第2話 お詫びはチート?

 意気揚々と森の中を私こと緋璃は歩いていた。


 前世では、都会暮らしの身であった私は、このように緑に囲まれてすごす様な経験は一度もなかったので正直内心では、子供みたいに気分が高揚している。


「本当、木ばっかりだなぁ。前世じゃ街路樹や公園でしか木は見なかったからこんなに自然に囲まれるなんて生まれて初めてだよ」


 あ、転生したから本当の意味で生まれて初めてか


 私は、前世じゃ見た事のない様な大きな木々や初めて見る草花に興奮して間近で見たり実際に触れたりして観察を楽しみながら森の中を歩いていた。


「それにしても、結構歩いた気がするけど一向に景色に変化がないなぁ。女神様いったい私をどこに転生させたんだろ?」


 一時間位過ぎただろうか、森の中を観察しながら歩き続けていた私は、景色にまったくの変化がないことに気付き先ほどの興奮から一転して多少の不安感が沸いてきた。


 このまま森で遭難とか流石にないよね?


「う~ん、どうしようかな。楽しむとは言ったけど、遭難みたいなハプニングにあいたいわけじゃないんだよなぁ。うん、一旦休憩して考えようかな。何だかんだで目覚めてから結構歩いたしね」


 この身体のお陰か正直そんな疲れはないけど、無理して何かあっても嫌だし気分転換がてら休憩も悪くないかな?

 それに気になる事もあったしね。


 そんな訳で、私は丁度良く近くにあった岩を椅子がわりにして座る。


「さ~て、自然観察で忘れかけてたけど女神様から貰ったスキル類の確認をしよう……か、な」


 私は、早速どんなスキルがあるのか確認を始めようとして……固まった。


 そう言えば、スキルとかってどうやって確認するの?


 緋璃は、スキルを貰った?は良いが、そのスキルを確認する手段を知らなかった。


 ヤバッ!!どうしよう。

 そこらへんの事は考えてなかったや。

 漫画とかラノベだと主人公が「ステータス!!」とか言ったら自分のステータスが見れたりするけど。


「……ステータス」


 そんな都合の良いテンプレがあるわけないと思いながらもその魔法の言葉を呟いていた。


「ははは……まじでテンプレ乙」


 私の目の前には、四角い透明な画面に文字が並んだ不思議な光景が写し出された。

 そう皆ご存知のステータス画面だ。


「喜ぶべきなんだろうけど。ふぅ~まあいいや、ステータスの確認をしよう。いったいどんなステータスなのか、な……は?」


 私は、あまりのテンプレ加減に謎の疲労感を感じながらも頭を切り替えてステータスの確認を始めようとし……再び固まった。


「は?何コレ?え?どういうこと?」


 私が固まってしまった原因、それはステータスの中身だった。


 ────

 名前:アカリ

 種族:ヴァンパイア

 状態:通常

 LV:1/10

 HP:110/110

 MP:130/130

 筋力:97

 耐久:65

 敏捷:106

 魔法:93

 ─スキル─

【鑑定】【収納】【言語理解】

【血液支配Lv1】【吸血】【眷属化Lv1】【索敵Lv1】

【偽装魔法】【火属性魔法Lv1】【水属性魔法Lv1】                     

【風属性魔法Lv1】【土属性魔法Lv1】【再生Lv1】

【日射耐性Lv4】【状態異常耐性Lv5】

 ─称号─

【女神アリシアの加護】【女神アリシアのお詫び】

 ────


 これがステータスの中身であった。


 スキルは、まだ良い。

 いや、確かに何か色々不安を感じるスキルもあるしやけにスキルの数が多いけど良いのだ。

 私が戦える様なスキルが欲しいと言ったから女神様が色々と考えて与えてくれた結果と思えば良い。

 称号も何か勝手に加護が与えられてるし、お詫びとかいう良くわからないものも与えられてるけどまだ良いのだ。  


 だけどさあ!!!

 だけどさあ!!!


「何で、何で!!!種族が人間から吸血鬼になってるんだよおぉぉ~~~~!!!!」


 私が固まってしまった一番の理由、それは何故か種族が人間から吸血鬼へと変わってしまっていた事だった。


「え?何で?女神様いったい何考えてんの?吸血鬼ってどう考えても魔物だよね?何で人間の敵側に転生させてるの?え?もしかして転生失敗したとか?」


 私が、「え?本当に何で?失敗なの?」と困惑し続けていたその時。


 ピコン!


 と森の中に似つかわしくない電子的な音、前世の私が良く聞き慣れていたメールの着信音の様な音が聞こえた。


「え?メールの音?どこから?」


 近くから聞こえた様に聞こえたが、勿論私はスマホなんて持っていないし、私以外にこの場には、人はいない。


 え?いないよね?幽霊とか私無理だよ?


 私はメール音?の出所がわからず困惑に少しの恐怖を合わせながら出所をキョロキョロと探す。


 え?本当どこから?……あ


 困惑しながら辺りを右往左往していたら、先ほどまでなかったものが目に入る。


『メッセージ有り』


 ステータスの表示の一番下、先ほどまでなかったのにポツンと突然追加されていた。


「メッセージ?」


 メール音の正体、それは緋璃のステータス画面へ届いたメッセージの着信音だった。


 こんな事が出来るような存在はこの世界にひとりしか私は思いつかない、そう女神様だ。


「良かった、女神様からかな?もしかして今の状況について何かわかるかも?メッセージはタップしたら開くのかな?あ、開いた」


 今の現状について何かわかるかもしれない。

 私はそう思いメッセージ欄を開いてメッセージの中身を確認する。


 が


「はあ"?」


 差出人はやはり女神様からだった。

 しかし、私はその中身のあんまりな内容に声を荒げてしまった。

 ────

 アカリへ

 無事に転生出来たのを確認できたので手紙をステータス画面の中に送りました。

 ちなみに名前がアカリに変わってるのは、こちらの世界で緋璃だと少し変なのでアカリへ変えさせて貰いました。

 転生した身体はどうですか?

 アカリの希望は、直ぐに戦う事が出来る身体にスキル、あと怪我や直ぐに死ぬことがない様にでしたので、戦いに特化していて、生命力の高い種族である吸血鬼、そして魔法スキルや再生スキル等与えておきました。

 これで、たとえ魔物や人間に襲われても倒せるはずです。アカリ、ファイトです!!

 吸血鬼であることは、偽装魔法でステータス等を偽装できるので鑑定されてもバレる事はないです。

 また、吸血鬼の吸血衝動も状態異常耐性で打ち消せるようにしているので大丈夫です。

 これで安心して人間に会うこと、そして人間の街で生活する事が出来ますよ♪

 あまり個人に肩入れし過ぎるのは管理者として良くないのでこれくらいしか出来ませんがどうかこの世界でこれからアカリが楽しく暮らせる事を祈ってます。

                  byアリシア

 ────

 手紙は、丁寧な文章でこちらの事をとても思ってくれている事がわかる内容が書かれていた。

 緋璃もといアカリも女神様が私の事をとても考えてくれている事が読んでいて伝わってきて正直とても嬉しかった。

 しかし、アカリにとってそんな事より吸血鬼の身体になってしまった理由が信じられず驚きが嬉しさを書き消してしまう。


「何で直ぐに戦える身体って言ったら、戦闘特化種族になるわけ?」


 もしかしてこういうわけ?


 アカリは、こうなってしまった理由を思い浮かべた。

 ────

 女神様の思考

 吸血鬼になった理由とスキルのワケ?

 ・直ぐ敵と戦える身体にスキル、怪我や直ぐに死なないようにして欲しい

        ↓※死なせた罪悪感からお詫び

        ↓ としての希望が強めに反映?            

 ・強い敵と遭難しても問題ない様に戦闘に特化していて生命力が高く簡単には死ぬ事のない種族、それに何かあっても問題ない様に魔法スキルに怪我が治り死ぬリスクが減る再生スキル        

 ────

 それであとは、吸血鬼でも問題なく暮らせる様に偽装魔法やら日射耐性、吸血衝動を抑える状態異常耐性を着けた感じなのかな?


「別にそこまで高望みしたつもりは無かったのに、せめて一言種族の事を伝えて欲しかったよ女神様」


 きっと、女神様は単純にお詫びとして私の希望を叶えたのだろう。

 だけど私は、女神様から受け取ったお詫びが特大サイズの爆弾にしか思えなかった。


 どうしよう。

 大切にするって誓ったこの身体が誓いから1時間ちょっとでイヤになりそうだよ。


 アカリは、頭を抱えてどうするか悩んだ。

 しかし、いくら悩んでもこの問題を解決出来る答えは出ず、素直に諦めることにした。


「ハァ~諦めよ、聞かなかった私も悪いか、それに一応は女神様がバレないようにスキルを用意してくれてるしどうにかなるでしょ」


 私は、楽しく生きるって決めたんだしポジティブにこの身体と共に生きようと気持ちを切り替えてスキルや称号の確認もしてみることにした。


「さてさて、どんな効果のスキルなのかなぁ」


 名前からは上手く理解出来なかった血液支配、眷属化、偽装魔法を調べてみることにした。


「まずは血液支配っと」

 ────

【血液支配】

 吸血鬼系の魔物が所持するスキル。

 自身の血液を自在に操る事が可能で、スキルLvが高いほど攻撃、防御、妨害など様々な事が可能となる。

 ────

「めちゃくちゃ有能スキルじゃんか、あ~だけど吸血鬼系固有のスキルっぽいし周りに人がいない時しか使えないかも。次は眷属化っと」

 ────

【眷属化】

 吸血鬼系の魔物が所持するスキル。

 血を吸った相手を眷属として支配下に置くことが可能となるスキル。

 ただし、自身と同等もしくは格上には抵抗され通じない可能性もある。

 ────

「血を吸うかぁ、あんまり気が進まないし使うことはそんなないかなぁ。次は偽装魔法っと」

 ────

【偽装魔法】

 対象に偽装を掛ける魔法スキル。

 相手の認識や自身のステータスなど多様に偽装が可能であり行使した者が魔法を解かない限り解けることはない。

 ────

「なるほどねぇ、ステータスの偽装が可能だから鑑定とかされてもバレることはないのかな?これなら街とかに行っても大丈夫かも?」


 まぁ、だけど用心は必要だろうけどね?


「そう言えば、称号はどんな効果なんだろ?」


 スキルは、私が希望して与えられたものだが称号に関しては、完全にサプライズで与えられたので手紙にもその内容は記されておらずまったくもってその全容がわからない。


「変な効果のものじゃありませんように」


 アカリは、称号の名前的に出来たら良い効果のものであるようにと祈っていた、しかしその結果はいろんな意味で裏切られる事となる。

 ────

 女神アリシアの加護

 この世界の女神であるアリシアから認められた者に送られる加護。

 この加護を持つ者には、魔法の制御の補助、スキルの成長補正、獲得経験値の増加等の恩恵が与えられる。

 ────

「ふぁ!?何このチートのごとき性能!?こんなん漫画やラノベでしか見たことないんですけど!?」


 私は、自分の見た文章が信じられず変な声を出してしまいながら2度見、3度見を繰り返し、何度か画面を切ったりもして確認したが文章が変わる事はなくこの称号の性能が本当なのだと理解した。


「女神様、あなた肩入れはしないって言うわりには、十分に肩入れし過ぎてると私は思うのですが」


 普通こういうのって聖女とか勇者みたいな存在に与えられると思うんだけど魔物の私に与えて大丈夫?

 実は、そこまで貴重な称号でもないのかな?

 まぁ、もらえる側としてはありがたいので別に良いんですけどね?


「さて次の称号は、この謎のお詫びか」


 正直このお詫びってのが一番意味がわからない。

 いやまぁ私を死なせてしまったお詫びっていう事はわかるんだよ?

 だけどさぁ、称号の名前が女神のお詫びって中身の予想がまったく出来ないんだけど。


「まぁ、うん。見ればわかるか」


 私は、とりあえず見たらわかるかと思い詳細を開いて確認した。

 流石に加護と同じようなチート効果のものを何個も貰うことはないと思い軽い気持ちで読み進めたが、アカリは軽い気持ちで読むんじゃなかったと直ぐ様後悔した。

 ────

 女神アリシアのお詫び

 この世界の女神であるアリシアから緋璃へのお詫びとして送られた称号。

 この称号を持つ者は、行使する魔法の威力の向上、魔法スキルの成長補正、各種属性魔法の耐性を与えられる。

 ────

「ふぇ?ぅええええぇぇ~~~~~~!!!!!!何なのこの加護と同等のチート性能の称号は!?女神様アンタどこが「個人に肩入れし過ぎるのは管理者として良くない」だよ!?十分どころか十一分、十二分ぐらいのレベルで肩入れしてるじゃんか。え?もしかしてマジでこれでも肩入れに入らないとかないよね?」


 こんなチート渡されて肩入れじゃないとかこの世界どんな化け物が居るんだよと私は、冗談抜きで本気で心配になってきた。

 しかし、私の希望を斜め上に大幅強化して転生させるような女神様なのだからこの称号もきっと罪悪感による純粋なお詫びだろうと素直に受け取ることにする。


 まぁ、本音はそうでも思って納得しないと恐怖で震えが止まらないからだけどねぇ。

 考えてもみてよこんな戦闘特化ステとチートを積んで挑まないと生きれない世界とか絶望しか感じなくない?少なくとも私は感じる。


「ま、まぁ手紙にはこれで倒せるはずって書いてたし最後に楽しく暮らしてって書いてあったからきっと大丈夫なはず」


 倒せる"はず"の部分が気になるけどひとまず落ち着いた私は、休憩を終え再び森を抜けるために歩くことにする。

 結局歩いて抜けるしか思い付かないので先ほどまでと同じ方向へ向かうことに決めた私は、スキルにあった索敵を何とか発動させ初めよりもずっと警戒しながら歩きだす。


 大丈夫ですよね女神様?あなたがくれた身体とスキル、称号を信じてますからね?あっさり死ぬなんてあったら本気で怒りますよ!!


 初めは、吸血鬼で怒ってたものの今ではむしろ吸血鬼で大丈夫なのか?もっと強い種族の方が良かったかも?と私は思いながら、女神様に祈り?ながら再び森を抜けるべく歩くのだった。



 どうか出会う相手が糞鬼畜な化け物じゃありませんように

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