第6話 街までの道中

 川の水面に映る白銀赤目の美少女の顔それは、前世の私の顔にとても似ていた。


 あ、別に自意識過剰とかじゃないよ?


 前世じゃ、趣味がゲーム、アニメ、漫画、ラノベというオタク女子な私だったが、ひとつだけ自慢出来た事がある。

 それは、私が結構な美少女でそれなりにモテていたことだ。


 いや!?ちょっと待って!!

「ハイ、解~散~」って離れていかないで!!

 本当だってば!!嘘じゃないから!!

 証拠は無いけど本当にそれなりにモテテたんだよ!!


 まぁ、モテたとしても私は、男共に時間を使うくらいなら趣味に時間を使いたい派だから一度も付き合った事はないんだけどね♪


 え?何で突然囲んでくるの?

 イヤッ!!ヤメテッ!!

 ヤジを飛ばさないで!!

 空き缶投げてこないで~~!!


 とまあ、ふざけるのはこの辺で止めるとして、実際の所、クラスの皆も「緋璃ってオタクだけど、普通に美少女だよね~」って言ってた事からも前世の私はそれなりに美少女だったという事で間違いないだろう。


 そんな、前世の私と酷似している顔が水面に今映っているのだ。


 そう、酷似、つまり似てるけど良く見ると異なる見た目ということ。


 水面に見える顔は、大まかな部分は前世の緋璃の時と同じだが、髪色、目の色は勿論、目元や雰囲気など所々が元の緋璃と異なる。


 しかし、アカリは何処かでこの異なる部分に見覚えがあった。


「どっかで見覚えがある気が……あ、そうだ、女神様に似てるんだ」


 そう、アカリが見覚えがある様に感じた正体、それは他ならぬ今のアカリを生み出した女神様であった。


 その事に気付いたアカリは、もう一度水面を覗き確かめると、異なっていた部分が女神様と似通っているとよくわかった。


 前世のアカリは趣味やクラスの皆や友達と居るとき以外は、気だるげな雰囲気等がよく浮かんでいた。

 だが、今のアカリは女神様程ではないが優しげな雰囲気を感じ見ていて心が安らぐ様に感じる。

 髪の毛も、女神様の様に柔らかそうな絹を思わせ、髪色は違うものの女神様が陽光ならアカリは夜に浮かぶ月の月光を思わせる。

 身長は、女神様程高くなくて前世同様160ちょい位だった。

 スタイルは、流石に女神様程ではないけど普通に良いと思う。


 このような感じで今のアカリは、前世の緋璃に女神様の要素を上手く組み合わされた事で本人の知らぬ間に前世以上の美少女としてこの異世界に爆誕していたのだ。


 こりゃアリサが、女神様みたいな綺麗な人なんて言う筈だよ。

 だってこれ前世の私の顔に女神様の究極的な美しさを上手く合わせる事でとんでもなく相乗効果を生み出してる様なもんだもん。


 アカリは、「なるほどねぇ、うん、うん」とアリサが言った言葉の意味を理解し、アリサを待たせている所へ戻るのだった。


 ※※※※※


「暗くなってきたね。どうする、まだ街まで距離がありそうだけど、今日の所はこの辺で一晩過ごして明日街に向かう?」


 あの後、しばらく歩き続けた私達だが、街に着く前に日が沈み始め辺りが暗くなってきていた。

 私は、吸血鬼の身体のおかげか暗い中だけど普通に見えているから、このまま進もうと思えば多分行けると思う。

 だけど、人間のアリサはそうはいかない。

 魔物の類いは、まだ私が倒してあげれば良い。

 だが、見たところアリサは薬草や小物を入れてる小さな鞄以外に荷物が見えない。

 つまり、暗闇を歩く為の明かりの類いを持ってないということ。

 それに、オークに襲われ逃げていたからアリサの顔には疲労の色が見えている。

 流石にこんな状態で森の中を歩くのは素人目線からも危険過ぎだ。


 なので、アリサに森で一晩過ごして街に帰るのは明日にするか聞いてみた。


「そうですね、夜の森を歩くのは危ないですし、流石にちょっと色々あって疲れちゃいました」


 そんな訳で、アリサも私の提案を飲みこのまま森で一晩過ごす事になった。


 ※※※※※


 私とアリサは、その後焚き火や食事、寝るためのスペースを整えて後は明日を待つのみとなった。


 え?テンポが早すぎ ?

 しょうがないでしょ、特に語る様なこともなかったんだから。

 え?お前吸血鬼なのに何を食ったんだよって?

 いやね、私も食事の直前になって思ったんだよ。

 あれ?私というか吸血鬼って何を食べれば良いんだろ?もしかして血液?ってね。

 だけどさ、少し前まで普通に人間だった訳で血液なんて飲む気も起きないし、何ならこの場で飲める血液ってアリサの血液しかいないじゃん?

 だから、普通のご飯食べた訳よ。

 そしたらさ、空腹なくなったんだよねぇ。

 その時は、ほんっと~~に助かったって思ったよ。

 これも女神様が何かしてくれたのかなぁ。

 あ、因みにご飯だけどアリサに会うまでに森の中で見つけて採ってた果物を食べたよ。

 鑑定で見て食べられるって書いてあったから安心安全、鮮度抜群、果汁たっぷりでとっても美味しかったです。


 ※※※※※


「アリサ疲れてるでしょ?私が不眠番してるから寝てていいよ」


 食事を終えてお腹が満たされ、疲れも限界に近いのかゆらゆらと船を漕ぎだしたアリサに私は、そのように言った。


「い、いえ大丈夫です!アカリ…さんこそ、オークと戦われたんですか、ら休んで下さ、い……はっ!」


 しかし、オークと戦った私こそ休んで欲しいと言ってくる。

 アリサは、きっと優しい子なんだろう。会ったばかりの素性のわからない私に対して気遣いをしてくれるし、仲良く話もしてくれて正直とても嬉しい。

 しかし、目の前のこの子は既に限界で喋る事も難しそうに話している為見るからに不眠番等無理だ。


「そんな事言ってもアリサ見るからにふらふらだよ?私は、別にそんな疲れてないし眠くないから心配しなくて大丈夫だよ。だから、安心して?」


 実際、吸血鬼になったからか今は疲れもそんななく、夜行性なのか眠気もそんなない。

 なので、心配せずにアリサには、遠慮せず休むように言う。


「う~~!!わ、わかりました。そうします。だ、だったら、せめて私が寝るまでで良いのでお話ししませんか」


 私が寝ちゃったらアカリさん暇になっちゃいますから。


 そんな可愛い事を言ってくるアリサに私は「良いよ、それじゃお話しよっか」とアリサが眠るまで話すのだった。


「アカリさんは、どうして森の中にいたんですか?」


「訳アリでね?詳しく言えないけど別の場所から森を通って街に向かってたの」


「ここの前は何処に住んでたんです?」


「ここよりもずっと遠い場所でね?多分アリサは名前も知らないと思うよ」


「空から降りてきましたけど、どうやって?」


「風魔法のスキルで空を飛んでたの」


「凄いです!空を飛べるなんて!私も飛んでみたいなぁ~~」


「飛べるだけじゃなくてアリサが見た通り攻撃の魔法も強いんだよ」


「はい!凄かったです!だけど、オークと戦って怖くなかったんですか?」


「そりゃまぁ怖かったけど、アリサを助けてあげなきゃって思ったからね恐怖なんてなんでもないよ」


「う~~!!あ、ありがとう……ございます」


「ふふ…どういたしまして」


 ・

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「それでって、アリサ?」


「スウ、スウ、スウ、ムニャムニャ」


「寝ちゃったか。疲れてたもんね。しっかり休んでね、お休みアリサ」


 アカリは、自身が助けたこの優しくて可愛い女の子の頭を優しく撫でた後、不眠番をつづけるのだった。


 ※※※※※


 夜の間は、魔物等が襲ってくるような事もなく静かな時間が過ぎ去り夜が明け朝日が登ってきた。


「ふぁ~~ムニャムニャ。あ、おはようございます。アカリさん。すみません、昨日は結局任せてしまって」


「良いってば、そのおかげでアリサの可愛い寝顔が見れたから」


「はぅっ~~!!!もうアカリさんからかわないで下さいよ!!それとどう見てもアカリさんの方が美人で可愛いですから!!」


 起きてきたアリサをからかいながら朝から賑やかに過ごし、片付けを終えた後、早速街に向けて再び歩きだした。


 私達はその後、休憩を挟みながらも街に続く川を沿って歩きながら順調に街に近づいていてた。


 時々、ゴブリンやウルフ、角が生えた変な兎と遭遇したりして戦闘になったが昨日戦闘したオークに比べたらとても弱くオークと違い魔法一発で倒せてしまった。


 流石に一発で倒せるとは思わなかったから、倒した瞬間「へ?」と変な声が出てしまったよ。


 まぁ、アリサに「アカリさん凄いです!!」って言われて内心嬉しかったけどね。


 そんな、道中色々あったが太陽が真上に差し掛かってきた昼頃。

 私の視線の先には、昨日空から見えた街がとうとう見えてきた。


「アカリさん街が見えてきましたよ」


「うん、とても大きいね。立派な街だよ」


 前世オタクな私は、異世界初の街にワクワクと気持ちが高まりながら街へと歩いていくのだった。

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