16.一方、その頃3〜追放パーティー視点〜
冒険者ギルドで、彼らは異様な雰囲気を放っていた。
「クソッ!!」
身包みを剥され、Sランクパーティーに相応しい剣も奪われた。自分たちに残っているのはこの身だけ。
アゼルは歯ぎしりを鳴らして、テーブルを叩いた。
「なんで……この俺様がこんなクソダセェ恰好で逃げ出してんだぁ? あぁ!?」
「アゼルだけじゃないわよっ!」
みすぼらしい姿になった彼らは、各々の怒りを剥き出しにする。
一方的に住民を傷つけ、盗賊に捕まった時点で彼らは死んでいる。そのことを理解したくなくて必死だった。
「俺達が負けたのは偶然……っ! そう、偶然だ。連続したことも
何があっても認めないアゼルに冷やかな視線が刺さる。
歪く顔を歪めてミーア以外のパーティーメンバーを殴った。
「なんだよその目はよぉ……! てめえらがSランクまで上がれたのは誰のお陰だぁ? あぁ!?」
アゼルである。
そう思い込んでいる彼らは逆らえない。
「こうなったら、冒険者ギルドで人をかき集めて殺してやる。あの女帝もニグリスも殺してやる!」
「そんな大々的にやったらまずいって!」
「うるせぇ! 冒険者ギルドは俺達の味方だ。数少ねぇSランクパーティーだもんなぁ! それくらい俺たちは特別なんだよ!」
まだチャンスはいくらでもある。
そう思っていた彼らに待っていたのは、予想を裏切るものだった。
仲間をかき集めるべく、その場で大声を上げると受付と衛兵が近寄ってくる。
「Sランクパーティー、銀の翼ですよね」
「んだぁ? 冒険者ギルドの受付嬢か?」
みすぼらしい恰好であることをすっかり忘れ、外見に自信を持っている。
「駆け出し冒険者。新人の方はどうなりましたか?」
「あぁ? てめえらに報告した通りレッドウルフにやられちまったよ」
「……その報告ですが、その方の遺体が見つかりました。傷跡はレッドウルフのような牙ではなく、鋭い剣によって”殺された”と断定しています」
「な、何言ってんだてめぇ! アイツの遺体は隠し────こ、この俺が殺したって言いてぇのか!?」
冒険者ギルドが騒めき始める。
仲間殺し。
冒険者の間でも最も御法度とされるものだ。バレれば冒険者の剥奪だけでなく、パーティーメンバー全員が奴隷に堕とされる。
「……失礼しました。お話を聞きたいので、ご同行願えますか」
「ふ、ふざけんなっ!!」
「そ、そうよ! 私達はこの町を守る義務がある。あなた達に関わっている時間はないのよ!」
素早くミーアも助けに入った。
このまま連行されれば、逃げ場を失う。
これは確実に……奴隷に堕ちる。
彼らは新人の死体を見つけたと言っていた。
それはアゼルが殺したという証拠がある、ということだ。
「……依頼を受けていらっしゃるのですか? 先ほど帰られたように見えますが」
「まだあんだよ! 大貴族様の依頼がなぁ!」
大貴族。
冒険者ギルドとは違う勢力からの依頼だ。
受付の人は下手に手出しはできない状態であることを察する。
彼らはあくまでSランクパーティー。それ相応の難易度の依頼をこなす。
「……分かりました。では、それが終わりましたら報告をください」
*
項垂れてアゼルが叫ぶ。
ここは森の中。
「なんなんだよもぉぉぉっ!」
冒険者ギルドに行って仲間を増やすことはできない。
身包みは剥された。
剣も杖も何もない。
このまま王都で生活していれば、新人殺しの疑いで捕まる。そしたら奴隷までまっしぐらだ。
「嫌だ。俺は奴隷になんかならねえ……っ!」
「私もよ……ここまで来たの」
「女帝を殺して、大貴族に取り入れば俺達の罪なんざ一瞬で消える……」
まずは金だ。武器や防具を揃える金があればなんとかなる。
「おいてめぇら。アレを見ろ」
「……馬車?」
「襲うぞ」
彼らに貯金という概念はない。
豪遊し、自惚れ、人の物に手を出そうが何も思わない。
「良い案ね、アゼル」
そしてその近くに、ニグリス達が居た。
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