第31話 進化後初の戦闘(2)
進化個体がゴブリンを殺しているのを見て驚きはしたものの直ぐに「まぁ、あり得るか」と私は思った。
そもそも、考えてみれば前世の地球でも野生動物の共食いや子ども殺し等色々と聞いた事がある。
何なら、明確な自我を持つ人間が自身の保身や権力争い等醜く下らない理由で命を奪い合うのだ。
それを思えば野生動物や人間以上に凶暴性の強い魔物が仲間を殺してもおかしくないだろう。
まぁ、こっちからすれば手間が減っただけなんだけどねぇ。
後は、この2体か。
進化個体のゴブリンは、通常個体のゴブリンとは見た目から異なっており通常個体が小学校低学年位の子供と同じ位であるのに対し進化個体は、成人男性並の大きさをしており先程のゴブリンの様に一撃で倒せそうには見えなかった。
とりあえず、鑑定してみようかな。
────
名前:なし
種族:ホブゴブリン
状態:通常
LV:12/20
HP:76/76
MP:21/21
筋力:101
耐久:59
敏捷:71
魔法:19
─スキル─
なし
─称号─
なし
────
~~~~~~~
────
名前:なし
種族:ゴブリンナイト
状態:通常
LV:17/30
HP:126/126
MP:32/32
筋力:158
耐久:83
敏捷:126
魔法:30
─スキル─
【剣術Lv2】
─称号─
なし
────
ステータスの強さ的には、オークと同じ位かそれ以上って所で、スキルに関してもホブゴブリンに至っては1つも無くゴブリンナイトが名前の通りに剣術スキルを1つだけ持ってるだけだった。
そこまで、警戒する事はなさそうだね。
だったら、まずは………
「ゴガアァァ!?」
アカリは、ホブゴブリンから狙う事にして身体強化を身体に施し先程以上の速さで一気に距離を詰める。
瞬時に距離を詰めてきた私に対して、驚きはした様だがホブゴブリンは、直ぐ様殴りかかってきた。
しかし、その攻撃は吸血鬼の動体視力を持つアカリにとって速いとは言えずアカリは、身体を回転させて避けながら回転の遠心力を利用して目の前のホブゴブリンの腹部に肘打ちをし肘を深々とめり込ませた。
「フンッ!!」
「ゴブア"ァ"ァ"!!?」
その一撃は相当な威力だった様でホブゴブリンはダメージから腹部を押さえ身体をくの字に曲げ苦悶の表情を浮かべながら苦しむ。
ホブゴブリンが、ここまで苦しむのも仕方ないと言える。
確かに、ホブゴブリンの強さはオークに近いもののオーク程の防御力も防御力を上げる堅牢等のスキルを持っている訳ではない。
その為、身体強化を施したアカリの200を越える数値の筋力に回転と踏み込みによる体重と遠心力を乗せた一撃はとても耐えられるモノではなかった。
思った以上に効いたっぽいね。
この隙にトドメを刺すか。
私は、その隙を逃さずトドメの攻撃を仕掛けようしたその時、横目にこちらに斬りかかってこようとしているゴブリンナイトが見えた。
なので
「エアブラスト」
強力な突風を放つ魔法であるエアブラストをゴブリンナイトに放つ。
それにより、ゴブリンナイトはこちらに近づく事が出来なくなる所か称号により威力が増した暴風により寧ろ後退させられた。
これで良し。
ゴブリンナイトの動きを阻害出来たのを確認して視線をホブゴブリンに戻す。
トドメを刺すか。
「ハァッ!!」
「ブガァ"ッ!!」
アカリは、苦しさから身体をくの字にさせている事で下がっているホブゴブリンの頭部を蹴りあげて上体をのけ反らせる。
そして
「エアスラッシュ」
ブシャア!!!
「……」
首を切断する事でトドメを刺した。
さてと、後はアイツだけだね。
私は、顔を横に向けて最後の1体であるゴブリンナイトを見る。
その顔は、自分以外を全て殺された事に対してかアカリに軽くあしらわれた事に対してかはたまた、それ意外に対してなのか解らないが怒りに満ちた表情を浮かべていた。
うっわ~怒ってる…のかな?
まぁ、怒ってるとしても殺す事に変わりはないんだけど。
私は、今までと同様再び足に力を込めて飛び出しゴブリンナイトへと接近する。
「グガアァァ!!」
それに対してゴブリンナイトは、私の動きに合わせる様に剣を振り下ろしてきたので私は、横にズレる事で振り下ろしを避ける。
「おっと。って危ね!」
しかし、避けたと思ったのも束の間振り下ろした剣が直ぐ様私に向けて凪払いの様に振り抜かれ慌ててバックステップで後方に跳んで避けた。
危っな!!
さっきのは、ちょっと焦ったよ。
アカリが、内心で反省しているとゴブリンナイトはこちらに走って来て再び連続で斬りかかってくる。
連続攻撃のせいで反撃しにくいな。
状況的には、以前の糞野郎との模擬戦に近い。
とは言え、糞野郎の攻撃は何だかんだ一つ一つにキレがあったのに対しこの攻撃には、キレは無くがむしゃらに振り回してる感じだ。
あぁ~もう。
避けにくいし反撃もしづらい。
攻撃が綺麗に繰り出されるのであれば攻撃の予備動作等で攻撃の予測が出来て回避も反撃もしやすい。
しかし、がむしゃらに振り回してるモノには予備動作なんて何も無いので非常に避けにくく反撃しにくいのだ。
なので、アカリは強引に攻撃を止めた。
バッシーンッ!!!
「グガアァァ!?」
「ふぅ。成功」
どうやって止めたのか。
それは、至極単純シンプルに素手で掴んで止めただけだ。
とは言え、幾ら進化して肉体が強化されている今のアカリでも普通に剣を素手で受け止めるのは流石に、手を怪我するので危険。
なので、手と目に集中的に魔力を集める事で強化して刃を掴む。
それにより、この様に片手白刃取りでゴブリンナイトの剣を強引に掴む事が出来た。
「今度は、こっちの番、ねっ!!」
「グギア"ァ"ァ"!!」
剣を掴みゴブリンナイトの攻撃を止めた私は、反撃とばかりにそのまま目の前のゴブリンナイトの胴体へと蹴りを叩き込み蹴り飛ばす。
「あ、剣離しちゃってる」
「グガアァァ!!」
蹴りが余程効いたのかその際、手から剣を離しており剣は私が掴んだままであった。
そして、起き上がる際にようやく剣が無い事に気付いたのか自分の剣を持つ私に怒りに染まった顔で走って近づいてくる。
「離したのお前だろ。エアブラスト」
「グ!ギ、ガアァア!!」
向かってくるゴブリンナイトに対してエアブラストを放つ事で強制的に動きを阻害し大きく隙を見せたゴブリンナイトへトドメを刺すべく魔法を放つ。
「これで、終わり。鎌鼬」
ブシャア!!!
「……」
ドサリ
ホブゴブリン同様、ゴブリンナイトの首を切断しトドメを刺した事で進化後初の戦闘はアカリの勝利で終わった。
※※※※※
俺達は、目の前で繰り広げられた戦闘が信じられなかった。
そりゃそうだろ。
誰が、あんな華奢でとても戦い等出来なそうな少女がものの数十秒足らずでゴブリンをほとんど倒し更に、進化個体である筈のホブゴブリン、ゴブリンナイトさえも圧倒すると思うんだよ。
それに、あの少女は、戦闘を始める前に俺達に討ち漏らしが来たら任せる的な事を言ったが結局こちらには、1体も来ることは無かった。
「夢か?」
「現実だね」
ヒリヒリ
「ねえ、誰なのよあの少女」
俺が無意識に漏らした呟きに対して隣から返答が返ってきたので隣を見ると赤くなった頬を擦っている幼馴染みと先程まで倒れていた幼馴染みの2人がいた。
どうやら、いつの間にか手当てを終え隣に並んで少女の戦闘を見ていたらしい。
「何と言うか俺達も良くわからないんだが、危ない所を突然空から降りてきて助けてくれた」
「うん。いきなり空から降りてきたんだよね」
「は?」
わかる。
そう言いたいのは非常にわかるが、事実そうとしか言えないので他に言い様がない。
「あ、そっちの女の子大丈夫だったんだね。良かったよ。それと、見てた様だからわかると思うけどゴブリン共は全部倒したから」
俺達が、内心かなり混乱していると件の少女がこちらに近付いてきた。
「えっと、助かった。ありがとう」
「私も、ありがとう」
「あなたのお陰で命を救われたみたいね。私達を助けてくれてありがとう」
俺達は、命を救われた事に対して目の前の少女に対してお礼を言う。
本当は、命を救われたのでもっとちゃんとしたお礼をしたい所なのだが今は、依頼中の上に襲われた直後なので感謝の言葉を言う位しか出来なかった。
「どういたしまして。それじゃあ、私はもう行くから。機会があればまた何処か「待ってください!」へ?」
「「「!?」」」
少女が、俺達のお礼を受けてこの場から去ろうとした瞬間俺達の後ろ、馬車から少女を呼び止める大きな声が聞こえ俺達は揃って振り向く。
すると、俺達が依頼で護衛していた商人がいた。
「えっと、何か?」
「呼び止めてしまい申し訳ない。私も、お礼を言いたくてね。ありがとう。お陰で私の命と大切な商品、護衛してくれていた彼らが助かったよ」
「あ、はい。どういたしまして」
「ところで、君はもしかしてオーレストへと向かっているのかな?」
「そうですけど。それが何か?」
終始困惑した表情をしているものの少女は、商人の言葉にきちんと返答する。
その話を聞いてわかったが、どうやら少女も俺達同様にオーレストへと向かっていた様だ。
「もし君さえ良ければなんだが、私達と一緒に行かないかい」
「へ?」
「「「は?」」」
俺達も少女も、商人のまさかの誘いに驚くのだった。
※※※※※
現在私は、馬車に揺られながらぽけ~としている。
あぁ、馬車の揺れと太陽の暖かさで眠くなりそう。
本当は、ゴブリン共を倒した後、軽く彼らの無事を確認し一言二言程話をしてその場を去ろうと思っていた。
しかし、馬車から出てきた商人に「是非一緒に!助けて頂いたお礼を街へ着いたらさせて欲しい!」と何度も言われた為、結局この通り商人の誘いに乗って彼らと一緒にオーレストに帰る事にした。
別に、商人のお礼が目当てで一緒に帰っている訳ではない。
単純に、行き先が同じなので同乗させてもらう事にしただけ。
そう。決してお礼目当てではないのだ。
だから、変な勘違いはしない様に。
「皆さん。このまま、何も無ければ今日の昼過ぎには街に着きそうです」
のんびり日光浴をしてたらドイルさんが私達に向けて到着予定を教えてくれた。
因みに、ドイルさんとは商人さんの名前で同乗する際に教えてもらった。
その時に、冒険者の3人とも自己紹介をして名前を教えてもらって男の子がケイン、少し子供っぽい言動の女の子がルース、大人びた言動の女の子がエリーらしく3人は、どうやら幼馴染みでパーティーを組んでるらしい。
つまり、男共からすればケインは両手に花なパーティーだ。
いつか、他の冒険者の男共の嫉妬でケインは後ろから刺されるかもしれない。
まぁ、茶番はこれ位で置いといて。
昼過ぎ頃には、私は街に帰る事になる訳だ。
恐らく私は、糞野郎にサイクロプスに殺されたとでも言われているだろう。
まぁ、実際に殺される所か喰われたのだが。
なので、このまま帰れば酷く驚かれる事になる訳で何か助かった理由を考えないといけない。
「はぁ、メンドクサイ。どんな理由にすればいいのかねぇ」
私は、馬車に揺られながら説明する理由を考えるのだった。
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