第33話 魅せる的な?

 ブラックボックスから月野と丸井のお尻が出てきた時点で風間先輩は大笑いしていたものだから、この人は本当に協力してくれる気があるのかどうか分からず不安になった。


 叩き始めても笑い声でお尻を叩く音なんて聴こえやしなかった。

 それでも俺と水瀬はお尻を叩いた。


 楽曲の演奏なんかじゃなく、普段の練習でやっていた即興のリズムを二人でセッションするといったものだ。


 目尻に涙を浮かべていた風間先輩も、次第に笑うのを止め、真剣な面持ちでそれを見ていた。


 先輩の反応が好感触なのか、叩いている最中は分からなかった。途中からは叩くのに夢中で、顔色を伺う余裕はなかったのだ。


 水瀬とアイコンタクトを取り、キリよく叩き終える。程よい息切れ、手にじんわりと広がる痛み、そして高揚感。


 不思議な感覚だった。

 風間先輩は表情をそのままに手を叩いた。それが拍手であることに遅れて気付く。


「……いいじゃん」


 その言葉に、俺と水瀬は顔を見合わせた。穴から顔を出した月野と丸井がハイタッチを交わし、陽子も先輩の横で小さく拍手する。


 尻ドラム部の活動が初めて他者に認められた瞬間だった。


「楽器演奏っつーかパフォーマンスだな、こりゃ」

「パフォーマンス?」

「聴かせるっつーより、魅せる的な?」

「はぁ」


 先輩の意見にピンとこないまま相槌を打っていると、水瀬が身体を乗り出した。


「エアギターとか演奏中にかき氷食べたりとかですね!?」

「極端な例だな……なにが言いたいかってーと、楽曲の演奏に拘らなくてもいいんじゃねーのって話」

「ただ叩いていればいいってことですか?」

「叩く姿を見てもらうんだ。もちろん、楽しんでもらおうって考える必要はあるさ」


 漠然とした話に困惑した。魅せるパフォーマンスなんて考えていなかったのだ。

 それはもしかすると、演奏よりも難しいんじゃないかと思う。


「ま、音楽的な要素は捨てきれないからそっち方面は協力してやるよ」


 音楽とパフォーマンス、風間先輩の言葉を何度も頭の中で思い描く。だけど、上手くイメージ出来なかった。

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