20.戦闘準備
「おいおい、聖騎士団長様がエラッド如きに操られてんのか?」
返事はなく、意思や殺気もなく機械のような瞳に恐ろしさを感じる。
貧民街での戦闘でジャンヌに手も足も出すことが出来なかったフェルスとフローレンス。
攻撃こそしなかったが、俺は重着治癒(レイヤードヒール)を破られかけた。
格付けは済んでいる。
例えヴェルが居ても現状にさほど変化はない。
「……目覚めよ、アロンダイト」
ジャンヌの聖剣が黒く輝き、刃先が眼前の俺たちを捉えた。
あの聖剣に魔法陣が掛けられているな。
あれは俺特化の魔法陣か。
冒険者ギルドでガイとかいう男をこの魔法陣のせいで治癒できなかった。
ヴェルが居たから治癒出来たんだ。
俺の治癒は複数重ねて防御力を上げ、支援魔法に近いことができる。
……それと傷を治すこと、”あったこと”を”なかった”ことにするだけだ。
でも、俺特化の魔法陣のせいで無効化される。
あとは治癒の効果を高めて稀に相手の過去を見るが、戦闘では役に立たない。
俺の魔法じゃ届かない。だから魔法刻印を取りに来たんだ。
打つ手なし、か。
その時、ジャンヌが飛び出す。
「っ、!」
「ニグリス様っ!」
ほんの一瞬だけ油断していた。
襲い掛かって来たジャンヌに、フェルスが前に出る。
治癒ができない、その事実が身を凍らせた。
「ダメだフェルス!」
斬り合ってはならない。
聖剣の一太刀で両断されてしまう。
目の前で激しく火花が散った。
弾けた刀身の鋼が頬を掠め、擦り傷ができる。
「業腹じゃ……全く」
一人でダメなら二人で。
ジャンヌの一撃を防いでいた。
いつもは仲の悪い二人が協力している。
「……あんたら、いつの間に仲直りしたわけ?」
緊張感も何もないアリサがため息交じりに言う。
絶対に協力なんかしないはずの二人が、変わった。
……俺が打つ手なしなんて、諦めている場合じゃない。
弾き返し、なんとかジャンヌに距離を取らせた。
「長くは持たぬぞ! いつかは斬られる」
「分かってる……ヴェル、あの魔法刻印は魔法を吸収するんだよな?」
「あぁ、だから厄介なんだよ。魔法陣も何もかも、あの聖剣に斬られれば無意味だ」
別の案……俺の治癒はダメだ。重着治癒(レイヤードヒール)を使っても普通に斬られるだろう。
全体範囲治癒を展開したいが、貧民街の時みたいに吸収される。
これじゃ本当に役立たずだ……。
「キュイ……キュイ(この匂い、魔族の匂いだ)!!」
シロが威嚇している。
魔族って、ジャンヌに向かって言ってるのか。
いや、ジャンヌは人間だ。だったら魔族なんて……今は良い。
それよりも現状の打開が優先だ。
守るよりも攻めるべきだと判断したフェルスとフローレンスが前に出る。
「ニグリス様はやらせません……っ!」
「くっ! その意見には同意じゃなっ!」
挟み込んでの攻撃を、ジャンヌは躱した。
まるで後ろに目が付いているかのように。
フェルスは大振りのせいで懐ががら空きになる。容赦のない聖剣が斬りかかった。
一撃でも喰らえばその時点で死ぬ。
「馬鹿者!」
「────っ! け、蹴らなくても良いと思いますけど、感謝はしておきます」
「ふん、要らぬ」
フローレンスの機転でフェルスは間一髪を逃れる。
「普通の相手だと思うでない……あれは明らかに常軌を逸している」
戦闘において、元より命の駆け引きをする剣士には当たり前のことだ。
俺には頼れない、それが二人の集中力を高めていた。
「おいてめえ、ファイアーボールしか使えねえんだろ。だったら力貸せ」
「あのね、あたしのファイアーボールは強すぎて影響が凄いの。だから気を使って撃たないんでしょ」
「撃たせてやるって言ってんだよ」
「……マジ?」
ヴェルに考えがあるようで、アリサに提案をしている。
あの聖剣に斬られれば魔法は吸収されるんじゃないのか。
……いや、ヴェルのことだ。何か案があるに違いない。
探せ、俺にできる方法を。
「……に、ニグリスさん」
シロを抱っこしているアルテラが袖を引っ張る。
「あの怖いお姉ちゃん。怖いけど、なんだか……可哀想」
ジャンヌの表情は無機質的で、感情なんてない。
ただ目の前にある障害を蹴散らすだけ。
そのはずが、微かに目尻に涙が見えた。
意識が残っているのか?
アゼルの時のように、直接触れても俺特化の魔法陣のせいで治癒はできない。
まだ少しでも意識が残っていてジャンヌが抵抗しているのなら、助けてやらなければならない。
「……助ける方法が一つだけある」
たった今思いついたことだ。
みんなが稼いだ時間で考えた。成功するかは分からない。
それでもやらねばなるまい。
失敗すれば全員死ぬんだ。
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