第30話 進化後初の戦闘(1)

 領主様から返事の手紙が届いた日の内に再び討伐に参加する部隊に関する手紙がギルドマスターのバングの元に届けられた。


「流石に早いな。てっきり、明日辺りかと思っていたのだが」


 手紙には、2日後にはサイクロプス討伐に出られる様に兵の準備をする事と参加する兵士の数や兵士の使用する武器、実力等が記されていた。

 正直、今日部隊編成を決めて明日物資の準備や武器の手入れ等終わらすのは早すぎるとバングは思う。

 しかし、この街は国の防衛の要でもある事等の理由からこと戦闘等の準備の手際が早かった。


「なら、討伐に出るのは3日後か?」


 本当なら、早く討伐に出られるなら2日後に出るのが良いがこちらも物資の準備や参加する冒険者達個人の準備も考えると3日は必要と思われる。


「そうと決まれば、まずは」


 バングは、部屋を出て他のギルド職員の居るホールへと向かい窓口の受付嬢を数人残して他のギルド職員達を集めた後、領主様からの手紙の内容と討伐へ出るのを3日後にしようと考えてる事を話す。

 バングの話を聞いた職員達は、討伐へ出るのが早すぎるとは思ったが今回は、対応が遅れると街へ大きな被害が及ぶ可能性がある事を理解している為了承しその後、物資の準備、参加する冒険者への報酬等について話し合った。


「とりあえず、この様な形で準備を進めていこう。カリナ、今の所リストアップした冒険者にはどの位話が出来た?」

「はい。今の所4割は話をする事が出来ました。詳しい話に関しては、明日再び話す事になっています」


 今日の正午頃に頼んだが夕方に差し掛かる今の時点で既にそれだけ話せていた事に驚く。


「そうか、それは上々だ。他の皆も引き続き参加する冒険者への説明、討伐に向けた物資の準備を頼むぞ」

「「「「「はい」」」」」


 そうして、各自仕事に戻っていきバンクは領主様へとこちらで決まった事を知らせるべく部屋に戻り手紙を書くのだった。


 ※※※※※


 私は、襲われている馬車へ空を移動しながら近づいて行く。


「あれは、ゴブリン?」


 上空から馬車を見ると男の子1人と女の子2人の3人の冒険者と馬車がゴブリンと思われる魔物に襲撃されているのが見える。

 しかも、よく見てみるとかなりピンチな様で冒険者の1人の女の子が倒れており残りの2人が馬車と倒れてる女の子を庇いながら戦闘している。


 あれは、かなり焦ってるっぽい。

 もしかして、まだ戦闘慣れしてない新人?

 どちらにしても、助けないとこのままだとヤバそう。


 素人目でも焦りで注意散漫になっているのに気付いた私は、直ぐ様上空からゴブリンと冒険者の間に降り立つ。


 良かった。

 怪我はしてるけどまだ、誰も死んではいないね。

 上空からじゃ幾ら吸血鬼の視力でも怪我の細部までは流石に見えなかったからね。


 地面に降りた私は、軽く戦況や襲われてた3人を確認して一先ず手遅れな状況ではなかったと安心したその時……


「は「え!?女の子が空から!?」


 うん。まぁ、いきなり空から知らない奴が降りて?きたら驚くよね。

 とりあえず、敵じゃないとだけ伝えないと。

 ゴブリンもろとも私まで攻撃されたら困るからね。


「襲われてるのが見えたから助けに来た。とりあえず、そこの女の子の手当てしてあげて」


 2人は、私の事を警戒してか黙って見てくるが特にこちらを攻撃する素振りは無さそうなのでゴブリンとの戦闘を始めようとする。


「それじゃ「ま、待て!」何?」


 幸い今はゴブリンも動きを止めているとは言え襲われている最中だと言うのに男の子に話し掛けられてしまいアカリは、ゴブリンに注意を払いながら声だけで聞き返す。


「戦うつもりか!」

「そうだけど。後、一応そっちに行かない様には出来る限りするけど行ったら対処してね」


 少し冷たい言い方になった気もする。

 しかし、助けに来ておいて何だが群れを相手しながら庇いきるなんて普通に自信がないのでまだ動けるだろう後ろの彼らには悪いがその場合は頑張って貰う。


「ちょ!~~!」


 後ろからまた何か言っているが敵対的な言葉では無さそうなので無視して私は、目の前の敵に近づいて行く。


「さて頑張りますか。それに、丁度良いし進化したこの身体がどんな感じか試してみようかな」


 そうして、私は目の前のゴブリン達との戦闘を開始する。


 ※※※※※


 初めは、ただの護衛依頼だと思っていた。

 幼馴染みでパーティーメンバーでもある2人とも話し合い護衛依頼で通るルートの下調べでも盗賊や魔物の危険も少なく最近Dランクになった俺達でも問題ないと思った。

 別に油断していた積もりはなかった。

 だが、移動の間も何も起きなかった事から俺達は気付かない内に油断していたのだろう。

 奴らが現れたのはオーレストの街の近くの森を移動していた時だった。


「グギャギャ!!」

「ゴガアァァ!!」

「グガアァァ!!」


 目の前にゴブリンの群れが現れそれに気付くのが遅れてしまい戦闘を余儀なくされてしまったのだ。

 しかも、最悪な事に群れの中にホブゴブリン、ゴブリンナイトまで紛れている。


 最悪だ。

 ただのゴブリンの群れならまだしもホブゴブリンにゴブリンナイトまで紛れてる何て。


 正直、ホブゴブリンまでなら相手も出来た。

 だが、ゴブリンナイトまで同時に相手するとなるとDランクになったばかりの戦闘経験の少ない自分達では相手仕切れない。

 しかし、俺達が相手しないと馬車に乗っている商人の命が危険に晒される。

 なので、商人に馬車に隠れて貰い俺達はゴブリンを倒すべく前へ出る。


「ハァ~最悪だな。こんなのと出くわす何て」

「しょうがないわよ。それに、馬が怯えて言う事聞かないんだから私達が馬車を守らないと」

「まぁ、運が悪かったって割り切ろうよ」


 俺達は、決死の覚悟を隠す様に軽口を言い合いながら進んで行く。

 正直勝てる勝算等限り無く低いし本心ではコイツらと今すぐ逃げ出したいがそんな屑な所業は俺のなけなしのプライドが許してくれないしコイツらもそんな事をする様な奴らじゃないからこそこうして共に戦おうとしてる。


「それじゃあ、行くか」

「うん」

「ええ」


 そうして、俺達とゴブリン達との戦闘が始まった。


 そして


「ハァ、ハァ、クソ」


 始めこそは、俺達も上手く連携したりしてゴブリン共を倒せていた。

 しかし、ホブゴブリンにゴブリンナイトの存在はやはり大きく仲間の1人がゴブリンナイトの攻撃で倒れてしまい連携が崩れ瞬く間に危機に追い込まれてしまった。


 何とか今は2人で庇いながら防げてるがもう持ちそうにないぞ!

 どうすれば、何か手はないのか。

 コイツらも商人も死なせずに切り抜けられる方法は。

 クソ!何も思い付かねぇ。

 こうなったら、俺が囮になってコイツらと商人に何とか逃げてもらうしか…………ん?何か上から強い風の音が。


 俺が、死ぬ覚悟で突撃しようと思ったその時、上から風の音が聞こえ戦闘中にも関わらず思わず空を見上げる。


「は?」

「え?」

「グギャ?」


 俺達が思わず間抜けな声を出してしまったのも無理もなかろう。

 何せ見上げた先、そこには、こちらに向かって空から降りてくる白銀に美しく輝く美少女が居たのだから。

 その少女は、この場が危険な場所であると見ればわかる筈なのに何故か俺達の目の前に風を纏いながら降り立った。

 間近で見る事で更にその神々しいとさえ感じる美しさに先程まで命の危険に晒されて居たにも関わらず思わず見惚れてしまう。

 しかし、直ぐ様ここが危険な場所だと思い出しここから、離れる様に伝えようとする。


「は「え!?女の子が空から!?」


 コイツ。


 俺は、もう一度離れる様に目の前の少女に言おうとしたその時……


「襲われてるのが見えたから助けに来た。とりあえず、そこの女の子の手当てしてあげて」


 聞き間違いか?

 今、助けに来たと言ったのか?

 まさか、コイツらと戦うつもりなのか。


 俺は、聞き間違いと思い思わず聞き返すと素っ気なく返された上に彼女1人でほぼ全て相手する様な事まで言われる。


「ちょ!死ぬ気か!ヤメロ!」


 しかし、彼女はこちらの言葉が聞こえていないのかそのまま歩きだし何かを喋ったと思った直後彼女とゴブリン達の戦いが始まってしまった。


 ※※※※※


 目の前には、十数体程のゴブリンと後方に2体の進化個体と思われるゴブリンがいる。

 進化個体は、私の事を雑魚と判断しているのか動く気配がない。

なので私は、それ幸いとまず通常個体を倒す事にした。


「フッ!!」


 私は、足に力を集中させ一気にゴブリンとの距離をゼロにする。


「グギャ!?」

「遅いよ。ハァ!!」


 ゴブリンは、目の前に現れた私に驚き私に攻撃しようとする。

 しかし、それより早く私はゴブリンの頭に蹴りを叩き込む。


「グ…ギ…」


 ゴシャッ!!!とゴブリンの頭蓋を砕いたのを蹴りの感触で察し致命傷を与えたのを理解する。


「まず1体…エアカッター!」

「ギギャ!」


 1体目を倒すと同時に横目に後ろの彼らに近づくゴブリンが見え直ぐ様魔法を放つ。


「さて、次」


 私は、その後手当たり次第に蹴りや殴打、魔法を放ってゴブリンを倒していく。


「残り2体か」


 残りのゴブリンを確認すると後はそれだけだった。


「もう一踏ん張り……え?」

「グギャギャ!!」

「ギギャ!!」


 私が、残り2体を倒そうと動こうとした瞬間、何故かゴブリンが踵を返して逃げ出し始めた。


 え、ちょ、逃げるの!?

 いや、まぁ、生き物だし逃げたりも……は?


 アカリが、逃げるゴブリンを見て内心そんな事を思った直後……


「ゴガアァァ!!」

「グゴアァァァ!!」

「ゴビャ!!」

「グギィ!」


 アカリは、その光景を見て驚く。


「ハハハ……マジか」


 何せ、仲間の筈のゴブリンが進化個体によって殺されたのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る