第28話 賭けの結末

 調査報告が行われた翌日、ギルドマスターのバングは昼食を食べながらカリナにリストアップして貰ったサイクロプス討伐に参加させられる冒険者の資料を眺めていた。


「モグモグ……ハァ~」


 ため息をついているが別に食べている食事が不味い訳ではない。

 食事自体は普通に美味しい。

 バングが、ため息をついている理由は眺めている資料にあった。


「大丈夫だろうか」

「失礼します。ギルドマスター入ってもよろしいでしょうか。」


 ノック音が聞こえドアへと顔を向けるとドアの向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「入れ」

「失礼します」


 入室を許可するとギルド職員の1人であるカリナが手紙と思われる物を持ちながら部屋へと入ってきた。


「食事中にスミマセン。昨日領主様へと送った領軍の要請に対する返事が先程届きました」


 カリナは、そう言うと手に持っていた手紙をこちらに渡してくる。


「そうか、ありがとう」


 カリナから手渡された手紙を開き中身を読み進めていく。


「ふぅ~~」

「あの、手紙には何と」


 手紙を読み終えるとカリナは、内容が気になるのかおずおずと聞いてきたので特に教えても問題ないモノなので教える。


「あぁ、返事には了解した。討伐に向かわせる部隊が決まり次第連絡すると書いてあった」

「それは、良かったです」


 返事の内容にカリナは、良かったと安堵した。

 バングも、領軍の討伐参加はとても心強く思う。

 領軍の仕事は、街の警備、巡回に冒険者の手が回らない又は、今回の様に要請された際には魔物討伐も行う。

 その為、兵士の強さも相応に強くなる。

 事実この街の兵士を軽く見る機会があり見た感じ、冒険者でのDランクからBランク近い強さがあった様に感じる。

 その後も、鍛練を積んでいれば更に強くなっている筈だ。

 その為、領軍が参加してくれたのは本当に良かったと思っている。


「これなら、討伐出来るでしょうか?」

「わからない」


 サイクロプスは、Bランクの魔物でも強い部類に入る強さを誇る。

 油断等してかかればこちらが逆に壊滅させられかねない強さをもっているのだ。

 その事を、十分理解しているからこそバングはカリナの言葉に対して上手く返せなかった。


「リストに乗せていた冒険者にサイクロプス討伐に参加するよう伝えておいてくれ」

「わかりました。他の職員にも伝えるように知らせておきます」

「あぁ、頼む。それと、辛いなか仕事させてすまん」

「いえ、大丈夫です。スミマセン失礼します」


 カリナは、そう言うと俯きながらこの事を職員達に伝えるべく部屋を出ていった。


 サイクロプス討伐……もう誰も死なずに済んでくれ。


 バングは、もうアカリ以外誰も死なずに済んでくれと願うのだった。

 たとえ、自分でもそれがどんなに無理な願いだとわかっていても。


 ※※※※※


 私は、何かが身体の上に積み重なっている様な違和感と全身を炙られたかの様な痛みを同時に感じながら目を覚ました。


 何だこれ、重たい。

 何か私の身体の上に乗ってるの?

 それに、クッソ身体が焼ける様に痛いよ。


 私は、とりあえず起き上がろうと思い泣きそうになる程の激痛が走るのを我慢しながら身体に乗っている物を腕で退かして起き上がる。


「、~!!…、?」


 一先ず光源が欲しく火球をうみだそうと火球と言おうとして何故か上手く声が出ず私は、自分の喉も酷い火傷で声帯を損傷しているのだと気付いた。


 全身の痛みで気付くの遅れたけど喉も焼ける様に痛い。

 だけど、あれだけ派手にやればこうもなるか。


 私は、いつもは唱える魔法名を言わずに火球を生み出し光源を作る。

 別に唱えるのはイメージの補完みたいなモノと自己満足の様なモノなので本当は唱えなくても魔法の発動自体は普通に出来るのだ。


 やっと、周りが見えた。


 周りの状況は、一言で言えば真っ黒だった。

 見渡す限り全てが黒焦げ、酷いと炭化しており更に火球が衝突した場所には穴が空きそこから体内を焼き尽くしている様であの攻撃の破壊力が相当なものだったとわかる。


 それと、うん、わかってたけど私も酷いな。


 痛みから酷い怪我だろうと理解はしていたが実際に見てみると予想の数倍酷い。

 まず、全身が重度の火傷をしており箇所によっては黒焦げになってる。

 更に、起きてから左腕に違和感があり見ると手首から先が燃え尽き炭化して崩れ落ちていた。


 これ、ちゃんと治るのかな。


 私は、怪我があまりにも酷いので元通りに治るのかそこはかとなく不安になった。


 だけど、まぁ、生きてるだけ儲けものかな?

 十中八九、九分九厘、確実に自滅すると思ってたんだけど。


 本音を言えば、爆発で身体がバラバラに吹き飛び高熱で燃え尽きて生き残る事はないと思っていた。

 しかし、この通り奇跡的に爆発から無傷ではないが無事生き延びている。


 ハハハ……もう、驚きを通り越して冷静になっちゃったよ。


 人間驚き過ぎると本当に冷静になるんだなと私……アカリはそう思った。


 あ、人間じゃなくて今私って吸血鬼だった。


 ※※※※※


 アカリが目覚めてからしばらく経ち再生スキルのお陰もあり多少は怪我の痛みが和らいだ。


 多少は、痛みが和らいだね。

 再生スキル様々だね全く。

 てか、再生スキルが無けりゃ私とっくに死んでたな確実に。

 そう言えば、結局サイクロプスは倒せたのかな?


 あの攻撃で結局サイクロプスを殺せたのかどうか体内に居るためアカリは、今だわかっていなかった。


 体内からでも鑑定って出来るのかな?


 私は、物は試しと黒焦げの胃を見ながら鑑定を発動する。

 すると、目の前に鑑定画面が表示された。


 ヨシ!鑑定出来た。


 表示された鑑定はこのようになっていた。


 ────

 名前:なし

 種族:サイクロプス

 状態:死亡

 LV:18/30

 HP:0/425

 MP:0/79

 筋力:521

 耐久:463

 敏捷:352

 魔法:61

 ─スキル─

【豪腕Lv4】【堅牢Lv8】【物理耐性Lv4】

 ─称号─

 なし

 ────


 鑑定画面には、サイクロプスが間違いなく死んでいる事が記されていた。


 死んでる。

 と言う事は、私は賭けに勝ったんだ!!

 やった~~!!


「~~~~っ!!!、ゴホッガハッ!!!」


 アカリは、命懸けの賭けに勝利した事に喜び出ない声を挙げながら喜んだ。

 しかし、実際の所は本当に危ない賭けだった。

 アカリ本人は気付いていないが爆発で気絶した時アカリは、胃の肉壁まで衝撃で吹き飛んだ。

 本来ならその後の爆発した火球の莫大な熱と炎で焼き尽くされて死ぬ筈だった。

 しかし、吹き飛んだのはアカリだけでなく消化仕切れてなかったジェネラルの肉塊もであり吹き飛んだアカリに幾らか積み重なる様に飛び散り文字通りアカリを守る肉壁となっていた。

 そのお陰でアカリは大火傷や肉塊からはみ出た左手が炭化したりしたが無事に生き残れていたのだ。

 仮に肉塊の肉壁が無かったなら今頃肉壁となり炭となったジェネラルの肉塊と同じ運命を辿っていた事だろう。


 ヨシ!ここから出よう!!


 そんな事を知らないアカリは、早速こんな場所から脱出しようと思ったが…………


 あ……私そう言えば足が千切れてた。


 治ってないだろうかとアカリは、自分の足を見てみるが、そもそも治る以前に左手同様千切れた部分が炭化しており歩いて移動等到底出来ない事を物語っていた。


 これ本当に、ちゃんと治るの?


 治る処か寧ろ悪化していた自分の両足を見ながら2度目の不安を感じたが再生スキルを信じるしかないので怪我の事は一旦考えるのは止めて外に出る方法を考える。


 とは言うものの移動が出来ないとどうしようもないしなぁ。

 …………あ!そうだ!これだ!


 アカリは、この状況を打開出来るアイデアが浮かび早速試す。


 すると


「!!~~っ!!」


 う"…上手ぐ、い"っだ。


 アカリのアイデアとは、血液支配で擬似的な義足を作り出す事。

 作り出した義足を血液で足に固定したがバランスが取りずらい上に足に泣きそうな位の鈍痛が走るものの何とか立ち上がる。


 グッ!!う"ぅ"ぅ"~!!と…とりあえず、魔法や血剣であの穴を広げていって出よう。


 そうして、アカリは時間はかかったものの火球で空いた穴を地道に広げていき外に出るのだった。


 ※※※※※


「気持ちいい~~」


 朝日の昇る森の中、私は現在森の何処かの川で水浴びをしていた。


 ん?何でかって?

 理由は単純、今日の朝起きたら部位欠損含めた怪我がようやく治ってたから。

 本当マジで元通りに治って良かった。


 まぁ、それは置いといて。


 実は、サイクロプスの体内からマジで歩く度に足に走る鈍痛に泣きながら脱出したのが2日前。

 それで、今日この日まで怪我のせいで汚れて臭う身体を水魔法で水を被る位でしか身体の汚れを落とす事しか出来なかった。

 なので、怪我も治りこうして近くに見付けた川で水浴びをしている訳だ。


「あぁ~気持ち良かった」


 身体を綺麗に出来て満足なアカリは、身体を拭いて収納から出した新しい服に着替えた後、空腹を感じて朝食を取る事にした。


「モグモグ……やっと全快出来たし、ようやく試せるね」


 朝食を食べながらアカリは、自分のステータスを表示して眺めていた。


 ────

 名前:アカリ

 種族:ヴァンパイア

 状態:通常 『進化可能』

 LV:10/10

 HP:181/181

 MP:195/195

 筋力:166

 耐久:114

 敏捷:171

 魔法:152

 ─スキル─

【鑑定】【収納】【言語理解】

【血液支配Lv2】【吸血】【眷属化Lv1】【索敵Lv4】

【偽装魔法】【火属性魔法Lv2】【水属性魔法Lv2】                     

【風属性魔法Lv3】【土属性魔法Lv2】【再生Lv2】

【日射耐性Lv4】【状態異常耐性Lv5】

【痛覚耐性Lv1】

 ─称号─

【女神アリシアの加護】【女神アリシアのお詫び】

【Dランク冒険者】

 ────


 今回の事で新しいスキルを習得したり再生のスキルLvが上がっていたがその事よりも、とうとうレベルが最大に到達し私は進化可能となったのだ。

 進化可能な事自体は、この2日間の間に気付いていた。

 正直気付いた時直ぐに進化してみたかったがその時は、流石に何が起きるかわからないので諦め怪我が回復してから進化する事にしたのだ。

 そして、ウズウズと進化したいのを我慢し続け今日ようやく怪我も回復し進化する事が出来る。


「ヨシ!進化しますか!」

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