『IUO』の世界
チョーカー型VRを丁寧に装着してSWKSベッドのリクライニング機能を活かして寝心地の良い角度を取る。これで後は起動ワードとゲーム名を呟けば意識は落ちてゲームの世界へってな感じだ。
「In 『
ショートカットに設定されているカスタムワードにより起動する最新式の
能力によって二世代すっ飛ばしたんだから当然かもしれんけど。(なお、サンバイザー型の次の型は知りません。能力の勘です)
風呂で眠る感覚で意識が落ちていき、五感が溶ける様に身体から離れてゆく。
黒い空間を緩やかな速度で落下する感覚を味わいながら下に見える光の海へと頭から飛び込んだ。
光すら超越した人類が作り出したのは"無限の可能性"と"何でもあり"を追求した第二の
長い夢を見ていたような感覚と共に耳に伝わる『ゴウン……ゴウン……』という音。
身体にしっとりしつつも仄かに暖かいモノの感触を感じる。閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げていくと、薄い水色のような無機質であり統一感のある天井、太陽光ライトの人工的であるものの柔らかな光が視界に入ってくる。
「二、三日離れてただけとはいえ懐かしく感じてしまうなぁ」
家具や趣味の物が存在するものの、どこか生活感があるとは言えない一室で目を覚ます。
少し身動ぎするとズチュッという粘質的なモノの音が耳に聞こえる。それもそのはず、上半身を起こして周りを視界に入れれば、衝撃吸収に優れ仄かにアロマの香り漂うジェルが未だに下半身を包み込んでいる。
「相変わらず良い寝心地してるなぁ…」
そう呟きながらジェルをぽんぽんと叩くと、ジェルが勝手にモゾモゾと動き出し足先の部分が盛り上がってサムズアップを嚙ましてきた。単なる寝具の癖にと思わなくもないが、コイツは生物だ。
未だリアルでも実現出来てない便利スライムだ。悪食なヤツなら一家に一匹存在するが、人を食べず排泄物や老廃物を処理してアロマに変換し、意思疎通も出来るご都合生物なぞ存在するのはゲームだけだ。
リアルは宇宙進出から数えて数千年は経ってるのだが。まあ、全部盛りは超高難度って事で。
室温が完璧に保たれているので寒いと感じることもなくジェルスライムから抜け出す。
因みに今は全裸だ。
服着てスライムに入ろうものなら違和感バリバリで気持ち悪くて仕方がないからだ。着衣のまま頭からローション被ってるとこ想像してみろ、つまりそう言う事だ。
「
奇しくもFDVRと同型になった多機能型チョーカーを起動して、保管庫から愛用している超性能スーツを呼び出し着用する。黒を基調として灰色の装甲と蛍光色のラインが走る実にファンタジーな逸品だ。
厨二病っぽいって?実に結構!最高の褒め言葉である!!
改めて傑作だとニヨニヨして眺めていると呆れた声が室内に響いた。
『おはようございます。起きて着替えたならさっさと移動して下さい?遅れますよ』
「おう、凛か。やっぱお前の声聞いてると落ち着くわ」
『早く移動して下さい///』
声でも分かるこの可愛さよ。
このゲームは人間用に作られているので本来なら機械知性はログインすら許されないが、プレイヤーのゲーム内進行度及び機械知性の所持を条件に音声や
因みに、ログインする機械知性の本領を発揮する事はほぼ不可能である。自由度を下げている訳ではなく、依存して自主性喪失を防ぐ為である。音声はアテレコなので自由な発言も許されてないぞ。
俺は凛の声に急かされて部屋の扉に向かうが、退室する前にやるべき事があったと振り返る。
ニコッと笑顔、両手を前に突き出し、サムズアップ!
返すは、スライムの完璧で丁寧なサムズアップと見送りの手振り!
相変わらずノリノリで気分の良い最高のペットだぜ!
少し移動して着きました、玉座の間。扉が自動的に開いて中に進むと、荘厳で精緻な彫刻の施された金属質な玉座と大きなクラン旗章が目に入る。
そのまま玉座に座って目の前を眺めると、正に帝王になった気分を味わえる。
玉座前の階段の下には配下である機械知性がレッドカーペットを挟んでずらりと
「我は再び舞い戻ったぞ」
格好付けて恥ずかしい台詞ドーン!
俺の言葉を受け、跪いていた配下たちが一斉に立ち上がり"ザッ!ザッ!"という綺麗に揃った音を響かせこちらに敬礼する。
う〜〜ん///!!!やっぱコレだよコレ!
気持ち良いぃ〜!トップが一人だからこそ、配下から一心に注がれるこの篤い視線が堪らねぇんだよなぁ!
しかも、忠誠心を飛び越えた創造主に対する
『イベント開始時刻になりました。これより各サーバーの統合及び制限解除を報告します』
キター!新世代機・移行時限定イベント
二、三日の時間を掛けて行われる全サーバーのバックアップ。その後の昼から全サーバーを統合し、
(N=NPC、A=AI、P=PC、 C=Clan)
全てをリアルタイムで行う全身全霊恨みっこ無しのお祭りである。日頃PvPを望まない平和主義の者も損失無しの大規模戦場の雰囲気を味わい、体験や観戦してみよう!というコンセプトだ。
当然、普段からPvPを嗜まない者は不利となるので、救済措置として特に希望がない限りはサーバー連合に組み込まれる形となっている。参加希望の有無は選択式。
俺を含めた廃人の連中でも、油断してサーバー連合の数に呑み込まれると沈む確率が跳ね上がるので、案外洒落にならない。
『これより七日間のイベントにおける目標を下命します』
「最大目標:全機械知性配下の生存と本拠地である機甲都デウスの失陥阻止とする。
行動方針:資源消費の最小化とHit and Awayによる──んあ?」
ピロンッと音が鳴り、自動的に開かれたウィンドウにはメッセージが届いた事を報せる電波のマークが表示されていた。
えーと、三通も?……ふむふむ。
一通目の誤字脱字の多さよ!確認すらせずに送ってきやがったな?!最早意味不明だよ、何度言えば直るんだコイツ!
二通目は?カッタ、堅いよ言葉遣いが!古代人より前に使われてた
三通目は……普通だね。言葉遣いも誤字脱字の乱れもないけど、言葉の端から高圧的な雰囲気と声が聞こえて来る感じがなぁ。唯一の常識人枠なんだけど、日頃のストレスを表に出してくるんだよね。
三人とも個性が爆発した様な奴らだが、リアルではマジで同一人物かと疑われる程には性格が真逆だったりする。
このゲームには戦力や技術力の総合で判断されるランキングが存在するのだが、その上位三人ともなればスポンサーも付いて顔も公開され動画でも大人気である。
ここでの能力とは現実から持ち込んだモノを指します。効果が高いほど反動も極端になるので物語のチート主人公みたいに過信していると地獄を見ます。
能力発動の有無は特有のマークとオーラで判断できます。
一位が攻撃力特化の能力を持つ、プレイヤー名:烈火のトンガラシ。通称:レッド
燃える様な赤髪赤瞳に鍛えられた身体。振われる大剣は死を悟らせる!対人戦も対艦戦も灼熱を思わせる火力で無双する!!
(超・火力、長射程、紙装甲)
二位が防御力特化の能力を持つ、プレイヤー名:筋肉鎧のボディー・ビル 通称:ビル
自然の雄大さを感じさせる素晴らしい肉体美と深緑髪碧瞳。両手で操りし大楯は
(超・防御力、高持久力、滓ダメージ)
三位が加速力特化の能力を持つ、プレイヤー名:瞬光のセブンスター 通称:シュン
瞬きすら許さぬ星の輝きの様な黄髪金瞳と爽やかさを強調する眼鏡。目を離さずとも残像を残して消え、四肢を粉砕された後に断頭される。対艦戦で目視せず、レーダーに依存すると座標を誤魔化され背後を取られる理不尽を突き付けてくる。
(超・加速力、急停止、操作難易度MAX)
以上。スポンサーやファンによる大百科から抜粋。
注釈は俺の実体験を含めた情報だな。戦闘系能力の発動や停止は瞬時に行えず、効力時間が決められている又は特定時間から選択する形になる。なので、効力中の艦を武力や侵食により制圧に成功すると相手の分析が行えるのである。なお他人の能力は勝手が違いすぎる為、操作は不可能。
思考がかなり逸れてしまったが、そんなランキング上位三人からの挑戦状メッセージを見て楽しくなってしまった俺は、急遽行動方針の変更と罠に嵌める為の戦略を練り上げる。
「最大目標はそのままに、方針変更!
行動方針:戦略的固定資源の消費と未来予知戦術の駆使による敵艦隊の完封。
また、我らのクラン:GWTの全てを利用する事をここに宣言する!」
さあ!皆んな大好きお祭りの時間だぁ!!
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