第8話 あの日見た花の名前は天使華
第三試合が終わり俺様は控室の硬い椅子に座っている。
俺様はイラついていた……ふぅ、少し落ち着こう。
そうだ、次の試合は午後からだな、今のうちに昼飯を食べておこう。このコロシアムの中にも食堂はいくつかあるが勿論そんなところでは食べない。
腰にぶらさげてある小さな巾着袋から今朝出店で買った『シュラスコ弁当』と水を取り出す。そうこれはただの巾着袋ではなくマジックバックだ。
こう見えても獣王の一族だったわけだし、これくらいの物は持って居ても不思議ではないだろう、ただこんなに小さくてもかなり値は張るようだが。じゅるり――そんな事より早速頂くとするか。
旨い! これは旨いぞ! こんなに旨いならもう一つ買ってくれば良かったな。
最後の一枚のシュラスコを口に入れた瞬間、控室のドアがノックされ一人のキリン族の男が入って来た。甲羅があるな、トナティウと同じキリン亀族だな。
俺様のスキル『
「レグルス様四回戦進出おめでとうございます」
「ああ、それで何の用だ?」
「はい、トナティウ様の名誉の為にも言い訳をさせていただきたく参りました」
「名誉ねぇ……まあいい、言ってみろ」
「はい、トナティウ様の妹君の話なのですが」
「妹? ネリと言う名前か?」
「え? は、はい、なぜその名前を?」
「……トナティウが最後に呟いた言葉だ」
「トナティウ様が……そうでございますか」
「それで、その妹がどうかしたのか?」
「はい、最初から話すと少し長くなりますがよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわん、どうせまだ次の試合は始まらないだろうし」
このキリン亀族の男の話を要約するとこうだ。
俺様の親父が獣王になった時に“獣人国に住む者達の種族に序列や格付けなど不要“と言い、宰相や大臣などの役職や人間族で言う貴族制を廃止し、何かあった時は各種族の代表が集まって多数決で決めればいいという国政に舵を切った。
今まで獣人国は力がすべてだったがそれにより、力が弱い種族も国政に参加しもっといい国になる――はずだった。
実際蓋を開けてみると結局は、見えないところで力が強い種族が上手くやって弱い種族を押さえつける、即ち何も変わっていない、いやむしろ役職が撤廃されたので無能でも力がある種族が好き勝手にできるそんな国になってしまった――。
それでも大抵の事は上手くいっていた、なぜならそいつらも自分には関係ない、興味が無い、面倒くさい、無知なので良く分からない、そのような問題には関わってこないからだ。
そしてここからがトナティウの妹ネリの話になる。
元々キリン亀族はこの国ではなく遠く離れた村に住んでいた。そこでネリは十年程前に『石化病』と言うゆっくりと身体が石化していく病気に掛かってしまった。トナティウはその病気を治す為、各地を駆け巡り治してくれる者を探し回った。そして人間族の国に居る『聖女』様なら治せるかも知れないという情報を掴んだ。
しかし聖女様に合う事は出来なかった。獣人族などには合ってくれなかった。それでもなんとか伝手があると言う人間族を見つけ金を渡して頼んだが、金だけ持ち逃げされ結局騙されただけだった。
人間族はもう信用がならないと判断し同じ獣人が治めているこの獣人国レオにやって来た。そこでその時の獣王の親父に相談したところ、猿族を紹介された。
猿族はこの国の南側を統括していたゴリラ族の配下だった一族だ。まあ表面上は親父が序列や役職を撤廃したので平等なはずなんだが、で、猿族やゴリラ族は獣人族の中で人間族並に頭が良く、しかも猿族は研究心が高く面倒見もいいので紹介したのだろう。俺様でもそうしただろうな。
ゴリラ族も特にこの件に関しては興味が無かったのか、配下である猿族を好きに頼って構わないと言ってくれた。そしてこの国に居る獣人族なら読まないような書物を漁り、やっと『石化病』の治し方が見えてきた。
それは『万能薬』を石化した体に塗る事。そしてその『万能薬』を作る為には『
『天空島』とは現在も上空を浮遊している、昔は『天人族』が住んでいたと言われている浮遊島の事だ。
だが『天空島』に行かなくても『
そしてトナティウは偶然にもここ獣人国レオでその花が咲いているのを見つけた。場所は獣人国の南側の山、要はゴリラ族が実質支配している領地である。
その山の頂から300m真下が谷底になっている断崖絶壁の崖の途中に一輪だけ咲いていた。空を飛べる『鳥族』か、キリン族などの首の長い種族が崖から身を乗り出して探さなければ見つける事は出来なかっただろう。その証拠に今までこの断崖絶壁の崖など誰一人、気にする者はいなかったのだから。
しかし見つけたはいいがそこまで首は届かないし、降りてもいけない。トナティウは身の軽い猿族なら崖を降りて行けると考え助けを求めた。そして猿族を数十人連れて崖まで来た、だが何故かゴリラ族の族長やその取り巻までもが着いて来た。猿族は仲間をロープの様に使い一人また一人と崖の下へ重なる様に伸ばしていき念願の『
しかし猿族は手に入れた『
どうやらこの長は『
当然トナティウは抗議した。しかし武力でも数でもゴリラ族と猿族に勝てるはずもなく、命まで奪われはしなかったもののボロ雑巾の様にされ、その時の怪我で目もあまり見えなくなってしまった。
次にトナティウはその事を当時の獣王であった俺様の親父に伝えた。しかし親父の返答は獣人国レオの『
この南側の領地にはゴリラ族や猿族以外にも幾つかの種族が暮らしているが、ゴリラ族に逆らって、ましてやよそ者であるキリン亀族のトナティウに味方する種族など皆無だろう。
話し合いの結果この領地で見つかった貴重で高価な物を余所者にくれてやる義理はないとの結論に至った。
ならばとトナティウは思い、キリン亀族全員でこの領地に引っ越して来た、これでよそ者では無くなる。
ゴリラ族もキリン亀族が移り住む事を許可したのにも理由がある。それは『
力もあり首を伸ばせば8m程になるキリン亀族は非情に作業の短縮化につながるからだ。だからゴリラ族は『
五年間無償でキリン亀族全員が谷底の鉱石の採掘や運搬を手伝えば『
そんな事とはつゆ知らずトナティウ達キリン亀族は既に全身石化してしまった妹ネリの為にずっと頑張った。余談だがあいつが試合で使った数々の技は発掘作業をする過程で新たに身に付けたスキル技らしい。
そして約束の五年が経った。その時ゴリラ族の長がトナティウに言った言葉は『五年間ただ働き有難う、俺はキリン亀一族全員が五年間働いたらと約束したのに、お前の妹は一度も働いて居ないウホ、だから約束は無効だウホ、まあ既に『
トナティウは絶望した、妹を救えないだけではなく五年間ただ働きをさせてしまった一族に顔向けもできない。
藁をも掴む思いで俺様の親父にその事を相談したが、思った通り帰って来た言葉は『何か事情があるのかも知れない、お前達だけで話し合って解決しろ』だった。
甘い、甘すぎる、獣王なのに考え方が甘すぎる、なぜそこまで平和主義なのだ、こんな事をする一族は厳しく罰するべきなのに……。そんなトナティウに手を差し伸べたのが当時親父の部下のウォルフだった……。
俺様の親父の毒殺に協力してウォルフが獣王になった暁にはトナティウ達を騙したゴリラ族と猿族の財産全てを没収しこの獣人国から追い出してやると。そしてそのゴリラ族が支配していた領地を与えると。
トナティウはすぐにこの話に乗った。キリン亀族を見捨てた俺様の親父の命などどうでもいいし、ゴリラ族と猿族に復習できる。乘らない理由が無かった。
と、これがトナティウが俺様の親父の毒殺に協力することになった全貌だ。
トナティウの最後の言葉からして、いくら見捨てられたと言っても俺様の親父の毒殺に加担したことは後悔していたような気はするが、妹ネリの『石化病』は未だに治らす石化したまま。報われないな。他に道は無かったのか……。
僕が一番外れスキルをうまく使えるんだ! ~追放され、ざまぁをやり終った皆さんに、今日はもうちょっと殺し合いをしてもらいます~ 猫出R @ne-ko-de-r
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕が一番外れスキルをうまく使えるんだ! ~追放され、ざまぁをやり終った皆さんに、今日はもうちょっと殺し合いをしてもらいます~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます