制限解除の鍵
「ぅわぁ、朝から
シャーフの町に朝日が
昨日は
「まぁ、
「エトバス…って。あぁ、あの?」
名前だけではピンと来ないようだったが、昨日のやり取りを思い出し
「ふぅ…、とりあえず座って。本当は無理の無いペースで色々とやってくつもりだったけど、
「…わかった。」
ベンチの空いた右側に座り、
早朝からヘビーな話題ではあるが、のんびり構えている時間の余裕は無く、まずアルの全面的な協力を
十日後、
その
被害者となる者達の
ただそれだと効率を考え、回復魔法を繰り返し使える第三者の協力も必要となるわけで。同時進行ともなれば勇者の力を目の前で
やはり対象の人数を
「
「仲間なんだから気にすること無いって。それに、救いたいって気持ちは同じだろ?」
アルの言う通り僕らの思いは同じ。互いに助け合うと決めた仲間同士であれば
けれど、
そして……
一瞬だけ見せた、どこか悲しげな表情。
「アル……?」
もしかすると、アルは過去にも似た経験をしているのかも知れない。力不足を
何があったのかなんて今は聞くべきじゃないし、大事なのは過去では無くこれからのこと。勇者にも足りないものが
何も
教会への道すがら、僕の肩に腕を回し
「なぁ、教会の他にも向かう先を決めてるってことは、もう何か考えがあるんだろ?
頼る…か。言い回しは丸投げにも聞こえるけど、僕を信じて
ミッション達成率の
ただ
「僕の経験不足でまだ
「あー、頑張るのかぁ。まぁたカルムが無理するやつだ。」
己を
「言っとくけど、今回無理をするのは僕だけじゃなくアルもだからね。」
僕の言葉に、当然と言わんばかりの笑顔で返してくれた。
現状の成功率がどうであれ、
だいたい、勇者と救世主が互いの信頼のもと協力し全力で挑むのに、何とかならないはずが無い。
相手が魔物の
と、昨夜に続き
町の中央にあるギルドからも
最終日は
「すみません!この記録にある人達って、
勢いに
「せ、セイラと申します。」
「あ、カルム・オレオルです。こっちは仲間のアルディート。朝からお
僕の名を聞くや
正面扉を開くなり、黄門様の
これは僕の方から何か声を掛けないと
と言うか、そもそもこの扱いを止めるよう事前に
何も
それに何より今は急いでいるから、正直このやり取りが
「あの…できれば、そういうのはやめていただいて。普通に接してはもらえませんか?」
まるで軍隊の訓練でもしているかのように空気がピリつく。
これじゃ笑顔を向けても今更か。申し訳なさは感じるけど、九十八人って数に
「悪いけど俺ら急いでるから、カルムの質問にだけ答えてやってくれよ。」
それまで僕の斜め後ろで静かに見ていたアルの口から、
一体、何が起きたんだ?
「ほら、さっきの話しの続き。」
「え?あぁ、うん。この記録にある人達って、
アルに
「救世主様のみ、この水晶から直接呼び掛けることが可能です。一般的な通信手段にコールという魔法がございますが、コールは発した声をそのまま耳元に届けるもの。対してこの水晶を
魔道具も
対象者の呼び出しに関してはクリア、と。
次は、確実に不足する
とりあえず一般的な回復魔法のヒールを使うと考えて、どの程度の回数必要なのかがわからないことには教会の人達への協力も求め辛い。
「アル。話しを進める前に、ちょっとステータス見せてもらっていい?」
「ん?どーぞ。」
“
僕のと比較すると……
一日に十一人分の書き換えで済むのなら、慌てて回復する必要も無いのでは⁉︎
とは言え、連日同じ流れを繰り返すのであれば、全回復した状態で一日を終えたいところではある。特にアルに
それに、もし書き換えを始めるのが明日以降にずれ込む場合、
「こちらに回復魔法を使える方は居ますか?人数は多い方が助かります。あと、できれば教会に仕えている方だけでお願いしたいのですが。」
万が一のことを考えての情報
僕の問いに
「念の為、回復魔法を込めた
「それでしたら、ヒールよりも上位の回復魔法レベル2のケアを込めたものが
「助かります。ありがとうございます。」
アルの
これで“
「とりあえず、こちらで聞いておきたかったことは以上です。これからギルドの方でも確かめたいことがあるので、詳しいことは後ほど
「はい。お戻り、お待ちしております。お気をつけて。」
これは予想外。やたらと取り巻き、外まで付いてくると思っていたのに。
アルが不思議な声を発して以降、教会の者達に
僕の
「もしかして、さっきのはスキル?」
教会の正面
いや、ほんとに何だこれ。声を聴いただけなのに、とんでもなく心が落ち着く。お気に入りのアロマの
「勇者の固有スキル、
「はぁ〜なるほど。急に皆の様子が変わるから、一瞬
「あははっ、ほんとは戦闘に巻き込まれた人達がパニックにならないように使ったりするんだけどな。ま、役に立ってよかったよ。」
僕にはさらっとネタバラシしてくれてるが、勇者の固有スキルだからってのは
当然、多用も避けるべきなのだろうけど…
この世界に来てから、不安やら
「まぁた深刻な顔してるぞー。」
腰を
「ぇうっ、ちょっと何す」
「あのなぁ。そうやって黙って一人で悩むの
僕の反応が気に食わなかったのかムッとした顔で、いっそう大きな
「ちゃんと言えないんだったら、もう
当て付けのような言い方。チラリとこちらに目線を送り僕の反応を
どこが察しが悪いだ。考えてたこと
僕に対しまともに説教したところで効果を得ないと悟ってのこの対応。僕自身よりも僕のことを理解していて、少しばかり納得いかない。
しかしほんと、他人の変化には敏感だよな。それで相手の感情に当てられて己を乱すようなことも無いんだから、どうやったって
「勇者の力ばっか当てにしてたんじゃ、精神的にも肉体的にも
「言われなくても、そうするけどな?」
「ぐっ……アルって意外と…。いや、うん、ありがと。なんか、ちょっとは意識して
「そりゃ良かった♪」
何だか手玉に取られた気分だ。悪い方に転がされたわけでは無いのが、せめてもの救いだけど。
やっぱアル、ちょっとSっけあるよな。
まぁ結局、僕の独りよがりなところを改めようとしてくれてるわけだし、オッサンのすっかり固くなった頭を
うん、そういうことにしておこう。
教会からは目と鼻の先、今日は多くの冒険者で
開け
昨日の今日で少なからず警戒はされているものの、アルを見ただけで逃げ出すような者はおらず。こちらを
目が合えば
「おはようございます。酒場って言ってたけど、朝食も提供してるんですね。僕らもいただこうかな。」
「俺二人前で!」
食べ物のこととなるとまるっきり子供で、カウンター奥の
朝からキッチリと身なりを整えたベルデさんも、書類を手にクスリと笑う。
「おはようございます。食事を待つ間に、ギルドカードのお渡しを済ませておきましょうか。」
十日後にこの街を襲う
長くなりそうだから説明は後日、今回の件が片付いてから聴くとして。カードの受け取りくらいはしておいた方が、ベルデさんの仕事も片付くよな。朝からとても忙しそうだし、ささっと済ませてしまおう。
「では、こちらの石板に右手をかざしていただいてもよろしいですか?」
ごとりと重みのある音を立て目の前に置かれたのは、A4くらいの大きさの厚みのある石板。僕の名が刻まれた金属製のカードがセットされ、その横には右手の形を
「えっと、…これは?」
「こちらの石板は、手をかざした者の基礎データを読み取り記録する魔道具です。記録した情報は、身分を証明する際の本人確認に使用される他、各地のギルドで依頼をご案内する際、適正を判断する上で参考にさせていただきます。」
基礎データ?“
「その記録、ギルドの外に
「ご安心ください。情報は特殊な魔法を複数
笑顔がとても怖い。特殊な魔法による防御に加え物理的にも守られているのであれば、自分で自分の情報を守るよりは
「あ、あはは…わかりました。こう…で、いいんですかね?」
言われた通り石板の手形部分に右手をかざす。
その瞬間、満タン時の
これは…、ひょっとしてマズいのでは?
情報の管理そのものの安全性は十分とは言え、ギルド長や
ベルデさんも興味深げに見つめるこの状況で、つい先刻アナライズで見た情報そのままに数値化して表示され、続いて基礎属性に『光』、耐性には『闇』、『毒』、『呪い』の三つが浮かび上がる。
そして問題のスキルの欄、表れたのは『属性強化』と『知覚強化』という二つの通常スキルのみ。
困惑しアルの方を見れば、
あぁ、こりゃまた何か僕の知らない力を使ったな。
「はい、確認いたしました。では、こちらをお持ちください。」
「あっ、はい。ありがとうございます。」
それぞれギルドカードを受け取ったところで、先程の女性が朝食のプレートを三つ
「おぉ、ぅんまそぉ!いただきまぁす!」
「すみません、その話しはまた後日で。僕の本来の仕事の関係で早急に確認したいのですが。
「ふむ、それは構いませんが、食事を済ませてからにいたしませんか?カルム君の仕事に関わることであれば、この場では話し
「あ…、そうですね。お
手にしていた書類を女性スタッフに預け、
現時点で、
またそれよりも
人の多いこの場で話そうとするなんて
まったく、我ながら何やってんだか…
「はぁぁ…ちょっともう、自分のこの学習能力の無さをどうにかしたいよ。」
「んぅ?よくわかんないけど、腹が満たされりゃ元気になって頭も回るだろ。ちゃんと食えよ?」
「そうする。今日は僕の分、分けないからね?足りないんだったら追加で注文しなよ?」
「お、いいのか?そんじゃ、おかわりお願いしま〜す!」
一人前でもなかなかの量なのに、いったい
存分に腹が満たされた頃、訓練場の
さて、僕の魔法は
今回“
戦闘経験豊富なベルデさんならば、僕の
「よし、行こうか。」
食事の代金をカウンターに置き、ベルデさんと共に地下訓練場へと向かった。
「念のため、入口は閉じておきましょう。」
訓練場に下りて
向かい合わせて座る椅子も無いから仕方ないとは言え、こちらが頼る身でこんな風に扱われるのはどうにも慣れない。
両膝に
「では、詳細をお聞かせ願えますか?」
優しく
「魔物の知識も、戦闘の経験も不足している僕では、
第三者であるベルデさんを巻き込むのに、アルに頼むような気楽な感じでは誠意に
「
顔を上げ目が合うと、ベルデさんは
この世界の常識をまだ
「申し訳ございません。
「いやでも、僕の方が助けてもらう側なわけで…」
「おや、カルム君が皆を助けるのでは?」
「それは、そうなんですけど…」
僕の力不足を補うため周りに助けを求めているのであって、ならばそれ相応の態度でお願いして当然ではないだろうか。
やはり
そんな僕を見て、ベルデさんは
「救世主様が、一国の王と並ぶ権力を持つというのはご存知ですか?」
「………は?え、そうなんですかっ!?」
動揺で思わず大きな声が出てしまい、右手で口元を覆う。
アロガンさんからそんな説明は無かったし、わざわざこちらから自分の権力を確認することも無いから初耳だ。
アルの方を見れば知っていたとばかりに頷いている。
通りで誰も彼も僕を救世主と知るや否や、やたらと緊張し
「実際のところ王のような地位を与えられているわけでは無いので、権力を持つという表現は正しくはありません。救世主様に
「えっと、王様みたいに偉くは無いけど、王様と同程度には
「そういうことですね。もっと言えば、王ですらも救世主様を神と同格として
ある意味、常に王様の後ろ
例えばもし救世主に
「確かに、王と並ぶ権力ですね…。はぁ〜」
大きくため息を
知れば知ったで一層気が重い。振りかざすつもりも無い権力なんて持て余すだけ。少なくとも今の僕には必要無い。
「他の救世主の方々がどうかはわかりませんけど、僕はひっそりと地道にやっていきたいので。」
「ご自分を変えるつもりはない、と言うことですか。…少々本題から
命令で構わないと言ったあたりからして、実のところベルデさんだって救世主を
ベルデさんが柔軟な考え方のできる人で良かった。命令して人を動かすなんて
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
感謝の気持ちを込め、再度深く頭を下げた。
それにしても、
救世主の権力
「時にカルム君は、
「雷…でしょうか。翼を持ち飛行する魔物の多くは、その翼を焼いてしまえば
「えぇ。翼を奪えるのであれば他の属性の魔法でも良いのですが、飛行する
石板で基礎データを読み取った際、基本属性に『土』と『雷』が表示されていた。昨日の認定試験で僕が使ったフレイムバーストは火属性の上位魔法なのだけど、それが使えるにもかかわらず基礎属性に『火』では無く『雷』が表示された時点で、更に上位の雷属性魔法が使えることになる。
ベルデさんは目の前でしっかりと情報を見ていたから気付いて当然か。
「“
「やはり。まだ使用したことが無いのであれば、ご自身でも威力の程がわからず自信が持てないのでしょうが…」
「サンダークラップを命中させりゃ、
普通は雷と変わらぬ速さで
サンダークラップ一撃で複数匹落とせるとは、予想していた以上の威力。僕の魔法だけで片付けるのは流石に無理があるかとも思っていたが、あながちそうでも無い気がしてきた。
「では次に、上空の敵にどう魔法を命中させるのか。基本的に魔法の発動は、
「2キロが限界です。」
「ふむ。スキルのレベルを上げれば範囲は格段に拡がりますが、
上空の
完全勝利を確信できなかったのも納得である。
「あ…でも、僕まだ知覚強化は使えなくて…」
「俺が教えりゃ良いんだろ?多分一時間もかかんないし。…ってか、知覚強化ならギルド長も使えそうだけどな。」
そう言ってアルが視線を向けると、ベルデさんも習得済みらしく僕を見て
「アルにお願いするよ。」
「おう。後で優しく教えてやるからな♪」
笑顔で返され、ふとフィーユに
あの時は二人仲良く手を繋いで遊んでるようにしか見えなかったけど、僕にもあんな感じで教えるつもりなのかな。う〜ん、ベルデさんの前でそれはちょっと恥ずかしい。あれはあくまでお子様仕様であったと願おう。
「残る問題は、敵を一匹残らず
いやまったく抜かりない。
「
「それは魔法の
「つい最近スキルレベルが上がって、時限設定を加えた魔法を複数設置した後、任意のタイミングで
「であれば、敵の
「
バツ印からシャーフにかけて一本の線を引き、それを三分割するように印を付けると、西側一つ目を木刀の先で
「ここで一度
中央の印部分で
「あとは奴らが仕掛けた網の中に入ったのを
三つ目の印に木刀を突き立てると、ベルデさんは確信に満ちた顔で笑った。
「ここは万が一にも取り逃した場合の最終防衛ラインです。数匹であればアルディート君と私で処理出来るでしょう。あぁ、各地点へは私のテレポートで移動可能ですのでご安心を。」
「はぁ…完璧ですね。」
「“
目を閉じ、
この感覚は間違いなく、結末の上書き成功を意味している。
「えぇ、これでいけそうです。“
「では幾分早めに、七時から行動開始ということで。」
「念の為、九十八名には前日の夜のうちに安全な場所へ避難してもらおうと思っています。」
「念には念を。実に
「はい。あの
三百年もの間、一切の魔物の
「十日後を乗り切るまで、引き続きよろしくお願いします。」
「救世主様……いえ、カルム君の力になれるのでしたら、幾らでもお手伝い致します。」
整った立ち姿から胸元に手を添え、
この
とまぁ、そんな妄想はさておき。
まったくもって僕は出会いに恵まれている。困った時、問題を解決してくれる誰かが必ず
いや、与えられた役目が役目なだけに、ちょうどバランスが取れていると考えるべきなのか?何はともあれ、おかげで
“
「よし!じゃあアル。早速だけど、知覚強化を教えてもらえるかな。」
アルへと向き直り右手を差し出す。僕よりも大きな手で手首ごと握ると、にっこり笑って力を込めた。
「ん。やってる途中で気持ち悪くなったりするかもだけど、我慢な。」
「え?あぁ、…うん。頑張るよ。」
あ、何だろう、すごく嫌な予感がする。
なるほど、これは途中で逃げないようにするための
一体何が起きるんだ?
アルはずっとニコニコしてるし、ベルデさんを見れば
ヤバい…めちゃくちゃ怖い…っ!
「あ、あの、アル。これはどういう感じで」
「いっぺんにやるとショックで
「気ぜ…え?ちょっと、まっ」
僕が慌てるのもお構い無しに、知覚強化スキルの伝授が開始される。
嫌な予感は、この後しっかりと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます