27.魔法適性SS、ファイアーボールは進化する。
「ストーカーなんて……そんな趣味だったか、アゼル」
瓦礫で足場の悪い中、俺は逃げるのに集中していた。
それに、この異様な雰囲気といいアゼルの殺気が尋常じゃない。
「ニグリスぅぅぅぅぅぅっ!!」
堅守のドラゴンを倒したところ見るに、一撃のダメージは相当な物だろう。いくら俺の防御力をもっても、まともに喰らえば危険かもしれない。
しかもこの二人を抱えた状態では戦うこともできない。
てか、そもそも攻撃が通じないんだよな。
このまま逃げ回っても、いたずらに被害を拡大させるだけだ。
冷静な声音で、アリサが呟く。
「……あの魔法陣、厄介ね」
「知ってるのか?」
アリサはアゼルを観察しながら、悩んでいたようで、ようやく答えが出たのか軽く笑って見せた。
「魔法の知識に関してはあたしの方が優秀だもんね」
「勿体ぶってないで教えろよ」
「あれは魔法陣って奴よ。古代の遺物と言っても過言じゃない……特性は詳しくないけど、見たところによれば物理攻撃無効化と魔法攻撃無効化の二つみたいね」
……さり気なく言ってるけど、滅茶苦茶ヤバくないか。
普通の人間であれば絶望してしまうだろう。でも、そんな暇はない。
魔法陣か、初めて聞くな。
「……なんでそんな物をアゼルが使えるんだ?」
「そこまでは知らないわよ。それより、このまま走れる?」
「見ての通り、逃げるのに精いっぱいだぞ」
「それでいい。このまま、私の最大威力をぶち込んでみる」
「お前、さっき魔法無力化って言っただろ?」
ニヤリッと笑い、杖を空に掲げた。
自信に満ちているのか、その瞳に曇りはない。
「魔法陣ってね、結局は物だから耐久に限度がある。あたしの最大威力を耐えられる物なんかないんだから」
……確かに、一度は試してみる価値はありそうだ。
「あたしだって、みんなを守りたいもの」
赤色の光が混じり、杖の先に球体を作り出していく。
しかし、いつものファイアーボールとそれは異なっていた。
赤色に交差するように青色の光が絡まっていた。
……もしかして、ここに来て魔法適性SからSSに進化したのか!?
人へ想いが強ければ強いほど、魔法は力を発揮する。
アリサの気持ちが限界を超え、魔法適性SSへと進ませた。
「あたしの家で、暴れてるんじゃないわよっ!」
新たなファイアーボールは美しく燐光を放ち、一瞬の輝きと共に大爆発を引き起こした。
これも直撃だ。
瓦礫が消し飛び、灰と化す。
一面は荒野と成り果て、生物は一つとして存在しない。
一応、この少女以外に残っている人は居なかったから良かったが。
住民の避難が終わっていなければ、大変なことになってたな……。
にしても、あの様子から回避するっていう知性はないみたいだな。
「……すごい威力だな」
「は、はぁ~……なんかほとんどの魔力使い切った気分。無理、もう動けない」
ぐだ~っと脱力するアリサに、内心ほっとした。
これだけの魔法を喰らえば、確かに魔法無力化と言えども無理だろう。
そう思い込んでいた。
「……二、グ……ニグリス……コロ……スッ!」
砂埃が収まると、そこには黒い竜がしっかりと立っていた。
外傷はなく、俺たちは唖然としてしまう。
……冗談だろ?
*
とある屋敷の一室。この大貴族は貧民街へ入ることが出来ない。
そのため、貧民街で起こるであろう出来事を予測し、笑っていた。
「やはり、スキル持ちはいつの時代も厄介だねぇ。僕の邪魔ばかりだ」
紅茶を含みながら、優雅に笑う。
テラスから俯瞰できる街中がやけに静かに思えた。
砂糖を紅茶に追加し、かき混ぜる。愉快に笑いながら、涼しい顔をしていた。
「勘違いしているようだから、教えてあげるべきだったかなぁ? いや、それはフェアじゃないよね。スキル持ちが二人もいるんだから、やっぱりズルいよ」
魔法陣の根底にあるのは『自分のため』。ある意味、独裁主義者や歪んだ人間のために存在する。
それは歴史を見ても明らかだ。
この世界を一度、統一しかけた者は魔法陣を使っていた。
その者を人は魔王と呼ぶ。
「アゼルくんは最強の駒なんだ。どれだけ君たちが人を想って魔法を使おうが無駄なんだよね」
彼らの敗北は決まっている。
鑑定スキルと原初の火球使い。
二人とも厄介であることに間違いはない。だが、特に厄介なのは原初の火球使いだ。
あれは原点(オリジン)に等しい。
彼女自身は理解していなかったみたいだが、問題はない。
「あの二人さえ抑えてしまえば、僕の勝ちだ」
鑑定スキル持ちは、ただの治癒師だ。
彼では何も出来まい。
「楽しみだなぁ」
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