第34話 刺客

 ギルドを出た私は、我が友であるフィーが待つ宿屋『銀の匙』へ向かっていた。


 フィーどうしてるかなぁ。

 元気だと良いんだけど~って言っても5日位?しか経ってないしそうそう何かある訳ないか。

 あ、見えてきた。


 アカリが内心そんな事を考えながら歩いてると目的地である宿屋『銀の匙』が見えてきて無事到着した。


 ヨシ…開門!ってただドア開けるだけだけど。


 キィーー


 ドアを開けるとその先に見えたカウンターに、先程までアカリが考えてたフィーが座りながら仕事をしているのが見えドアの開く音でこちらに気付いたのだろう。

 下を向いていた顔を上げて挨拶してきた。


「いらっしゃいませ~」

「ただいまフィー!!今帰「う"っ、ボタボタ」うぇぇ!!フィー!?ちょっ!!どうしたの!?」


 フィーの挨拶に対して私も、被っていたフードを外して挨拶を返したら突然鼻血を出した為驚き慌てて駆け寄る。


 すると


「ア、アカリさんが、只でさえ女神の如き美しさ、可憐さを合わせ持つアカリさんがあんな、お、お洒落な服を着るなんて。駄目、無理、直視出来ない」

「…………」


 アカリは、聞こえてきた声の内容に先程までの心配が嘘の様に消え去った。

 どうやら、怪我やら病気で鼻血が出たのではなくアカリの姿に興奮して鼻血が出たらしい。


 心配して損したよ。

 うん。まぁ、この様子なら普通に元気っぽいね。


 アカリは、とりあえず宿泊手続きをしようと今も鼻血を出し続けて興奮してる様子のフィーに声を掛ける。


「フィーとりあえず、ただいま。宿泊手続きしたいんだけどお願いして良い?」

「あ、はい。お帰りなさい。ちょっと待ってて下さいね」


 フィーは、そう言うと一度席を外して宿の奥へと行き少ししたら戻ってきた。

 どうやら、顔を洗ってきた様で先程まで鼻血で赤くなってた顔が綺麗になっている。


「お待たせしました。それで、部屋ですけど前と同じ部屋にされます?」

「うん。それと、とりあえず一週間の食事付きでお願い。はい、お金」

「丁度ですね。こちら部屋の鍵です。時間になったら食事を部屋に運びますね。それと、お風呂も以前と同じ時間帯で自由に入れますので」

「了解。それじゃあ、部屋に行くね。仕事頑張ってね」

「はい。ごゆっくりお過ごし下さい」


 本当は、もう少しフィーと話したりしたかったが仕事をしているフィーの邪魔になってもいけないので直ぐに部屋へと向かった。

 その後は、特にやる事も無かったので夕食が運ばれるまで部屋で休み運ばれてきた夕食を食べた後、風呂へ入りその日は色々あり疲れていたので就寝するのだった。


 ※※※※※


 翌日、私は孤児院へ遊びに行こうと思い昼前から出掛けていた。

 その際、調査の時に食べたパンをお土産にしようと思い孤児院へと向かう途中にパン屋へと寄り道して買っていく。


「これ位あれば足りるかなぁ?う~ん。まぁ、皆食べ盛りの子供だしこれ位食べるよね?さてと、孤児院に行きま「あれ?アカリさん?」ん?あ、アリサ!」


 いざ、孤児院に行こうと思ったその時、突然横から名前を呼ばれ向くとそこには、アリサが立っていた。


「やっぱり、アカリさんだ。おはようございます。調査から帰ってきたんですね。所で、どうしたんですかこんな所で」


 私が、アリサの名前を呼んだ事で私だと確信したアリサは、私の元に駆け寄ってくる。


「おはよう。昨日帰ってきたんだ。孤児院に遊びに行こうと思ってね。お土産のパンを買ってたの。アリサの方はどうしたの?それと、良く気付いたね?今は、フード被ってたのに」

「街中での依頼の帰りです。それと、フードの隙間から偶然白銀の髪と赤い瞳が見えたので」


 どうやら、今の私の特徴とも言える髪と瞳の色から私だとわかったみたい。

 結構目深にフードを被ってたつもりだが、アリサは私よりも背が低いので下から見上げる形で見えたのだろう。


「なる程それで。あ、もし孤児院に帰る途中なら一緒に行っても良い?」

「はい。それじゃあ、向かいましょうか」


 そうして、私は偶然出会ったアリサと共に孤児院へと向かうのだった。


 ※※※※※


 アリサと共に私の調査での事やアリサの最近あった出来事など雑談しながら歩いていた時、私はある事に気付き足を止めた。


「アカリさん?どうかしたんですか?」

「アリサごめんね。今日午後からギルドで用事がある事忘れてたよ。悪いけど遊びに行くのは明日でもいいかな?」


 私は、怪しまれない様に当たり障りのない嘘をついて遊びに行くのを断る。


「用事ですか?わかりました。それじゃあ、明日遊びに来られた際に皆でおもてなししますね」

「うん。ありがとう。これは、皆で食べてね」


 私は、そう言って手に持っていたパンをアリサに手渡す。


「ありがとうございます。皆で美味しく頂きますね。それじゃあ、アカリさんまた明日」

「うん。また明日」


 そうして、アリサと別れて孤児院とは別方向へと私は歩いて行く。

 しばらく歩き続け城壁近くに周りに一切の人気の無い広場を見付けた私は、その広場へと入り……


「出てきたら?居るのはわかってるんだから」


 後ろを振り返り私はその様に言った。


「やっぱ気付いてたのかよ」


 振り返った先から、聞き覚えの無い男の声が聞こえ建物の物陰から男が出てきた。


「バレバレだったけど?」


 嘘である。

 偶然アリサと孤児院に向かっている際に視界の端にこの男が私達を付けている姿が見えたからストーカーされていると気付いたのだ。


「まぁ、別にバレていたとしても俺的にはターゲットが自分から襲いやすい場所に行って手間が省けたんだけどな」


 ターゲット、襲いやすいね。

 大方あの屑で糞なゴミ野郎が私を殺して欲しいとでも依頼した殺し屋って所かな?

 あのゴミあんな大層な大口叩くくせにいざピンチになったら自分でやらずに他人任せとかとんだ小心者のヘタレだな。

 ただまぁ、今回に限っては丁度良い。

 いや、寧ろ好都合過ぎる。


 だから、つい……


「フフ」


 私は、笑ってしまった。


「何笑ってるんだ?俺に襲われる怖さでおかしくなったったのか」


 目の前の男は、急に笑った私の事を自分を怖がっておかしくなったのかと見当違いな解釈をしながら見てくる。


「フフフ……別に、ただ可笑しいだけ」


 だってそうだろう?

 まさか、こんな早くゴミが行動を起こしてくれるなんて思わなかったのだから。


 あのゴミには、昨日ギルマス達に本当の事を教える等脅したがそもそも、教えた所で証拠が無いのだから捕まえようがない。

 だから、ゴミを破滅させる為に確実な証拠が欲しくて昨日はあの様にわざと煽ったのだ。


 ワンチャン私をまた殺しに来ないかと思って昨日は、わざとゴミを煽ったけどこうも思い通りに動いてくれるとは本当笑えてくるよ。

 まぁ、コイツが本当にゴミから送られてきた殺し屋だったらだけどねぇ。


「いきなり笑って変な女だな。まぁ良いか、確認だがお前はアカリって女か?」

「何で名前を聞く訳?てか、お前誰だよ」

「俺の名前はベルド。グズダスって男にアカリって女を殺す様に頼まれた殺し屋みたいなもんだ。で、結局お前はアカリって女であってるのか?違ったら面倒なんだが。まぁ、違っても俺的にはまた女の泣き声が聞けて良いんだけどねぇ」


 どうやら、ゴミが依頼した殺し屋で間違いないようだ。


 それにしても、類は友を呼ぶって言葉があるけどこの男ゴミ並みに腐った野郎だな。

 それと、普通依頼主の名前はターゲットに言わないでしょ。

 あれか、私程度簡単に殺せるから別に言っても問題はないってか?


 アカリは、目の前の男の人を馬鹿にする言動に少々苛つきながらフードを取って名乗る。


「私がアカリであってるよ。で、殺すの?私の事をさ」

「頼まれた事だからねぇ。それに、成功すれば金貨3枚貰えるし。だからさ、死んでくれない?」


 金の為に人を殺すね。

 本当に腐った野郎だよ。

 てか、金貨3枚って金積み過ぎだろ。

 どんだけ、確実に私を殺したいんだよあのゴミ。

 まぁ、私を殺さないと自分が破滅するんだから当たり前か。


「ほざけ腐れ野郎。やれるもんならやってみろ」

「ハハハ!!良いねその顔。その顔が絶望に歪んで泣き叫ぶ瞬間を見るのが楽しみだ!!」


 そして、私と腐れ野郎のベルドとの戦闘が始まった。


 ※※※※※


 戦闘が始まった瞬間先程まで離れた場所に居た筈の男が目の前に現れ私に向けて剣で刺突を繰り出してきた。


「!?う"っ!!」


 私は、それを上体を反らす事でなんとか交わしたが完全には避けきれず右腕を掠めてしまった。

 しかし、直ぐに体勢を直し身体に身体強化を施して反撃しようとしたが、既に目の前から男は姿を消していた。


「何処に」

「こっちだよ」

「!?ぐあ"ぁ"!!」


 消えた男の声が左方向から聞こえ瞬時にそちらを向く。

 しかし、向いた時には先程同様既に近くまで剣が迫っており避ける事が出来ず左肩を貫かれた。


 クッソ……超痛い。

 マジで、どうなってるの。

 忽然と姿が消えたと思ったら離れた位置から声が聞こえるしかと思えば間近に突然現れる。

 これじゃ、魔法で狙えないじゃんか。

 いったい、どうやって動いてんの。


「クソッ!!」


 私は、足に魔力を込めて一気に間合いを詰め腕の痛みを無視して男に殴りかかる。

 しかし、やはり男はそれを一瞬で姿を消して避け今度は右横方向へと姿を現す。


「おっと、危ない。ククク、良いね。その、痛みに耐える苦し気な表情。見ててゾクゾクするよ。さぁ、もっと俺を興奮させてくれ!!」


 男は、そう言ってまた姿を消すと同時に右真横に現れ斬りかかってくる。


「う"っ!!ハァ!!」

「ぐあ"っ!?……て、てめえ斬りかかられながら殴るとか狂人かよ」


 私は、斬りかかられるのを避けきれないと判断しカウンター気味に男の顔面を狙い殴る。

 てっきり、また姿を消して避けるかと思ったが今度は攻撃が当たり確かな感触を殴った左拳に感じた。


「一回攻撃出来たからって調子に乗んなよ!!」

「ぐっ!!」


 その後、男は正体がわからない移動方法で私の攻撃を避けたり攻撃してきた。

 それにより、私の身体は斬り傷、刺し傷だらけになったがギリギリで避けられているお陰で致命傷だけは避けられている。


「しぶといな。てめえの苦しむ声も顔も飽きたからさっさと死ねよ」


 男は、先程まで私を攻撃しながら興奮してたのが嘘の様に冷めた表情でそう言った。


「うるさい。ちょっと黙れ」


 私は、ここまでの戦闘でわかった事があった。

 それは、この男は私の目の前から真後ろに現れる事なく何故か現れた対角線上に決まって姿を消してから現れる。

 そして、先のカウンターの様な突然の攻撃には反応が悪い。


 転移の類いじゃなくて高速移動的なやつなの?

 あ、そうだ鑑定。


 私は、今まで男の猛攻で出来なかったがようやく出来た隙に鑑定を男にかける。


 ────

 名前:ベルド

 種族:人間

 状態:通常

 LV:46

 HP:196/205

 MP:83/97

 筋力:178

 耐久:98

 敏捷:169

 魔法:68

 ─スキル─

【剣術Lv4】【縮地Lv2】【強腕Lv3】

 ─称号─

 なし

 ────


 縮地、これか謎移動の正体か。

 確か、特殊な移動技術の名前だっけ?

 それと、戦闘してわかってた事だけど普通にこの男強いな。


「飽きたし死ねよ。じゃあな」


 男は、そう言って目の前から消える。

 しかし、私は鑑定したお陰で転移系ではなく特殊な高速移動だとわかり今までの傾向からして次に現れる場所を予測し……


「フンッ!!」

「な!?ごあ"っ!!」


 蹴りを放ち真正面に現れた男に叩き込んだ。


「ヨシ!!」


 やっぱり、直線的な移動しか出来ないみたいだ。

 てか、良かった。

 腐れ野郎の性格的に最後は目の前から刺してくると思ったから正面に蹴り入れたけど横からだったら危なかったよ。


「どうしたの?殺すんでしょ?攻撃してきたら?」

「クソッ!!」


 男は、私の挑発に苛つき連続で縮地し私の後ろへと現れる。

 しかし、連続で縮地する際に見えた男の位置から後ろに現れる予測した私は後方へと魔法を放つ。


「エアブラスト」

「ぐあぁぁ!!」


 男は、アカリが放ったエアブラストの暴風をまともに受けてしまい吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。


「こ、この、ガァ"!?」

「ハァ~思ったより手こずったよ」


 アカリは、吹き飛ばした男の元に立ち仰向けに倒れる男の腹部を踏みつけて男が動かない様にする。


「てめえ、何勝った気でいやがる。クソ、足を退けやがれ!!」

「敗けを認める気は無いの?」


 私は、踏みつけている足を退かそうともがいている男を見ながらそう言う。


「当たり前だ!!俺が、てめえより弱い訳ねえだろ!!てめえは、俺の金の為にさっさと死ねば良いんだよ!!」


 しかし、男は認める気が微塵もなくここで大人しく敗けを認めれば良いものをアカリに対してそう喚くだけだった。

 なので、アカリは強引な手段を取る事にする。


「そっか。じゃあ、仕方ないね」

「な、てめえ、何をする気だ」


 アカリは、男の右手を掴み上げて人差し指を掴む。


 そして


「いつまで、威勢が持つのかな?」


 ベキッ!!


 人差し指をへし折った。


「ぐあ"ぁ"ぁ"!!!!」

「ねえ?認める?」

「ぐ…クソがっ」


 まだ、認める気が無い様だ。

 なので……


「そっか、5.4.3.2.1.0」


 ベキッ!!


「があ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!」


 今度は、中指の骨を折る。


「認める?」

「ぐ、あ"ぁ"……死ね」

「ふ~ん、5.4.3.2.1.0」


 ベキッ!!


「あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!……クソ、やめっ!?」


 ベルドは、アカリの顔を見てようやく自分が間違った選択をしたと理解する。

 ベルドの事等どうでも良いかの様に見る余りにも冷めた目で見ているアカリの顔を見て。


 ※※※※※


 ベルドは、何で自分がこんな目にあっているんだともう何度目になるかわからない事を痛みに耐えながら朦朧と考えていた。


「5.4.3.2.1.0」


 ベキッ!!


「あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!」


 グズダスから聞いた時は、せいぜいオークジェネラルと戦える程度の強さと聞いていた。

 俺自身ジェネラル程度1人で倒せる実力を持つている。

 なので、話を聞いて簡単に大金を儲けられて久々に女の泣き声を聞けると安請け合いした。


「5.4.3.2.「敗けで良い。お願いだ止め」1.0」


 ベキッ!!


「があ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」


 だがどうだ、今俺はこうしてその女に敗けて拷問を受けている。

 敗けで良いと止めてくれと頼んでも延々と。

 あの時、受けていなければ俺はこんな目にあわずにすんだのに。


「5.4.3.2.1.0」


 ああ、あぁ、嫌だ、くる、止めてくれ、もう耐えられない。


 ベギュッ!!


「ぐあ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!」


 痛い、もう嫌だ、止めてくれ、お願いだ。

 何でも言う事を聞くから、悪事ももうしないから、だから、もう止めてくれ。


 俺が心の中で懺悔していたその時、ふと拷問の手が止まった。


「ねぇ?止めて欲しい?」


 突然女がそんな事を言ってきた。

 当たり前だ、止めて欲しいに決まっている。


「止め…て下さい。お願い、します」

「そっか、それじゃあ、グズダスに私を殺して欲しいって頼まれた事を皆に話してくれるなら止めてあげる。出来るよね?」

「そ、それ「5.4.3.」やります!!は、話しますから止め"で下さ"い"!!お願いじま"ず」


 俺は、恐怖からもう恥もなにもかも捨てて泣いて懇願した。


「フフフ……そっか、それじゃあ、お願いね?ちゃんと話すんだよ?じゃないと『ベギャッ!!』」

「あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!」

「今度は、本当に殺すからね?」

「あ"……ぁ"ぁ"……」


 俺は、その瞬間意識を失うのだった。


 ※※※※※


 私は、意識を失った男を見てやり過ぎたかな?と思ったが気にしない事にした。

 そもそも、私の事を殺そうとしてきたのだからやり返されても自業自得であるし理不尽な理由で殺されかけて私だってゴミやこの男に対して怒りや憎悪を抱いているのだ。


「これで、証拠は手に入ったね。後は、ギルドに行ってギルマス達やゴミの前で話すだけだ」


 待ってろよゴミ野郎。

 今お前を破滅させに行くからな。

 私を殺そうとした事を後悔させてやる。


 私は、ボロボロな証拠の男を片手で引き摺りながらギルドを目指すのだった。

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