28.最強の仲間


「魔法攻撃無効とか、もしかして上限とかないの~!?」


 嘆くアリサ。


 圧し潰されるような威圧に押された。

 自分の立ち向かっている相手は、今まで倒してきたようなモンスターではない。

 

 物理もダメ、頼みの綱であるアリサの魔法もダメ。

 

 目前に佇む化け物をどうすればいい。


「コロ……ッ……ニグ……リス」


 どんだけ俺の名前言うんだよ。俺のこと嫌ってただろうが。

 アリサと少女のユイ。前方に俺がいる


 既にアリサは魔法を撃ち切ってしまって、戦闘には参加できない。


 瓦礫があったから、足場を利用して逃げることができた。瓦礫の無い今、先ほどみたいに担いで行くのはあまりに危険だ。


「キィィィィィッ!!」


 突如、甲高い叫び声がアゼルから発せられる。

 驚いて心臓が跳ねあがり、思わず耳を塞いだ。


「うっさ! 今度はなんなのよ!」

「なんか呼んでるみたいな叫び声しやがって……っ」


 呼んでる……?

 モンスターの襲撃……?

 もしかしてコイツ、モンスターを操れるのか?

 思い返してみれば、街中に出ていたモンスターは全部Bランク級だった。


 それ以上である堅守のドラゴンとは殺し合いをしていた。圧倒的な格下相手であれば、命令が出来る……。


 だとすれば、もしかして今のってモンスター共を呼んだのか!?

 

 ヤバい。


 二人を守りながらアゼルを相手にするのはいくら何でも無理だ。

 

 ……運の良いことに、アゼルの狙っている相手は俺だ。この場を離れれば二人を安全に逃がすことが出来るはずだ。


 勝算はないが二人を生かせるのなら、それでいい。

 

「アゼル! こっち────」

「ニグリス様!」


 後方からフェルスがやってきて、俺の隣に立つ。

 ナイスタイミングだ。


「フェルス、二人を連れてこの場を離れてくれ。モンスター共が集まってくる」

「……」

「フェルス?」


 俯いたまま、フェルスは剣の柄を握りしめる。

 意を決したように俺へ向かった。


「私も戦います!」

「ダメだ。俺の治癒はアリサの魔力までは回復できない、今は守り切れないんだ」

「……あたしが、いつお荷物ですって?」


 アリサが強がって立ち上がり、震えた足で苦し紛れに笑って見せた。

 魔力の消費は死に直結する。

 俺の治癒は魔力まで回復することはできないんだ。

 あくまで怪我だけ。もう一発ファイアーボールを使えば、アリサの魔力は枯渇するだろう。

 適性SからSSに変化したせいで、身体の適応がまだ追いついてないんだ。


「妾もおるのじゃがの。モンスター共は全滅じゃ、住民も避難が終わった」


 フェルスの後に続いて、遅れてやってきたフローレンスが凛とした面持ちで言う。そしてアゼルを見て、怒りを露わにした。


 モンスター達を倒したのか?

 ……早いな。

 俺は少し、見くびっていたかもしれない。


「ニグリス殿一人に、もう重荷は背負わせぬよ」

「私達で守るんです。仲間なんですから」


 俺の中で霧が晴れた気がした。

 仲間。

 俺は、アゼルと一人で戦うことばかり考えていた。

 

 仲間を殺されるかもしれない。守れないかもしれない。

 信じられていなかった。


 俺の仲間は、強い。


「……分かった。でも、あまり時間はないし、倒す方法もまだ思いついてない」

 

 せめて時間を稼ぐ必要がある。

 物理攻撃無効化の魔法陣と、魔法攻撃無効化の魔法陣の突破が出来なければ、勝ち目はない。


 倒す方法が一つでもあれば……この状況を打開できる。


「ガウゥゥゥッ!」


 聞いたことのある鳴き声がした。


「堅守のドラゴンじゃと!?」


 空を見上げると、堅守のドラゴンが食い千切られた翼で必死に飛び、アゼルに襲い掛かっていく。


 ドラゴン同士の戦い。


「ジャマ……スルナァッ!」


 ……あいつ、死に掛けているはずだろ。俺と戦った時だって素直に逃げたはずだ。どうしてそこまで……。

 いや、今はそんなことどうでもいい。何かヒントを探れ。


「今のうちに叩くのじゃっ! 数で掛かれば……」

「待てっ!」


 フローレンスを制止させる。

 ここで飛び込んでしまうと二匹の戦いに巻き込まれる。


「……そうか、突破口があるかもしれない」

「なんじゃと!?」

「あたしも同じこと思ったのよ~……で、どういうの?」

「アリサさん、思いついてないなら空気を読んでください」


 堅守のドラゴンが戦っている姿を見て、アゼルは物理攻撃無効化の魔法陣を展開している。

 なのに、本体であるアゼルを庇うように戦っていた。アゼルがダメージを負うとマズいから?


「考えてるわよ! あの魔法陣さえ消せればなぁ……って」


 消す。

 アゼルがあの魔法陣を操っているのなら、アゼル本体に影響を与えてしまえば魔法陣は崩れるんじゃないか?

 

「……そうか、治癒だ」


 俺の治癒魔法はその人物に大きく影響を与えることができる。

 全体治癒をした時、あれは魔法陣によって防がれた。


 ゼロ距離から、魔法陣を通り抜けてアゼルに触れさえすれば勝機はある。


「俺がアゼルに触れさえすれば、勝ちだ」

「真か!」

 

 たぶん、とは言わないでおく。

 それじゃなくても二つの魔法陣、無効化で心にかなり来ているはずだ。


 どうせ失敗は許されない。


「堅守のドラゴンがやられる前にやろう。アリサ、本当にもう一発撃てるんだな?」

「黙って背中預けてればいいのよ」


 啖呵を切って、ユイという少女を自身の後ろに隠した。

 アリサは自身の役割を理解し、この少女を守ると言っているように思えた。


「……アイツ、アゼルは攻撃を無効化させる。でも、同時に二つは展開できないんじゃないか、と思ったんだ」

「……なるほど、何をすればいいか分かりました」

「確かに、妾とこのエルフの娘にしか出来ぬな」

 

 堅守のドラゴンが距離を取った瞬間を見計らい、フローレンスとフェルスは駆け出す。

 挟み込むようにしてアゼルを切り裂いた。


「硬すぎじゃの! エルフの娘、もっと腰を入れろ!」

「分かってます! ですが、これが私の限界なんです!」


 いや、十分だ。

 悔しそうにしながらも、しっかりとアゼルに物理攻撃無効化の魔法陣を展開させていた。


 だが、今ファイアボールを撃てば、二人を巻き込んでしまうと思ったアリサが戸惑ってしまう。


「ファイアボールッ!! ごめんニグリス! タイミングが遅れた!」 


 構わん。

 

 重着治癒(レイヤードヒール)。


 さらに重ねろ。硬くしろ。アリサの魔法に耐えられるだけの強度まで。


 振りかかるファイアボールを見て、アゼルは卑しく口角を深め、魔法攻撃無効化の魔法陣へ切り替える。


 アゼルの対応が間に合ってしまった。


「ニ……グリ、ス?」

 

 ファイアボールの中から、俺は現れる。

 作戦通りだった。


 やっぱり、魔法陣は一つしか展開できないみたいだな。

 本体であるアゼルの頭を掴み、全力で魔法を使った。


「治癒(ヒール)」


 アゼルに触れる必要があった。


 俺の治癒が人物に干渉できるのなら、核になっているアゼルを治癒し、魔法陣と切り離してしまえばいい。

 

 そして、俺はアゼルの記憶を覗いた。

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