第22話 吸血鬼さんパーティーを組む(4) 

 見張りの間、雑談をして盛り上がっていた私とイリアさんの2人は、朝日が昇って来たのに気付いた。


「朝日が昇って来ましたね」

「そうね、もっとアカリちゃんと話したかったんだけど残念ね」


 確かに、イリアさんとの魔法に関する話や今までの冒険の話はどれもこれも聞いててワクワクする話ばかりで私自身時間を忘れる位楽しかった。


 あ、だけど見張りはちゃんとやってたよ?

 雑談途中に近付いて来た魔物も倒したし、何なら今も索敵スキルを使い続けてるからね。

 多分だけど、索敵スキルのスキルLv上がってるんじゃないかなぁ。

 使ってる途中から索敵の精度と範囲が上がってたから。

 まぁ、数時間ぶっ通しで発動し続けたんだから当たり前っちゃ当たり前だろうけど。

 ん?使い続けるとかお前馬鹿なんじゃねだって?

 安全第一と考えたらこれが最適だしそれに、スキルのLv上げにもなるから鍛練にもなるんだよ。

 あ……何かこれじゃ、結局私が修行馬鹿みたいじゃんか。

 素でこう思う辺りやっぱり、私馬鹿かもしれない。


 おっと、いらない事に考えが傾いてしまった。


 アカリは、頭を軽く振って思考を戻す。


「?アカリちゃんどうかしたの具合でも悪い?」

「いえ!?何でもないです。それより、2人を起こしてしまいましょっか」


 いきなり頭を振ったものだから心配になったのだろう。

 イリアさんが心配そうに声を掛けて来たが何でもないので誤魔化してイリアさんと共に寝ている2人を起こす。


「ふぁ~~良く寝た。おはようさん。2人共、問題は無かったか?」

「……眠い」


 どうやら、ザックさんは、イリアさんとは違い直ぐに起きれて寝起きが良いタイプみたい。

 そして、グズダスは、寝起きは悪いのかただ一言そう言って眠そうにしている。


「多少魔物が何度か来た位で特にはなかったですよ」

「そうね、おしゃべり楽しかったわ」

「…………そうか」


 イリアさんの返答に困る返事に寝起きで上手く回らない頭では、答えられなかったのだろう。

 ザックさんは、何とも言えない顔で一言そう返すのだった。


 ※※※※※


 あの後、私達は朝食、武器や装備の確認、持ち物の整頓を済ませる事で調査の続きに向かう準備をする。


「さて、これから昨日の調査の続きに出る訳だが順調に進めば昼頃には例の大型の何かが一番多く目撃されてる辺りに着ける筈だ。昨日同様気を引き締めて行くぞ」

「はい」

「了解」

「おう」


 ザックさんの話を聞きながら私は、気を引き締めて返事を返す。

 それに続き、イリアさん、グズダスも気を引き締め程よく緊張感を持ちながら返事を返した。


「それじゃあ、調査再開だ」


 そうして、森の調査を再開した。




 のだが




「魔物…………全然出てきませんね」

「…………そうだな」


 私達が気を引き締めて、さあ!調査再開だ!と森の中を進み始めてからしばらく経ったのだが魔物とほとんど遭遇しない。

 別に、全く遭遇しないという訳ではない。

 数匹の角兎やはぐれゴブリン等は目撃した。

 勿論、遭遇したら即殺ったが。

 しかし、逆に言えばそれだけとしか遭遇しなかったのだ。


 もう、ここまで遭遇しないとか気を引き締めてる私達が馬鹿みたいに思えてくるなぁ。

 昨日の魔物との戦闘が嘘みたいに思えてくるよ。


 とは言え、一切警戒しないのは流石に森の中では危険でしかない為索敵スキルと周りの音を聴覚で拾ってはいるが。


 幾ら、魔物が居なくても一応は警戒しないとね。

 警戒心0でいたせいで魔物に襲撃されて反応出来ずに死にましたとか流石に笑い話にもならないから。


 アカリが、そんな事を内心考えてるとザックさんが私に話掛けて来た。


「昨日飯の時に話した通り大型の何かから他の弱い魔物が逃げたから居ないのかもな。今俺達が向かってるのはその大型の何かが目撃された場所だ。どんな生き物だって自分から死のうとは思わねえだろ?」


 私は、ザックさんの話に成る程と思った。

 確かに、昨日の話通りならここまで魔物と遭遇しないのも頷ける。

 ザックさんの言う通りどんな生き物だって理由なく自分から死のうと思わないだろう。


 まぁ、種族バレしたら即処刑されるかもしれないのにパーティー組んで依頼受けてる馬鹿が居るんだけどね。

 誰とは言わないけど。


 おっと、話が逸れた。


「逆に言えばある程度の強さの魔物はまだ、この辺に残ってる事にならねえか?」

「あぁ、グズダスの言う通りだ。どの程度の奴が居るのかはわからないが昨日みたいな雑魚とは違って手強いのが出てくる可能性がある」


 ザックさんとグズダスの話を聞いてる感じ手強いのが出てくる可能性が有るみたい。

 となると、警戒はこのまま続けた方が良さそうだ。


「イリア、アカリも今話してた様にもしかしたら手強いのが出てくるかもしれないから警戒は怠るなよ。それと、このまま行けば予想より早く昼前には目撃された場所に着きそうだ。少し早いが何処か空いた場所があればそこで昼飯も兼ねて休憩にしようと思うが良いか?」

「わかりました」

「早いけど仕方ないわね。了解よ」

「問題ないぞ」


 どう考えても、昼御飯には早すぎるとは言えこのまま行けば目撃場所に着くのは昼前後だ。

 時間帯的に早めにご飯を食べるのも仕方がないと言えるので素直に頷く。

 そうして、私達はしばらく歩いた先にあった木立の空いた場所で休憩するのだった。


 ※※※※※


 休憩を終えた私達は、調査を再開し目撃場所に向けて進んでいたがやはり、魔物とは遭遇せず順調に道中は進みアカリは、その道中あるものを発見した。


 ん?あれは、足跡?

 それに、足跡のサイズもかなり大きい。

 もしかして、例の大型の何かの足跡かも。


 そう、少し逸れた離れた場所の地面に足跡が見えたのだ。

 どうやら、吸血鬼の視力だから気付けた様で他の3人は気付いて居ない。

 アカリは、先に進もうとしてる3人に声を掛ける。


「皆ちょっと待って!」

「どうしたアカリ」

「アカリちゃん何かあったの?」

「何だ?」

「あそこ、地面に足跡がある」


 3人にも、わかるように足跡がある場所を指差す。


「ん~~あ!本当ね足跡があるわ」

「マジだ、足跡があるな」

「良く気付けたなアカリ。よし、確認しに行くぞ」


 全員が、足跡に気付き直ぐ様確認するべく足跡の元に向かう。

 そして、近くで見た事でその大きさに驚く。


「大きいな。こりゃあ、本体はかなり大きいぞ。もしかしたら、例の大型の何かか?それに、幾つか大きい足跡の分より小さいのもあるぞ」

「足跡からして二足歩行の魔物見たいだな」

「この森だとオークか?だが、小さい分はともかく大きい方は、オークにしてはサイズがでかい気が」


 ザックさん、グズダスが足跡から正体の推察をしている傍ら私とイリアさんは、周りの確認をしている。


「ザック、足跡の先に枝が折れた木が沢山ある。まだ、新しいから向かえば居るかも」


 イリアさんが、新しい手掛かりを見つけ報告をする。


「そうか、なら足跡をたどってみるとするか。お前達、この先に今回の目的の奴が居るかもしれない慎重に行くぞ」


 私達は足跡の正体を探るべく足跡をたどって行く事にする。


 さて、この先に何が居るのかな?


 足跡をたどりしばらく歩いたが足跡の先は、随分と荒れていた。

 地面の草花は踏み潰され、道中に幾つも木が幹ごとへし折れているものもあった。

 その荒れた光景を見た事で3人は今まで以上に警戒心を高めていく。


 …ーン、シーン


 ん?何の音?


 ……シーン、ズシーン、ズシーン


 これは…もしかして、足音?


 私は、遠くから聞こえてきた音に耳を澄ませるとそれが足音だと気付いた。

 3人も音の聞こえる距離が近付いた事で気付いた様で足音の正体を探るべく自然と歩く早さが早くなる。


 そして、歩いて行ったその先にそれは居た。


 そこには、3体程のオークが歩いていた。

 その姿は、私が以前倒したオークと同じで豚の様な顔の赤茶けた体色をしている。

 但し、前と同じなのはその内の2体だけだった。

 問題なのは、その内の2体を従える様に歩いている1体だった。

 そいつは、見た目こそ2体と似ているが大きさがまるで違い2体が体長2、3メートルなのに対して優に4メートル近い大きさで全体的に筋肉質な見た目をしていて一目で通常のオークとは別物だと認識させられた。


 まるで、進化個体みたい。

 いや、あれ、もしかしなくてもオークが進化した個体なんじゃないの。


「……オークジェネラル」

「どう見てもそうよね」

「おい、どうする」


 声が聞こえ横を見てみると私を除く3人は、アレの正体を知ってるみたいで既にどうするのか話し合っている。


「オークジェネラルってオークの進化個体でしたっけ?」

「あぁ、そうだ。通常のオーク以上に頑丈な上に筋力も奴を見ての通り強いからな手強い事この上ない相手だ。ぶっちゃけ相手するのにかなり覚悟がいる。」


 マジか…Dランクのベテランのザックでも覚悟がいる相手ときたか。

 てか、良く見るとイリアさんもグズダスも顔色が良くない。

 ただ、絶対に無理って顔では無さそう。


「まぁ、この4人でジェネラルを相手するなら出来ない事はないだろうが残りの2体が邪魔すぎる」


 成る程ね。

 確かに、オーク単体ならどうにもなるとしてもジェネラルを相手に同時に相手するとなると厄介でしかないか。


「一旦ギルドに戻って報告するか?」

「そうしたい所だが、帰るまで時間が掛かる。上手く対処すれば相手出来ない訳ではないからここで仕留めておきたい」

「そうね、私達で対処出来るなら仕留めておきたいわ。ここで見過ごして後で被害があったとなると悔やみきれない」

「そうか、わかったよ。指示に従う」


 話が進んで行くから話に参加し損ねてしまった。

 これは、アイツを殺る感じかな?


「アカリはどうする。無理強いはしない。ジェネラルと2体は、この4人で相手して何とか倒せると思う相手だ。無理だと思うならここは素直に引く」


 倒せるのなら倒すべきだと思い私はザックさんの話に直ぐに頷く。


「やりますよ。それと、通常オーク2体が邪魔なんですよね?」

「あぁ、そうだが」

「それじゃあ、こんな感じでいきませんか?」


 私は、3人に作戦とも言えない様なアイデアを提案する。

 かなり……いや、滅茶苦茶拒否られたが説得して何とか頷いてもらえた。

 

 ※※※※※


「それじゃあ、行くぞ。お前ら、絶対に死ぬなよ。特に、アカリ。絶対に無茶するなよ!絶対にだ!」


 振りかな?


「振りですか?あ、いや、ごめんなさい。気を付けますから」


 ボケた途端に睨まれてしまい私は即謝る。

 イリアさん何てまるで鬼のようだった。

 場を和ませるつもりで言っただけなのに。

 てか、この世界に振りの文化があった事に驚きだ。


「頼むから、ふざけないでくれ。改めて言うがアカリ絶対に無茶するな。と言うか、この作戦自体が既に無茶苦茶だったな」


 まぁ、ザックさんがこう言うのも仕方なかろう。

 何せ、この作戦は私が1人でオーク2体を引き付けその間にジェネラルを3人が対処。

 そして、私がオークを倒し終えたら4人でジェネラルを倒すっていう作戦。

 まぁ、3人も余裕があれば援護するって言ったし私が危なくなれば何が何でも絶対逃げろって念を押されたんだけど。

 だけど、私は以前に2体相手に1人でやれたしあれからレベルも上がったから大丈夫だとは思うが。


「それじゃあ、行きますよ!」

「おう!」

「えぇ!」

「あぁ!」


 そうして、私達はオークとジェネラルに向けて走り出す。

 私が、オークの気を引くのが作戦の要。

 なので、私は初っぱなから目立つべくオークに向けてスキルLvが上がった事で出来る様になった強めな魔法を放つ。


鎌鼬かまいたち

「ブグオ"ァ"ァ"!!」


 私の放った魔法は此方に気付いて居なかった1体のオークの腕を斬り飛ばした。


「!?グゴアアァァァ~~!!」

「!?ブグアァァ~!!」


 突然腕を斬り飛ばされ苦しむ仲間にようやく自分達に近付く私達に気付いたのだろう。

 自分達に害なす存在に苛つきながら咆哮を上げる。


「さあ、殺りますか」


 私達とオーク、オークジェネラルの戦いが始まった。

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