31.この先へ


 あれから数日の時が流れ、俺たちは街の復興に尽力していた。

 冒険者ギルドから支払われた謝罪金で、住民の食料やら建材を購入していた。


 汗を流しながら、人々は作業を続ける。


「ねぇ~、なんでお金全部渡しちゃったの~?」


 だら~っと脱力し、魔力の枯渇により元気のないアリサ。あと数日もすれば全快するだろうが、しばらくは魔法が使えない。

街の復興を手伝ってる辺り、いち早く貧民街が元の姿に戻って欲しいと望んでいるのだろう。

 

「アリサだって、世界を旅するために貯めてた金を出したんだろ?」

「なっ! な、なんでそのこと知ってるのよ!」


 顔を真っ赤にしてシャーッと猫のように怒る。


「フェルスが言ってた」

「すみません……独り言で寄付したことを後悔していたようなので……」

「こ、後悔は……してる。けど、まぁいいかなって」

「旅って、他の国とか行きたかったのか?」

「ええ、この世界は広いんだもの。私のファイアボールの素晴らしさを世界に知らしめる旅に……って思ってたんだけどね。今はここの居心地いいから」

「そうか」


 はにかんだ笑い方を見せる。

 ……明るくなったな。

 

「そういえば、アリサ。魔法適性SSになってからどうだ?」

「うーん。これと言った変化は感じないけど……どう、なんか変わってる?」


 鑑定(みて)やるか。

 俺もアリサが魔法適性SSになっているか確認したいしな。



【種族】ニーノ人

アリサ・スカーレット 17歳 状態:安心


魔力 極大

剣士 D / D

魔法 SS / SSS

器用 D / D

忠誠 100


【原初の火球使い】

ファイアーボールしか使えない宿命に掛かっている。



 ふむ、魔力が極大……極大!? 元々大じゃなかったか?

 な、なるほど……もしかして、大量に魔力を使ったからか。魔力ってそうやって増えるのか。


 後は……ちゃんと魔法適性もSSになっていて問題はないな。


「SS……SSS!?」


 ちょっと待った。SSSってなんだよ。

 SSが限界じゃないのか……? 新しい発見だな。

 

「……お前、とんでもないな」

「何かよくわからないけど、そりゃそうよ! あたしは最強の魔法使いなんだから! ほら、褒めてもいいのよ」


 この性格じゃなければ、喜んで褒めるんだがな。

 自信に満ち溢れてて、それはそれでアリサらしいか。


「ああ、凄い」

「なんか気分が良くなってきた! うおおおっ! あたしもっと頑張る!」

「無理はするなよ」


 腕まくりをして、崩れた家の撤去を手伝いに行く。


 貧民街の住民は生きる難しさを知っている。その日を生きることが精いっぱいなのに、みんな笑顔だった。


 俺が来た頃は、もう少し殺伐としているように感じたんだがな。

 休憩中の俺たちに並ぶように、フローレンスがやってくる。


「本当に、ニグリス殿には頭が上がらぬな」

「金のことなら気にするな。冒険者をやればいつでも稼げる」

「……流石は妾の見込んだ男じゃ、この恩は忘れぬ」


 もはや、俺の中だとフローレンスは仲間と言っても過言ではない。

 仲間が困っていれば助けたくなるのは当然だ。


 それに、貧民街はもう俺の中では大事な街だった。


「みんな笑顔じゃ。あんな事があったって言うのにな」

「復興は順調なのか?」

「うむ、あと数日もあれば簡易的だが復興できるじゃろ」

「……そうか」


 元の形を取り戻すには、もう少しだけ時間が掛かるかもしれない。

 でも、確実に元に戻ろうしている。


「ニグリス殿が来てから、ここは変わってしまったな」

「そうか……?」

「良い方向にじゃぞ」

 

 あまり自覚していないんだが。

 前のパーティーにいた頃からずっとそうだ。


 ただ、自分の出来ることをしていただけだ。


「ニグリス殿のお陰で救われた者たちがいる」

「それは……そうかもしれないけど」


 ……俺が救った、か。

 そうだといいな。


「頭ぁ! ちょっとこっち来てもらえませんかぁ?」

「見て分からぬか! 今ニグリス殿と喋っておる途中じゃろうが!」

「えぇ……頭が何かあったら声掛けろって言ったんじゃないんですかぁ……」

「やかましい! で、なんじゃ」


 フローレンスが席を立ってしまい、俺とフェルスの二人きりになる。

 エルフ耳をピクピクと動かし、チラチラと俺を眺めた。

 

「どうかしたか?」

「い、いえ……何というか……私は弱いなって」

「弱いって、十分強いだろ」


 ステータスも二人に負けず劣らずだ。

 何を恥じることがあるんだ。


 ……あぁそうか。もしかして、アゼルが貧民街を襲撃した時にフェルスを置いて行ってしまったからか。

 フェルスには危険と判断したけど、単純にあの場はフェルスの足なら小回りが利いて多くの人を救えると考えたからだ。


「……安心しろ、信頼してない訳じゃない。どちらかと言えば、俺はフェルスが居なければ、ここには居ない」

「え?」


 大事な存在だから、傷つけたくないと考えたこともあった。

 でも、真の仲間なら頼るべきなんだ。それをフェルスに教えてもらった。


 アゼルとの戦いだって、俺一人じゃ勝つことは絶対に出来なかった。

 

 死んでいた可能性すらある。


「これからも傍に居て欲しいんだが……ダメか?」

「…………喜んで、ニグリス様」


 きめ細やかな金髪を風になびかせ、フェルスは胸元に手を寄せて強く誓う。

 

 ────必ず、強くなる。ニグリス様のために。


「一生、お側に居ります」

  

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