第7話 深夜にゲームしだすと止まらない

 ――時計の短針がもう少しで十二時を指そうとしていた。

 深く深呼吸をし、作戦実行時間まで待つ。

 俺は今、自分の部屋の真ん中でぽつんと座っていた。

 

 あれから、俺と樫田はある程度の作戦を打ち合わせした後、家に帰った。

 そして風呂に入って、飯を食って、ゲームをしたりして今に至る。


 思えば今日は色々あった。


 部活動紹介の事は忘れていたし、大槻と山路のことは任されるし、椎名は全国目指すって言いだすし、何とも濃い一日だった。


 まぁ、全部解決してないんだが。


 というか、本当に一日でいろいろ起き過ぎだな。シンクロニシティというやつだろうか(言ってみたかっただけ)。

 実際問題、大槻と山路の件は今手を打っているが、椎名とのことは保留になっているだけだし、部活動紹介でやる劇に関しては、どうしたものかと手をこまねいているのが現状だ。

 どちらの問題も、大槻と山路の件が解決すればすぐに結論を出さなきゃいけないのだろう。


 ああ、憂鬱だ。


 けど、椎名のことに関しては何となく自分の中で答えが出ていた。

 あの時は答えを出せなかったが、一度冷静に考えるとすんなりと自分の納得いく答えが出た。

 きっと次に会った時が、この決断を告げるときなのだろう。

 そんなことを考えていると、時刻が十二時を過ぎた。


 作戦時間だ。


「よし」


 そう言って、気を取り直した。

 俺はスマホを手に取り、とあるSNSのグループに連絡した。


『リオガオウ倒せないから誰か手伝ってくれない?』


 もちろん、とあるSNSのグループとは、俺、樫田、大槻、山路の演劇部男子四人で作られたグループ(決して女子に対しての愚痴を言う場などではない)である。

 本来は部活の連絡手段として使われるのだが、普通に日常的な会話をすることも多い。

 そしてリオガオウとは俺たち四人がハマっているゲーム『モン狩る(正式名称:モンスター狩る狩る)』に出てくる敵のことである。


 俺の考えた作戦の第一段階として、ゲームで誘い出し、楽しい場を作るところから始まる。

 というのも、樫田がしていた部活の連絡メールに返信すらしないのだから、こういった手段で連絡を取るしか思いつかなかった。


 いきなり「部活のことで話あるんだけど」とか言われても、気が重くなるだけだろう。その点、ゲームの誘いなら、警戒されることなく連絡ができると思ったんだが。


 五分、十分と時間が過ぎる。


 やはり作戦に無理があっただろうか。それともこちらの意図に気づいて無視しているのだろうか。

 諦めかけたその時、スマホが震えた。


『任せろ(・ω・)b』


 返信の相手は大槻だった。


 き、きた!


 思わずガッツポーズをした。


 お、落ち着け、さ、作戦はこれからだ!


 俺が返事を返そうとすると再びスマホが震えた。


『僕もやる―』


 なんと山路からだった。


 おおお、マジか!


 山路は来る可能性が低いと思っていたから驚く。


『面白そうだから、俺もやる』


 最後に樫田が入ってきた。

 これは打ち合わせ通りである。

 今まで部活に来るように言っていた樫田が先にいたんじゃ、部活に来てない後ろめたさで来ない可能性があるから、最後に入ってきてもらうことになっていた。


『助かる。部屋立てるから待ってて』


 部屋とはオンラインルームのことである。

 俺は急いで部屋を立てた。

 まさか二人とも来るとは思ってもみなかった。このチャンスをぜひとも生かしたい。


『せっかくだから通話しながらやらないか?』


 樫田がそんなことを言い出した。

 これももちろん予定していたこと。

 ただゲームをするだけじゃ意味がない。ゲームをしながら会話をすることで楽しい雰囲気のまま部活のことに話を持ち込める。

 いわば、ゲームはおまけでこの通話こそが本筋なのである。


『いいよー』


『ok』


 と案の定、二人とものってきた。

 樫田から通話がかかり、グループ通話が始まった。

 ここからアドリブ交じりの即興劇だ。


「部屋のパスワードは八五二九四だから、よろ」


 通話がつながると同時に、俺は真っ先に部屋番号を言った。

 焦ってはいけない。まずはゲームを始めることだ。


『うぃーす』


『了解~』


『センキュ』


 大槻、山路、樫田がそれぞれ返事をした。


 ゲーム画面では、四人のキャラが集まっていた。


「このクエストが攻略できなくてさー」


 そう言ってゲーム内でクエストを受注する。


『ああ、これな。四人でやれば楽勝だわ』


『こんなクエストあったっけ?』


『こないだのアップデートできたやつだな』


 おそらくバイトで忙しくて知らなかったのだろう。山路は『へぇー』と呟く。


『モン狩るをやりまくってる俺に任せとけ!』


『お、頼りにしているぞ』


 大槻が自信満々に言い放ち、樫田がそれを持ち上げる。

 さすが樫田だ。的確に場の雰囲気を良くしようとしている。


「じゃあ、さっそくクエストするか」


『『『おー』』』


 俺がボタンを押すとゲーム画面がロードへと移った。

 微かな沈黙が生まれる。

 慎重に行こうという気持ちと急かす気持ちが混ざり合う。


「そ、そういえば大槻と山路は春休み入ってから会ってなかったけど、何してたん?」


 できるだけ声がうわずらないに意識しながら言った。

 言うと同時に、いきなり踏み込み過ぎたかと不安が襲う。

 しかし、そうでもなかったようで、


『ずっとモン狩るやってたわ』


『僕はずっとバイト、それも昨日で終わったけど』


 二人とも普通に答えた。

 だがそれは部活に来てないことに対して罪悪感を抱いていないとも捉えることができる。

 部活あったの分かってるのかよ、そんな言葉が喉元まで出かかった。


 危ない危ない。当たりの強い言葉を言って喧嘩にでもなったら大変だ。

 あくまで冷静に、作戦のために。


『まぁ、そんな春休みももう少しで終わりだけどな』


『やめてくれぇー! 俺に現実を見せないでくれぇ―!』


『ハハハ、学校は面倒だねー』


 樫田がぼそっと言い、大槻が叫び、山路が笑う。

 いつもの光景が出来上がっていた。

 つい気が緩みそうになる。

 しかし今日ばかりはそんなことも言っていられない。

 ゲームのロードが終わり、クエストが始まる。


『よっし、狩るぞー!』


「どこ行けばいい?」


『とりあえず右下のエリアだな』


『りょうかいー』


 とにかく今は、ゲームに集中だ。

 まずは楽しい、雰囲気作りだ。






~~クエスト開始五分後~~

『あーやばいやばい! 杉野そっち行った!』


「ちょ、まだ罠仕掛けられてないって! あー!」


『このままじゃ死ぬぞ! 山路回復頼む!』


『オーケー、今からそっち行くー』


『え、なんで別エリアいるんだ!?』


『鉱石足りなくてさー、採掘中』


『『バカヤロー! なんでだよ!』』


「あ、死んだ」

 




 ~~クエスト開始十五分後~~


『おい、山路、今度こそ回復だ!』


『りょうかい~。ほい』


『違う! 俺じゃなくて大槻にだ!』


「あ、やばい怒った!」


『リオガオウって確か怒ると攻撃通らないんだよねー』


「なぜ、詳しい!?」


『エリア移動して時間稼ぐぞ!』


『ちょ、俺まだ回復してない!』


「やばい大槻、そっち行った!」


『あ、これ、死んだ』








 ~~クエスト開始三十分後~~


「か、か、か、勝った~~~~~~~~~~~~~~!!!」


『『『よっしゃー!』』』


『いやー、激戦だったな』


「誰だよ、四人なら楽勝とか言ってた奴」


『ば、そりゃ山路が鉱石掘ってたからだろ』


『えー、勝てたんだからいいじゃん』


『ちっとは反省しろ』


『はーい』





 いやー、勝った勝った。やっぱみんなでやるゲームは楽しいな。

 こう満足感と達成感が満たされるというか。


『次何やる?』


『ランジシンとかは?』


『えー、リュウツイコウ行こうよー』


「そうだなリオガオウ狩ったんだから、次は――」


 こうして俺たちは次々にモンスターを狩っていった。


 ……

 …………

 ………………

 ……………………って。


 普通にゲーム楽しんでるじゃん!


 馬鹿か俺は! すっかり作戦のこと忘れてた!

 時計を見ると、すでに午前二時を回っていた。

 二時間ただゲームしていただけである。

 どうする!? 今から突然部活の話を持ち出すのは不自然か!?


『ふぁ、もう二時だよ、どうするまだやるー?』


 山路があくびをしながら聞いてきた。

 ヤバい。この時間はみんな眠くなってくる時だ。どうにかしないと!


「えー、もうちょいやろうぜ。素材とかまだ欲しいし」


『俺は別に構わんぞ』


 俺ができるだけ自然に延長を促し、樫田も同調する。

 まずいな。何か手を打たないとこのまま終わってしまう。次またいつこんな機会があるか分からないし、まだ作戦の途中だってのに!

 そんな時だった。


『そういえばさ』


 大槻が思い出したかのように言った。


『部活って今どんな感じ?』

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