第6話 三回戦(ざまぁ回その弐)

「みにあぁぁっぁぁさま、更にお待たせしたにゃぁぁぁ! 舞台の床の修理も終わったにゃあ、ごめんにゃぁぁぁ、トトもふーふーして乾かすお手伝いをしたのにゃぁ、『獣王祭じゅうおうさい』再開にゃあぁぁぁ!」


 ワー ワー ワー ワー


 あの審判の猫又のお姉さんトトいう名前だったのか。


「その前に一つまたルールが変更になったにゃぁ、今まで時間無制限だったのに試合時間が一時間になったにゃあ、理由は時間が押しているかららしいにゃあ、トトはそんなに押しているとは思わないにゃあ、でもこれも獣王ウォルフ様がお決めににゃったので仕方がにゃいにゃあ」


 ブー ブー


 またか……確かに舞台上の修繕で時間が掛かってはいるが、実際の試合時間自体は二試合合わせても十五分程度じゃないか? トトさんが言うように押しているとは思えないな。何を企んでいるんだ?


「時間切れの場合はその試合を有利に進めていた選手の方が勝ちにゃあ、その判断は獣王祭じゅうおうさいの大会委員がするにゃあ」


 ブー ブー


 なるほどね、そういう事か。実質時間切れの場合はどんなに優勢だったとしても俺様を負けに出来るって事か。随分と露骨になって来たな。


「では早速始めるにゃあ。第三試合は第二試合で『不死身』のスキルを披露し圧勝した金獅子族代表レグルス坊ちゃま選手にゃぁあああ」


「うぉぉぉぉ、レグルス坊ちゃまは不死身だぁぁぁぁ、これはもう優勝が決まっているぞぉぉぉお」


 止めてくれ、『不死身』は嘘だから、あまり大きな声で言わないでくれ。


「そして対戦相手はこの国一番の新参者の一族にゃあ、キリン亀族のトナティウ選手にゃああああ。両選手は舞台へ上がるにぁぁぁぁあ!」


 ワー ワー ワー ワー


 俺様は舞台へ上がり対戦相手の8mはありそうなトナティウを見あげた。いやー首が長いわ。そしてこいつも親父の毒殺に加担した裏切り者の一人。その褒美で新参者ながら大臣になった男。ところで首だけ出て場外負けとかあるのかな?


「ミーはトナティウなのね、ボーイと会うのは多分初めてなのね」


「俺様はその長い首を何度か見たことあるが、お前じゃない他のキリン族かな?」


「ミーはキリン族じゃないのね、キリン亀族なのね」


 そう言えば背中に甲羅があるな。


「一つ聞きたいんだが、もしかしてその長い首がその甲羅に全部収まるのか?」


「勿論ね、その為の甲羅ね」


「へぇ、そうか、ちょっと仕組みが気になるが――じゃあ始めようか」


「では第三試合ぃぃぃぃ始めにゃぁぁぁぁぁ!」


「いくのね! 『鞭蛇罠ベンジャミン』」


 トナティウは長い首を鞭の様にしならせて俺様めがけて叩きつけて来た。その衝撃で床の石畳が破壊される。


 審判のトトさんの顔をチラリと見ると『ば、馬鹿にゃぁ!』という信じられないような顔をしていた。


 それを避けると今度は首が地面を這う蛇の如く追いかけてきて、噛み付こうとしてきた――いや違う、口を大きく開けそして大量の何かを俺様に向けて飛ばして来た――石だ。さっきの衝撃で砕かれた石畳の破片を口の中に入れていた様だ。


 俺様は両腕をクロスさせ飛んで来る石攻撃を防いだ。鬱陶しいな。俺様はそう思いバックステップでトナティウから一度距離を取った。


「ここからなのね! 『黄輪死キリンデス』」


 体勢を立て直したトナティウは長い首を折り曲げ体を一回転させると同時に首を伸ばすとその反動で円形の黄色い衝撃波が俺様に向かって飛んできた。


「これは当たったらやばそうだな」


 今の俺様はさっきの試合で一度死んでいるのでスキル『視死しし』は使えるが四分以上経って要るので全ステータス二倍の恩恵は既に無く元に戻っている。


 ここでワザと当たって死んで、全ステータス四倍になって戦う手もあるが、まだ三回戦目だ。念のため全ステータスアップの恩恵は取っておきたい。


 俺様の予定では午後からの四回戦と五回戦で一度ずつ死んで、全ステータスアップの恩恵で戦う。四回目の死は残しておく。流石にぎりぎりの状態で戦いたくないし、その夜に襲撃される可能性も捨てきれないからな。


 そして明日の決勝戦で能力はリセットされるから余裕で戦える。と言う事でこのスキル技は避けさせてもらう。


「まだまだいくのね! 『黄輪死キリンデス』、『黄輪死キリンデス』、『黄輪死キリンデス』、『黄輪死キリンデス』」


 今度は四つの円形の黄色い衝撃波が横に並んで飛んできた。俺様はそれをジャンプして避ける。


「さっきより速度をあげるのね! 『黄輪死キリンデス』、『黄輪死キリンデス』、『黄輪死キリンデス』、『黄輪死キリンデス』」、『危輪死キリンデス』」


 また四つ・・の円形の黄色い衝撃波が横に並んで飛んできた。

 ん? 何か違和感が有ったが……考えている暇はない、先程と同じようにそれをジャンプして避ける――が空中で俺様の身体が上下に分かれた……。


「ぐはっ!?」


 そして二つの肉の塊が舞台上に落ちる。少しだけ観客から悲鳴が上がった。


「ひっかかったのね、ミーの汗を含ませ黄色くした『黄輪死キリンデス』の中に一つだけ色が付いていない『危輪死キリンデス』を混ぜて、丁度ジャンプで避けるであろう場所に飛ばしておいたのね」


「なるほどね、考えてみれば衝撃波なんだから元々色など付いていないもんな、それにわざわざ色を付けて、相手にはこのスキル技は目に見えるものだと認識させ、馴れた所で無色の衝撃波を同時に飛ばす。良い作戦だ。それにしてもキリン亀族の汗は黄色いんだな」


 上下に分かれたはずの身体が元に戻っている俺様を見てトナティウは驚いている。


「き、聞いては居たのね、ボーイは本当に『不死身』スキル持ちなのね、ミーの取って置きの必勝パターンだったのに――これは困ったのね」


 困ったのは俺様のセリフだぜ、予定外に死んでしまった。だが今の俺様の全ステータスは四倍。俺様の勝ちだな。ん? 俺様から仕掛けるつもりだったが――。


 トナティウはダッシュで近づいて来て俺様の両肩を掴む。


「こうなったら場外に押し出すだけね、『弾打弾だんだだん』なのね」


 長い首を甲羅の中に収め、そして物凄い勢いをつけて頭を甲羅の中から俺様の腹に向け押し出して来た。そのまま俺様は舞台上の端まで吹っ飛ばされた。ぎりぎりで床に爪を立て場外負けを防ぐ。


「く、危なかった、油断は禁物だな」


「まだ終わらないのね、いくら『不死身』でもバラバラになったらどうなるのね! 『危輪死キリンデス』、ボソボソ、『危輪死キリンデス』、ボソボソ、『危輪死キリンデス』、ボソボソ、『危輪死キリンデス』、ボーイを囲む様に衝撃波を飛ばしたのね、もう避けられないのね」


 見えない円形の衝撃波を飛ばして来た。叫び声の数からして四つ。

 

 その瞬間――。

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