第8話 吸血鬼さん模擬戦をする
テンプレさんの健気な働きに私は、辟易しながらも後ろを振り返る。
するとそこには、見ているだけで不愉快な気分になる表情を顔に張り付けた男が立っており私をニヤニヤと見ていた。
うわぁ、見るからに弱いもの虐めが大好きっぽい屑野郎って顔してる。
正直無視したいけどこういう屑野郎って大抵しつこいのが相場だし適当に相手して消えて貰おうかな。
「あの、何か?」
「あ?聞こえなかったのか?貴様みたいな餓鬼に冒険者を名乗られると俺の様な実力のある冒険者まで舐められて迷惑なんだよ。お前みたいな餓鬼はさっさと家に帰ってママのおっぱいでも飲んでな」
いや、マジでうぜえなコイツ。
こんな事現実で人に言う奴マジで居るんだな。
実際に、自分に向けられて言われると殺意しか沸いてこねえよ。
アカリは、目の前の屑の言動で沸々と湧いてきた怒りを何とか押さえ込み話を続けようと努力する。
アカリの今回の目的は、あくまでも身分証となるギルドカードが欲しいだけ。
わざわざギルドに来て問題事を起こしたい訳ではないのだ。
「私は、身分証としてギルドカードを作りに来ただけ。別にあなた達に迷惑かけるつもりはないけど」
「身分証だ?冒険者登録しておいて依頼一つ受けないつもりかよ。おいおい随分と冒険者の事を舐めてるなてめえ」
「別に、何もしないとは言わないけど。私に出来る依頼があればやるつもり」
「てめえみたいなやる気のねえ奴が居る時点で迷惑なんだよ!!なあ!!お前らだってそう思うよな!!」
「「「「「………………」」」」」
「おいてめえら何無視してんだよ!!」
屑野郎が周りの冒険者に声を挙げて賛同を求めるが全員無視か顔を反らす反応ばかりで賛同するものは居なかった。
うわぁコイツ他の冒険者からも嫌われてんじゃん。
まぁ、こんな屑と同類と思われるとか普通に嫌に決まってるもんね。
にしても、コイツと話し合うとか無理な気がしてきたよ。
アカリは、このままだと話にならないと思ったので、後ろにいる受付嬢のお姉さんに助け船を求める事にした。
相手にするのが面倒になったとも言う。
「ねえ、お姉さん?何かあんなふうに言ってるけど実際はどうなの?」
「いえ、登録に必要な最低限の条件をクリアしていれば問題ないです」
「その最低限って?」
「年齢が13歳を越えている事です」
「13歳?」
「はい、世間一般として13歳から成人として数えられますので」
「だったら、別にギルド的には私が登録しようと問題ないわけだね」
「はい、問題ありません」
「らしいですよ?」
私は、屑に対して言外に「お前の指図に従う必要はない」と伝える。
すると、どうやら私の態度が気に触ったのだろう。
屑は、先程よりも更に苛つきながら騒ぎ出した。
「うるせえ!!ちょっと顔が良いからって優しく出てりゃ調子に乗りやがって!!俺よりも弱いくせに偉そうにしてんじゃねえ!!てめえみたいな雑魚は俺の命令に従えば良いんだよ!!」
「アカリさんは弱くないです!!」
「餓鬼は黙ってろ!!」
「……は?」
は?いつ優しく出てたわけ?
ずっとキレ散らかしてただけじゃん。
てか、今アリサに何て言ったコイツ。
「ハァ~もういいや」
アカリは、チラッと男を一瞥した後、受付嬢のお姉さんに確認した。
「お姉さん、あのク…男ってそんなに強いの?」
「え?あ、えっとはい。Dランク冒険者のグズダスという方で実力は確かな人です」
へえ~この屑グズダスって名前なんだ。
まぁ、正直どうでも良いけど。
「ねえ、あなたさ?自分で強いって言ってるけどそんな強いわけ?」
「あ"ぁ"!!当たり前だ!!てめえみたいな雑魚よりも圧倒的にな!!」
「だったらさ私と一つ勝負しない?」
「あ"ぁ"勝負だと?」
グズダスは、アカリの提案に訝しんだ目を向ける。
「そう、私とク…あなたで模擬戦するの。あなたが勝てば私は登録するのを諦めて二度と冒険者ギルドに関わらない。私が勝てば登録させてもらうし私に二度と関わらない事を誓ってもらう」
「良いぜやってやるよ。貴様がどれだけ雑魚なのかその身に教えてやる」
アカリの勝負を受けこちらを猛禽類の様な目で見てくるのに対しアカリの赤い目は屑をゴミを見るような蔑みの目で見るのだった。
※※※※※
冒険者ギルドの一角にある訓練場。
現在アカリはそこにいる。
何故其処に居るのか、それは提案したは良いが勝負をどこでするのか考えてなかった為、受付嬢のお姉さんに良い場所がないかと尋ねたらギルドの訓練場を使えば良いと言ってくれた。
まぁ、その前にめちゃくちゃ辞める様に言ってきたけど。
そりゃもうこっちがビビる位に辞めるようにって言い聞かせに。
~~~~~~
「てなわけでお姉さん何処か戦え「アカリさん!?辞めましょう!!」うえっ!!!???」
「グズダスさんはDランクで実力はホンモノなんです!!新人のアカリさんじゃ敵いませんよ!!」
「いやでもやってみないと、、(てか勝つし)」
「ダメです!!アカリさんみたいな綺麗な方がいたぶられるのなんて見たくないんですよ~~!!なんなら今すぐギルドマスター呼んでグズダスさんを止めますから~!!」
「いや……えぇぇ~~」
~~~~~~
うん。あの後もお姉さんは辞めさせようとしてきたけど、危なくなったら直ぐに止めるって言って何とか納得してもらった。
それでも、内心は納得しきれない様でジト目で私を見ながら訓練場に案内してくれた。
あとその際、何故かあの場にいた冒険者の人達も一緒に来たけど。
そして、今は戦闘前の準備時間。
「アカリさんっ!!」
心配そうな顔をしてアリサが走ってきた。
「アリサ、どうしたの?」
「やっぱり戦うんですか?」
「うん。本当は戦う必要なんてないんだけどね。だけどあのク…グズダスって奴戦って勝ちでもしないと今後もしつこくつきまといそうだし」
「アカリさんが強いのは知ってます。だけど、やっぱり心配で。私には応援するくらいしか出来ないけど頑張って下さい」
「見てて、ぶっ飛ばし「おい!!早くしやがれ!!こっちはとっくに準備出来てんだよ!!」……」
チッ!!うるせえな、今アリサと話してるだろうがこの屑野郎がっ!!
「あ、アカリ…さん?」
「ん?どうかしたアリサ?」
「あ、いえ、何でもないです。はい」
何でそんな鬼でも見た様な顔してるんだろ。
まぁ、いっかアリサが何でもないって言ってるし。
とりあえず、アリサとの会話を邪魔したあの屑はぶっ潰す!!
「それじゃあアリサちょっと
「はい(何か違う言葉が聞こえたきが)」
アリサが去り際に何か喋ってた気がしたけどきっと気のせいだろう。
「お待たせしました」
「チッ!!」
「それでは、これよりアカリさんとグズダスさんによる模擬戦を始めます。ルールですが、殺しや致命傷に繋がる攻撃は禁止、相手が降参の宣言もしくは気絶等の戦闘続行不能になった時点で終了とします。双方それで宜しいですね」
「はい」
「どうでも良いからさっさと始めろ!!」
審判を買って出てくれたお姉さんは、目元をひくつかせながら手を挙げ……
「それでは、模擬戦……始め!!」
模擬戦が始まった。
※※※※※
開始の合図と同時に屑は、一直線に私に向けて腰に携えていた剣を振りかぶりながら突っ込んできた。
「オラァッ!!死ねや糞女!!」
昨日戦ったオークに比べたら速いスピードだ。
だけど、愚直に真っ直ぐ突っ込んでくるので動きが比較的読みやすい。
私は、バックステップで振り下ろしを避ける。
しかし、屑も避けられると思っていたのか直ぐ様、切り上げ、袈裟斬り、切り払い、突き等次々と技を繰り出して迫ってくる。
しかし、私は吸血鬼の動体視力でひとつひとつ丁寧にかわす事で無傷で避けきる。
「オラオラどうした!!得意の魔法を使ってみろよ!!」
「……」
「チッ!!シカトしてんじゃねえ!!」
私が無反応なのがムカついたのだろう。
男は、私に向けて大きく振り下ろしをしてきた。
そんな、大降りな振り下ろしが当たる筈もなく私は、逆にそのまま踏み込み屑の懐に潜り込む。
「てめえ!!」
「隙あり」
「ゴファッ!!」
モロに私のボディブローを腹にくらい屑はたたらを踏む。
しかし、流石にボディブロー一発では倒れる事はなく打たれた部分を擦りながらもこちらを睨んでいた。
「糞女が、一発入ったからって調子にのんじゃねえ!!」
「いや、何も言ってねえだろ」
男はその後も剣を振るが、雑魚と呼んだ私に攻撃された事、そして剣が当たるどころか一度も掠らない事に苛つき段々と剣の軌道が雑で大振りになりだす。
足腰が下がった、この動きは、突き。
「糞が!!雑魚の癖に避けんじゃねえ!!」
「雑魚雑魚うるさいんだよ!!」
「ゴブア"ァ"ッ!」
私は、屑が突きを仕掛けてくるのを動きから読み取りそれに対してカウンター気味に屑の顔面に拳を捩じ込み殴り飛ばした。
手応えアリ。終わったかな?
確かな手応えを感じ終わったかと殴り飛ばした屑を確かめる。
すると、驚いた事に顔面を血だらけにしながらも立とうとしていた。
「うっわマジで?あれ喰らって立つの?…ん?」
アカリは、今度こそ終わらそうと屑に近づいて行くと、屑が何か喋っているのに気付いた。
「糞が、何で俺がこんな雑魚に、雑魚は俺に従えよ、あいつらもこの糞女もさっきの雑魚の"ガキ"も」
アカリは、その言葉を聞いた瞬間に一瞬で屑との距離を詰め屑の髪の毛を鷲掴み持ち上げる。
「おい」
「糞!!離しやが、ヒイッ!!」
屑の目の前、そこには目の瞳孔が開ききった鬼のごとき顔をしたアカリがいた。
「お前、今何て言った?」
「い、いや、その」
「おい、どうなんだよ?はっきり言えよ」
「う、うるせえ!!いいからはな、痛っ!?」
屑が喚こうとするので掴んでる髪をむしる様に捻る事で黙らせる。
「さっきから黙って聞いてりゃ人の事を糞女だの雑魚だの好き放題言って。お前それしか言えないわけ?」
「痛っ!?は、離せ、イデェッ!!」
「……ハァ~まぁ、別にまだ私の事を言うのは我慢してあげるよ。だけどさぁ?あんたさっき何て言ってた?」
この屑は、私だけでなく他の冒険者……そして、アリサの事も雑魚と言った。
「わ、痛っ!、悪かった!!俺が悪かったから離してくれ!!」
屑は、髪を掴まれる痛みに耐えかねたのか自分が悪かったと叫ぶ。
まぁ、そりゃ耐えかねるのも無理もないだろう。
アカリは、先程から髪を捻る強さを次第に強めている上に屑はカウンターを受けた事で足に上手く力が入らず立つことも難しい。
今立てているのもアカリが髪の毛で引っ張って居るから立つ事が出来ている。
ふ~~ん……悪かった、ね。
「許してほしい?」
「あ、あぁ俺が悪かったから許してくれ!!」
「そう、わかった。それじゃあ……………………許してあげない」
「え?」
許してくれると思っていたのだろう。
屑は、私の言葉に唖然とした顔をする。
「許すわけないでしょ?お前は、私だけでなく他の冒険者、そしてアリサの事を雑魚と侮辱したんだよ?許して貰えると思ったの?」
この屑は、アリサを侮辱した。
見ず知らずの私を気遣ってくれた。
自分よりも強くて怖い筈の相手に対して私の為に、言い返してくれた。
そんな心優しい少女であるアリサを侮辱されて許すわけがない。
「お前みたいな屑野郎がアリサを侮辱するな!」
「て、てめゴブァ"ッ!!」
アカリは、掴んでいた頭を離しそのまま顎を蹴りあげて浮かし流れる様に目の前に晒された胴体に後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
「二度と私とアリサの目の前に現れるな」
「「「「「わああぁぁ~~!!!!」」」」」
アカリ対グズダスの模擬戦。
結果は、アカリの完全勝利で終わるのだった。
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