第7話 刺死(ざまぁ回その参)
見えない円形の衝撃波を飛ばして来た。叫び声の数からして四つ。
その瞬間――。
クンクン!? この鼻を刺す臭いは――俺様の死の臭い!
俺様の前方を広範囲で塞ぐように四ヵ所、更にその後ろ三ヵ所から死の臭いがする――やってくれる、囲む様に衝撃波を飛ばしたと言うのは嘘か。
俺様は四倍になっている脚力で大きく真横に飛び死の臭いを全てやり過ごす。
よし、死の臭いが消えた。
「な、なんで分かったのね? 見えたのね?」
お前に殺されたお陰で新しくスキル『
このスキル『
今度は俺様が猛ダッシュでトナティウに近づき腹にパンチを入れる。
「んぐっ」
腹を押さえながら屈んだトナティウの頭を持ち背負うように思いっきり投げ飛ばした。長い首が孤を描き石畳に背中から叩きつけられる。勢いがありすぎてバウンドしたがそのタイミングで身を
背中にはダメージが無いようだが肩で息をしている。
「ハァハァ。ミーの衝撃波が見えるのね? ワザとスキル技名を叫ぶ時小さい声で聞こえない様に叫んで速度の遅い衝撃波も混ぜたてタイミングを変えたのに……」
なるほど、そういう事か。基本スキル技を出す時は叫ばなければ使えないと言う認識を逆手に取ったわけか。魔法詠唱と違ってこういう体術系のスキル技は叫び声に魂を乗せれば乗せるほど威力が高くなるからどうしても大声になってしまう。
それにしても頭を使った技と言うかからめ手が多いな。苦肉の策か。元々戦闘が得意な種族ではないんだろうな。見た目からして防御型だしな。
「解説わざわざありがとう、な!」
俺様はトナティウの体勢が整う前に近づき腹を蹴り上げる。
「ぐはっ」
トナティウは床にうつ伏せに倒れそのままうずくまった、俺様が首を掴もうとした瞬間、長い首が甲羅の中に吸い込まれた。いや、顔だけじゃなく、手や足、尻尾までも。全ての部位が甲羅の中に引っ込んでしまった。
俺様は甲羅の上に
ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ
おいおい、今の俺様は四倍にパワーアップしているのにこの甲羅は耐えるのか。
「ふふふ、ミーの甲羅はその程度の攻撃ではビクともしなのね、このまま持久戦に持ち込むのね、一時間耐えるのね」
「それはダメだな、時間切れは俺様の負けになる」
甲羅だけの状態でも俺様より少し大きいトナティウを両手で持ち上げようとする。結構重いな、甲羅が重いのか?
「『
トナティウがそう叫ぶと甲羅の色が少し黒くなった。少し持ち上がっていた甲羅が急に重くなり持ち上げる事が出来なくなった。
「ミーのスキル『
風馬族のキタルファもそうだがトナティウも色々技を持って居て羨ましいな、羽兎族のアルネブは一つしかなかったが……まああれはその前に自滅しただけか。
だが今の俺様もスキル技が増えているんだぜ。
「『
俺様は“相手の弱点や攻略方法が分かる”スキルを使う。するとトナティウの甲羅の左肩部分が赤く点灯して見えた。どうやらそこが弱点の様だな。
その赤く点灯している部分を俺様の爪を尖らせた右手で思い切り貫く。トナティウが痛みで叫び声を上げると黒っぽくなっていた甲羅の色が元に戻った。どうやらスキルが解除されたらしいな。右手を刺したその状態のまま強引にひっくり返す。
「な、なんでミーの古傷が分かったのね?」
「さてね」
「さっき『しし』って聞こえたのね、もしかしてそれはスキル技なのね?」
おっと不味いな。俺様のスキルは『不死身』だけになっている。他にスキルを持って居る事がばれたら負けにされてしまう。
まあ戦っている最中に覚えたとか言い訳もできるが、通用し無さそうだし、今後はトナティウを見習ってもっと小さい声で叫ぶか。
取りあえずこの場は……話を逸らそう――。
「そのご自慢の甲羅は確かに硬いけど、腹の部分はそうでもないよな」
俺様は誤魔化すように大きな声で言った。そしてトナティウの腹の上に
ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ
「ぐは、ぐぼぁ、ぐがぁ」と甲羅の中から苦しそうな声が漏れてきた。
よし、これくらい殴ればもうスキルの話は忘れただろう。
「甲羅の中から出て来たくないのなら、俺様はそれでもかまわないが、まあ逆にその状態で死んだ方が埋葬も楽だしいいか」
さて、時間もそれ程無いしそろそろ止めを刺すか……俺様はふと思う、本当にこいつと分かり合えないのだろうかと……俺様は首を横に振る、『
――いやまてよ、キタルファみたいなこともあるし、一応最後の言い訳くらい聞いてやるか。そうだな、そうしよう!
「そろそろ終わらせるが、最後に何か言い残す事はあるか? 勿論降参以外で」
甲羅の中からぼそぼそと声が聞こえてきた。
「……ミーの妹は前獣王デネボラに見捨てられたのね、そして死んでしまったのね、だからミーは五年前に協力したのね」
「聞こえにくかったが、親父に見捨てられたと言ったか? どういう事だ?」
「……大きい声では言えないのね、ちょっと耳を貸してほしいのね」
そう言いトナティウは甲羅の中から首を伸ばし顔を近づけて来た。ん?
「おい!? どうして俺様に巻き付くんだ?」
「かかったのね! 『
そう叫びトナティウは俺様に巻き付いている長い首を絞めつけて来た。
「甘いのね、甘すぎるのね。やっぱりボーイは前獣王デネボラの息子なのね」
「親父の様に甘いか……そうか、俺様を騙したのか、やはり分かり合うのは無理なようなだ――ならもういい、終わらせよう」
俺様は絞めつけられていることなど気にせず、跨った状態から全体重をかけ心臓を狙って鋭い爪で貫いた。
「さよならだ、トナティウ、『
「ぐぼぁ……こ、これでいいのね……自分のした事はちゃんと責任を持たないとあいつ等と同じになってしまうのね」
トナティウは口から血を吐き出す。
「でも、ごめんなのね……ネリ……」
トナティウの涙で濡れた長いまつ毛が閉じる。
「ネリ?」
俺様に絡み付いていた長い首がドサリと落ちる。血で染まった俺様の右手を抜くと、観客からは悲鳴が上がる。
返り血を浴びている俺様を見て、審判のトトさんが悲しそうな顔で近寄って来た、そしてトナティウだったものを確認する――首を横に振った。
「……にゃぁぁぁぁ トナティウ選手の死亡を確認したにゃあ……試合終了にゃあ、これにより三回戦勝者も金獅子族のレグルス坊ちゃん選手にゃぁあああ!」
ワー ワー ワー ワー
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