第21話 先っちょだけ……!

 風紀委員長の忠告から数日が経過した。


 俺は学校の図書室や町の図書館へ行き、楽器や音楽に関する本を借り漁っていた。部室の机には借りてきた大量の本が積まれており、俺はテキトーに取っては目に付くページを眺めた。


 当たり前なのだが、どんな本にもお尻の叩き方は載っていなかった。

 今読んでいるのはパーカッションの入門書だ。


「ボンゴの叩き方……手の形……へぇ、色々あるんだな」


 俺は机の上に置いたお尻の形の据え置き型オナホに手を添えた。本のイラストを真似てそれを叩く。柔らかいシリコンがぺちぺちと音を立てる。正直、オナホなんてどう叩いても鳴る音は変わらない。


 オナホは結局こうして部室に置いている。俺が持っているのをみんなが知ってしまったせいで、持って帰るのも気が引けた。


 こうして部室に置いておけば、眺めて触れて楽しめるから、それでいいと思っている。女子もいるこの空間に堂々とオナホが置かれているこの状況はなんとなく興奮したし、本来の用途で使用出来ないけれど、本当に部活の備品になってしまえばいいと思っていた。


 付属していた使い切りのローションだけは鞄の奥に忍ばせていた。これは使ってやろう、教室で辱めを受けた俺への慰めだ。これで、慰めるんだ。


「宙、私にも触らせてくれ!」

「いいけどお前、穴を拡げるのが好きだからすぐ駄目になりそうなんだよな……」

「なっ!?」


 先日、触らせてほしいと言う月野に渡すと、穴にばかり興味を持っていた。まぁ、本来の使い道が穴なので間違ってはいないのだけど……。こいつは中の触り具合が気になるようで、無理に拡げて中を観察するのだ。


「先っちょだけ……!」

「言い方!」

「はぁ……」


 俺と月野のやり取りを見ていた水瀬がため息を吐いて視線を本に戻した。彼女も俺が借りてきた本に興味を持ち、暇なときは読んでいる。


 陽子と丸井がまだ来ていないため、練習は始まっていない。そろそろ来る頃だろうと思っていた矢先、部室の扉に何かがぶつかる音がした。


「なんだ?」

「小森、見てきなさいよ」


 水瀬が本を読みながら言う。


「俺かよ」


 部長でしょと言われ、部長なら仕方ないと俺は扉を開けに行く。


 扉を開けると、外から扉にもたれかかっていた丸井が倒れこんできた。


「お、おい!」


 腫れ上がった顔、腹部を手で押さえ、明らかに誰かに暴力を振るわれた後だった。


 抱きかかえ、顔を覗き込む。丸井は何かを言おうと、腫れた唇を震わせていた。


「部長……これを……紫藤さんが……あぶ……」

「陽子が?」


 丸井がくしゃくしゃに丸めた紙を渡してきた。受け取って広げてみると、切り取られたノートのページだった。そこには、ペンで殴り書かれた文章が。


『紫藤陽子は預かった。すぐに屋上へ来い』


「なんだこれ……おい、丸井!」


 異様な紙から目を離し丸井を見ると、彼は気を失っていた。

 途端に部室の空気が張り詰めた。


「なに、それ……」

「……嫌な予感がするな」


 覗き込んでいた水瀬と月野が険しい顔で呟いた。俺はひとまず、丸井を床に寝かせる。


「枕……は無いよな。なにか代わりになるものはないか?」


 訊きながら俺は、ふと机の上を見た。つられて月野と水瀬も机の上にあるものを見た。


 三人はオナホを見ていた。少なくとも俺は、枕代わりになりそうなものとしてそれを見ていた。


「いけるか?」


 俺は呟く。


「確かに柔らかく、高さも申し分ない」

「いやいやいや、鞄とかでいいじゃん」


 水瀬の的確な指摘を横目に、俺は好奇心に負けてオナホを手に取り、そっと丸井の頭の下に置く。


 据え置き型のオナホは枕としての務めを果たした。


「さぁ、行くぞ!」


 丸井から受け取った紙を一瞥した。

 なにかの悪戯にしてはやり過ぎだし、悪戯じゃなければ陽子が危ない目にあっているかもしれない。


 月野はすでに部室を出ていた。俺は水瀬の顔を見る。


「お前はどうする?」

「ヨーコのことは心配だし……」


 行く、と彼女は不安混じりに言った。

 俺たちは丸井を部室に置いて、屋上へ走った。

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