第5話 金脇宮子の幕間 その一
「金脇宮子(かねわきみやこ)です。中学ではソフトテニス部に所属していました。これからよろしくお願いします」
担任の先生が言った「名前以外にもなにか一つ自己紹介を」という言葉でクラスメイトの自己紹介は無難に部活の話がメインになっていた。
私もそれに倣うことにし、特に目立つこともなく入学式後のホームルームは終わった。
クラスにはチラホラと同じ中学校に通っていた生徒がいる。
例えば彼らに私はどういう人物かと問えば、口を揃えて「クールでかっこいい」だの「真面目だけど優しい」だのと返ってくるだろう。
自惚れと思われるかもしれないけれど、これは残念なことに事実なのだ。
どうして残念なのかといえば、それは全て取り繕った私の特徴であって、本当の私ではないからだ。
昔から人に嫌われないようにとか自分がこうあれば相手は喜んでくれるとか、周りの目を意識して過ごした結果、今の私がいた。
本当は不真面目だし、クールどころかスケベな人間である。
そう、私は性に関する興味関心が同年代の女子よりも人一倍強かった。きっとこれは、今まで「そんなもの興味ないです」といい子ぶって色々なものを抑圧した反動なのだろう。
悲しいことに、いわゆるムッツリという部類の人間なのだ。
「彼とのアレが激しくて……」
「一人でやるときってなにか使う?」
「だめだめ、金脇さんもいるんだからそういう話はやめよ」
クラスメイトたちが語っていても、私がいると遠慮されてしまう。
私もアレが激しい彼氏が欲しいし、オナニーは電マでするのが好きだー!
私もその話に加わりたかった……加わったところで今さらそんな素直に暴露できるわけでもないけれど。
私に対する世間のイメージはお堅くなる一方だった。
最初はそこまで行き着くつもりはなかったのに、いつの間にか取り返しのつかない状態になっていた。
過去の私を知る人がいなければ、ある種の高校デビューとしてそういう話に加われるようなキャラになりたかった。かといって、それだけのために遠くの高校を選ぶほどの行動力もなかった。
結局、中学校での私のキャラクターは高校でも継続された。変わろうとする努力が足らない私の所為か、中学校が同じだった同級生の所為か……どちらもか。
そんな不満を抱えながら高校生活を送っていると、ある日友人グループがとある男子生徒の噂話をしていた。
「知ってる? 女子のお尻叩きたがってる男子」
「知ってる! 尻ドラム小森でしょ?」
「なにそれきもーい」
彼女たちが言うには、先日他のクラスで女子を尻ドラム部に誘った男子が「尻ドラム小森」と呼ばれるようになったらしい。
そもそも尻ドラム部ってなに? そんな部活この学校にあった? いや、普通に考えて無いでしょ……。
どうせ誰かがふざけて変な噂を流したに違いない。こうして顔も知らない女子にまで悪態を吐かれて、その小森くんとやらが可哀想だ。
「そういえば、部活どうする?」
些細な噂話はすぐに違う話題へと変わった。
体験入部期間を終え、部活に本入部するクラスメイトも多かった。
私は高校でもテニス部に……というほど熱心なわけでもなく、新しく何かを始める気分でもなかった。
それに、くじ引きで決まった風紀委員が思いの外忙しく、これ以上なにかに所属するのも面倒だと少し思っていた。
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