第9話 吸血鬼さんギルドカードを手に入れる

「あ"ぁ"~疲れた~~」

「あはは…大変でしたもんね」


 私は今、ギルドのホールに設置してある机にぐで~と倒れ込んでいた。

 私が何でこんなに疲れきっているのか。

 それは、私があの屑を倒した後にあったとある出来事が原因だ。


 ※※※※※


「二度と私とアリサの目の前に現れるな」


 私の蹴りを叩き込まれた屑は、そのまま吹き飛び数メートル先まで転がっていった。

 今の蹴りは先程のカウンターよりも手応えがあったから今度こそ立ち上がる事は出来ないだろう。

 数秒経つが動く気配がなく、直ぐに審判のお姉さんが吹き飛んだ屑の元に駆け寄り戦闘が可能か確認する。


「グズダスさん、グズダスさ~ん!反応がない。気絶してる。グズダスさん、気絶により戦闘続行不能。よって模擬戦の勝者はアカリさん!!」

「よ「「「「「わああぁぁ~~!!!!」」」」」っ!!!ふぇっ!?な、なに!?」


 私が、歓声にビックリしていると、今まさに歓声を挙げた模擬戦を観戦していた冒険者達がこちらに向かって走ってきていた。


 ちょっマジでなに!?

 ていうか、私目掛けて走ってきてない!?


「嬢ちゃんアンタ凄いな!!あのグズダスに本当に勝ちやがった!!」

「ええ!!本当、あいつ自分が強いからっていつも私達に命令してきてムカついてたから最後の蹴りはスカッとしたわ!!」

「確かにあの蹴りは凄かったな!!顎をバコンッ!!!て蹴って浮いた腹にドゴンッ!!!て蹴り飛ばすのは見てて爽快だったぜ!!」

「それもそうだけどよ、その前の突きに対してカウンターで殴り飛ばすやつ。あんなの近接戦担当の奴でも難しくね?姉ちゃんアンタマジで凄いな!!」

「え?ちょ、あの、え?」


 突然囲われたうえにほぼ同時に感想を述べられるモノだから私は、当然反応なんて出来る筈もなく1人アワアワと混乱してしまう。

 しかし、模擬戦の熱に浮かれた彼ら彼女らの行動はこれだけで終わる筈もなく、更にアカリを混乱の渦に沈めていく。


「嬢ちゃんアンタ冒険者になるんだよな?良かったら俺らのパーティーに入らないか。歓迎するぜ!!」

「あ!!てめえ、何勝手に勧誘してやがる!!俺が先に誘おうとしてたのによ!!」

「あ"ぁ"?何言ってやがる、誘うのは俺達のパーティーだっつうの!!」

「何言ってるのよ!!アンタ達見たいなむさい男共のパーティーにこんな可愛い子を入れるわけないでしょ!!この子は、私達のパーティーに入れるのよ!!」

「ちょっ!!私達だってその子とパーティー組みたいのに~~!!」

「あ、あう、ま、まって!」


 アカリは、困惑しながらもどうにか話を止めようと声をかける……しかし


「あ"ぁ"!!何だよ、早いもの勝ちだろうが!!」

「何が早いもの勝ちだ!!餓鬼かてめえ!」

「何を喧嘩してるよアンタらは!!」

「もう!!喧嘩しないでよ!!こうなったらこの子に決めてもらいましょ」

「あぁ、そうだな。それなら諦めもつきそうだ」

「チッ、そうだな。そもそも他人から強要するのも良くねえか」

「それじゃあ」

「「「「「嬢ちゃん/姉ちゃん/お前/アナタはどのパーティーに入りたい!!」」」」」


 多数からの同時なパーティー勧誘。

 普通の新人冒険者なら喜んで飛び付くような事なのだろう。

 しかし、混乱、困惑に陥っているアカリは、その勧誘に対し……


「……ひ」

「「「「「ひ?」」」」」

「ひにゃああぁぁぁ~~~~~~!!!!!」


 キャパオーバーで悲鳴?発狂?するのだった。


 ※※※※※


 結局その後、私の勧誘合戦は受付嬢のお姉さんが止めてくれた事でようやく終わり冒険者達も不承不承ながらも解散してくれた。

 正直、お姉さんには止めてくれてありがたく思う。

 だけど、止められるならもっと早く止めてほしかったと口には出さなかったが若干恨めしく思った。

 因みに、アカリは精神的に疲れきって気付いてないが、冒険者達は勧誘を諦めてはいないので今も隙あらば勧誘しようと狙っている。


 そして、解放されて現在に至り、今は再びギルドカードを作る為に受付嬢のお姉さんを待っている所だ。


 ん?別に他の窓口で作れば良いだろだって?

 私もそう思ってお姉さんにそう言ったさ。

 だけど、何故か他の窓口の受付嬢も忙しいし、自分が受けた仕事だから最後まで自分がやるっていうそれっぽい理由で断られてしまったんだよね。


 で、その様に言った本人は現在私がぶっ飛ばした屑を医務室に運びに行ってていない。

 恐らく仮にも実力者の屑が何でボロボロなのか医務室の先生?に説明でもしてるのかな?


 そんな事を内心考えてたその時


「お待たせしました!遅くなってすみません」


 タイミング良くその本人が小走りで私とアリサが座ってる机にやって来た。


「それでは、改め……アカリさん、お願いですからそんなジト目で睨まないで下さい」

「何の事でしょう?」

「うっ!!しょうがないじゃないですか!!あんな沸き立つ皆さんを止めたら逆に私が恨まれかねないんですから多少時間をおくしかなかったんですよー!!」

「ハァ~今回は私にも原因があるので許しますけど、また同じような事になったら助けて下さいよ?あれ受ける側は、本っ当~~に大変なんですから」

「はい、すみません」


 私もお姉さんもお互い反省したし、そろそろ本題に入ろうかな。


「それで、そろそろ本題のギルドカード作りを再開したいんですけど」

「はい、その事なんですけど。あのアカリさん、1つ聞きたい事があるのですが」

「聞きたい事?私が答えられるモノなら答えますけど何です?」


 お姉さんは、恐る恐ると言った感じで私に聞きたい事があると言ってきた。

 私は、他の窓口がダメと言った理由はこれかな?と内心思いながらお姉さんに了承する。


「アカリさん先程の用紙に職業魔法使いと書かれましたよね?ですが、先の模擬戦では魔法を1度も使われなかったうえに武器なしの近接戦闘で剣持ちのグズダスさんに圧勝。あのアカリさん?本当に魔法使いですか?もしかして職業欄に書いた職業を拳闘士と間違えてたりとか?」


 あぁ、成る程ね。

 確かに魔法使いって書いた奴がその後自称実力者に得意な筈の魔法を使わずに物理だけで倒すとか疑うのも無理ないか。


「過去にも職業を偽装した冒険者がおりまして何度か問題になったケースがあるんです。なので、念のために確認させて頂きたくて」

「別に間違えてないですよ?実際私は魔法使えますよ。さっきは、魔法で間違って死なせても面倒なので近接戦で倒しただけです。実際、私のステータスって魔法使い寄りなので」

「あれだけ近接戦が出来るのに魔法使い寄りなステータスってアカリさんアナタ何者なんですか」

「あはは、ただの一般人吸血鬼ですよ。それに、近接も全部我流ですし」


 実際、前世じゃ両親に護身術として多少は武術を習わされたぐらいで私自身はそこまで強くなれなかった。

 まぁ、ある程度の強さになるまで武術は習い続けはしたけど。

 だけど、今の吸血鬼の身体は素の状態でも十分に強く護身術も前世より上手く扱える。

 ほんと流石戦闘特化種族なだけあるよ。


「いや、一般人って。はぁ~まぁ、アカリさんにも隠したい事はあるでしょう。無理に詮索はしません。取り敢えず今知りたかった事は知れたので先の用紙通りでギルドカードを作らせて貰いますね」

「はい、お願いします」


 そして、ギルドカードは完成し私は、ようやく身分証を手に入れる事がかなった。

 その後、軽くギルドでの注意事項、ランクについての説明、依頼の受注方法等聞いた。


「主な説明はこれくらいですね。他に何か聞きたい事はありますか?」

「そうだなぁ。あ、魔物の買い取りってしてくれるんですか?」

「はい、しますよ。こことは別のあちらの窓口で担当してくれます」


 指し示した先にまた別の窓口があった。

 どうやらそこが買い取り専用の区画のようだ。


「ありがと。聞きたい事は今はこれぐらいかな」

「はい。それでは、私はこれで失礼させて、、あ、そうでした!今さらですが、私の名前はカリナと言います。自己紹介が遅れてすみませんでした」


 お姉さんもといカリナさんは、そう言うと「それでは、失礼します」と言って離れていった。


「それじゃ、出よっか」

「はい、そうしましょうか」


 カリナさんを見送った後、私達2人は1度買い取り場所に寄り、街に来るまでに倒した魔物を"全て"買い取り所に預けギルドを後にした。


 ※※※※※


 ギルドを後にした私達は、共に街の中を歩いていた。


「あの、アカリさん」

「ん?どうしたのアリサ?」


 私を呼ぶ声に、どうかしたのかと隣を歩くアリサの方を向く。


「模擬戦の時に凄く怒ってた気がするんですけど何かあったんですか?」

「え~と、そのね、アイツが言った事がさ、どうしても我慢出来なかったんだ」

「そうなんですか。因みにその言った事って」

「ふふ、秘密」

「ええ~~」


 アリサは、私の答えに頬を膨らませて可愛くむくれる。

 私があんなにキレたのは、アリサが馬鹿にされたのが原因だ。

 アリサと会ったのは昨日からで付き合いはとても短い。

 だけど、知らぬまに死に転生する事になり、仲の良かった両親に何も告げられず別れる。

 転生した直ぐは、スキルや魔法に興奮して感じる事はなかったけど、心の奥では悲しみや私を知る人が居なくなった孤独を感じてたのか、会ったばかりの私に優しくしてくれたアリサの存在は私の中でとても大きくなっていたらしい。

 アリサからしたら命を助けてくれた人に良くしてるだけかもしれないけど、私はそれがとても嬉しかった。

 だからこそ、アリサを馬鹿にされた事にあの時とてもキレたのだ。

 正直別にこの事はアリサに隠すような事でもないのだが、流石に本人に面と向かって話すのは恥ずかし過ぎるので多分この事を話す事はないと思う。


 さてと、こうして身分証にお金を稼ぐ手段と私は、この世界で過ごす為の下地は準備出来てきた。

 だけどこの世界に転生じゃなくて私と違ってちゃんと転移出来たクラスメイトの皆は今どうしてるのかな?


 女神様の話では、私以外の皆はちゃんと転移成功したらしいから恐らく召喚元の国に今は居るのだろう。

 普通の人達なら異世界転移なんていきなりの事で慌てるのだろうが……


「あの"男"が居るなら大丈夫かな」

「?アカリさんどうしたんです」

「あ、いや、何でもないよ」

「?」


 アカリは、アイツが居るなら別に大丈夫だろ、とこの世界の何処かに居るのだろうクラスメイトの事を謎の安心感を抱きながら思うのだった。

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