囚人

きと

囚人

 とある協会の椅子いすに座って、俺は他の人達と同様に拍手をする。

 拍手とともに、真っ白なウエディングドレスに身を包んだ君が出てくる。目指す先は、俺ではない男のもとだ。

「……綺麗きれいだな」

 その姿に、思わずぽつりとつぶやく。

 物心ついた時から、君とは一緒にいた。そんな君が結婚とは、俺たちも年を取ったものだ。

 振り返れば、君とは小学校から高校まで同じ学校で、幼い時はもちろん、思春期になった時でも仲たがいせずに遊んでいた。ケンカしてもすぐに仲直りをしてまた遊んだ。誕生日やバレンタインデー、ホワイトデーにはお互いにプレゼントも送りあった。俺が大学に進学して地元を離れる時には泣いてくれた。大学時代だけでなく社会人となった後でも連絡を取り続けていた。

 そんな君から恋人ができたと聞いたときは、嬉しかったと同時になんだか切ない気持ちになった。

 またそれから二年ほど経った後、君から結婚の連絡が来た時は、喜びも当然あったが、むなしい気持ちになった。

 そして今日、式が始まる際に早く相手見つけなよ、と茶化された時は、ふざけたように余計なお世話だと言ったが、心はくさりで締め付けられているような気持ちになった。

 喜びだけではない、なんだか空っぽになったような心。

 きっと俺は、置いてきぼりを食らったからこんな気持ちになっているのだろう。

 いつまでも馬鹿をやって、くだらないことで笑って、そんな関係がずっと続いていくものだと思っていた。

 でも、君は先へと進んでいた。俺を取り残したまま。

 諸行無常しょぎょうむじょうとは言うが、変わってしまうことがここまで物悲しい気持ちになる物だとは知らなかった。地元を離れていく時にも、寂しい気持ちになったが、ここまで心が空っぽになったような感じはしなかったのに。

 ああ、そうか。これが、失恋というやつなのかもしれない。

 ずっとそばにいた君。そんな君を俺はどこかでずっと愛しく思っていたのだろう。無邪気むじゃきな笑顔をずっとそばで見ていたいと思っていたのだろう。

 心のどこかで、君は俺のそばから離れていかないと信じていたのだろう。いつまでも君の隣りにいるのは、俺だと信じていた。

 でも、現実はそうではなかった。君は、俺ではない別の人を選んだ。

 俺は、君の運命の相手にはなれなかった。

 でも、きっとこれでよかったんだ。だって、君が幸せになってくれることが重要なのだから。俺もいつか、君ではない誰かと幸せになりたいとは思っている。

 でもその気持ちもなんだかあやふやなもののような気がする。

 だって、俺は結婚式が開かれているのに、君への想いを諦めきれずにいる。

 もしかしたら、ドラマのように、その結婚ちょっと待った! とでも言えば、君がついてくれるのではないか。なんてくだらない妄想をしてしまっている。そんなことをしても、君が俺のそばに来てくれないことなど分かり切っているのにも関わらずに、だ。

 もちろん、そんな馬鹿なことをするつもりはない。だって、そうすると君の幸せが壊れてしまうんだろう?

 それでは、ダメなのだ。俺だけが満足していても何も意味もない。重要なのは、君がとなりにいたい人と幸せをつかむことなのだから。

 だから、俺はその幸せを応援するよ。君への想いを引きづったまま。

 まったく。これでは、囚人みたいじゃないか。

 これから先、届くわけがない想いはまるで足枷あしかせのようだ。

 これから先、君の幸せを届かない場所から眺めて続けるのは、牢屋で外の世界を見続けるかのようだ。

 でも、それできっといいのだろう。

 これは、ばつなのだ。

 君の幸せを願いながらも、俺は特別なことをしなかった。変わらないものなどないと分かっていたのに、君との関係は変わるはずないと信じていた。

 そして今も、君がいつか俺のもとに帰ってくると信じている。

 いつか、この罰が終わる時が来るのだろうか? その時には、俺も君のように幸せをつかめているのだろうか?仮に、俺が幸せを手に入れた時。俺は、君への想いを捨てられるのだろうか?

 そんなことは分からない。分からないけれど。

 この罰を受けながら、君の幸せを願い続ける。

 これからも綺麗きれいで、無邪気むじゃきで、笑顔でいてくれ。旦那さんといつまでも幸せでいてくれ。

 そして、たまにでいいから、俺を思い出してくれ。

 俺の最愛の人よ、結婚おめでとう。

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囚人 きと @kito72

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