第23話 オークジェネラル戦 

 走りながら、アカリは左腕を斬り飛ばしたオークを見る。

 そこには、自身の腕を斬り飛ばしたアカリに対して怒りと不愉快さを顔に浮かべ此方に向かってくるオークが見える。


 良し、上手く私に気を引かせられた。


 気を引けた事を確認し私は、もう1体のオークに目を向ける。

 視線の先のオークは、此方に向かっては来ていないものの顔には腕を斬り飛ばしたオーク同様に怒りと不愉快を顔に浮かべていた。


 これなら、深手を与えなくても気を引けそう。

 それなら……


「エアカッター」

「グブアァ!」


 アカリは、先のオークで使用した鎌鼬ではなく今度は、エアカッターを放つ。

 本当なら、深手を与えられる鎌鼬を使えれば良いが使用魔力がそこそこ多く乱用は出来ない。

 なので、初手とは違い気を引ければ良いのでエアカッターを使う。

 放ったエアカッターは狙い通りオークに当たり、オークは自身を傷付けたアカリに向かって来た。


 ヨシ!もう1体の気も引けた。

 このまま、気を引いてジェネラルから離さないと。


 私は、2体をジェネラルから離す様に少しずつ移動して行く。


「お前ら、俺達も行くぞ!!」

「ええ!!」

「ああ!!」


 3人は、私がオークをジェネラルから離したのを確認してジェネラルへと向かって行く。


「俺から攻撃を仕掛ける。グズダス上手く合わせてくれ。イリアも援護頼んだぞ」

「了解」

「わかった」


 簡素な指示。

 しかし、2人はそれだけ聞くとバラけて行き直ぐ様対応出来る様な位置に着く。

 それを、確認したザックさんは、素早く接近しジェネラルへと剣を抜き一閃する。


「ハァ!!」

「グルァ!?グオアァァ!!」


 ジェネラルは、攻撃されたもののあまり効いていないのか接近してきたザックさんへ手に持つ棍棒で潰そうと振り下ろす。


「やべ!!」

「危ねぇ」

「オラァ!!」

「ファイアバレット!」

「ガアァ!?」


 棍棒を振り下ろした際の隙を付いたグズダスがジェネラルの死角から近付き剣で攻撃。

 更に、イリアさんの魔法も追撃で放たれジェネラルが動くのを妨害する。


 ザックさんは、相手するのはキツイと言ったけど流石ベテラン冒険者。

 何だかんだ、イリアさん、グズダスと連携して上手く相手をしてるよ。


 とは言え、キツイ相手なのに変わりはない筈だ。

 私は、3人の戦闘から視線を戻しこちらに迫って来るオークに目を向ける。


「私は、私で役割を果たさなきゃ」


 スゥーハァー……良し。


 私は、一度深呼吸をして気持ちを切り替え駆け出した。


 ※※※※※


 オークに向かって走りながら私は、身体に身体強化を施す。


「ゴブアァァ!!」

「おっと」


 真っ正面から走って来る私に向けてオークが棍棒を振り下ろしてきた。

 それを、私は手前で跳躍してオークを飛び越える事で回避する。

 流石に、レベルが上がって身体強化を覚えた今でもあの振り下ろしをモロに喰らったら吸血鬼肉のミンチになるのは変わらないと思う。


「ハァ!!」

「グブアァ!?」


 回避し地面に降りると同時に腕を斬り飛ばした方のオークへ向けて走り魔力を足に込めて後ろ回し蹴りを繰り出す。

 以前のレベル1の素の状態の蹴りで軽くとはいえどもふらついたのだ。

 レベルも上がり身体強化を覚えたアカリの蹴りを受けた結果オークは前のめりに転倒した。


「ゴブアァァ!!」

「!?おわっ!!」


 蹴りから着地した瞬間横から咆哮と空気を震わすような音が聞こえ咄嗟にしゃがみこむ。

 すると、先程までアカリの頭があった箇所を棍棒が高速で振り抜かれるのが見えた。


 あっぶなぁ~~!!!??

 あ、頭が吹き飛ばされる所だった!!!??

 いや、吹き飛ぶ以前にぶつかった瞬間に棍棒に頭を潰されてグチャグチャな肉片になるか。

 うん…………洒落にならんな。


 私は、直ぐ様上体を起こして振り抜いた事で大きく隙を見せているオークの足を足場にして顔の近くまで飛び上がり目の前に見える首に向けて魔法を放つ。


「エアスラッシュ」

「ゴブ…ア…ァァ」


 エアスラッシュは狙い通り首に当たり切断まではいかなかったが2/3近く首を斬り裂きオークは倒れた。


「まずは1体」


 アカリは、着地すると後ろを振り向き転倒させたオークに目を向ける。

 そこには、既に立ち上がり片手のオークが怒り狂いアカリに棍棒を振り上げているのが見えた。


「グガアァァァ!!」

「ハァ!!……エアスラッシュ」


 私は、冷静に棍棒を軽く横へずれる事で避けそれと同時に振り下ろした際に下がったオークの顎を蹴りあげそして、エアスラッシュを放つ。


「ブゴ…アァ」


 エアスラッシュを頭部に受けた事でオークは頭を半分近く斬り飛ばされた事で脳を破壊された事で息絶える。


「ふぅ~~倒せた」


 少々危ない所もあったものの特に怪我なく倒す事が出来た。


「とりあえず、死体はこのまま置いといて私も援護に向か「グゴアアァァァ!!!」っ!!?」


 突然の大きな咆哮に驚き咆哮の発生源へ目を向ける。

 そこには、ジェネラルの持つ棍棒で吹き飛ばされるザックさんとグズダスの姿が見えた。


 ※※※※※


 ジェネラルとの戦闘は中々に苦戦させられていた。


 クソ!わかってはいたが中々にキツイぞ。


 アカリに言ったがジェネラルはオークよりも怪力で防御力が高い。

 その上、オーク系統の魔物は防御系のスキルを持っている事が多くこのジェネラルも例に漏れずスキルを持っている様でこちらが剣に魔力を纏わせて斬る事で何とかダメージを与える事が出来ている。

 普通のオークなら大抵これで大きなダメージを与える事が出来るのにだ。


 どうする。

 剣士の俺やグズダスは魔力が少ないからそう長く剣に魔力は纏わせられないぞ。


 いったんジェネラルから離れどうするか考えていると、1人で戦闘しているアカリは無事だろうかと思いアカリがいる方を見る。


 アカリは、大丈夫だろうか。

 もし、無理をして戦ってるなら逃げる様に言わな……い………と。

 ん?…………は???


 俺は、目を向けた先の光景が信じられず思わず戦闘中なのに呆けてしまった。

 なんせ、魔法使いの筈のアカリが何故かオークに蹴りを繰り出し何故かオークが転倒していたからだ。


 いや、何かグズダスに素手で勝った的な事は聞いたけどここまで強かったのか?

 てか、アカリって魔法使いだよ……な?

 何でオークに格闘戦してるわけ?

 あ……魔法でオークが倒された。


 俺は、僅かな間にオークが倒されるのを見て内心かなり混乱した。

 だが、直ぐに気持ちを切り替えてジェネラルへと視線を戻す。


「落ち着け。今は、ジェネラルに集中だ。だが、アカリが加われば何とかなりそうだ」


 そうして、再びジェネラルへと向かって行った。


「ハァ!!」

「オラ!!クソが!!本当に効いてるのかよ!!」


 俺は、戦闘を再開し先程と同じ様に魔力を纏わせた剣で斬る。

 ダメージは与えている。

 現にジェネラルの身体には決して浅くはない斬り裂かれた傷が付いている。

 しかし、それでもジェネラルの硬い筋肉とスキルによる防御力向上により致命傷に繋がる程のダメージを中々与えられない。

 同じ様に攻撃をしているグズダスも思う様にダメージを与えられない事に苛立ち始める。


「落ち着けグズダス!!「離れて!」!?」


 その瞬間だった。

 俺が一瞬グズダスへと目を向け、グズダスが苛立ちに集中力が乱れたその瞬間ジェネラルが先程とは違う動きをした。


「グゴアアァァァ!!!」


 突如その手に持つ棍棒を大きく振り上げてその怪力を乗せた棍棒でなぎ払いをしてきたのだ。


「ヤバい!!」

「クッソ!!」


 イリアの警告のお陰で避ける事は出来なかったがギリギリ防御するのが間に合い手に持つ剣を盾がわりにする事が出来た。

 しかし、それでもなぎ払いによる衝撃で俺は大きく吹き飛ばされた。


「ガハッ!!ハァハァ……クソ、腕が痺れて動かねえ」


 俺は、ノロノロと起き上がるが腕に違和感を感じ腕を見るとガードしたにも関わらず腕が痙攣しているのに気付く。


「グズダスは」


 同じ様に吹き飛ばされたグズダスを探すと遠くに同じ様に起き上がろうとしているのを見付ける。

 しかし、俺同様に腕が痺れているのか剣を持とうとして取りこぼしていた。


 ヤバい。どうする。

 俺もグズダスもしばらくしないと腕が使えない。

 イリアが、今は魔法で気を引いてくれてるがいつまでも持つかわからない。


 俺がどうするか考えていたその時、こちらに走ってくる足音が聞こえてきた。


 ※※※※※


 私は、その光景を見て直ぐ様近くまで吹き飛んできたザックさんに駆け寄った。


「ザックさん!」

「アカリ!」


 私に気付いたザックさんは、一瞬驚いたものの直ぐに真面目な表情をする。


「アカリすまんオークを倒した直後で悪いがイリアを手伝ってやってくれ。俺もグズダスもさっきの攻撃を防いだ影響で腕が使えないんだ」


 見てみると腕が痙攣しているのかブルブルと震えている。

 確かに、これじゃ剣もろくに握れないだろう。


「わかりました。それじゃあ、行ってきます」

「悪い。直ぐに俺も行く」


 そして、私はジェネラルを1人で相手しているイリアさんの元に向う。


「ファイアアロー!」

「グガアァ!!」


 イリアさんの近くまで行くと苦しそうな顔をしたイリアさんが魔法でジェネラルの足止めをしていた。


「イリアさん!」

「アカリちゃん!」

「後は、私が引き受けます休んで下さい」

「駄目よ!私も手伝うから」


 苦しそうな顔からしてどう見ても魔力切れが近い。

 私も、魔力制御の練習の際に誤って魔力切れまで無理をして気を失いかけた事がある。

 なので、ここは流石に引いて貰う。


「魔力切れが近いですよね?」

「それは、だけど、本当に大丈夫だから」

「駄目です。気を失われたら寧ろ足手まといになります。かわりに、グズダスの具合の確認をお願いします。ザックさんは、先程私が見て無事でした」

「……わかったわ。だけど、無茶はしないで」


 先輩冒険者であるイリアさんに対して、失礼な言い方になったが何とか引いて貰えイリアさんはグズダスの具合を見に走って行った。


「さて、もうひと踏ん張り頑張るか」


 そうして、私はジェネラルに向けて駆け出した。


 ※※※※※


 私は、走りながらジェネラルへ鑑定をする。


 ────

 名前:なし

 種族:オークジェネラル

 状態:通常

 LV:9/20

 HP:201/247

 MP:42/42

 筋力:275

 耐久:253

 敏捷:112

 魔法:31

 ─スキル─

【強腕Lv6】【堅牢Lv5】

 ─称号─

 なし

 ────


 やっぱりステータスが高い。

 これは油断したら一撃でやられるかも。

 だけど、やるしかない。

 だから、まずは小手調べ。


「エアカッター」

「グガアァ!」


 小手調べとして放ったエアカッターは当たった。

 しかし、ほとんどダメージは無く浅くしか傷を付けていなかった。


 マジか、殆んどダメージ無しだよ。

 それじぁあ、今度は。


「エアスラッシュ」

「グブアァァ!!」


 ヨシ!今度は効いた。

 だけど、決定打になるほどではないか。


 魔法で倒そうと思うなら鎌鼬を首に当てて斬り裂くしかないだろう。

 しかし、進化個体なだけあり通常オークよりも動きが速いので間近から狙わないと難しい。


「どうしたもんか。ってヤバ!」

「ゴガアァ!!」

「クソ!エアスラッシュ!」


 考えてた僅かな間にジェネラルが間近に迫り棍棒を振り上げおり慌てて横に避けお返しとジェネラルにエアスラッシュを放ちジェネラルの足へと当たる。


「グブア"ァァ!!?」

「ん?怯んだ?」


 何故か怯み、魔法を当てた箇所を見ると原因に気付く。

 エアスラッシュを当てた足にはザックさん、グズダスが剣で攻撃した事で怪我をしていた為その傷口にエアスラッシュが当たる事でダメージが大きくなった様だ。


「これは、使える」


 アカリは、ジェネラルの機動力を奪う手段が見付かり更に機動力を奪うべく追い討ちを掛ける。


「鎌鼬!もう1発鎌鼬!」

「グブア"ァァ!!」

「ハァ!!」

「ゴブアァ!?」


 ジェネラルの足へ今度はよりダメージを与える鎌鼬を当てる。

 狙い通り先程より動きが鈍くなりアカリはその隙に間近まで駆け寄りジェネラルの足を足場に飛び上がり顎を力一杯蹴りあげる。

 その結果、ジェネラルは上手く踏ん張りが効かず背中から倒れた。


「これで終わり。鎌いた「グゴアアァァァ!!」!?ガア"ッ!!?」


 ジェネラルの胴体に乗り、止めの鎌鼬を首を狙い放とうとした。

 しかし、ジェネラルは野生の勘でそれを受けたら死ぬと理解したのか放つ瞬間暴れだす。

 それにより、アカリはバランスを崩してしまいそこを、ジェネラルが手に持つ棍棒をアカリに向けてがむしゃらに振り抜き吹き飛ばされた。

 しかし、アカリの鎌鼬も吹き飛ばされる瞬間放たれジェネラルの胸を大きく斬り裂いていた。


 あそこで反撃するのかよ。

 まさに、窮鼠猫を噛むってか。

 受けたダメージがでかくて動けない。


「ハァハァ……グッ!!!」


 棍棒をモロに受けた為身体中がズキズキと痛み上手く動く事が出来ずとても戦闘が出来そうもない。

 痛みに立ち上がれず自分の油断に悔しがってると誰かが私の横を通り抜けジェネラルへと走っていく足音が聞こえた。


「後は任せろ!」


 その声に何とか顔をあげるとザックさんが剣を握りジェネラルへと走って行く背中が見えた。


「ザックさん?」


 ザックさんは、剣を構えながらジェネラルへと走って行く。

 それに気付いたジェネラルは、棍棒をザックさんへ向けて振り下ろそうとする。


「ハアァ!!」

「グガアァ!!」


 棍棒が振り下ろされた瞬間ザックさんは、それをギリギリの所で間合いの内側まで潜り込み力一杯の突きを斬り裂かれた胸の傷口の心臓部分に刺し込む。


「グガ…ア"…ァ"ァ"」


 そして、それが決め手となり心臓を破壊されたジェネラルは力尽き息絶えた。

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