第12話 Tバックのお前が悪い
「これが男子の部屋か」
特に面白味もない俺の部屋に入った月野の反応は少し意外だった。
まるで同世代の男子の部屋に入るのが初めてのような言い方だ。
学校で俺とご飯を食べるくらいだ、彼氏の類いはいないと思っていたが、今までもいたことがないのだろうか。俺を童貞呼ばわりするくせに、自分もそういった経験はないんじゃないか?
俺も彼女がいたわけではないけれど、陽子の部屋に出入りすることがある。俺は案外、月野より経験が豊富なのかもしれない。
そう思うと、自信と共にリードしなければという使命感がわいた。
「飲み物取ってくるよ」
「かたじけない」
それにしても、陽子以外の女子を自分の部屋に入れるのは初めてで何かと緊張する。
しかもこれから月野と行うことは、童貞の俺にはあまりにも刺激の強い行為だった。
自分が学校で女子を誘ってやろうとしていたことと思うと、俺がやっていたことは恥ずかしいことなのではと改めて考えさせられる。
それはともかく、幸いなことに今は家に誰もいなかった。
麦茶の入ったグラスを二つ持つと、水面が小刻みに揺れている。緊張で手が震えているのだ。
まるで初めて恋人を家へ呼んで、あんなことやこんなことをしようとする時みたいだ。
そんな経験はないけど。
「お待たせ」
「宙よ! この『SM倶楽部』はとても良いものだな! 一体どのページを使ったんだ!?」
月野は俺がベッドの下に隠していたエロ本を当たり前のように読んでいた。
そして女子らしからぬ発言。俺はグラスを机に置いて、月野から本を取り上げた。
「あぁ!」
「あぁじゃねぇ! 貸してやるから帰って読め!」
先ほどまでの緊張が一瞬にしてどこかへ消えた。
もしかすると、俺の緊張をほぐすために月野はエロ本を取り出したのか? なんて考えたけれど、エロ本を取り上げられて心底残念そうにしている彼女の姿がそれを否定しているようだった。
口を尖らせた月野が仕方ないと呟いて、改まった様子で俺に向き合うように仁王立ちした。
「心の準備は出来ている。私はいつでもいいぞ?」
「えっ、俺はてっきり最初は雑談したり映画観たりして雰囲気を作るものだと……」
「ば、馬鹿者! それではまるでデートみたいではないか! そもそもお尻を叩く雰囲気をそれで作れると思っているのか!?」
「確かにそうだよな……でも俺は心の準備が……」
「男らしくないぞ、宙よ」
月野はベッドの上へ上がり、四つん這いになってお尻をこちらへ向けた。
「ちょ、おま……」
「これ以上私に恥をかかせる気か?」
確かに月野がここまでやってくれているのに、俺がこんなんじゃ駄目だ。……だが待ってほしい、月野がどうしてここまでしてくれる?
俺は考えた。そして、一瞬で結論を出す。
月野は変態だからだ。そう思って割り切るしかなかった。
「……分かった」
俺は腹をくくり、ベッドへ近寄る。月野のお尻を叩けるようポジションを取って構えた。
「スカートは……」
「……めくってくれ」
「マジか……」
俺は震える手で彼女のスカートの裾を摘み、ゆっくりと持ち上げた。
色白の太ももが視界に広がり、固唾を飲んで喉が鳴る。
月野に顔を見られていないのが幸いだった。自分がどんな顔でスカートをめくっているのか分からないからだ。
「肌……綺麗だな」
「褒めても何も出ないぞ……」
月野の声も震えていた。それでも気丈にいつものように振る舞う彼女の態度に俺は安心感を覚えた。
太もも部分を通過し、月野のパンツが見えた。
黒だった。いや、色も気になるところだが、俺はその布面積に目眩がした。尻肉を覆う部分が無かったのだ。
Tバックである。
「お前……これ……」
「この方が叩きやすいだろう? 脱ぐとお尻以外も見られてしまうからな」
「この日のためにこれを……?」
「いいや、前から持ってた」
「普段から履いてるのか?」
「……想像に任せよう」
Tバックを普段から履く女子高生の想像なんて、童貞の男子高校生には刺激が強すぎる。
俺はめくったスカートを月野の腰にかけ、露わとなった月野のお尻をじっくりと眺めた。
Tバックだなんて、ノーパンよりエロくないですか? 月野さん。
「あまりジロジロ見るな……恥ずかしいぞ」
「す、すまん……」
謝りはしたものの、俺は初めて見る女子の生尻に見惚れてしまっていた。
シミ一つない白い肌、余分な肉のない引き締まった尻肉。Tバックにより辛うじて隠れているアナルの周囲に色素沈着はなく、とても綺麗だった。
「さ、さわ、触るぞ?」
「触らずに叩けるか、馬鹿者……」
そっと触れると、月野は小さな悲鳴を上げた。
表面は柔らかかった。しかし指を沈めると、鍛えられた筋肉がその硬さを指に主張していた。
「ふぉぉ……」
「やっ、揉むな……」
そうは言っても抵抗を見せない月野に対し、俺は調子に乗ってしまった。
「あんっ……」
がっしりと両方の尻肉を鷲掴み、親指に力を込めて左右に開いた。
Tバックの縦線によって隠されていたアナルが左右に引っ張られ、穴こそは見えなかったものの、その卑猥な皺が引っ張られるのをしっかりと目視出来た。
一瞬だけ。
「ガッ!」
股間に鈍痛が広がり、痛みから逃げるように俺は跳んだ。
状況が飲み込めなかったが、思わず月野のお尻から両手を離してしまって気付いた。
四つん這い状態の月野が片足を上げて俺の股間を蹴り上げたのだ。
「なに、するんだ……」
跪き、股間を押さえる。痛みに悶絶しながらも恥じらう月野の姿を見逃すわけにはいかなかった。
「それはこっちの台詞だ! 叩かれる覚悟は出来ていたが、揉まれたり……その、穴を拡げられたりなんぞ聞いてないわ!」
確かに調子に乗ってしまったことは認める。
「……だが、Tバックのお前が悪い」
月野はどこからともなく木刀を取り出し構えた。
「辞世の句を詠むといい……」
「アナルの皺フェチになりそう」
「うわああああああああああ!」
赤面の月野は叫び、木刀を振り下ろした。
「見切った……ぎゃっ!」
白刃取りを決めようした瞬間、がちゃりと音を立てて部屋の扉が開いた。
注意の逸れた俺は脳天に木刀の一撃を受け、意識が遠のくのを感じた。
最後に目にしたのは、部屋に入ってきた陽子だった。
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