5.一方、その頃〜追放パーティー視点〜
銀の翼は冒険者ギルドで受けた依頼をこなしに行く。
森林の中、モンスターのいる場所では普通の冒険者は警戒したり、静かに歩いて行くのが定石にもかかわらず、彼らは大声で爆笑しながら歩いていた。
「ブハハハハハッ! あのゴミクズの顔見たか? 絶望したような顔してよぉ! 俺たちに寄生していれば貴族になれると思ってたんだろうなぁ!」
「ほんっと面白かったわね。あー胸がスカッとする」
「あー、思い出し笑いしちまうな。さっさとこんな雑用依頼終わらせて酒飲もうぜ」
フェルスが簡単に倒せるようになったBランクのレッドウルフを彼らは狩りに行く。
準備もなく、怪我をしないと思い込んで。
「おい荷物持ち! てめえは大人しく見てろ。邪魔したら殺すぞ」
「は、はい……」
新人の奴隷も手に入った。これでこのパーティーは上に行くことが出来る。
「おー、レッドウルフから仕掛けてくるなんて初めてじゃねえか? こりゃ探す手間が省けたなぁっ!」
レッドウルフは、自身よりも強い者に挑みはしない。
故にニグリスがいると襲ってくることはなかった。
*
「クソッ! なんでBランクのレッドウルフに負けてんだよ……っ!」
「ゆ、油断し過ぎただけよ!」
Sランクパーティーの銀の翼は、深い傷を負ってしまった。
森林の木を殴り、苛立ちを解消させる。
しかし、それでもリーダーのアゼルは怒りが収まらない。
「……おい、新人荷物持ち」
「は、はい……?」
新しく入った新人の冒険者は、Sランクパーティーに誘われウキウキであった。しかし、現実は非情で彼に待っていたのは地獄のような雑務と奴隷のような扱い。
「てめえが居たから失敗したんだよ……」
「ぼ、僕は見てろって言うから見てて……!」
口答えしてくる姿が気に入らないのか、剣を抜いて矛先を向けた。
うぜえうぜえ、と連呼し切りかかる。
「ぎゃぁぁぁっ!」
「俺様に口答えしたからこうなんだよ……!」
新人の腕を切り捨ててしまう。
「ちょ、あんた! 流石にそれはやりすぎだって!」
「うるせえ! てめえも斬ってやろうか? あぁ!?」
Sランクパーティーが、Bランクのモンスターに苦戦を強いられた。これがどんなことを意味するか。
今まで積み上げてきた信頼、地位、功績を無かったことになるかもしれない。
その恐怖だけがアゼルを支配していった。
「このことを知る者は俺達だけだ。コイツを殺して、新人が足を引っ張って失敗したことにする」
アゼル、ミーア以外の二人もそれに何も言わず納得した。これは運が悪かった。偶然だ。
従っていれば貴族になれる。
新人はそのまま殺された。
「……さっさと、貧民街の女帝を殺すぞ」
「大貴族様からの依頼ね。でも、貧民街の女帝はそれなりの実力者だって聞いたけど?」
銀の翼は貴族からの依頼も受けている。
その中でも大仕事の一つ、宰相の右腕を務める大貴族から、女帝の殺害依頼を受けていた。
貧民街の女帝を殺すことは、どれほど難易度の高いことか。
「馬鹿野郎! 女帝を殺せばSSランクにしてくれるって言うんだぞ!」
この依頼があったからこそ、ニグリスを追放しようと決定したんだ。
SSランクになるためには、大きな功績を残さねばならない。
その任務が貧民街という王国の手が届かない目の上のたんこぶを何とかしろという依頼だ。
「残虐非道で、逆らった者は皆死ぬと言われている。捕まったら私達も殺されるかもしれない。女帝は性格最悪らしいし、ここは慎重に────」
「俺達は銀の翼だぞ! 女帝はよ、男嫌いって噂だぜ。そういう女を屈服させる姿が見てぇ……お前ら、俺がヤるまで殺すんじゃねえぞ!」
全く話を聞かない様子に、何を言っても無駄だと理解した。
何となく、嫌な予感を覚えていた。
Bランクモンスターに負けたことは本当に偶然か。今まで傷を負ったことすらなかったのに、ニグリスを追放した瞬間にこうなった。
きっと偶然だ。昨日の深酒が原因なんだ、と。
そう思いつつ、彼らは帰路に就く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます