第8話 サボりにはサボりなりの理由がある
『どんな感じってなんだよ』
返事をしたのは樫田だった。
少し笑いながら、質問の意図を探っていた。
『いやさ、俺最近全然部活行ってなかったらどんなもんかなーって』
『あ、僕も僕も。気になってたんだよねー』
相変わらず抽象的にしか言わない大槻に、山路が話にのっかる。
『どんな感じって言われてもなぁ、杉野』
「え」
樫田が唐突に話を俺に振る。
ここから先はお前が言えと、なんとなくそんな風に伝わった。
「そ、そうだな。いつも通りといえばいつも通りだな。けどお前らいないから静かだぜ」
動揺したせいか、そんな当たり障りのない答えしか言えなかった。
こういう時、気の利いたことを言えるようになりたい。
『でも、もうすぐ部活動紹介とかあんだろ? そこら辺はどうなんだよ』
『部活動紹介?』
どうやら山路は俺と一緒で部活動紹介のことを忘れていたらしい。
『四月の新一年生にむけた部活動紹介でやる劇のことだよ』
『ああ、あれって毎年違うのやるんだ。てっきり去年と同じのかと思ってた』
樫田の説明に山路は一人納得した。
『で、どうなんだよ、決まったのか』
大槻が急かすように聞いてくる。
? そんなに部活動紹介のことが気になるのだろうか?
「ああ、それが――」
『――それは部活に来たら分かるぞ、大槻』
樫田が俺の言葉を遮ってそういった。
なんだ、今の違和感…………?
普段の樫田なら、俺の言葉を遮ったりしないだろう。
なのになぜ…………。
『えー、硬いこと言うなよ。教えてくれよ』
『ダメだ』
それに大槻も何でこんなに部活動紹介のことを気にするんだ?
いつもの大槻なら、そんなことよりもゲームに集中するだろう。
俺の中で、何かが引っ掛かっていた。
「どうして、そんなに気になるんだよ」
『…………そりゃ、一応部員だからな。やる劇決まったなら知っときたいじゃん』
『確かに劇やるなら知りたいなー』
俺の中で疑問が確信に変わる。
大槻は何かを隠している。ゲームのためだけじゃない、何かほかに部活に行きたくない理由があるんだ。
それは部活動紹介に関わることなのは確かだ。
『だから、来れば分かるって』
『いいじゃん。教えてくれても』
頑なに言わない樫田と必要以上に知りたがる大槻。
なら、
「そんなに言うなら、そろそろ部活に来いよ」
一か八か、直接的に攻めてみる。
『そうだね。バイトも終わったし、劇もあるみたいだから行こうかな』
『…………』
即答した山路に対して、大槻は黙った。
よし。山路は言質をとったぞ。
それにしてもなぜ大槻は黙る?
『そうだぞ、女子も心配していたぞ』
考えていると、樫田がそう言った。
女子? なぜこのタイミングで女子の話を?
何か意図があるのだろうか。
『あいつらが心配するかよ』
『確かに。椎名さんとか怒ってそうだねー』
『ばれたか』
そういって笑う樫田。
今の一連の流れに何か意味があるはずだ。
女子……部活動紹介……。
――で、杉野はどっち?
ふと、今日の部活で言われたことを思い出す。
ひょっとして……。
「なぁ、大槻。楽しくて面白い劇をやるか、真面目で感動的な劇やるならどっちがいい?」
『なんだそれ、心理テストか』
「いいからいいから」
『あー、しいて言うなら面白い劇かな』
『僕も面白い方かなー』
『なら俺は感動的な劇だな』
「ふーん」
なるほどなるほど。
こうなるわけか。
『いや、ふーんって。これで何が分かるんだよ』
通話越しだが、大槻はきっと怪訝そうな顔をしているのだと伝わった。
樫田も山路も、俺の次の言葉を待っているようだった。
だから俺は言った。
「大槻、大丈夫だよ」
『え?』
「それが言えるなら部活に来いよ」
『……』
俺の言葉に対して、大槻は沈黙した。
「大槻さ、嫌なんだろ? 部活動紹介のことで女子たちが揉めてんの」
『何のことだよ』
「とぼけるなよ」
少し荒げた声で俺は言った。
『…………はぁ、樫田』
大槻は観念したようにため息をつき、樫田に話を振った。
?
『俺はなんも言ってねーよ、杉野が自分で気づいたんだよ』
『マジかよ……』
どうやら、言葉から察するに、樫田にはこのことを言ってあったらしい(もしかしたら、樫田が得意の洞察力で当てたのかもしれない)。
『ああ、そうだよ。俺が部活に行かなかったのは、春休みになったら、部活動紹介のことで女子たちが揉めるのが嫌だったから。……いや、嫌だって言うか俺、ああいう不毛な事嫌いなんだよ』
大槻が堰を切ったように喋り出す。
『だってよぉー。たかだか部活動紹介でやる劇決めるだけだっていうのに、どうせ増倉も椎名もガチで揉めてんだろ。楽しくて面白い劇をやるか、真面目で感動的な劇やるならどっちがいい? んなことはどっちでもいいんだよ。どうせ部活入りたい奴は入るし、入らない奴は入らないんだよ。それを永遠と議論し合って、結局決まらなかった方は不機嫌になるし、決まった方は仕切り出すしでいいことないんだよ』
どうやら、本当に女子のことが嫌いらしい。
まぁ、言っていること自体は間違ってはいないが。
『あ、ちなみに樫田から聞いたかもしれないが、ゲームのやりすぎで昼夜逆転生活になったのは本当な』
『うわぁー』
『屑だな』
付け足すようにそういうと山路と樫田が引いた。
それについては本当なのかよ。
俺も引いた。
『うるせーよ。で、杉野、大丈夫ってどういう意味だよ』
「今、楽しくて面白い劇をやるか真面目で感動的な劇やるかで揉めてるんだよ」
『だから、それが嫌だから――』
「で、どっちがいいか全員で多数決を取りたいけどお前らが来ないから先に進まない状況なんだよ。ほら、先輩たちに言われたろ。一年全員の合意の元に決めろって」
『あー、そういえばそんなこと言ってたねー』
『つまり、不毛な議論はもう終わりまできているから部活に来いと?』
「そういうこと」
まだ多少の議論はあるかもしれないが、それでも現状、大槻が部活を嫌がる理由なんてないはずだ。
『そうだ。こいよ部活。増倉と椎名の議論が続いて夏村も苦労してるぞ』
樫田が俺に続いて大槻を誘う。
なるほど、同情を誘う作戦か。流石だ。
沈黙が流れる。
そして数秒後、大槻が沈黙を破った。
『そうか、夏村が………………はぁ、分かったよ。行けばいいんだろ、行けば』
大槻は少し投げやりにそう言った。
やったあ!
俺は思わずガッツポーズをした。
これで大槻と山路が部活に来ることが確定した。
目的を達成したせいか、急な脱力感が襲ってきた。
『あー、でも明日ってか今日か、起きられるかな』
大槻が不安そうに言った。
時計を見ると、三時半を回っていた。
『もうこんな時間かー』
『だいぶ、喋ったな』
もうこのまま解散という流れができていた。
だが、そうは問屋が卸さない。
「大槻、明日起きられるか不安なのか?」
『ん? ああ、いつも四時ぐらいに寝て昼に起きるからな』
「じゃあ、大丈夫だ」
『は?』
「寝なきゃ問題ないだろ?」
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