第38話 座薬って知ってる?
「麗ちゃんなら風邪だってよ?」
「なんで知ってんだ?」
「連絡きたから」
放課後、部室に来た陽子に水瀬の欠席を伝えると、知ってると返された。
どうやら、個人的に連絡を取り合っている仲らしい。
「水瀬って昔一緒に遊んでたんだって? 引越して、最近戻ってきたとか……」
「うん、そうだよ」
「お互い覚えてて、会ってすぐ気付いたのか?」
「うん……やっと気付いたの?」
気付かなかったどころか、覚えていなかった。結局、水瀬が自分から言ったのだ。
後ろめたさに俺は、陽子の問いに答えることが出来なかった。
練習中も水瀬のことが気になって集中出来なかった。
昨日、一緒に帰って途中で雨宿りして……何か配慮していれば、どこかで選択を変えていれば、水瀬が風邪をひくこともなかったのではと無意識に自分を責める。
気付けば時間は過ぎていて、下校時間となっていた。
俺は水瀬にメッセージを送ることにした。
『大丈夫か? お見舞いがてらなにか買って行こうか?』
メッセージはすぐに返ってきた。
『薬飲み物食べ物お願い』
家に何もないのだろうか。看病してくれる家族は? ……とにかく急ごう。俺は近場のドラッグストアへ寄り、水瀬の家へ向かうことにした。
*
昨日、一緒に帰ったおかげで家の場所は分かっていた。
以前住んでいた家とは違う家だったらしく、見ても懐かしいなんて感想はもちろん出てこなかった。かといって、水瀬が以前住んでいた家を見ても覚えているかは怪しい。
水瀬の家に到着し、玄関のインターホンを押す。
しばらく待っても誰も出なかったが、スマホにメッセージの受信があった。
『開いてるから入って』
やはり家族は留守らしく、水瀬は家に一人のようだ。
それにしても無用心じゃないか? と思いつつ、俺は玄関のドアノブを捻った。
「お邪魔します……」
一応の挨拶。
静けさに満ちた家の中で、耳をすませば誰かの咳き込む音が遠くから聞こえる。俺はそれを頼りに水瀬を探すことにした。
初めて入る家、女子の家、親は留守。緊張が俺の脈を速めた。
二階の一室に水瀬はいた。扉をノックすると、か弱い声で「どうぞ」とだけ聞こえた。
部屋に入ると、陽子の部屋とは違った雰囲気の女子の部屋だった。
陽子の部屋には可愛らしいぬいぐるみが大量に並べられているが、水瀬の部屋は大量の化粧品やエステ器具などが目立ち、本棚にはファッション誌や少女漫画綺麗に並べられていた。
さて、水瀬はというとベッドの上で布団に包まり、潤んだ瞳でこちらを見つめていた。
赤く染まった顔、髪は汗で額や頬に張り付き、いつもの強気な表情はどこにもなかった。
「元気?」
「目、見えてんの……?」
「飲む? 食べる?」
俺は手に持つ買い物袋を掲げた。
「飲む……し、食べる」
「うい」
それから俺は、買ってきたスポーツドリンクのペットボトルと果物ゼリーを水瀬に渡し、台所を借りてインスタントの御粥を温めた。
「食べさせてやろうか」
俺は、上半身を起こしてゼリーを食べている水瀬に御粥を渡した。
「きもい」
よく見ると彼女は汗だくで、湿ったピンクのパジャマが見るからに不快そうだった。
「拭くものと着替え持ってこようか?」
「……いい、自分でする」
少し悩んではいたものの、やっぱり同級生の男子にそこまでされるのは抵抗があるのだろう。俺は水瀬が御粥を食べるのを大人しく見ていることにした。
弱った姿の女子というものは、どうしてこうそそるのだろうか。庇護欲を掻き立てられ、普段の二割増しで水瀬が可愛く見える。
病弱なキャラクターに一定の需要があるのも、なんとなく頷けた。
「ジロジロ見んなし……」
「ん、あぁ……すまん」
ゼリーも御粥も半分ほど残した水瀬は、もういいと言ってそれらを俺に返した。
「食欲ないのか?」
「うん。薬飲むためにちょっと食べた」
「あー……」
「え、薬……ないの?」
「いや、あるにはあるんだけど……」
俺は袋から小さなパッケージを取り出し、水瀬に渡した。
店員に一番効くものを頼んで渡されたから買ったんだけど、本人の要望くらい訊いておくべきだっただろうか。
「なにこれ……」
「座薬って知ってる?」
「それは分かってる! なんで飲み薬じゃないの!?」
「いや、それが一番効くらしいんだ」
「あぁあああもぉおおおお……ゴホッ!」
唸り声をあげて咳き込む水瀬は、しばらく悩んだ結果使うことにしたらしい。
箱を開けて、座薬を一つ取り出して布団に潜ってしまった。
「あっち向いて」
「お、おう……」
布団の中なんだから見えないのだけど、それでも彼女は俺にそう指示した。
「ん……あれ? う……うぅ……」
布団越しの籠った声が聞こえる。
耳を塞げまでとは言われていないから聞いているけど、女子が座薬を使ってるときに漏らす声なんてそうそう聞けるものじゃないなと思うと、なんだか興奮してきた。
しばらくすると、がばっ、と布団が勢いよく捲られる音が聞こえた。
「振り返っていい……?」
「いい」
振り返ると、水瀬はティッシュで手を拭っていた。
「ちゃんと、使えたか?」
「……上手く入らなくて、溶けた」
手に付着していたのは溶けた座薬だったらしい。
「手伝おうか……?」
「きもい」
ですよね。
同級生の女子の座薬挿入を手伝うなんて、流石にレベルの高い行為である。性別すら関係ないし、許容されるのは家族までか?
ふと、陽子が脳裏をよぎる。
一緒にお風呂に入ったあの陽子ならあるいは……。と、陽子に座薬を挿入する想像をしそうになって頭を振った。
「じゃ、もう一回挑戦か」
「いや、もういい……」
水瀬は寝転んで、俺に背中を見せた。
「もういいって……薬使わないと治らないだろ。せっかく……」
せっかく買ってきたのに、と言おうとして慌てて口を閉じた。
病人相手にムキになっている自分が恥ずかしくなった。そもそも飲み薬を買ってこなかった自分に非があるわけで、水瀬が座薬を使わないからって俺が怒るのはおかしな話だ。
「なんでもない。すまん……」
「……使う」
「え?」
水瀬は座薬を一つ俺に投げた。
「……手伝って」
「マジか……」
熱で頭がおかしくなったのだろうか。いや、言い出したのは俺の方だった。
水瀬はうつ伏せの状態から膝を畳むようにうずくまり、カエルのような姿勢を取った。
ぴったりと張り付くパジャマのズボンがパンティーラインを強調していて、俺は思わず喉を鳴らした。
彼女は自らズボンを下ろした。ゆっくりと、綿製の灰色のショーツが露わになる。
今度はそれを下ろすわけだが、水瀬は躊躇を見せた。ショーツにかけた手の動きが止まる。
「……見ないで出来る?」
「無茶振りだな……手探りでやってもいいなら出来るかもしれないけど」
どちらの方が恥ずかしいかを水瀬は考えているようだった。
そして出した結論は、片手で前を隠しながらショーツを下ろすという方法だった。手探りされるのは嫌で、後ろの穴だけなら見られてもいいという妥協点らしい。
もぞもぞと左手をショーツに入れ、股間がそれにより膨らむ。ちゃんと隠せたのか、右手でゆっくりとショーツを下ろした。
俺は水瀬がこちら側を見ていないのをいいことに、極力顔を近付けた。
こぼれ落ちるように露わになる尻肉。そして、キュッと縮こまるアナルに俺の視界は覆われていた。
これだけ近いとにおいもしっかりと感じ取れる。汗をはじめとする言葉にしてはいけないアレやソレのにおいが、俺の鼻腔に押し寄せる。
世間一般的には臭いの一言なのかもしれないけれど、俺はこれが癖になりそうで……。
「ねぇ……」
「ひゃ、はい!」
突然の呼びかけに俺は慌てて水瀬のお尻から顔を離した。
「変なにおいしない……? 汚くない?」
「しないしない」
水瀬が安心してこの状態を維持出来る返事をする。実際、においは好きだし汚くもない。
あ、においは好きか嫌いかじゃなくて、するかしないかか……まぁいいや。
呼吸の度に収縮するアナルは、陽子や月野のそれとも違う形状をしていた。
まぁ、二人のはここまでまじまじと観察したわけじゃないけれど。やっぱり個人差というか、一人ひとり違うんだな……なんて感心する。
「早く……」
じれったそうに急かす水瀬の声は震えている。
いつまでも観察していた俺は我に返った。
「すまん……」
座薬を封から取り出し、指先で摘まむ。
俺の体温が高いのか、もしくは手汗の所為か、指先で触れている部分からすでに溶け始め、ぬるりとした感触が伝わる。
片手で前を隠す水瀬は片方のお尻しか押さえていないため、俺はもう片方の尻肉を鷲掴んで割れ目を拡げた。
「ひっ……!」
短く悲鳴をあげた水瀬だったが、仕方のないことだと観念したのかその行為を責めることはなかった。
俺は慎重に、指先の座薬を水瀬のアナルに挿し込もうとした……が、入らない。
「うぁ……」
「おい水瀬……力抜けよ」
「……どうやって?」
「どうやってって……」
意識してアナルの力を抜く機会なんて今までになかった俺は返答に悩んだ。想像してみても、それを言葉で説明するのは難しい。
無理矢理ねじ込むことは可能だろうか。やっぱり痛いのか、それとも入る前に溶けるか……うーむ。
穴に何かを入れるとき、それを円滑に行うために何が必要かと考えてみれば、意外と答えはすぐに出た。潤滑油、ローションだ。
「水瀬、ローション持ってない?」
「はぁ!? あるわけないでしょ!?」
「持ってないか……」
じゃあせめて代わりになるようなものは……と俺は周りを見回したとき、自分の鞄が目にとまった。
丸井がくれたオナホに付属していたローションが鞄に入っていることを思い出した。
俺はそれを取り出し、迷わず水瀬のアナルに垂らす。
「ひゃっ! な、なに!?」
「安心しろ、そして喜べ。ローションだ」
「持ち歩くとかキモい……」
「たまたまだよ!」
鞄に入れてそのまま忘れていただけ。ちなみに付属の縞パンもまだ鞄に入っている。
俺は垂らしたローションを座薬ですくい取り、そのままそれをアナルに押し付けた。
引き締まるアナルにも先端が沈むように挿さる。これなら……!
「い、いくぞ……」
「ゆ、ゆっくり……ね?」
怖いのだろうか、怯えた様子の水瀬は弱々しく言う。その様子だと、確かに自分で挿入なんて無理だろう。
「分かった」
「ひぅ……!」
俺は言われた通りにゆっくりと座薬を押し込んでいった。
ずぶずぶと進む座薬を拒もうとアナルがキュッと締まる。それでも息継ぎをするかのように緩むとき、座薬はスッと入ってしまった。
「あっ……」
座薬を呑み込んだアナルはヒクヒクと痙攣していた。
「…………フーッ、フーッ……」
謎の余韻に浸る水瀬のお尻についたローションをティッシュで拭き、自分の指先もそれで拭う。
「終わったぞ」
「ひゃい……」
脱力しきった水瀬に、その脱力をもっと早く出来ていれば……と思わなくもない。
ほんの少しだけ使ったローションは使い切りタイプなので持って帰ることも出来なかった。
「これあげるから」
「はぁい……」
元気になったら使えよ? とまでは言わずに置いておく。
そもそも、上の空でなにを受け取ったのかも分かってなさそうだ。
「大丈夫か?」
「……」
パンツを上げようともしない水瀬。仕方ないので、さりげなくパンツを上げて布団をかける。しかし反応もない。
顔を覗き込むと、目を閉じて寝息を立てていた。
「マジか……」
家に一人で、しかも玄関に鍵もかかっていない。こんな状況で寝ている病人を置いて帰れるわけもなく……。
俺は誰かが帰ってくるか水瀬が起きるかまで待つことにした。
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