内の結構良い性能の回復薬を使われたお陰でかなり良くなった。
但し、完治はしてないから今の私は全身包帯だらけにされてる。
それで、現在私は警備兵達に何があったのか話していた。
「そんな事が。許せないな」
「そうだな。良く無事だったなと言うか勝てたな君」
「まぁ、これでも冒険者なので」
正直あの男が初めから殺す気で来てたらヤバかったし進化前の私だったら本気で死んでた可能性がある。
「ところで、あの男だが外傷が少なく骨折の数が異常に多かったのだが何をしたんだ?」
「男が私を殺す事に一切手を引くつもりが無かったので心を折るのと動けなくする為にへし折りました。…………もしかして、これ私捕まります?」
時間が経って冷静になった今だから思うが少しやり過ぎたと思う。
ぶっちゃけ、私は性根が腐った様な奴は死のうがどうでも良いと思う等少しドライな部分がある。
だが、今回はその性格や殺されかけた怒りや憎悪を含めてもやり過ぎたと今更ながら思う。
ヤバいヤバいヤバい。
どうしよう。
もしかして、私最悪の場合過剰防衛で捕まる?
いや、落ち着け、まだそうとは限りない。
まずは、落ち着いて話を聞こう。
最悪捕まるなら私の力全てを使ってでも全力で逃げよう。
私は、表面上では落ち着いた雰囲気で話をしているが内心物凄く慌てながら警備兵に話を伺った。
「両手の指に両腕、両足、肋3本骨折に両手首脱臼とかなり酷い怪我をしていた。しかし、君え~と「アカリです」アカリ君も数十箇所の裂傷、刺し傷を受けた上に聞く限り理不尽な理由で殺されそうになったんだ。仕掛けてきたのは男から。アカリ君は殺されそうになったのを抵抗したんだ。捕まる事は恐らくない。但し、次あってもここまで怪我を負わせない様に。やっても足や利き手を折る程度にする事。わかったかい」
「はい」
私は、内心「いや、折ってもいいのかよ!?」と思ったけど前世とは世界自体が違うのだから事件等の対応も変わるかと納得した。
「よし。それでは、アカリ君を殺すよう男に依頼した奴を捕らえに行こうか。アカリ君は動けるか?」
「問題なしです。行きましょう」
警備兵の言葉に対して私は問題なしと答え立ち上がる。
「それじゃあ、行こう……と言いたいが」
私も警備兵達も動ける。
しかし、今すぐギルドに向かえない理由があった。
それは
「やめろ!!離せ!!お願いだ離してくれ!!」
私を殺しにきたベルドは、治療を受けて目が覚めて私を見た瞬間からずっとこの様に喚いて逃げ出そうとするのだ。
この男も私同様に骨折が完治してないからろくに動けない為に逃げる等不可能なのに。
「これじゃ、向かえないな。元凶の男を捕まえるのにコイツの証言は不可欠なのに」
「スミマセン隊長。暴れられて手がつけられなくて」
見ててわかってはいたが、やはり手がつけられない様だ。
後、今話してたこの人隊長なのね。
ハァ~あんまし気は進まないけどこのままだと、ギルドに向かえないしやるか。
私は、ため息をつきながら男が暴れるベッドの側に近づく。
「離せ!!ちくしょう!!いい加「おい」っ!?」
私は、怒ってはいない。
しかし、聞いてて底冷えする様な冷たい声で男に話しかける。
「今すぐ黙れ。そして、大人しく私とこの人達の言う事に従え。良いな出来るな?…………さもないと……5、4、3「嫌だ!!やめて下さい!!言う事を聞きますから!!」
男は、完全に拷問の際のカウントがトラウマになってたのか私がカウントしだした瞬間顔を青ざめさせて悲痛な声をあげ暴れるのを止めた。
「これで良し」
「アカリ君。いったい、彼に何をしたんだ?物凄く怯えてたぞ」
「ガン無視カウント骨折りをして心を折った?」
「いや、何故君が疑問系なんだ。まぁ、良いかお前達、その男を運べ」
「「「……ハッ!!」」」
警備兵達は、男の怯え様に驚きながらも動けない男を運ぶ。
「それじゃあ、行きましょうか」
そうして、治療院を出た私達はギルドに向かい昼を過ぎた頃到着した。
着いた。
恐らくゴミは、ギルドでこの男からの知らせを待ってるはず。
まぁ、ギルマスに話せばどのみちゴミは終わる訳だから居ても居なくても関係ないんだけどね。
さてと、入り口に立ってると邪魔になるし入るか。
ギルドに入ると案の定物凄く目立った。
冒険者、ギルド職員関係なく私達の事を驚きに満ちた目で見てくる。
しかし、今はそんな事どうでも良く私はゴミが居ないか見渡す。
そして、見付けた。
ホールの一角、そこにある酒場に昼間なのに酒を飲むゴミの姿が見える。
「見っけ」
私が見付けると同時にゴミも周りの様子の変化で私の事に気付き驚いたのか飲んでいた酒の酒瓶を床に落としていた。
「アカリ君、見付けたのか。いったい、どいつだ」
「ホール奥の酒場に居るあの男です」
ゴミの居る酒場を指差しながら隊長に伝える。
すると、隊長は部下の警備兵へ命令する。
「捕らえろ」
「「ハッ!!」」
ベルドを抱える1人を残して残りの2人が隊長の命令に従い今だに呆然としているゴミの元へと駆けていく。
そこで、ようやくゴミがハッとして正気に戻った様だが既に遅い。
その時には、目の前まで警備兵の2人が迫っておりゴミは呆気なく確保されて私達の前まで連行されてきた。
「何のつもりだてめえら!!俺が何をした!!とっとと離しやがれ糞野郎が」
「黙れ下衆がっ!!何をしただと?惚けるのも大概にしろ!!」
この状況でもそんな言動出来るとかいっそ呆れを通り越して感動して……はこないな。
うん。普通にゴミとしか思えないわ。
私が、そんな事を内心思っていると連行されてきたゴミが私を見て喚きだす。
「てめえ、俺が何をしたってんだ。こんな事してただで済むと思ってんのか」
「ただで済むと思ってるけど?寧ろお前こそただで済むと思ってる訳?わからな「ちょっと、待って下さい!!」あ、カリナさん」
私が、ゴミがやった事をホールの大衆の前で話そうとしたその時、私達の元にカリナさんがやって来た。
「アカリさん。この騒ぎは何ですか。それに、兵士の方達までいますし。何で、グズダスさんを捕らえてるんですか?」
「それ「助けてくれ!!この女と兵士共が濡れ衣で捕まえようとしてるんだ!!」……」
カリナさんの質問に答えようとしたらゴミが話を遮りカリナさんに助けを求め出した。
「どういう事ですか??」
当然何も知らないカリナさんは、困惑して意味がわからないと私を見てくる。
それに、周りの冒険者やギルド職員も騒ぎの様子を見てザワザワしだす。
「簡潔に言いますと、そこのグズダスがこの男確かベルドだったっけ?に私を殺す様に依頼して今日殺されかけました」
私は、周りにも聞こえる様に少し大きめな声で今日あった事を話す。
すると、カリナさんや周りで聞いてた冒険者やギルド職員達が驚愕の表情を浮かべて騒ぎだした。
「ほ、本当なんですか」
「て、適当な嘘つくんじゃねえぞ!!俺は、そんな事依頼してねえ!!それに、何処に俺が依頼したって証拠があるんだ!!ふざけんな!!」
「証拠ねぇ。おい、話せ」
私は、ゴミの喚き声を不快な顔で聞きながらベルドに話す様に言う。
「ヒッ!!ほ、本当に話さないといけ「5、4、3」は、話しますから!!」
そうして、ベルドはゴミに依頼された経緯とその際の会話内容、報酬の受け渡しを今日ギルドで行うはずだったと話した。
「ふざけるな、ふざけるな!!俺は、そんな男知らねぇ!!適当な事を抜かすな!!」
「な、お前こそふざけるな!!依頼したくせに、逃げようとすんじゃねえ!!お前の、お前のせいで俺は、あんな目に合わされたんだぞ!!」
「知るか!!お前なんか知らねえんだよ!!俺に濡れ衣を着せようとすんじゃねえ!!」
ゴミ共はお互いに責任を擦り付け様としてるのか喚き声をあげながら言い合いをする。
それを、私は冷えた目で見ていたが話が進みそうになかったので警備兵へ視線を向けて黙らせてもらった。
「お前ら少し黙れ」
「あぁ、少し黙ってろ」
「ぐあ!?」
「が!?」
床に取り押さえられる様に組伏せられたゴミ共が大人しくなったのを見た私は、話を進めていく。
「カリナさん。以前説明した際に私は、サイクロプスから逃げる為に隙を作るのに失敗したと言いましたよね?」
「はい」
「さっきあのベルドが言いましたけど私は、グズダスにサイクロプスから逃げる際に後ろから刺されて囮にされて殺されそうになったんです。つまり、この2人両方から私は殺されかけました。信じてもらえます?」
「私は、信じます。許せないです。つまり、アカリさんは逆恨みと金目的で殺されそうになったって事ですよね。そんなの酷いです」
「カリナさん。ありがとう」
カリナさんは、私の話を信じてくれた。
それに同調する様に周りの冒険者やギルド職員達も口々に信じると言ってくれる。
しかし、1人今だに諦めずに無駄な抵抗をする者が喚き続ける。
「ふざけるな!!俺は、やってねえんだ!!認めねえぞ!!そもそも、殺そうとしたのはこの男だろうが!!罪を被るのはコイツだけで十分だろ!!」
そうゴミ野郎だ。
周りの雰囲気的にゴミの言い分が周りの人達に信じられる事はまず無いだろう。
ゴミも周りの雰囲気から不味いと理解したのか顔を青ざめさせ始めている。
これで、ゴミは終わりかな?
だが、私の鬱憤を少しは晴らしたいので組み伏せられているゴミの側に近づき屈む。
「残念だったね私が死ななくて。自業自得だよ?私は、突っ掛かってきた邪魔なモノを払っただけ。大人しく真面目に冒険者活動してれば良かったのに。身の程を弁えない行動をするから破滅するんだよ?本当ザマァないね?」
フゥ~~、ちょっとスッキリ♪
さてと、後はここに居ないギルマスにも話せば完璧に終わるね……ん?
私が、スッキリしてゴミから背を向けてカリナさん達の元に戻ろうとしたその時、後ろから騒がしい声が聞こえ振り返る。
「て、てめえ。糞、糞が!!てめえさえ、てめえさえ居なければっ!!」
「お前!暴れるな!!あっ!!」
「危ない!!避けろ!!」
あ。
振り返った先には、拘束を振りほどき剣を抜き私を突き刺そうとしているゴミの姿がすぐ目前まで迫っていた。
「てめえだけでも、ブッ殺してやるぁっ!!」
ブシュッ!!!
「ゴボッ」
ボタボタ
私は、油断していたのと傷が完治していなかった為に動きが鈍り避けきれず剣は私の右胸を貫いていた。
「アカリ君!!貴様!!」
「お前!!何て事をしやがった!!」
「は、離せ!!離しやがれ!!ソイツだけは、ソイツだけは、ぜってえ殺してやる!!」
「アカリさん!!誰か手伝って急いで医務室に!!」
ハァ、最後の最後でやらかしたなぁ。
ヒュ-ヒュ-……ヤバい、意識が、朦朧としてきた。
私は、霞む意識の中で自分が運ばれる景色を最後に意識を失うのだった。
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