21.真なるボス
逸脱し切ったジャンヌの実力を俺たちは認めている。
「てめえら! 一度下がれ!」
フェルスとフローレンスを撤退させ、アリサに指示を飛ばす。
「やってみろ」
「本当に全力で撃って良いのね」
杖の先端をジャンヌへ向け、最大威力のファイアーボールが渦を巻いて形成されていく。
膨れ上がる灼熱に周囲一帯が圧された。
「問題ねえ……と思う」
アリサの魔法を見て、ヴェルの自信が弱まる。
「行くわよっ! ファイアボール!」
巻き上がる真紅の火球ファイアボールに、ジャンヌは聖剣を振りかざそうとする。
何をしている。アロンダイトには魔法を吸収する魔法刻印があるんだぞ。
斬られればそのままアロンダイトの力になる。
「魔法ってのは別に派手なだけじゃねえぞ! 魔力操作だけでこんなことも出来んだぜ!」
張り巡らせた魔力を使い、床から生えた透明な触手でジャンヌを縛る。
魔力そのものを操るなんて芸当が出来るのか?
……凄いな。
これでジャンヌは回避ができない。
ファイアボールの熱量でジャンヌの足元が高温で液状と化す。
するとヴェルが────パンッと両手を合わせ、透明な甲羅にファイアボールごとジャンヌを閉じ込めた。
魔力の壁。
図書館を覆っていた透明な壁に近いように感じる。
「……あ、あれは流石に死んじゃうんじゃない?」
「倒せてればいいが、どうだろうな……」
閉じ込めたお陰で被害少なく、壁の内側はどろどろと溶け飛散し、溶岩が生成されていた。
だが、スパッと綺麗に割れ、中から無傷のジャンヌが現れた。
「あれで無傷かよ……っふざけてんなクソが」
アリサのファイアーボールを以てしても決定打にならない。
またフェルスとフローレンスが飛び出す。
俺もそれに続いた。
「俺に考えがある。合わせられるか?」
「はい!」
「任せよ」
魔法刻印と俺特化の魔法陣は全て聖剣に刻まれている。
つまり、聖剣さえジャンヌから引き剥がしてしまえば危険度はグンと下がる。
正面からはいくら何でも無謀だ。だから後ろに回り込んで打撃を与えれば……。
案の定とでも言うべきだろうか、ジャンヌは簡単に俺の打撃を躱して見せた。
その刹那をフェルスとフローレンスの斬撃が襲う────はずだった。
「
俺たちはアロンダイトの爆風に巻き込まれ吹き飛ばされる。
「かはっ!」
……少し触れただけで気を失いかけたぞ。とんでもない威力だ。
貧民街で見せた威力は手加減だったのかよ。
そして、聖剣の矛先はアリサへ向けられる。
ファイアーボールを危険だと判断したジャンヌは、迷いなく光の輝きを放った。
「あれヤバいっ!」
一陣の光が襲う。
アリサがアルテラを咄嗟に庇った。
直後、ヴェルが前に飛び出し小さな魔法陣を展開する。
「アリサ……さんっ! ヴェルさんっ……!」
「……だ、大丈夫……じゃねえな。へへっ……これでも賢者なんでな……少しくらいの魔法陣なら使えんだよ……」
光が収まり、ポロポロと崩れた魔法陣と共に倒れるヴェル。
防ぎきれなかったにしても、あれだけの威力を受けて生き残っている方がおかしい。
「アリサお姉、ちゃん?」
「怪我……ない、みたい……ね」
「なんで……私なんかを……っ!」
アリサは静かに倒れた。
フェルスも立てず、歩みよるジャンヌを止めなければアルテラが斬られてしまう。
「ジャンヌ、やめろ。そいつは、お前の妹だぞ……っ」
ギリギリ拮抗していた。だが、一度決壊すれば戻ることはない。
絶望的な状況に成すすべなく、仲間がやられていく。
「あっ……こ、来ないで……っ!」
シロがアルテラの前に立ち、威嚇する。
失いたくないから、治癒を極めた。
死なせたくないから、治癒を極めた。
押し寄せる無力感。
役立たず。
「立て」
自分の治癒魔法を掛ける。
聖剣で無効化されるからなんだ。
誰も殺させないし、死なせない。そのための治癒だ。
俺は飛び出した。
間に合え。
しかし、無情にも────聖剣は下される。
「……えっ?」
アロンダイトで、ジャンヌは自身の心臓を貫いていた。
吐血しながらその場に崩れ落ちていく。
「私……が、妹まで手に掛けるとでも……思ったかっ! エラッド……っ!」
残った最後の意識で、自分の妹を守るべく命を絶つ。
何……してんだ。
ジャンヌの傍で治癒魔法を掛けた。
「
ジャンヌがアロンダイトで心臓を貫いた。
俺の治癒魔法は封じられている。
……治癒できない。
「死なせてたまるか」
例えジャンヌが俺の仲間を傷つけたとしても、それはエラッドのせいだ。
ジャンヌは何一つだって悪くはない。
「……最後……まで、迷惑を……掛ける……すまない」
「それ以上は喋るな……」
治癒が効かない。ヴェルは気を失って倒れている。治癒も無効化されているから治癒できない。
考えるな。救う事だけ考えろ
このままじゃジャンヌが死ぬ。
考えるなっ。
無効化されていても構わず治癒を連呼する。
ここで治癒できずに何が治癒師だ。
人を救うだなんてよく言えたな。
気持ちが強ければ治癒は効果を発揮してくれるんじゃないのかよ……。
「私のような馬鹿は……放っておけ……」
「救うんだよ。全員、誰一人だって死なせはしない!」
「……馬鹿だなぁ」
ダメだ。いくらやっても治癒が無効化される。
俺の救いたいって気持ちが、まだ足りてないって言うのか?
……死なせたくない。だってまだ、アルテラとちゃんと話してないだろ。
死ぬならせめて、アルテラを笑顔にしていけ。
こんな最後は認めない。
パチ、パチ、パチと数回拍手がした。
────そこには、老人が立っていた。
「素晴らしい……素晴らしい姉妹愛じゃないか。感動したぜ? あぁ、丁度いいタイミングだし、アルテラちゃんの記憶を戻しておくかい」
老人は指を鳴らすと、パリンという音と共にアルテラが頭を抑える。
「アハハハッ! いい景色じゃないか。自分のせいで、姉が死んだなんてどう思うんだろうねぇ」
直感が言っている。
コイツが、エラッドだ。
倒すべき諸悪の根源。
「……お前か」
「やぁ、治癒師ニグリス。初めまして」
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