第27話 賭け
「う……うぅ…ここ、何処?」
私は、目を覚ましたがそこは見覚えが一切ない場所であった。
「真っ暗で何も見えない」
身体を起こし周りを見渡すが暗闇で何も見えずここが何処なのかと目覚めた直後でまだ上手く働いていない頭で考えようとしたその時……
「何か地面もグチュグチュしてるしここ本当にどっ!?ウグ!!オ"ェ"ェ"ェ"」
私の鼻が強烈な刺激臭を嗅ぎその場に吐き出してしまった。
何この匂い!
生臭い様な何かが腐った様な酷い匂い。
「良くわからないけど兎に角酷いにおッ!!あ"あ"ぁ"
ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!」
激臭を嗅いだ事で寝ぼけていた頭が強制的に覚醒した事によりアカリは、ようやく自身の身体に起きている異変に気付いた。
な、何…これ、身体中が痛い。
何で痛いの?
それに、さっきから足の感覚が何かおかしい。
「か…火球」
暗闇では、自分の身体の状態も周りの確認も出来ない為、光源変わりにアカリは火球を魔法で作った。
それにより、ようやく多少は見える様になり周りの景色と自身の身体のあまりにも…………
凄惨な状態に気付くことが出来た。
「ヒッ!!何!?何なの!!何処なのここ!!それに、な、何で……何で私の足が無いの!!」
火球で照らされたその場所は、赤い肉の様な壁に囲まれた狭い空間であり現在アカリが地面と思っていた場所もグチャグチャになった謎の肉塊の上だった。
そして、何より違和感を感じた自身の足は左足を膝上辺りから右足を膝下辺りから千切れたかの様に無くなっており本来見えない筈のブチブチと千切れた筋肉の繊維、血を吹き出す血管、へし折れた骨が断面から見え……
「ウッ!!オ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"」
私は、再び吐き出してしまいそれと同時に何故こんな場所に居るのかも思い出した。
「ハァハァハァ……ウプッ!!フゥーフゥー……そうだ、私……食べられたんだ」
思い出すのは、自身の身体が握り潰される様な泣き叫びたくなる激しい痛み。
私を食べようと大きく開かれた口が迫って来る恐怖と直後私を襲ってきた尋常じゃない痛み。
恐らく、足が無いのはその時に噛み千切られたのだろう。
そうすると、ここはサイクロプスの胃袋の中でこの肉塊はジェネラルなのだろう。
ジェネラルの肉塊は、あの巨体の割に肉塊の量が少なく既に消化がかなり進んでいるのがわかる。
そして、同時に私が倒れている場所の肉塊が無くなれば次は、私が消化される番なのだとも否応なしに理解させられた。
「嫌、ヤダ、何で、どうして私がこんな目にあわなきゃいけないの。グスッ…死にたくない。死にたくないよ。グスッ」
アカリは、ゆっくりと近付いてくる死に恐怖のあまり泣いてしまう。
転生の時は、気付いたら既に死んでおり死の恐怖は感じず「あぁ、死んだのか」位の認識だった。
しかし、今回は明確な死の感覚が私を襲い私を恐怖のどん底へと引きずり込んでいき「もう、どうしようも無いんだ。このまま私は死ぬんだ」と思考が死の闇に覆いつくされていく。
そして、アカリは、死の恐怖から生きるのを諦めもうどうでも良いやと再び肉塊の上に倒れるのだった。
※※※※※
あれから、どれ位の時間が経ったのだろうか。
痛みを感じていた身体は再生スキルのお陰で大分収まり、糞野郎に刺された傷もふさがっていた。
ただ、流石に千切れた足は出血は止まったが治ってはいなかったが。
そして同時に、肉塊の消化も進んでおり私が横たわっている肉塊も消化が進んでいた。
「呆気ない二度目の人生だったなぁ」
私は、これまでの事を思い返していた。
森でアリサと出会った事や何だかんだ仲良くなった受付嬢のカリナさんの事。
孤児院の先生や子供達に友達になったちょっと変態気味なフィーの事。
そして、調査で一緒になったザックさん、イリアさんの事。
「そう言えば、アリサにまだお金返しきれてないなぁ。それに、孤児院にまた遊びに行くって約束したしフィーにも帰るって約束したのに。約束……グスッ、破る事になっちゃった。ヒグッ……もっと、グスッ…生きたかったなぁ」
本当は、もっと生きたい。
まだまだ、この世界で見てみたい物、やりたい事も沢山あった。
それに、この世界の何処かに召喚されたクラスメイト達にももう一度会いたかった。
だけど、もうどうしようも無いのだ。
「クソ!!」
アカリは、苛立ちから胃袋の肉壁に鎌鼬を放った。
どうせまた、堅牢で対して効かないんだろうとそう思っていた。
しかし
「え!?」
『グガアァァァ!!!』
「グウッ!?……うるさ!?」
結果は、予想外な事にあの時とは違い明確にダメージを与えていた。
アカリは、てっきり体内にも堅牢のスキル効果があると思っていた。
しかし、どうやらそうでは無かったらしい。
「これなら出られるかも!!……いや、だけど、傷の深さ的に鎌鼬で切り裂いて出ようとしたらMPが足りなそう。それに、仮に出られても多分コイツの強さからして生きてるから今度こそ確実に殺される」
どのみち、効いてもアカリにとって八方塞がりな事に変わりはなかった。
「ハァ~やっぱり、どうしようも無いのかな。あ、火球が」
「体内ならこんな殆んどMPを使わない様な弱い火球でも焦げるんだね。……!!」
アカリは、誤って肉壁に当たってしまい消えた火球を見てある事を思い付いてしまった。
しかし、それは余りにも博打すぎる賭けでありどちらかと言えばサイクロプスにダメージを与えるだけで私がただ自滅するだけで終わる可能性の方が圧倒的に高かった。
「それでも、この方法が成功したら私も瀕死になるだろうけど生きられる可能性がある。それに、何もしなければどのみち死ぬんだ。死ぬ位なら挑戦して死んだ方がマシだ!」
死ぬ可能性の方が圧倒的に高い。
それでも、アカリは生き残れる可能性が僅かながでも残っているその方法に賭けるのだった。
※※※※※
「ステータス」
アカリは、その方法を試す前に自身のステータスを確認した。
────
名前:アカリ
種族:ヴァンパイア
状態:通常
LV:9/10
HP:151/172
MP:175/188
筋力:157
耐久:105
敏捷:161
魔法:143
─スキル─
【鑑定】【収納】【言語理解】
【血液支配Lv2】【吸血】【眷属化Lv1】【索敵Lv4】
【偽装魔法】【火属性魔法Lv2】【水属性魔法Lv2】
【風属性魔法Lv3】【土属性魔法Lv2】【再生Lv1】
【日射耐性Lv4】【状態異常耐性Lv5】
─称号─
【女神アリシアの加護】【女神アリシアのお詫び】
【Dランク冒険者】
────
足が千切れているにしてはHPが大分残っている。
流石、生命力が高い吸血鬼と言える。
そして、恐らくジェネラルとの戦闘から大分時間が経過していたのかMPがかなり回復していた様だ。
「これだけMPがあるなら良いかな。後本来は、HPが全快が良いんだけど」
こればかりはしょうがないとステータスを閉じてアカリは早速始める事にする。
ほぼ全てのMPを使う魔力暴走した魔法の一撃を。
実は、以前魔力制御の練習をしてて制御ミスして暴走した魔法を見て思ったのだ。
普通の魔法と暴走した魔法はどちらが強いのかと。
それで、普通のファイルボールとファイアボールと同じ量の魔力を意図的に制御ミスさせて暴走した火球を放った結果、後者の方が威力が高かったのだ。
ちなみに、この時は称号の効果を外しており後で、元の状態でもう一度やると威力が上がっており制御ミスの攻撃でも効果がある事がわかった。
「あんな弱い火球でも体内なら焦げるんだ。称号で威力が上がった魔力全てを使って暴走させた火魔法を体内で放たれたら幾らサイクロプスでも無事ではいられないだろ」
勿論、私だって無事ではいられない。
そもそも、全ての魔力を一撃に込める事だって称号の効果があってもとても厳しい。
それでも、やるしかないのだ。
「ただ、保険として身体に身体強化程かけておこう。まぁ、これで生きていられるかはわからないけど」
そして、アカリは手を前に突きだし火球を作り魔力をどんどん込める。
火球は、込められていく魔力に比例してどんどん肥大化していく。
普段なら今すぐ止めるが、今回は魔力をほぼ全て使う。
なので、構わず更に魔力を火球に込めていく。
「クソ!火球が今にも爆発しそう。だけど、後もう少し。何とか耐えなきゃ」
体感的に2/3の魔力を込め火球は既に、制御が外れ全長1メートルを越える迄に肥大化していた。
「ぐっ!!熱っ!!物凄い熱い」
火球はその内に莫大な熱量を宿しており近くにいるアカリは、今にも身体が燃えてしまうのではと思える程の熱さに耐えながらひたすら魔力を込め続けていく。
『グオ"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!』
その時、外から火球の高熱に苦しむサイクロプスの悲鳴が聞こえてきた。
そりゃそうだ。
どんな生物だって体内でこんな高熱の塊を生み出されたら苦しむに決まっている。
「ゼェ、ハァ…熱いか?苦しいか?私だって死ぬ程熱いし苦しいんだよ!恨むんだったら私を確実に殺して喰わなかった自分自身を恨みやがれ!!」
既に魔力切れ寸前で目眩と酷い頭痛に今にも気を失いそうになっている。
しかし、後少しだと気合いで意識を保ち遂に魔力を火球に込めきった。
「吹き飛べェェェェ!!!!!」
アカリは、火球を頭上に向けて構えそして放った。
ボゴアアァァァァン!!!!
放った瞬間火球は胃の肉壁に激突し莫大な熱量を持って爆発を起こす。
『ゴア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!』
爆発の瞬間サイクロプスは、今まで生きてきた中で感じた事の無い体内から高熱で焼かれるという苦しみに耐えきれず悲鳴を上げた。
そして、アカリは爆発の瞬間爆発の衝撃と高熱により意識を失うのだった。
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