第27話 金脇宮子の幕間 その三
乳ドラム部という尻ドラム部の後追いが目の前で潰えたのは、噂のヒーロージャスティスムーンに指名手配が発令されたあとのことである。
指名手配を発令したのも、乳ドラム部の創部を目論んでいた男子生徒を取り締まったのも獅子原先輩だった。
流石は風紀委員長だ。けれど先輩は、目の前にいるジャスティスムーンを見逃した。ジャスティスムーンが乳ドラム部の暴走による被害を最小限に抑えたからと先輩は言った。
大神先輩は納得していない様子だったけど、私は内心ホッとした。
私は仮面を被り、いわゆる真面目でお堅い人になっているけれど、ジャスティスムーンは仮面を被って自分の正義を貫いていた。
普段はどんな人なのだろう。仮面を被っていないとき、周りからはどう見られているのだろう。彼女のことはなにも知らないし、仮面の使い方が私とは違うけれど、私は何故か彼女に親近感と憧れを覚えていた。
乳ドラム部の騒動以降、目立った事件もなく風紀委員はわりと暇な日々を送っていた。
それでもあの紅いベレー帽と腕章を身に付けて、私たちは校内をパトロールする。
しかし、そんな風紀委員にも普通の生徒としての日常もある。
「日和、食堂に行かない?」
『行く』
昼休み、私はクラスメイトの小泉日和(こいずみひより)と食堂へ向かう。
彼女はクラスメイトで友達だった。席が私の後ろという簡単な理由で親しくなり、個人的には中学が同じだった友人よりは一緒にいて気が楽だから、何かあれば日和を優先していた。
彼女はわりと、というか結構大人しいタイプで友達も少なく、私に対するイメージも他人の声に左右されていなかった。
それでも彼女に対してだけ態度を変えるなんて出来なかった私は、結局日和にも「クールビューティー」とか「真面目だけど柔軟で接しやすい」とか思われているに違いない。
本人から直接言われたこともなければ、むしろ『変わってる』と書かれたスケッチブックを掲げられたこともあるけれど……。
食堂へ向かう途中、突然日和にブレザーの袖を摘まれた。
「うん?」
彼女は普段、声を出さない。だからそれが、スケッチブックを見てほしいという意思表示だと私は分かっていた。
『部活、考えてくれた?』
「あー……」
日和は私を軽音楽部へ誘っている。それは日和が軽音楽部へ入部した直後から続いていた。
私はその誘いをずっとうやむやな返事で流していた。たぶん前回誘われたときに、考えておくとでも言ったのだろう。
風紀委員が忙しいというのももちろんあるけれど、なんというか、軽音楽部の面子もなかなか濃くて苦手意識があった。
部長は優しそうだけど、お嬢様系の先輩は獅子原先輩で間に合ってるし、ヤンキーな先輩はちょっと怖い。むしろ、なんで日和があの面子の中に馴染んでいるのか分からなかった。
曖昧に笑って誤魔化していると、いつの間にか食堂へたどり着いた。
「今日は人多いね」
それとも来るのが遅かったか、料理を待つ列とほぼ満席状態のテーブルを見て私と日和は肩をすくめた。
私と日和はおそろいの日替わり定食を注文。トレーに並べた料理を持って、空いてる席を探した。
丁度よく二人で食べることの出来る席が見つからずどうしたものかと考えていると、私を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、金脇ー」
声の方を見ると、食事中の小森くんがいた。隣の空いている席を指差している。
ナチュラルに馴れ馴れしいのは彼の性格? それとも尻ドラム部に女子を三人も集めたある種の技?
どっちにしろ、たいして親しくもない男子にそんな行動を取られても困るというかなんというか。
でも、日和を連れて席を探し回るのももう終わりにしたい。
私は日和の耳元に顔を寄せ、あそこに座ろうと告げた。
日和は意外そうな顔をした。たぶん、私と小森くんの仲が良いと勘違いをしたのだろう。
小森くんは有名人だし、私も彼の……というより尻ドラム部の話題を委員会の話題と併せて日和に話したりもしていたから、関わりがあるのは知っていただろうけれど……。仲が良いと勘違いされるのは腑に落ちなかった。
その日の放課後、海崎先生を探して尻ドラム部の部室へ行ったときに黒い箱からお尻だけ出ているという奇妙な光景に出くわした。なんだかとても卑猥なものに見えて戸惑いを隠せなかった。
実際、私はそれが卑猥なものであることを思い出した。
どこかで見たことのあるそれは、ネットで観たエロ動画に出てきたものに酷似していたのだ。
壁から下半身だけ出ている、壁尻というジャンルだ。
それに気付いた私は彼らがこれからナニをするのか、怖くなって逃げ出した。
見なかったことにしよう。それが私の出した結論だった。流石に校内での淫らな行為、及びアダルトビデオの撮影はまずいですよ……! と思いつつも、その日の夜は壁尻モノのエロ動画でオナニーをした。
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