第3話 誰のお尻?
俺のあだ名が「尻ドラム小森」になっていた日の昼休みに、俺は陽子に会いに隣のクラスへ向かった。
学習能力の高い俺は今回は教室内へ入らず、入口から陽子を呼んだ。一部から「尻ドラム」という単語が聞こるが、有名になるにはまだ早い。
なにやら複雑そうな面持ちでやってきた陽子は俺の手を取り、廊下を歩き始めた。
「どこに行くんだよ」
「……人のいないところ」
幼馴染相手に恋愛感情どころか下心もない俺は、手を握って人のいないところに連れて行ってくれるのが他の美少女なら喜んでいたのに……とやっぱり残念に思った。
変なあだ名が広まりつつある俺に配慮してくれたのか、自分の保身か……どちらにせよ陽子が選んだのは中庭の片隅だ。確かに人はいないが、校舎内からはよく見える場所だ。まだまだ詰めが甘いな……なんてテキトーなことを考える。
「その……し、尻ドラム部ってなに?」
そう言って握っていた手を離した陽子は、やはり複雑そうに困ったような顔をしていた。
「お尻をドラムみたいに叩いて……音を鳴らして演奏する部だ」
「誰のお尻?」
「それを今探してるんだ。陽子のお尻も候補に入ってる」
陽子はサッと手を後ろに回して、自分のお尻を隠した。
「冗談ならやめてほしいな」
「俺が冗談を言ってるように見えるか?」
出来うる限りの真剣な眼差しを陽子へ送る。熱意が伝わってくれたか、ただ睨まれたと思われたのかは分からない。どちらにしろ、彼女はため息混じりに言った。
「私は嫌だよ……」
「そうか……」
無理強いするつもりはなかった。だから俺はそれ以上陽子を誘おうとしなかった。けれど、やっぱり、陽子なら協力してくれるという勝手な期待を裏切られたショックは大きかった。
「ほら、戻ろう? 一緒にお弁当食べる?」
陽子は落ち込んでいる俺に優しく声をかけてくれた。
嫌な部活に誘われても、俺がなにをしても、許し、優しく接してくれる。なにをしてもは言い過ぎかもしれないけれど、そんな陽子の差し出す手を俺はありがたく握った。
「優しいんだな……」
「長い付き合いだもの」
長い付き合いというものは、お互いを信頼し許容し合えるようになる。だからこそ俺は陽子を誘い、断られてもそれを許せる。
他の美少女なら……なんて思っていたけれど、やっぱり陽子でよかった。
その後、俺は陽子と昼食をとることになった。
女子と一緒に弁当を食べるだけで、どういう関係なんだと周りから質問責めにあった。
俺と陽子の家が近所で、ただの幼馴染だと知っている同じ中学校に通っていた生徒が複数人いたのもあって、幼馴染という関係が知れ渡るのにそう時間はかからなかった。
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