第33話 ギルドへの説明 (偽)

「落ち着きましたか?」

「はい。スミマセン」


 現在私は、受付窓口ではなく以前Dランク昇格を教えられた時と同じ様なギルド内に幾つかある応接室の1つに居る。


 何でそんな所に居るのかって?

 理由は、とてもシンプル。

 単純にホールに居るのが非常に居心地悪かったから。


 実はあの後、カリナさんを何とか泣き止ませようとしたのだが一向に泣き止む気配が微塵もなく更に、私はカリナさんに気付いて貰う為にフードを上げていたが外していた訳ではない。

 その為、端から見れば私は受付嬢に泣き付かれているフードを被った怪しい奴な為ホール中の冒険者やギルド職員の痛い視線を一身に受けた。

 なので、急遽隣の窓口の受付嬢の方に頼んでこの部屋へ案内して貰ったのだ。


「それで、何となく理由はわかりますけど何で突然泣き出したんですか?」

「それは、死んだと聞いてたアカリさんが生きてたのが嬉しくて。私、本当にショックだったんですよ!ザックさん達が帰ってきたのに何故かアカリさんだけ居なくて。ギルドマスターからアカリさんは、サイクロプスと戦闘になって生死不明で生きてる可能性が絶望的だって言われて。私、アカリさんが帰ってくるって信じてたのに」

「えっと。ごめんなさい」


 私は、カリナさんをここまで心配させてしまった事に対して素直に謝った。

 そして、ほとんど確信してた事だが案の定死んだと報告されていた様だ。


「良いんです。こうして、アカリさんが無事帰ってこられたんですから」

「そう言って貰えるとありがたいです」


 流石に、許して貰えないのはキツイのでカリナさんにこうして、許して貰えたのは素直にありがたかった。


「そう言えば、カリナさん何か職員の方達が忙しそうでしたけど何かあるんですか」


 許して貰えた事に安心した私は、気になってた違和感について早速聞いてみる。

 これが、仮にサイクロプス関連でこうなってるのなら既に片付いている事を知らせないといけない。


 まぁ、その際に私に起きた出来事を上手い事隠しながら話さないといけないけど。


「今ギルドでは、サイクロプス討伐に出る為の準備をしてるんです。その為に、何時もより慌ただしくなってまして。それより、アカリさん。一体サイクロプスからどうやって逃げたんですか?」


 やっぱりか。

 上手く誤魔化さないと。


「その事なんですけど。実は、訳あってサイクロプスはもう倒されてるんです」

「………………??……っ!!…はぁ!?」


 カリナさんは、私の言葉に最初は意味が理解出来ず?を浮かべていたものの直後、脳がようやく私の言葉を理解し驚愕の声をあげた。


 ですよねぇ。

 うんうん、わかるよ。

 あんな化け物が知らない間に倒されてたなんて言われたら驚くよね。


 私が、カリナさんの驚いてる様子に内心共感しているとカリナさんが突然立ち上がりこちらにズンズンと詰め寄ってきた。


「サイクロプスが倒された!?ちょっ!!どういう事ですか!!」

「カ、カリナさん。落ち着いて。せ、説明しますから。あと揺らさないで~」グワングワン


 アカリは、冷静さを失っているカリナさんを落ち着けようと声を掛けるが…………


「そうだ、ギルドマスターも呼んで詳しく聞かないと。アカリさんちょっと待ってて下さい。ギルドマスターを呼んできます」


 急に冷静になり私を置いてギルドマスターを呼びに部屋を飛び出して行った。


「出て行きよった。まぁ、ギルマスにも説明する手間が省けたからいっか」


 と私は、気長に待つのだった。


 ※※※※※


「ここの編成は、こうして……」

「そうだな、それじゃあここは……」

「そうね、なら…」


 討伐出発前日の今日、ギルドマスターのバングはギルド内にある会議室でサイクロプスと遭遇したザック、イリア、グズダスの3人と指揮を取るC、Bランクの冒険者3名を加えて作戦の最終調整をしていた。


「作戦やら編成はこんな感じで良いだろう。お前達もこれで良いか?」

「実力は足りないが俺が出来る事を頑張るさ」

「えぇ、アカリちゃんの仇を自分の手で取れないのは悔しいけど必ず倒してやるわ」

「あぁ、やれるだけ頑張るよ」


 ザック、イリア、グズダスの3人は、明日の討伐に対してやる気な様で俺の問いに直ぐ様返答してきた。


「やる気な様でなによりだ。だが、気持ちがから回って取り返しが付かないなんて事にならないようにしてくれよ。他の奴らも同じだ。くれぐれも気を付けて望んでくれ」

「おう!」

「任せろ!」

「了解だ!」


 他の奴らも3人同様に気合い十分な様子。

 これなら明日の参加する他の冒険者達の士気も高めてくれる事だろう。


「それじゃあ、お前達明日からの討伐は頼んだぞ。これで解さ「ギルドマスター!!」…カリナ入ってくるならせめてノックしてくれ。後、ゆっくり開けろ。ドアが壊れる」


 会議も滞りなく終わりバングが、解散を言おうとした瞬間ドアを壊す勢いでカリナが会議室へと乱入してきた。

 バングは、それを軽く窘めるが……


「そんなどうでも良い事は、今は良いんです。今は、それ以上に急を要するんです。付いて来て下さい。それと、皆さんも丁度良いので来て下さい」

「ちょっ!?待て!!と、止まれ引っ張るな!!」


 カリナは、そんなバングの言葉をバッサリと切り捨てると腕を掴み引きずる様に引っ張って行く。

 そんな光景を見せられたザック、イリア、グズダス含めた冒険者達は、驚きで立ち尽くしたが直ぐに我に返り言われた通りカリナの後を付いて行った。


 そして


「あ、カリナさんお帰りなさい。意外と遅かったですね。って何か滅茶人が居るし」

「遅くなってスミマセン、アカリさん。今ギルドマスターを連れて来ました。それと、何人か他の冒険者も居ますが気にしないで下さい」

「は?アカリ?」

「嘘だろ?」

「え、アカリちゃん」

「な……何でだ。死んだ筈じゃ」

「ん?」

「え?」

「は?」


 カリナとの会話の声、そして部屋の中に居たここに居ない筈の少女の姿にバングやザック、イリア、グズダス、そして他の冒険者達は驚きに固まるのだった。


 ※※※※※


「それで、サイクロプスが既に倒されているとはどういう事なんだ。説明してくれアカリ」


 あの後、少々……いや、かなり私が生きてこの場に居る事に驚かれたものの何とか落ち着いてもらいこの部屋にギルマス達を連れて来た理由を説明した……カリナさんが。


 さぁて、上手く誤魔化して説明出来るかな。


「はい。えっとですね。私も実は、良くわかってなくて。サイクロプスから逃げる為に隙を作ろうして失敗した事までは覚えてるんです。それで、その後気付いたら知らない2人組の冒険者?がサイクロプスを倒してて」


 私が、思い付いた嘘の理由。

 それは、もう全部知らない架空の人物に押し付けようだった。


 だって仕方なくない?

 幾ら考えても良い案が思い付かないんだもん。

 この理由を考えれたのもドイルさんやケイン達とお店で話してた時に、ドイルさんから近々オーレストに元Aランクの冒険者が来るかも的な噂話を聞いた時に何となく思い付いた位だし。


「は?アカリが、倒したんじゃないのか?」

「はい。そうです」


 どうやら、ギルマスは私が倒したと勘違いしてたらしい。

 そんな事ある筈がないのに。

 正直に言うが私は、まだまだ弱い。

 転生直後にも言ったが、幾らチート染みた力を得ても私自体が、まだ弱いのだから長年生きてきた化物に正々堂々と戦闘して勝てる訳ない。

 今回は、悪運良く体内から焼き殺して生き残ったが次サイクロプス並の敵に遭遇したら確実に死ぬ自信がある。


「それが本当の話だとしてその2人組は、何処に居るんだ?」

「あぁ、そうだ。サイクロプスは、Bランクの魔物。それをたった2人で倒すなんてどんな奴だよ」


 ギルマスも他の冒険者も私が嘘をついた架空の強者に興味がある様で聞いてくる。

 しかし、そんな者居ないのだから言える訳ない。


 なので


「わかりません。私も、気になって聞いたんですけど頑なに名乗ってくれず素顔も外套のフードで上手く見れなくてわからず仕舞いだったので。ただ、本人達は旅人と言ってました」


 何も知らない事にする。


「旅人……もしかしたら、Aランクもしくは、Sランクの冒険者が偶然近くに居たんじゃないでしょうか?彼らは、その実力から国に管理される者もいます。しかし、冒険者の多くは自由に過ごすのを好む者が多いです。なので、管理されるのを嫌がり素性を隠して転々としている者も居ると聞きます」

「なるほど、確かにあり得なくはないな」


 おぉ、何か知らんけどカリナさんのお陰で話が良い方に進んでる。

 感謝するぞ。

 名も知らぬA、Sランク冒険者達よ。


「だけどよ?倒したとしてそれを証明する物はあるのか?無いとは思うが嘘でしたなんて洒落になんねぇぞ?」


 1人の冒険者の男が私の話に対してその様に言ってきた。

 勿論、私もそう言われるだろう事はわかりきっていたので当然、証明の為の物を準備してある。


「ありますよ。ただ、ここだと汚れたりしそうで出せないので場所を移したいんですけど」

「解体場に行こう。そこなら、汚れても問題ない」


 私達は、部屋を出て解体場に移動した。

 そして、私はカバンから出すふりをして証明の物を解体場に出す。


 収納スキル持ちってバレたら面倒だし収納スキル付きカバンから出したって誤魔化せたかな?


 アカリは、収納スキルの事を考えて出したが周りはそんな事よりも目の前に出された物に目がいきアカリの心配は杞憂であった。


「その方達から討伐証明としていただいた物です」

「な!?」

「マジかよ」

「これは……信じるしかねぇな」


 アカリが、彼らの目の前に出した物それは、サイクロプスの頭だった。


 アカリが店を出た後に外に出た理由がこれ。

 いかに、ギルドで出して違和感を持たれない部分が何かと考えた結果が価値が低そうな頭で、土属性魔法で簡易更衣室を作ってコートから汚れても良い服に着替え苦労して切り落とした。

 当然その際に、全身血塗れになったが。


「どうやら、本当に倒されてた様だな。アカリお前の話を信じよう」

「ありがとギルマス」


 アカリは、ギルマスにも嘘の理由を信じて貰えた為一先ずこれで良いだろうと安心した。


「ところでアカリ、この頭なのだがギルドで買い取っても良いだろうか?」

「別に良いですよ?ここに置いたままで良いです?」


 アカリは、別に持ってても使い道が無いのでお金なるならと特に考える事なく了承する。


「あぁ、ありがとう。そのまま置いといて問題ない。買い取り金は、後日渡そう。そう言えばアカリ、ザック達から怪我をしていたと聞いたが今は、平気なのか?」

「一応平気ですよ。助けてくれた方の1人が回復魔法を使えたみたいである程度まで治りました」


 ギルマスに、怪我の事を聞かれるが私は怪我自体既に無い。

 だが、サイクロプスと戦闘になり助かったとは言え無傷なのは怪しまれると思いある程度治して貰った状態だと嘘を付く。


「そうか、それは良かった。暫くは、完治するまで安静にするんだぞ」

「はい」

「それじゃあ、俺はこれから明日の事に関してはやる事があるから失礼する。すまないがカリナ手伝って貰えるか?」

「はい。それじゃあアカリさん、皆さん、失礼しますね」


 そう言って、ギルマス、カリナさんは解体場から出ていった。


 そして


「アカリ生きてて良かった。良く戻って来たな」

「えぇ、本当に良かったわ。お帰り」

「はい。ただいま戻りました」


 先程まで、話せないかったザックさん、イリアさんと再開を喜び合う。

 2人共私の事をカリナさん同様に完全に死んだと思ってた様で生きてた事を本当に喜んでくれた。


「それじゃあ、アカリ俺達はそろそろ帰るよ。身体ちゃんと治せよ」

「アカリちゃん。また、沢山お話しましょうね」

「はい。また是非」


 ザックさん、イリアさんと軽くその場で話をした後、私の身体の事を気遣い2人は帰って行った。

 そして、他の冒険者も何時の間にか帰っておりこの場には私と顔色の悪い糞野郎のみとなった。


「いやあ~グズダスさんも元気そうですね?貴方に言われた通り足掻いて生き延びましたよ?」


 私は、目の前の顔色の悪い糞野郎に良い笑顔でフレンドリーに話し掛ける。

 但し、いっさい目は笑っていないが。


「何で生きてんだよ。……後ろから刺して動けない様にした筈だろ。それに、お前の悲鳴だって」

「でも生きてますよ?それに、私さっき説明したじゃないですか。知らない2人組に助けられたって」

「そんな訳ねぇだろ!何でだ。何でだ。何でだ!何でだ!何でだ!何で死んでねえんだよ!クソが!」


 自分が刺しサイクロプスによって確実に殺したと思ったのだろう。

 糞野郎は、思い通りにいかなかった事にイラつきアカリに対して逆上して殴りかかってくる。

 アカリは、それを軽くかわしてすれ違いざまに足を引っ掻けて転ばす。


「ぐがっ!!て、てめえ」

「残念だったね。思い通りにならなくて。精々これからは、私がギルマス達に本当の事を教えるのを怯えながら暮らすんだね。フフッ…アハハハ!!」


 本当は、今すぐ糞野郎を半殺し以上にぶちのめしたい所だが今は、その時ではないので我慢してあの時の糞野郎の真似をして見下す様に笑い解体場を出ていく事で気分を晴らす。


 さて、思い通りに行動してくれると良いけど。


 ※※※※※


「あの糞女が!!俺を馬鹿にしやがって!!あのまま、無様に死んでろよクソが!!」


 グズダスは、あの後酷く苛立ちながらギルドを出ていき人気の無い酒場で夜遅くまで酒を飲んでいた。


「おいおい荒れてんな。最近有名なグズダスさんよ」

「あ"ぁ"!!何だてめえか変態野郎」


 突然後ろから話し掛けられ誰だと思い振り返ると知ってる顔だった為放置して再び酒を飲む。

 すると、酔ってない筈の向こうからダル絡みされ話し掛けられる。


「おいおい、酷いな俺達の仲だろ。何があったんだ教えろよ」


 グズダスは、話すかどうか迷ったが問題無いだろうと思い話す事にする。


「なる程な、要するに殺し損ねて大ピンチで物凄く焦っていると」

「チッ!!そうだよクソが」


 癪に障る言い方をするが言っている事は事実なので言い返せず苛つく。


「それで、どうすんだ?殺し損ねたのならもう一度殺せば良いじゃねえか」

「出来たらとっくにしてるに決まってんだろ。だが、気に食わねぇがあの糞女は実力だけはあるんだよ。警戒された今じゃ逃げられるのがオチだ」

「ふぅ~~ん。なる程。なあ、その女俺が殺しちゃ駄目?」

「あ"?てめえがか?」


 いきなり、向こうから殺して良いか聞いてくるもんだから疑問に思い聞く。


「そうそう。最近聞けてなくてさぁ。その女強いんでしょ?なら、きっと良い声で泣き叫んでくれると思うんだよね」

「変態が。まぁ、良い。金貨3枚だ」

「お、太っ腹だね。毎度あり」

「ハッ!!もう、成功した気で居やがる」


 だが、そう言いながらもグズダス自身も既に先程までの焦りは無くなっていた。

 なんせ、目の前の報酬に舞い上がっている変態は実力だけは折り紙付き。

 コイツなら、幾らあの糞女でもおしまいだろう。


「明日中に殺せ。そんで、殺したら明日ギルドに居るから知らせにこい。報酬もそこで渡す」

「了解。ハハハ楽しみだなぁ。どんな声で泣いてくれるのかな」

「ハハハ!!知るかよ。頼んだぜ?元Cランクのベルドさんよ」


 グズダスは、糞女を今度こそ殺せると安心し笑いながら酒を飲むのだった。

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